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10 幼女と魔王。


「なぁんだぁ、そういうことだったんですかぁ〜」


「そういう事だったんですよ!」


 これにて一件落着。話は落ち着いたのかと思われたのだが……。

 魔王の死線は、もとい視線は疑いの眼を捨ててはいなかった。

 魔王は小首をかしげて顎の下に指をやる。普通の女の子であるならば、可愛らしい仕草なのだが、ドクロ頭ではそれは不気味以外の何物でもない。


「――でもぉ、実は太平さんはロリコンさんだったりとかはぁ〜?」


「何でですか!」


 声を荒げて否定してみせるも、太平の心臓が思わず口から飛び出てしまいそうなほどに動揺している。そう、思い当たるフシが無いわけではないのだ。


「なんとなくですけどぉ、それっぽい顔立ちをしているかなぁ〜って思いまして〜」


「ロリコンぽい顔立ちってどんなだよ!」


 と、勢いよく否定してみせるも、『そうかのか? 俺はそんなにロリコンぽい顔をしているのか?』と不安でいっぱいになってしまっていた。


「うふふふ、ロリコンぽい顔立ちがどんなのか、わたしも自分で言っていてよくわかりませぇ〜ん」


 魔王はコロコロと楽しげに笑ってみせる。太平は見事に魔王にからかわれた訳である。

 なんといっても異世界の魔王なのである、一般人である太平などは手のひらの上で転がされたとしてもおかしくない存在なのだ。

 実際に、太平は魔王の一言一言に翻弄されるがままの状態だった。


「まぁまぁ、ロリ平さん。まずはそのイクちゃんに会わせてくださいな〜」


「誰がロリ平だ!」


「うふふふ、わたしとしたことが、てへっ」


 魔王は頭をコツンと叩いてみせる。これも普通の女の子ならば可愛いしぐだに違いないが、ドクロ頭なのが本当に悔やまれる。


「そうだ! 一応イクに会う前に幻影魔法? で人間の姿になっておいてくださいよ」


「はい? そのほうが良いのならそうしますよぉ」


 魔王は少し釈然としない様子だったが、別段嫌がる素振りも見せずに、十本の指につけられた指輪の一つを胸の前にかざすと、呪文のようなものを唱えだす。

 すると、まばゆい光を放ちながらどこぞの魔法少女のようにエフェクトを発生させて、美人なお姉さんへと変身を遂げるのだった。


「これで良いですかぁ〜?」


 花柄を模した華やかな感じのワンピース姿に身を包んだ、見目麗しい美人さんがそこに居た。トレードマークの死王の鎌も消え去ってしまい、その代わりにブランド物風のショルダーバッグを手にしていた。


「よ、良いです! とてもよいです! ディ・モールトベネです!」


 思わずイタリア語が飛び出てしまうほどに、太平は素直に魔王の美しさに見惚れてしまっていた。

 先日一度目にしたことはあるとはいえ、あの時は切羽詰まった状況だったのでしっかり観察するまでには至らなかったが、人間へと変身を遂げた魔王は本当にプニッとした感じの豊満美人なのだ。太平はその美しさに目を奪われていた。(主に変身シーンでちらっと見えた、豊満なバストとお尻に視線が集中されていたことはあえて伏せておこう)


「それじゃ行きましょうかぁ」


「は、はい」


 美人と連れ立って歩く、それだけで太平の背筋はピンと伸びるのだった。


 ※※※※


 部屋に戻ってみると……。

 シバさんが完全にイクのオモチャと化していた。

 シバさんは頬を引きちぎれる限界まで引っ張られ、面白い顔にされていたのだ。


「おかえりなさい、太平」


 イクは引っ張る手を緩めること無く、太平に向かって抑揚のない挨拶をする。


「ふがふがふがぁ」


 逆にシバさんはアグレッシブに何かを言っているようだが、サッパリわからなかった。

 そして、太平の後から顔をだしたのは……。


「こんにちは〜。魔王ですよ〜」


 気の抜けたゆるゆる度百二十パーセントの笑顔で、魔王は手を振りながら姿を表した。

 確かにこの姿で勇者の前に現れたならば、勇者たちは拍子抜けするに違いない。外見というものは、かなり重要なファクターを占めるのである。


「……」


 イクは魔王の姿を見ると、引っ張っていたシバさんの頬から手を離す。そしてサササッと、膝立ち歩きで太平の後に隠れた。


「わんわん!」


 やっとイクの拘束から逃れることが出来たシバさんは、犬丸出しの挨拶で魔王を出迎えた。

 

「ど、どうしたんだイク?」


 太平の後ろに隠れたイクは、フリーズでもしてしまったかのように身動き一つしないで固まっていた。


「……」


「イクちゃん、どうしたのかなぁ〜?」


 魔王は膝をついて視線をイクの高さまで落とすと、笑顔で表情を伺うのだが、イクは魔王からプイッと視線をそらしてしまう。

 

「あらぁ、わたし嫌われるようなことしちゃいましたかぁ〜?」


「おい、どうしたんだよ?」


 もしや、イクの超古代兵器としての機能が、魔王の潜在的能力を感知して警戒態勢アラートモードにでもなっているのか? と、太平は勘ぐってみせるのだが、その答えはすぐに出た。

 イクは太平の袖を引っ張って、部屋の隅まで強引に引きずって行く。そして、耳元に小さな声で囁いた。


「あの人、名前が魔王。おかしい、完全におかしい、そんな名前をつけた親の顔が見てみたい。正直人としての感性を疑う……」


 まさか超古代兵器に人としての感性を疑われてしまうとは……。と、問題はそこではない。なんと、イクは《魔王》というキラキラネームに反応して距離をおいてしまっていたのだ。変なところに知識を持っている超古代兵器だった。


「ま、待て! ちょっと待て! あ、あの人は、いま魔王って言ったように聞こえたかもしれないけれど、実は……『麻緒まお』さんって言うんだよ! ねぇ『麻緒』さん?」


「ほえ? 何ですかぁ?」


 魔王は察しが悪いらしく、事の状況をまるで理解できずに呆け顔だった。

 太平はゴキブリのように床を這いずりながら魔王の元へと素早く向かうと、事の成り行きを説明する。


「なるほどっ」


 魔王はポンと手を叩く。


「そうでぇ〜す。わたしの名前は『麻緒』なんですよぉ〜。普通の名前ですよぉ〜。えっへん」


 どうやら魔王は名前を偽ることに何の抵抗も無いようで、むしろ自慢気に豊満な胸を張って言ってみせる。

 

「……」


 イクはその胸をジト目で見つめると、

 視線を落として自分の胸を見つめる。そして自分の胸を手で触ってみるのだが、凹凸のまるでないそのボディに、イクはジト目のまま小さくため息を付いた。

 その後の魔王を見るイクの目に、好戦的なものが含まれていたことに、ここにいる誰も気が付きはし無かった。


「うむ。見事に魔王……もとい麻緒を連れてくることに成功したようだな、ロリ平!」


 どこぞのロールプレイングゲームの王様のような口調で、シバさんは威張り散らして言ってのける。


「誰がロリ平だッ! 何でお前までそんな呼び方してんだよ!」


「何故だと? それはお主がロリコン顔をしているからに決まっておるからだろ」


 柴犬からもロリコン顔だと言われてしまうとは……。

 太平は思わず脱力して膝をついてしまう。


「まさか、イク! お前までそんなことを言ったりは……」


「……」

 

 イクは無言のまま小さく頷いた。それは太平がロリ平であるということを肯定する相槌に他ならなかった。

 この場にいる三人、もとい魔王一人、柴犬一匹、超古代兵器一台に、ロリコン顔であると認定されてしまった太平は、失意のどん底に叩き落されてしまうのである。


「死にたくなってきたなぁ……」


 壁に手をついて、ガックリと頭を垂れる太平の背中に、魔王が優しく手を添える。


「アンデットになる決心がついたんですねぇ〜。いつでもバッチコイですよぉ〜」


 どうやら太平はまともに死ぬことすら出来ないようだった……。

 

「うむ、このままでは一向に話が進まんではないか、お主は幼女の服を買いに行くのだろう? パンツも買うのだろう? むしろ買いたいのだろう? いやさ嗅ぎたいのだろう?」


「……もう好きに言ってくれ!!」


 このままの状況を繰り返していては、物語が進まないどころか、太平は精神的ダメージにより死に至り、魔王によってアンデット化されることは必至である。

 

「よし! 兎に角イクのために服を買いに行くぞ!」


「しかし、この格好のイクを外に連れ出して良いのか?」


「……確かに」


 イクは太平のTシャツをダボッと着ただけの状態だ。勿論パンツは履いていない。このまま外に釣れ出すのは些か無理がある。


「このまま外に連れ出せば、太平のようなロリコンがウジャウジャ集まってくるに違いない。まさにロリコンホイホイといったところだな」


 確かに、美幼女であるイクに群がるロリコンたちの姿が目に浮かぶようである。

 太平はそのロリコンの中に自分が含まれていることはスルーしておいた。

 そのやり取りを、笑顔で見守り続けていた魔王が何かに気がつくと。


「しょうがないですねぇ。少し待っててくださいなぁ〜」


 と、そそくさに太平の部屋を後にした。

 そして、数分後に……。


「この服を着れば外に行けますよぉ〜」


 可愛らしい子供用ワンピースを一着持って戻ってきたのだ。

 

「どうしたんですかこれ?」


「これは、私が小さい頃に着ていた服が一着だけ残っていたんですよぉ〜」


 イクはその服を興味深く眺めると、ワンピースを手に取りおもむろにTシャツをその場で脱ぎ捨てようとする。


「ま、待て待て! 人目を気にして着替えるとかしろよ!」


 太平は慌てて半分脱ぎかけているイクの手を止める。勿論、紳士らしく首ひねり切れるくらいに後ろを見て視線はそらしている、


「そうだぞ! ここにはロリ平がおるのだ! そんな裸体を晒したならば、ロリ平の餌食になってしまうぞ!」


「……」

 

 イクは太平を見つめながら数秒考えこむと、小さくコクリと頷く。そしてワンピースを手に持ったま、ユニットバスの中に入っていった。


「この行動はどう判断すればいいんだ……」


「まぁまぁ気を落とすな、ロリ平よ」


 太平はシバさんに励まされるように肩を叩かれるのだった。

 そして一分後……。

 純白のフリル付きワンピースに身を包んだイクが姿を現した。

 そしてクルリと一回転をしてみせる。スカートがまるで咲き誇る美しいは花のように見えた。


「どうだ?」


 どうだと問われた時、太平は口をあんぐりと開けたままだらしない固まってしまっていた。イクの可愛らしさに思わず呼吸するのも忘れてしまっているのだ。

 

 ――ああ、俺はロリコンなのかもしれないな……。


 この時の太平は、自分がロリ平と呼ばれてしも仕方がないと認めかけていた。それほどまでに、イクは可愛らしかったのだ。そう思わず頬ずりしてしまいたくなるほどに……。

 

「うむ、ロリ平よ。素晴らしく良い顔をしておるな。まさにロリコンここに極まれりと言ったところだ」


 シバさんは太平の表情を見て、腕を組んで感心していた。


「イクちゃん可愛いですねぇ〜。わたしの服が似合ってくれてよかったですよぉ〜」


 魔王は我が子で見るような視線で満足そうにしていた。

 そんな中、言葉を発することなくただ口をあけている太平を見て、イクは少し苛立ちをあらわしていた。


「太平は、似合っているのかの質問に答えてくれていない」


 憮然とした口調は、いつもの平坦なものとは少し違っていた。


「え? あ、あぁ似合ってる。凄く似合ってるよ。可愛い、本当に可愛い!」


「そうか、ならいい……」


 太平の言葉を聞けて満足したのか、イクは太平の元まで来ると膝の上にちょこんと座った。

 

「しかし、魔王さん……いや、麻緒さんが子供服を持ってきてくれたから、買い物に行く必要はもう……」


「だ、ダメです! ダメダメですよ太平さん! かわいい女の子が服を一着しか持ってないなんて、可哀想過ぎます! それにわたしは幼女用のパンツまでは持っていませんしねぇ〜」


 そうなのだ! ワンピースを着たとはいえ、イクは未だにノーパン状態なのだ!

 

「だから、太平さんイクちゃん、デパートにお買い物に行きましょう〜」


「うむ、その中に見事に我輩が含まれておらんことには、些か思うところがあるが、敢えてここは留守番をしていようではないか!!」


 シバさんはいつの間にか、太平の持っているゲーム機に夢中になっていた。犬の手でよくもまぁ器用にコントローラーを操作するものだ。

 

「うふふふ、お買い物楽しみです〜。エンシェントドラゴンに乗ったようなつもりで、この魔王――麻緒ちゃんにお任せ下さい〜!」


 えいえいおーと、魔王は手を掲げる。それにつられるようにして太平とイクも手を掲げた。シバさんはゲームに必死だった。


 こうして、魔王、イク、太平の三人はデパートに買い物に旅立つことになったのだ。


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