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お人好しトリオ  作者: 山元周波数
名無しのラブレター編
3/12

第三話 打ち合わせ

「ああ、実はな……」

 周五郎は今回の依頼のあれこれをミッツーと詩織に話し、ケータイで撮らせてもらった写真を二人に転送する。


「名無しのラブレターかぁ……。周、これまた難儀な依頼だね」

「いいじゃない、ロマンチックで。字も綺麗だし。いいわねー、青春って」 そう言って、ミッツーと詩織は明るい声でけたけたと笑う。

 

「お前は乙女か」 周五郎はふん、とくだらなさそうに鼻を鳴らす。

 念のために言っておくが、勿論詩織は女性だし、周五郎がそれを知らないわけでもない。


「乙女だわ。お肌つるつるの女子高生だわ。JK だわ」と詩織は机に足をのせながら叫んでいる。

「品性が甚だしく欠如しているな」 と周五郎が茶化すように言うと、

「周、駄目だろ、本当のこと言っちゃ」 ミッツーも周五郎の遊びに加わる。

「むっきぃーー」

 顔を真っ赤にして怒った詩織は、周五郎の頭を勢いよく叩いた。パチンという大きな音が辺りに響き渡った。


「うわぁぁぁー、頭に、ひびが!」 

 周五郎は頭を押さえて叫んだ。くだらない茶番劇の始まりである。


「大丈夫か、周? あちゃー、詩織。周五郎がもし然るべき場所に届け出たら、君の輝かしい経歴に傷が付いちゃうね。だけど、俺だって鬼じゃない。君がそれなりにお礼をしてくれるなら、君の大親友で優しくてイケメンでおまけに知性溢れるこの俺が、一肌脱ごうじゃないの」 とミッツーは心底楽しそうに演技を繰り広げる。


「美しい友情に涙が止まらないわ。親友ってのはね、相手に見返りを求めないもんなのよ! 大体、軽く叩いた程度で、ひびが入るあんたの頭が悪いの。どうせ、中身もすっからかんなのよ。だから衝撃に弱いの」 べぇー、と舌を出しながら詩織が睨む。


「あのね、詩織さん。本当に結構痛かったんですが」 周五郎は涙目になっている。


「へえー、そりゃ大変ねぇ」 と詩織はどうでも良さそうに言う。

「周、もっと鍛えたほうがいいんじゃない?」 ミッツーも追い討ちを駆ける。


「な、ミッツー、貴様俺を裏切るのか?」

「残念だね、周。俺は1回も周の味方だなんて言ってないんだよ。 最初から、詩織親方の味方だったのさ。長いものには巻かれろ。今回の教訓は高く付くかもね」 はっはっは、とミッツーは勝利の微笑みを見せる。


「なんかムカつくわね。ついでだし、三川。あんたも一発殴らせろ」 

「周、覚えておいておくれ。世の中ね、とばっちりはたいてい俺みたいな善良市民が受けるんだ」

 


 ――閑話休題。

「冗談はほどほどにして……、仕事を分担するぞ。今回二人には、小杉を好きな人間が誰なのか探ってもらう」 と真面目な顔で周五郎が言う。


「「簡単に言うけど、どうやってやるのさ(よ)?」」


「俺は人見知りだし、知り合いも少ないが、お前らは交遊関係が、かーなーり広いからな。そこで、小杉のことが好き、という噂がある人間を探ってほしい」

「けど、そんな人間いるわけ?」

 と詩織が怪訝そうな顔で尋ねる。


「十中八九いるだろうよ。お前らだって修学旅行とかで、恋に関する話をするだろ?」

「確かにするけど……。周、まだ俺たち一年生で、同級生とどこかに泊まる行事なんてなかったぜ?」

「例えばの話だよ。俺が言いたいのは、自分の好きな子って意外と他人が知ってるってこと。

そして、まるで情報屋のように、そういう話をよく知ってる奴っているだろう?」


「「確かにそういう奴いるな〜」」

 二人とも、うんうんと大きく頷いている。


「お前らはそういう情報屋とも知り合いだろ? だから、お前らの出番なんだよ。コミュニケーションにかけては、お前ら二人に勝てる人間はいないからな。

ミッツーには主に男子に、詩織は女子に聞いてほしいって訳だ」


「まあ、周は友達少ないもんねー」 とミッツーはニヤニヤしながら言った。

「そ、そんなことねーよ。お前らが友達多すぎるんだ」 とおろおろと明らかに動揺する周五郎。窓を見て、今日は良い天気ざますね、と意味不明なことをぶつぶつ呟いている。

「でもあんた、知らない人には本当にに喋りかけれないわよね」 詩織は呆れたようにため息をつく。

 

 周五郎はううっ、と低く呻いて、

「し、しょうがねーだろ、だからこその人見知りなんだし。だいたい、お前らのように、全然知らない奴に向かって、

『ヤッホー、元気?』とか、『今度みんなで遊びに行こうよ〜』なんて言える人間、そうそういねーよ」 


 ミッツーは特に気にした様子もなく、

「フツーじゃね? なあ、詩織」 

「そのぐらい普通、普通」 さも当然、といった感じで詩織がピースを作っている。


「それが出来ないから、こうして頼んでんだよ」 

「なるほどね。ところで、友人が少ない可哀想な周は、これからどうするんだい?」 

「友人は別に多けりゃいいって訳じゃない。俺はね、友達の判定が厳しいだけなの。……いや、そんなことはどうでもいいや。そうだな、俺はあの手紙をもとに、書いた人間の性格なんかを予想してみる」

「あんた、それ意味あるわけ?」 詩織が馬鹿にするように尋ねた。


「あるさ。お前らが見つけた人間が、複数いたときに役立つだろ?」

「あんたねー、その性格予想の的中率はどのくらいなわけ?」

「そりゃあ……、50%ぐらい?」 周五郎が照れ隠しとばかりに舌を出す。

 

 それを見た詩織がおえー、と吐くジェスチャーをしながら、

「低っいなぁー!」 

「うるせえ、やれることをやっとくのが俺のモットーなの。そういや、そこの床に落ちてるハンカチって詩織の物か?」

 周五郎は喋っているときに、床に花柄のハンカチが落ちているのを気づいていた。


「ん? ああ、うちのうちの」

 花柄のハンカチなんて、普段から男っぽいくせに、随分と可愛いもん持ってんだなぁー、と周五郎は思いながら、詩織に渡した。


「サンキュー。ところでさあ、今なんか失礼なこと考えなかった?」

「いいえ、滅相もない」

 周五郎は今日一番の爽やかな笑みを浮かべる。


「『こいつ男っぽいくせに、可愛いもん持ってんじゃねーか』って思わなかった?」 周五郎と同じくらい、詩織もニコニコと笑っている。


「まさか! 俺は今日も詩織さまがたいそう美しいと感動していたんだよ」

 (女の勘ってやつか。何て恐ろしいやつなんだ) 

 周五郎の背中を嫌な汗が流れる。下手なことを言えば、何をされるか分かったものではない。


「周ってさ、詩織に嘘つくときはスッゴい笑顔だよねー」

 爽やかな笑顔でミッツーが、とんでもない事実を告げる。


 周五郎が詩織の方を恐る恐る見ると、未だに笑顔で彼を見ているが……、目が据わっていた。

「あのー、詩織さん? 矮小な存在である私めに、どうか慈悲をお与えくださいませんか」

「ねえ、周五郎。バカな犬には厳しい躾が必要なの。うちだって、勿論そんなことはしたくないのよ。だけど、心を鬼にしてやってあげるわ。いいのよ、気にしないで。うちら親友じゃない」


(ヤバイヤバイヤバイ、恐い、恐すぎる。恐さのあまり、体がガクガク震えてきたぜ。どうにかして、詩織の気をまぎらわせなくては!)


「ととところで、詩織……、いやご主人様。スリッパ、別の人のやつ履いてますよ?」


 ハンカチを拾ったときに気づいといてよかった、とホッとする周五郎。これですこしは……。


「はあ、あんた、そんなことも知らないの? 女子の間では流行ってんのよ。

仲のいい子同士でスリッパを交換して、そんで、卒業式の時にお互いに返すってわけ」


 (間違えてた訳じゃないのかよ! くそ、せっかく『あ、ホントだ、ありがとう』といってスリッパを交換してる間に逃げようと思ったのに……) 


「それじゃあ、周五郎?」 詩織がにこやかな笑みを見せる。

「は、はい? 何でしょう。ご主人様」

「歯ぁ、食いしばれぇぇぇぇぇ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁァァァ」



 

「ほ、ほら詩織、周。そろそろ授業が始まるよ?」 ミッツーが顔をひきつらせながら言った。

 詩織から躾を受けた周五郎は制服を埃まみれにしながら、教室で倒れている。


「あら、そうね、じゃあ、今日も頑張りますか!」


 (笑顔でさっさと自分の机に行きやがった、あのやろう!)


「じゃあ周、頼まれたこと、やっとくな?」

「ああ、頼むわ」



 何とか自分の席に着いた周五郎が恨みがましく詩織を見ていたが、疲れたのか机の上で寝始めた。


「もう、疲れたよ。パトラッシュ」


 真面目な周五郎は授業を寝たことがなかったので、この日は有名になったとか、なってないとか。







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