こんな異世界の王都には・1
短編「こんな異世界の隅っこ」をご覧になった読者様へ。
こちらは加筆修正版となっております。
最初の数話は短編と重なる部分ですが、微妙に設定が変更しておりますのでご了承下さい。
なお、ややこしいので短編は検索除外にさせていただきます。
フローライド王国は、お隣のサヴィア王国に占領された。
それが、わずかひと月前のこと。
黒々としてツヤツヤと輝く石畳を、がつがつと無骨な軍靴が闊歩する。
石畳の黒は、世界屈指の魔法使いにして超のつくほど自分勝手で我儘だった元・国王様がその日の気分で変えたものだ。たしかその前は黄色、その前が紫だったと思う。最初がどんな色をしていたかなど、誰も覚えていない。
国王様が倒された日は黒。その日以来、石畳の色は変わっていない。
あるいは喪に服すときにも使われるこの色にしたのは、王様なりにこれから自分の身に起こる何事かを感じ取っていたのだろうか。
あまりに頻繁に変わり過ぎてもはやもとに戻すことも不可能になってしまったらしいそれが黄色でも紫でもなく黒であったことに、とりあえず住民たちは「まだマシだったかな」とため息をつく。
たとえそれが、晴れた日には熱を吸収し目玉焼きが作れるほどに熱くなる代物であったとしても。
そして、そんな黒い石畳の上を行きかう隣国の兵士たちの物々しい足音や堂々たる姿に怯えたり眉をひそめたりする者も、いない。
自国とは違う制服の武装集団に違和感がないわけではない。
しかし少し前まで我が物顔でうろついていた自国の兵隊たちのほうがよほど礼儀知らずで横暴で乱暴だったので、むしろ彼らはここで好意的に受け入れられていた。
これが、フローライド王国王都フリアの、現在の日常風景なのだ。
この国の国王様、いや元・国王様は、世界でも屈指の実力を持つ魔法使いとして国内外に知られていた。
しかしこの王様、魔法の才能はあっても国を治める才能にはまったく恵まれなかったらしい。
小さな頃から次期国王として周囲にちやほやされ甘やかされて育ったこの人は、自らの溢れる魔法力のように金遣いも人使いも荒れ放題、使い倒した。
そんな国王のもとに集まる人材も、国王が重用した人材も、似たような者たちだ。
そして、耐えかねた良識ある臣下が隣国のサヴィアに助けを求め、反乱を起こしたのだった。
現在のフローライドはサヴィアによって占領され、暫定政府が置かれ統治されている。
そんな、後世の歴史書に間違いなく記されるであろう出来事を目の当たりにしつつ。
けれども激動というにはどうにも拍子抜けな穏やかさを保つ異世界の片隅で。
「はい、ほかほかのカナッツお待ちどうさまー」
「ありがとうーおばさん」
宮瀬木乃香は、生きていた。