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 やっとここまできた。

 そう勇者リュウヤは思った。この世界にリュウヤが召喚されて以来、長い四年間だった。だが、その勇者としての役目も今日で終わろうとしていた。なぜなら、今は魔王城の魔王のいる部屋の目の前なのだ。

 ――魔王がなにかの大規模魔術を発動しようとしている。

 という情報がリュウヤに入ってきたのは4ヶ月前だった。

 ここに来るまでに時間がかかりすぎたため、いつ発動してもおかしくない状況だった。

 リュウヤにとって、いきなり召喚されて一ヶ月問答無用で訓練を叩き込まれて、はした金のみでほっぽり出した世界などどうでもいいのだが、魔王を倒したら元の世界に還してやろうと言われればやるしかなかった。

 ここに来るまでに仲間はいたが、全員縛って置いてきた。

 リュウヤはその仲間達は当てにしてはいないし、信用してもいない。

 だいたい、一年たってからあらわれて、「勇者殿、この一年間の活躍は聞いていました。は辛かったでしょう。でも、もう王国の精鋭である我々が来たので大丈夫ですよ」とか言った時点であり得ない。

 リュウヤがこの世界で心を開いた唯一と言っていい相手は、右も左も分からずに叩き出されたときに助けてくれたあの銀髪のショートカットの少女のみだろう。

 リュウヤと変わらぬ年のような外見とはうらはらに、すさまじい戦闘力を誇り、リュウヤにこの世界で生きる術を教えてくれた。

 今リュウヤが生きていられるのも、あの少女のお陰と言っても過言ではない。

 振り返ってみると、リュウヤはあの少女が好きだったのかもしれないと思った。

 だがその少女は王国から騎士達が派遣される二週間前に姿を消した。以来リュウヤは少女を探し続けたが、見つけることは叶わなかった。

 出来ればもう一度だけ、会っておきたかった。とリュウヤは思った。

「よし、行くか」

 リュウヤはそうつぶやき、目の前の巨大な扉を開けた。










 巨大な扉を開けてまずリュウヤの目に入ったのは広い部屋のなかに張り巡らされた魔法陣だった。おそらくこれが言われていた大規模魔術の魔法陣だろうとあたりをつける。

 そして奥にはこの魔王城の主である魔王が鎮座していた。

 驚いたことに魔王は女だった。背中の中程まで伸ばした黒髪に、金色の瞳。顔立ちは整っていて、まさに美少女ということばが当てはまる容姿だ。

 何故かリュウヤはその姿に既視感を覚えた。

「ふふふ、遅かったね勇者」

 それは透き通るような声だった。

 おおよそ魔王の声には聞こえないななどとリュウヤは思った。

「そりゃ悪かったな、魔王さん。どっかの誰かが盛大な歓迎パーティーを開いてくれたようでね。つい遅くなってしまったよ」

 魔王のちょっとしたからかいに対して、リュウヤは平然と返す。

「そのパーティーとやらは楽しんだかな? こっちの仕掛けの準備ももうじき終わりそうなんだ」

「ほう。その仕掛けのとやらはどんなものなんだ? 教えてくれると嬉しいんだけど」

「ところで勇者。君は私を倒せば本当に元の世界に帰れると思っているのかな?」

 人の話聞けよ! とリュウヤは瞬間的に思ったが、魔王が真剣な様子だったのもあり、真面目に応対する。

「そりゃ、信じてはいないさ。そういいきかせているだけで」

 ふふふ、だろうねと魔王はつづけた。

「そんな貴方にこの大規模魔術。これが発動すれば君も私もハッピーになります」

 ででーんと魔王が両手を広げる

 まるで通販だなとリュウヤは微かに笑った。

「ふむ。それでそのハッピーになれる魔術とは?」

「気になるかい? それはね……君が今強く願っていることを実現できる魔術なのさ」

 一瞬リュウヤは言葉に詰まった。

 こいつはなにを言っている……。

 リュウヤは考えた。今俺が一番願っていることは、もちろん元の世界にもどることだ。しかし……仮に、こいつが知っていたとして、ここまで大掛かりな魔術を用意してまで俺を元の世界に戻すことになんのメリットがあるだろうか。

 直接リュウヤを倒せば話は早いのではないだろうか。

 かくゆう勇者であるリュウヤも、その大規模魔術を発動する作業を好機と見てこの魔王城にやって来たのだ。

「もし、それが事実だとしてもお前は信用出来ない。ついさっき会ったばかりの、しかも魔王のお前を」

 たしかに、リュウヤがここで魔王にかけてみる、という手もあるだろう。

 しかし、ここに至るまで魔族を数多く殺してきたリュウヤを魔王はどう思っているだろうか?

 ここでリュウヤが賭けるには、リスクが大きすぎる。

「ふふふ、私は君の事をよく知っているよ」

 魔王が意味ありげにいう。

「……どういうことだ?」

「まだ君はしらなくていいさ。信用されるともおもっていない。第一、これは君と戦わないことには発動しないからね」

 そう言って魔王は肩をすくめた。

 リュウヤは無言で腰から剣を抜く。

「まあ、とりあえず始めようか」

 そういって魔王は体格に似合わぬ大剣を構える。

 今の状況は明らかにリュウヤが不利だった。

 仮に魔王とリュウヤの力が拮抗していたとしても、効果は分からないが、魔王は何らかの大規模魔術の発動まで持たせればいいのだ。

 勝機があるとしたら、大規模魔術維持に相当な神経を使っているように見えることか。

 だがリュウヤは笑う。いままでだって幾度のピンチを潜り抜けてきたのだ。今回だってきっといける。そう自分に言い聞かせる。










「行くぞ」

 その瞬間、魔王とリュウヤの姿が消えた。

 正確には消えたわけではない。だが常人には認識することのできない領域だ。

 リュウヤは全神経を総動員して魔王に対応する。一瞬でも気を緩めれば次の瞬間にはリュウヤの死体が転がっていることだろう。

 対して魔王はリュウヤの剣を正確に対応し反撃してくる。

 激しい剣撃の応酬。まさにこの世界で至高の戦いだ。

 リュウヤは一度に七回のフェイントを入れるがなんなく防がれる。

 徐々に魔王が攻勢にでる。

 右、左、切り上げ、全てに食らい付いていく。

 二十合、三十合。 徐々にリュウヤは押され始めた。カスリ程度とはいえ魔王の攻撃が当たるようになってきた。

 とはいえ、魔王もまた無傷ではない。

 大規模魔術を維持しながら勇者と対等かそれ以上というのはさすが魔王、というべきか。

 だが、戦いにはいつか終わりが来る。

 勇者と魔王はつばぜり合いになり、お互いにバックステップをして離れる。

「決着をつけようか、魔王」

「いくよ? 勇者」

 魔王と勇者の姿がかき消える。

 勝負は一瞬でついた。

 どさり、と魔王が脇腹から盛大に血を吹き出し倒れた。

 リュウヤは勝利の余韻に浸ること無くすぐに魔王にかけより、叫んだ。

「なぜ最後に手を抜いた!」

 魔王は一瞬だが明確な隙を見せた。

 そう。魔王は勇者にわざと負けたのだ。

 リュウヤにはそれがなぜだかわからなかった。

「ふふふ、なんのことかな。私は君に負けるべくしてまけたんだ。喜ばないのかい」

「ふざけるな! なぜ……」

 リュウヤは自分がなぜこれほどまでに怒っているのかわからなかった。

 自分が常に目指してきた相手が手を抜いたからなのか、リュウヤ自身が無意識に負けて自由になってしまいたいと心でおもっていたからなのか。

 その時、魔王に変化が起きた。

 淡い光に包まれ、魔王の容姿が変化したのだ。

 魔王はリュウヤに気づかれないレベルで、変身の魔法を使っていたようで、致命傷によって解かれたようだ。

 そしてその姿は、この世界で唯一心を開いたといっていい、あの少女のすがただった。

 リュウヤは我が目を失った。

「どう……いう……ことだ」

「ふふふ、だからいったろ。君のとは良く知っている……と。まあ、ばらそうとは思っていなかったけど」

 傷のせいで解けちゃったみたいだけどね、と魔王は笑った。

「まさか、あの時の君……なのか?」

「そうだよリュウヤ。あのときは……いきなり消えてすまなかったよ」

「本当……なのか?」 本当ならば、リュウヤが大陸中を探し回っても見つからなかったのもうなづける。

「君は――」

 リュウヤの言葉を手で制し魔王は言った。

「時間がないから手短に伝えよう。この大規模魔術は、君を元の世界に戻すことが可能だ」

 魔王は続けた。

「勇者と魔王なんてもううんざりだからね……。そしてまだこの大規模魔術は完全じゃない。その最後のピースは、勇者と魔王の魔力。それと……魔王の命なんだよ」

「君の命ってどういうことだ。それに……なんで俺のためにそこまで」

 魔王はにやっと笑った。

「それを私に言わせるのか、君は。君の事が好きだからだよ」

「なっ…………」

「おかしいかい? 魔王と対極にある存在の勇者を好きになるというのは」

 リュウヤは首を降った。

「おかしくなんてないさ。俺も……君のことが好きだ。君と旅した日々は、この世界で唯一楽しかった思い出だ」

「ふふふ、嬉しいよ」 魔王は幸せそうな顔をした。

「なんでいってくれなかったんだ! 俺は君が入ればこの世界だって」

 それは不可能だ。と魔王は言った。

「私と君が魔王と勇者である限り、それはかなわない。この世界はそうなっているし、それに君は私の命を対価にすることに賛成しないだろう」

 君は優しすぎるから、そう魔王は言った。

「そんな……」

「だから私は君だけは元の世界に帰そうとおもった。だってその原因は私にもあるわけだからね。これは私の世界に対する精一杯の足掻きで、自己満足だよ」

「くそっ!」

 リュウヤは拳を床に叩きつけ、自分の無力さを呪いながら泣いた。

 勇者といわれても、結局リュウヤはこの世界という舞台の役者の一人に過ぎなかったのだ。

「俺は、君になにができる?」

 この世界にゲームの様に便利な魔法などない。

 最早魔王は手遅れだ。










「キス、をしてくれないかな」

 そう魔王は言った。

 リュウヤは魔王であるこの少女がたまらなく愛しく思えた。

 しばらくの間、勇者と魔王の影が重なった。 時間にしてみれば数秒という短い間だったが、リュウヤには永遠にも似た長さだった。

「ふふふ、これでもう私は満足だよ。そろそろ魔術も発動するようだ」

 魔王の言った事を示す様に、魔方陣が輝き始める。

 その光は、リュウヤにはこの世にあるどんな色より美しく見えた。

「俺は……生まれ変わったならば、必ず君を探しだそう。そこがどんな世界で、どんな障害があったとしても」

「私も……生まれ変わったならば、君に必ず会いに行こう」

 魔方陣の輝きは目を開いていられないほどになった。

「最後に……君の本当の名前を教えてくれないか」

 魔王の姿が薄くなってきた。

 まもなく魔王の姿形は消えてなくなるだろう。







「私の名前は       」

「え!? なんて言ったんだ!」

 リュウヤは魔王の名前を聞き取ることが出来なかった。

 しかし、魔王は優しく微笑んでリュウヤの腕の中から消えた。

 それを待っていたかのように魔術は発動し、リュウヤは元の世界に転送された。








終わりがどうしても雑になっちゃいます。


次の一話は完璧にご都合主義なので、この終わり方で終わりたいという方は読むことをお勧めしません。



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