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没落令嬢の雇われ悪女な日々 〜私に「俺をダメ男にしてくれ!」と言った公爵家御曹司様には破滅したい事情があるらしい?〜  作者: 藍野ナナカ
第1部

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38 詩人


 ご婦人たちは顔を見合わせた。

 侯爵夫人のお茶会に来ているだけあって、高い生まれの貴族女性ばかりだ。遠くから見かけていたり、幼い頃に母に連れられていったサロンで見かけたりしたことがある。

 この調子なら、倒れて運ばれてしまった女性たちも家柄がいいはずだ。


 王立学園に通う学生より上の世代になると、私もよく知らない人が多い。失礼がないようにしなければ。

 そう緊張しながら、母の笑顔の中で、一番品よく見えた表情を真似て微笑んでみる。

 途端に、女性たちの動きがぴたりと止まった。


(……えっ? 何? 私、失礼なことをしてしまった?!)


 一瞬、頭が真っ白になる。

 助けを求めて御曹司を振り返ろうとした時、扉の方向からバサバサと何かが落ちる音がした。

 思わずそちらへ目を向けると、慌てたように床に落ちた紙を拾っている男の人がいた。


 たぶん若い。御曹司と同じか、もう少し上くらいの年齢か。ひらひらと何枚かの紙が私の足元まで飛んできたから、思わずそれを拾う。

 いかにも高価そうな美しい紙だ。

 その紙の中央付近に、凝った書体で文字が書かれている。贅沢に空間を使い、短い単語が並んでいる。これはもしかして……。


「……詩、かしら」

「あら、サイモンさん。妹さんは大丈夫かしら?」

「あ、はい! 部屋を借りて休ませました、が、あの……あっ!」


 紙を拾っていた男の人は、侯爵夫人に声をかけられて、慌てて立ち上がった。

 慌てたせいで、せっかく拾った紙を落としてしまった。

 それでまた慌てている。


(あらら。しっかりしてくださいよ)


 気の毒になってきて、私は周囲のものを拾い集めた。


「これで全部だと思いますが、確認してくださいね」


 手早くまとめてから渡そうとして、ご婦人たちがじっと見ていることに気が付いた。サイモンさんも目を丸くしている。

 ……ん? あれ?

 あっ、そうか! しまった! うっかりいつもの癖で拾ってしまったけれど、貴族令嬢がすることではない、よね……?


 でも、やってしまったことは仕方がない。

 慌てている姿がリリアナに重なって、じっとしていられなかったんだもの!

 私は開き直って、背筋を伸ばしてにっこりと笑った。


「これは詩ですか?」

「え、ええ、そうなんです! 先日ダーツ大会で見かけた人がとても素敵だったので、その人をイメージして書いてみました! 侯爵夫人に見てもらおうと思ったんです!」


 貴族令息で、詩人かぁ……それっぽいな。

 そう納得しながら、集めた紙を渡そうとした時、突然、背後から紙を奪われた。


「サイモンさん。彼女に近付きすぎですよ。それに、俺より先にヴィオラ嬢の詩を書くなんて、ちょっと嫉妬するなぁ」

「…………はぁ?」


 このバカ御曹司、何を言い出したの?

 振り返って見上げると、御曹司はニヤッと笑った。悪巧みをしている時によくみるアレだ。思わず身構えてしまう。

 御曹司は私の不審の眼差しを無視して、紙に書きつけられた詩に目を落とした。


「サイモンさん、これは仮面を被った少年のことですね?」

「そうです! 子供のように細かったのに、大男たちを相手に涼しい顔で勝ち上がって行く姿はとても美しかったので詩にしてしまいました!」

「つまり、あなたは決勝戦は見なかった、と」

「妹が一緒だったもので、遅くならない時間に帰らねばならず……」


「それは残念だ。もし最後までいれば、俺が彼女に盛大に振られる瞬間も詩にしてもらえたのに」

「振られる? でもレイノルドさんと噂になっているのは……あああっ! もしかしてあの少年がこちらの美しい方で、噂の女性っ!」

「そうです。つまりあなたは、本人に詩を読んでもらったんですよ」

「ああ、なんてことだ……」


 サイモンさんが呆然とつぶやいた。

 まあ、そうですよね。

 お酒を飲んだ末に真夜中に一気に書き上げたような詩を、本人に読まれるなんてショックですよね……。


「どうしよう……こんなに幸せなことはない……!」


 …………ん?

 幸せ、なんですか?

 母の信奉者にも詩人はいた。私に外国語を教えてくれた人たちにもいた。おかげで私の訳文は情緒豊からしいし、そのくらい独特の感性を持つ人も多かった。

 私は、科学者が書くような単純でわかりやすい文章が好きなんだけど、それはまあ個人の好みだから……でも幸せなの?

 よくわからない。

 困惑していると、ふと気がつくと周囲のご婦人たちの眼差しが優しくなっていた。


「ヴィオラさん、いつまでも立っていないで、こちらでお菓子を召し上がってはいかが?」

「そうでしたわね。サイモンさんは詩を朗読してくださいな。私たちはこちらのお嬢さんに、実際はどうだったかを解説してもらいましょう!」

「えっと、サイモンさんがそれでいいのなら……」


 朗読中に当時の解説なんてされたら、気の良さそうなサイモンさんでもさすがに嫌なんじゃないかなぁ?

 そう思ったのに、サイモンさんは乙女のように頬を紅潮させ、消え入るような小さな声で「ぜひ」と言ってしまった。

 うーん……庶民となった私には、高位貴族の方々の考えることは難しすぎる。

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