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没落令嬢の雇われ悪女な日々 〜私に「俺をダメ男にしてくれ!」と言った公爵家御曹司様には破滅したい事情があるらしい?〜  作者: 藍野ナナカ
第1部

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39 心の健康にいいこと


 お茶会というものは、貴族らしいイベントだ。

 高価なお茶を飲みながら、やはり高価なお菓子を食べる。侯爵家ともなると、お茶は私が普段飲んでいるものとは別物のようで、お菓子も素朴さとは無縁なものが多い。


 お茶はともかく、お菓子はリリアナに食べさせてあげたいとしみじみ思ったりもしたけれど、お茶を飲めば一度は化粧室へと立ち寄ることになる。

 貴族であろうと、生理現象には勝てないのだ。

 私も化粧室で一息ついた。

 お茶会の部屋に戻る前に、せっかくだから廊下にかかっていた絵を鑑賞させてもらう。


(この絵が完成するまでに、いくらかかったのかしら)


 絵の良し悪しより、ついそんなことを考えてしまうのは質素な生活に馴染んでいるせいだ。ついでに言えば、絵そのものより額縁のお値段の方が気になる。

 木枠を掘り込んでいるけれど、その模様が恐ろしく細かい。


 王立学園にも美術に関する科目はある。絵画とか彫刻の科目では、実習をしつつもパトロンとなるための知識習得が目的だとか。

 選択制の科目だし、庶民には必要ないと思って私は美術史しかやっていなかった。

 でも、素晴らしい美術品を実際に見ていると少し考えが変わってくる。


「……こういう細工ができたら、リリアナの描いた絵を飾ってあげられるかな」


 ここまで本格的なのは無理としても、簡単な掘り模様とか……あ、このあたりの模様くらいならできるかも? 筆記用具は持ってきていないから、目で見て覚えておこう!

 しばらく真剣に見ていた私は、長く席を外したままだったことに気がついた。


(こ、これでは生理現象と戦っていたみたいよね?!)


 今日はお茶会に来ているのだ。部屋に戻らねば!

 慌てて元の部屋へと戻った私は、扉を開けようとして……扉が少し開いたままなことに気がついた。

 中からご婦人たちの声が聞こえている。


「……それでオディーランス公爵家の執事が、慌てて公爵様に報告したんですって!」

「まあ、あの噂はそういうことでしたのね!」


 どうやら、御曹司のことが話題になっているらしい。

 よくわからないけれど「公爵家の執事が慌てた」とか「噂」という単語から推測すると、着実に成果が出ているらしい「ダメ男化計画」に関することだろう。

 私がいかに悪女かという話になるかもしれないから、今は部屋に入りにくい。もう少しその辺で絵でも見ていようと背を向けた時、さらに声が聞こえてきた。


「でも、レイノルドさんには個人の財産があるのでしょう? それなのに『公爵家の付け』にするなんて、どれだけのお値段だったのかしら」

「気になりますわよね! 公爵家の執事が驚いたということは、きっと今までそんなことは一度もなかったはず。そこまでの出費なら、きっと素晴らしい品なのでしょうね」

「夜会で身につけていた首飾りだったのなら、とても素晴らしかったですわよ。深い色合いの大粒で、レディ・ロザリアの目のようなと言われていた、あの宝石でしたわ!」

「それで無理してお買いになったのね。あのお嬢さん、レディ・ロザリアとよく似ていらっしゃいますもの」


 ご婦人たちは納得したようだ。

 会話の内容はそのままテレンスに移った。主に「あんなきれいな子がいるなんて!」的な、学園の女子学生のようなはしゃぎ方だ。

 でも、私はほとんど聞いていなかった。

 だって母の目のような宝石といえば、あの夜会用に押し付けられた首飾りしか思い当たらない。


(そういえば、あの時の御曹司は反応がおかしかったわ。支払い方法を変えると言っていたし……あれはオディーランス公爵家の付け払いだったの? そうじゃないと買えなかったってこと!?)


 薄々、すごく高いんだろうなとは思っていた。

 でも考え始めると怖くなるから、敢えて考えないようにしていたし、ぼんやり「ミゼーラ産の牛肉百人分くらいかな」くらいに思っていた。

 でも公爵家の執事が慌てたのなら、それどころではないのかもしれない。


「……うそ……私、あれを部屋に置いているのよ……!」


 売って現金化することも貸金庫に預けることもせず、自分の机の引き出しに入れていて、時々取り出して眺めては、きれいだなぁと楽しんでいた。

 お母様が宝石箱を開けていたのを思い出して、美しい宝石を鑑賞することは心の健康にいいのだなと和んだりもした。


 ――心の健康にいい、だと?

 とんでもない。すぐに貸金庫に預けなければ。

 いや、馬鹿御曹司に返すべきではっ?!


「やっと戻ってきてのか。長く席を外していたから心配していたんだよ」


 背後から聞こえた声は御曹司だった。

 なんてちょうどいいタイミング。いまここで返還交渉をしよう!

 そう思って御曹司へと向き直ると、御曹司は眉を動かして心配そうに覗き込んできた。

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