第十一話 種明かし
すいません、みっつ謝らなければならないことがあります。
ひとつ目は小杉と小谷川の口癖です。記号はよくない等のご意見を頂き、修正することになりました。作者の都合でご迷惑をおかけして申し訳ありません。
ふたつ目はラブレター編、結局今回では終われませんでした。すいません。
みっつ目は来週の月曜には更新できないということです。すいません、テストが近づいて来たんです。できるだけすぐに更新するよう頑張ります。なので次回の更新日は未定です。
作者の都合で皆様にご迷惑をかけて誠に申し訳ありません。
ミッツーに調べものを頼んだあと、周五郎は小谷川に再び電話をかけていた。
『あ、もしもし、周五郎だ。何度もすまんな。それで、手紙のことで一つ聞きたいことがあるんだが……』
そして翌日ーー。
「周、おはようさん。で、なんでこんなに朝早いわけ?」
「ほんとよ、まだ朝7時半よ」
前日に、何かを思い付いた周五郎は、朝7時半に学校に来るように、ミッツーと詩織に伝えていた。ミッツーと詩織は、朝早く呼び出されたのが不満なようで、軽く周五郎を睨み付けている。
「二人ともそんな顔をするなよ、ちゃんと説明するから。まず、昨日頼んだことは大丈夫か、ミッツー」
「ああ、昨日の夜に急に頼んできたことだろう? バッチリさ」
「それで、あんたは何を頼んだわけ?」
と何も知らない詩織は不思議そうに訊ねる。
「小谷川をストーカーしているという、小泉広木の個人情報を集めてもらってたんだ。後、ついでに携帯を二つ持ってきて貰った」
「そういうことさ、詩織。じゃあ周、報告いくぜ」
と言いながらミッツーはお得意の個人情報ファイルを開く。
「まず、いちばん最初に言っておきたいのは、この小泉という奴が学校に慣れてないということだ」
「三川、それってどういうこと?」
詩織がよくわからないといった顔で、ミッツーを見る。
「小泉はC組の人間だが、どうやらクラスに馴染めてない……、どころかクラスメイトから嫌われてるらしいんだ。
友達はいないし、クラスメイトからも無視されてるみたいだね」
「いったいどうして?」
周五郎がミッツーに疑問を投げ掛ける。周五郎の顔からは何を考えているのか、ミッツーには伺えなかった。ただ、涼しげな表情を浮かべているだけだ。
昨日の夜、周五郎から興奮ぎみの声で電話をかけられたミッツーは、態度の変わりように少し疑問を抱いてはいた。が、あえてミッツーはそれを聞くことはしなかった。理由は彼自信分からなかった。しかしなぜか、漠然とではあるが直ぐにその理由がわかる気がしたのだ。
「『なぜクラスに嫌われてるか』 その理由は一言では言いきれないけど、一番大きい理由は『人の悪口を言う』という点かな」
「つまり性格がひねくれてるわけね」
詩織が納得したように言う。
「簡単に言ってしまえばね。でも、小泉も最初からひねくれた訳じゃないんだ」
「どういうことだ?」
周五郎が目をギラギラさせながら聞く。先程まで涼しげな表情だった彼が、今はまるでライオンが獲物を見つけた時のように目を光らせている。
その姿に少し苦笑しながらもミッツーが答える。
「小泉はどうやら中学3年の時までは、人気者とまではいかなくても、人並みに友達はいた」
「中学3年の時になんかあったわけね?」 と詩織がすこし得意気そうにミッツーに言う。
「その通り。その年に彼のご両親が交通事故で亡くなってる。その後は親戚の家で暮らしているみたいだけど、その親戚は彼を鬱陶しがってるみたい」
亡くなる、という言葉が教室の空気を重くしていた。まるで鉛のように……。
「恐らくそのストレスのせいだと思うけど、中学3年の途中から、人が変わったように他人の悪口を言ったり、暴言を吐いたりするようになったみたい」
「そんなことがあったのか……。他には?」
顎を手で撫で、何かを考えている様子で周五郎が訊ねる。
「えーと、彼は現在部活動には所属してないね。ただ、習い事は習字をやってるみたいだよ。
後、未だに同居している親戚ともうまくやれてないみたい」
「じゃあ、小杉のラブレターが入れられたと思われる日、やつはどんな行動をしていた?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。小泉は小谷川のストーカー犯じゃないの? なんでラブレターの話が出てくるのさ?」
「そうよ、なに一人だけ分かったような顔してんのよ」
と不服そうに二人が周五郎を見つめる。
「だからそれを含めて、ミッツーの話を聞いた後にちゃんと説明するから。まずは報告してくれ」 と何かを考えている様子の周五郎が言う。
「はあ、わーったよ。周が今言った話だけど……。彼のクラスメイトのみんなが、あんまり彼に興味がないから、詳しくは分からなかった。ただ、朝はいつも遅刻ぎりぎりみたいで、その日もそうだったらしい」
「その日、小泉に変わった様子は?」
「さっきも言った通り、クラスメイトの連中は小泉を嫌ってるからね。彼を詳しく見ている人間はいなかったし、それどころかその日喋った人間すらいなかった」
周五郎は頭の中を整理するように、深呼吸して、息を整えた。
「ふう……、なら帰りは?」
「それも詳しいことは分からなかったけど、ST が終わった後直ぐに教室を出てったらしい」
「ふむ、やはりそういうことか……」と周五郎はぶつぶつ呟いている。
「あ、そうそう、これは朗報だぜ。あの音楽部の山田って男。あいつはラブレターが入れられた日は部活に遅れてることがわかった。理由は『お腹が痛かった』らしいが、嘘に決まってるさ。その空いた時間にラブレターを入れたんだろうよ」 とミッツーが坊主頭をポリポリと掻きながら、嬉しそうに伝える。
「じゃあ、やっぱりあの山田って男が、名無しのラブレター犯じゃないの?」
と詩織が周五郎に疑問を投げ掛ける。
「犯人は目星がついてる。今日それを証明するんだ。お前ら手伝ってくれるか?」 と周五郎が二人に確かめる。
二人は人のいい笑みを浮かべて、ただ一言告げる。
「「もちろん!!」」
その日の放課後。
周五郎は学校の側にある小さな公園に犯人を呼び寄せていた。指定した時間は5時。時計の針は4時50分を指している。彼は公園の中心から西南西の端にあるボロいベンチに座っていた。
公園は上から見ると正方形の形をしていてる。ベンチに座っている周五郎が園内をぐるっと見渡す。向かって左側にトイレの建物があり、錆が目立つ物置小屋が右側にある。遊具や砂場は物置小屋のさらに向こう側にある。入り口は二つあり、ひとつ目は物置小屋と遊具の間、もうひとつはトイレの向こう側にある。
(そろそろ来る頃かな……) とベンチに座っている周五郎が思った時、向かって右側の入り口から人が入ってきた。
「10分前行動とは関心だね」 と周五郎が偉そうに喋りかける。
「いったいなんの用で呼んだんですか? 僕も忙しいんだ」 と周五郎に呼ばれた人間は睨み付ける。
「おいおい、それはあんた自身が知ってんじゃねぇのか?」 と偉そうに足を組みながら、つまらなそうに喋り、そのまま続ける。
「なぁ、ストーカーの小泉広木さんよぉ」
名指しされた小泉は明らかに動揺しているようだった。
「ス、ストーカーだと? 僕が誰のストーカーだって言うんだ! くだらん、もう帰らせてもらう」 と後ろに振り向こうとする小泉に、
「どうして小谷川がお前の気持ちを無視したのか、知りたくないか?」 と周五郎は意地の悪い笑みを見せる。
「な、なにを言って……」
「あんたは中学3年の時に両親を失い、親戚に引き取られた。だが、その親戚とはうまくいかず、様々なストレスもあって友達もいなくなっていた」
「な、なんでそんなことを……」
怯える小泉に構わず周五郎は喋り続ける。
「そして、中学3年の時に友達を失ったあんたは小谷川に感謝した。なぜなら、彼女は今までずっとしてきた交換日記を続けてくれたからだ。家族を失い、友達を失ったあんたにとって、それは唯一の救いだった」
「うるさいうるさいうるさい」 小泉は自分の頭を抱えながら震え始めるが、それでも周五郎は喋り続ける。
「そして、その感謝の気持ちはいつの日か別の物に変わった。だから、あんたはその気持ちを伝えようと決心した。」
「うるさいうるさいうるさい!!」
ぶるぶると震えながら小泉が叫ぶ。彼は目を大きく見開き、額から汗がにじみ出て、荒い息をしている。だが周五郎は止まらない。喋り続ける。
「伝えた方法は、て、が、み、だよな? そう、直接伝える勇気のないあんたは、手紙という方法を取った。そして、更に、あんたはこんなことをした」
意地の悪い笑みを崩さないまま、周五郎が続ける。
「わざと、自分の名前を書かなかったんだ! あんた、小谷川と昔交換日記をしていたとき、自分の名前を書かずに、最後に『〇』を書いていたんだ。そして彼女があんたに書くときは『△』を書いていた。昨日、小谷川に聞いたよ。他の人に見られたときにばれないように、そんな洒落たことしてたんだろ?
『二人の秘密』ってか? 笑わせるぜ」 あっはっはっ、と周五郎は派手に笑い転がる。
「なにがおかしいんだ!」 と小泉は血走った目で睨み付ける。
「ちゃんと小谷川の名前とあんたの名前を書いていればこんなことにはならなかったんだ」 と周五郎は大きな声で叫ぶ。
「あんたは手紙をST の後に小谷川の靴箱に入れようと考えた。ST が終わった後に人気のない場所に隠れ、誰もいなくなった後にラブレターをいれようとした。だが、あんたは小谷川の出席番号が分からなかった。俺たちA組の人間に聞けばよかったんだが、友達のいないあんたは、それが出来なかった」
大きく息を吸った後、また彼は喋り続ける。
「だからあんたはこう考えたんだろ? 『靴箱は出席番号順に並んでいる。1番の靴箱から順に開けていけば、中に入っているスリッパの名前から分かる』とね。
それで上手くいくと思ったんだろ?」 と嫌味ったらしい笑みを見せながら、喋り続ける。
「お前、女子高生の間でこんなことが流行ってるの知ってるか? 『仲のいい子同士でスリッパを交換する。そして、卒業式の時にお互いに返す! 』」 そう言った後、人の不幸をせせら笑うが如く叫ぶ。
「そう、小谷川も小杉とスリッパを交換していたんだ!! それであんたは、小谷川ではなく、小杉に手紙を送ってしまった。しかも、小杉には『〇』の意味なんて分かるはずがない。だから小杉は名無しのラブレターと勘違いしたというわけさ」
「じゃあ、小谷川は無視したんじゃなくて……」 と絶望に染まった顔で小泉が呟く。
「無視したんではなく、まず手紙自体貰ってなかったんだよ」 と周五郎が告げる。だが周五郎は喋り止まない。喋り続ける。
「だがな、例え無視したのだとしても、ストーカーをしていい理由にはならないんだよ!! 誰がそんな人間と付き合いたいんだよ。あんたは、もう一度やり直すべきだったんだ! 例え振られたのだとしても」 と周五郎は小泉に思いをぶつける。
だが……。
「あはは、あはははははは。そんな、そんなことってあるか。もうどうだっていい。全て終わりにしてやる! 死んでやる」 と叫んだかと思うと、バックからナイフを取りだし狂気の笑みを向ける。
「お前がそんなことしたって誰も喜ばないぞ!」
と周五郎が大声で叫ぶ。
「そんなことはどうだっていい! 俺が死にたいんだ」
と言ったと思うとナイフを自らに降り下げようとした。
--が、それは出来なかった。彼の腕に何か重たいものが当たり、ナイフを地面に落としてしまったのだ。激痛に顔をしかめながらも、彼は思わず腕に当たったその重たいものを見ると、その正体は野球ボールであった。見るとトイレの建物の前に長身で坊主頭の男が立っていた。
(くそ、だがまたナイフを拾えば……) と小泉は思ったがそれは叶わなかった。何者かに後頭部を蹴られたのである。そして、小泉は体勢を崩して、ナイフとは反対側に転げ回る。
小泉を蹴り飛ばした正体はショートカットで目がぱっちりとした美少女だった。
その姿をみた後に、小泉はぷつんと意識を失ったのであった。
「おい、周、こいつ気絶しちゃったぜ」 と坊主頭の男が言う。
「しかし、まさかあんたの言う通りナイフを持っているとはねぇ」
とぱっちりした目の美少女が言う。
「だから言ったろ、ミッツー、詩織。ストーカーなんてやってたんだ。何し始めるかわかんないって」 と周五郎が二人に喋りかける。
「しかし、よくこんな作戦思い付いたな」と言いながらミッツーは朝に周五郎が言ったことを思い出していた。
その日の朝ーー。
『ミッツー、詩織。お前らには最悪の事態に備えてほしい』
『どう言うことさ?』と坊主頭を掻きながらミッツーが尋ねる。
『ストーカーなんてやってたんだぜ。護身用とか言ってナイフぐらい持ってるかもしれん。ミッツー、携帯を二つ持ってきてるだろ?』
『持ってきてるんじゃなくて、周が俺にたのんだんでしょ』
『まあな。細かいことは気にすんなよ。ひとつ借りるぜ』と言ってミッツーから携帯をひとつ借りながら周五郎は続ける。
『今俺が持ってる二つの携帯を、片方はミッツーと、もう片方は詩織と通話状態にしておく。そして通話中のまま、お前ら二人は物陰に隠れてくれ』
『それでどうするつもりなわけ?』と詩織が尋ねてくる。
『俺は小泉のことを普段は「あんた」と呼ぶことにする。俺が小泉のことを「お前」と言ったら、それは危険信号だと思ってくれ』
『もし周がその危険信号を出したら?』ミッツーが緊張した顔で聞く。詩織も同じような顔をしている。
『ミッツーは小泉に野球の硬式ボールを投げてくれ。それで奴が体勢を崩している隙に詩織が蹴りを入れてチェックメイトさ』
『いっとくけど、周。硬式ボールは当たりどころが悪ければ死ぬかもしれないよ? 最低でも骨折は免れないけどいいの?』とミッツーが心配そうな顔で言う。
『そこは野球部のミッツーの腕を信じてるよ』 と満面の笑みを周五郎は見せる。
『あんたさぁ、なんで私が蹴る役なわけ? 男なんだからあんたやんなさいよ』 とあきれた顔で詩織が尋ねる。
『俺は運動オンチだから無理さ。それに詩織、お前なんか武術やってんだろ?』
『よく知ってるわね。でも、そんなに強くはないわよ』
『嘘つけ! お前は特に足技が強いって有名なんだよ!』
『む、誰がそんなことを言ったのかしら……』
『そ、そんなのどうでもいいじゃん!! ととと、ところで周、俺たちは物陰と言ってもどこに隠れるつもりなの?』 ミッツーの声が裏返っている。
『俺はベンチに座ってる。その近くにトイレと物置小屋がある。ミッツーはトイレに、詩織は物置小屋に隠れててくれ』
--そして、現在に至る。
「さて、この気絶した小泉をどうするかね」
と考えるトリオであった。