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【書籍化】没落令嬢の雇われ悪女な日々  作者: 藍野ナナカ
第1部

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41 その節はご迷惑を


 侯爵夫人に連れられてお茶会の部屋に戻った私は、実はかなり緊張していた。

 だって、みなさんバカ御曹司のあれこれにとても詳しかったから。私のことを「悪女」だと確信したに違いない。


 だから、冷たい視線を受けるだろうと思っていたし、侯爵夫人に振舞ってもらう新しいお茶の香りも堪能する余裕はないと思っていた。

 ……でも、意外にそうでもないような……?


「ヴィオラさんは、ダーツがとてもお得意なんですって?」

「は、はい。素人の手慰みですが」

「さっきね、ヴィオラさんがいない間にレイノルドさんに聞きましたわよ。弟さんや妹さんのために頑張ったんですってね!」

「えっと、それはその通りです、ね……」

「弟さん――テレンスさんはとてもきれいな子ね。あんなにきれいな男の子がいると思わなかったから、本当にびっくりしたわ!」

「は、はぁ、その節はご迷惑を……ご迷惑……?」


 どう答えていいかわからないから、曖昧に笑うしかない。

 だってテレンスの顔について熱く語っているこの女性は、少し前に戻ってきたばかりの、私たちが入室した途端に倒れた一人だから。

 さらに身を乗り出してきたのは、やはり倒れて別室で休んでいた若い令嬢。詩人のサイモンさんの妹で、今年王立学園に入学したばかりの一年生らしい。


「来年入学するテレンスさんと同学年になれないのは残念ですが、一緒の空間に存在できるのなら光栄です! 私、ケイレス様のほんわりした雰囲気が好きですが、テレンスさんの冷たい目つきもいいと思うんです!」

「えー、えっと……?」

「あ、誤解なさないでください! 私、ケイレス様やテレンスさんの恋人になりたいなんて大それたことは思っていませんから! ただ学園生活がとても楽しくなりそうで……それに、他にも素敵な方々がいらっしゃいますもの!」

「ああ、バカ……じゃなくてレイノルドさんも別格的に顔がいいですよね」

「レイノルド様は国の宝ですわ! でも、その……先輩方は憤慨しているようですが、私はヴィオラ様に愛を捧げる一途なお姿は好ましいと思います。完璧なお方の、意外な一面を見せていただけて!」


 ……そういうものなの?

 まあ、意外すぎる面があるのは否定しない。

 まさか学園一の人気エリート首席学生様が、ダメ男になりたいなんて思わなかったから。

 ちょっと目を泳がせていると、何を勘違いしたのか、かわいらしいご令嬢はハッとしたように慌てた。


「言い訳のように聞こえるかもしれませんが、私はヴィオラ様のことも憧れていましたの。いつもお一人で堂々と歩いていて、制服を完全に着こなしていらっしゃって、お化粧をほとんどしていないように見えるのにおきれいですから!」


 ただのぼっちで、制服が第二の皮膚になっていて、お化粧品を買うお金を節約しているだけだ。それを正直に告白するのもなんだかな……と思いつつ、褒められてやっぱり嬉しかったので、にっこり笑うことにした。


「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」

「……ああっ、なんて素敵な笑顔……!」


 ご令嬢が真っ赤になり、ふらりと体が揺れた。

 私はあわてて立ち上がって令嬢へ手を伸ばす。

 令嬢は華奢な体つきだけれど、やはりそれなりに重……羽毛ほど軽くはない。なんとか支えることができたのは、いつも買い物で重い食材を持っているおかげだろう。いろいろ自分でやっていて良かった!


「大丈夫ですか?」

「……あ、ありがとうございます」


 幸いなことに、令嬢は意識を失ったわけではなかったようだ。すぐに自分でしっかりと椅子に座ってくれた。さすがに長時間支え続ける自信はなかったから、助かった。

 ほっとしてまた椅子に座ると、また周囲のご婦人たちの目がまん丸になっていた。


 ……そうか、今のも貴族令嬢らしくなかったか。

 でも、気にしない!


 何も気付かなかったことにして、お茶を飲む。

 少し冷めかけたせいか、香りがちょっと強く感じる。お菓子が欲しいなと思った時、パフデール侯爵夫人が笑顔でお菓子を乗せたお皿を私の前に置いてくれた。


「ありがとうございます!」


 憧れの女性にもらった喜びに浸りながらお礼を言うと、パフデール侯爵夫人は笑顔のまま、こてりと首を傾げた。


「なんだか意外ですわね。ヴィオラさんって、思ったより……」


 ……思ったより、なんでしょうか……。

 ドキドキしながら続きを待つ。

 侯爵夫人は、お茶を一口飲んだ。


「ヴィオラさんは、思ったよりロザリアさんに似ていないわね」

「えっ」


 庶民臭いとか、性格が悪そうとか、そう言われるかもと思っていたので、逆にドキッとする。

 それに……今は「ダメ男計画」のお仕事中。母に似ていないのはまずいのでは?

 恐る恐る御曹司に目を向けようとしたけれど、御曹司の整いすぎた顔はどこにもなかった。


「……あれ? いない?」

「ふふ、レイノルドさんには息子たちを探しに行ってもらったの。最後まで逃げたままなんて、意気地なしみたいでしょう?」

「あの年頃の男子なら、仕方がないと思います」

「うちのわがまま息子に捕まってしまったテレンスさんも、そろそろ解放してあげなければね。でも、今日はヴィオラさんにお会いできて良かったわ。噂よりずっとかわいらしいお嬢さんだもの」

「本当ですわね。弟さんと並んで入っていらした時は、魂が抜けるかと思いましたが、なんというか……そう、親しみやすいですわ!」

「ダーツ大会で男装なさっていたと聞いて驚きましたが、振る舞いが自然に紳士的ですもの。女性と誰も気が付かなかったのは当然だと思いましたわ!」


 ご婦人たちがコロコロと笑いながらそう言ってくれた。

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