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platonic a  作者: いづくにか
friendship
3/11

3

出勤2日目の朝。警察局前で不審者ムーブをしたのはまだ記憶に新しい。やや気まずい思いで受付の女性に挨拶をしてエレベーターを目指す。たしかに周りを見れば皆僕とは異なる方向に歩いて行く。

昨日の記憶を頼りにエレベーターにたどり着いた、のはいいのだがここで問題が発生した。昨日は行きも帰りも案内してもらったためよく見ていなかったのだが、このエレベーター、ボタンが普通ではないのだ。目的の階のボタンが6sだったのはおぼえている。問題は6sが3つあるということだ。


...なんとか急発進を2回経験するだけで済んだ。

真っ黒な扉を開けると昨日と変わらずリファがすでにいた。おはようございますと挨拶しながら入ると、彼女は立ち上がり朝とは思えないほど元気よく挨拶を返してくれた。

「今日もがんばっていきましょう!今日はですねー、局内を案内します!」

お荷物あずかりますよー、と遠慮する間もなく僕の鞄とコートを持って行ったと思ったら、僕の手を引き部屋の外へと歩き出した。



エレベーターに乗り込むと僕は先ほどの疑問を口にした。

「このエレベーターのボタンなんですがわかりにくくて...6sとか4cとかってどういう意味なんですか?」

「たしかに!はじめてだと混乱しますよね。昨日説明してなくてごめんなさい」

彼女によるとsはセキュリティレベルであり登録されている人物が押さないと反応せず、cは連絡通路がある階で他の棟とつながっているとのことだ。また、同じボタンがあるものに関してはボタンの位置でおぼえるしかないらしい。

「変なボタンですけどわたしが来たときにはすでにこんな感じだったんですよね。なんででしょうね?」

そんな話をしながら彼女は1fのボタンを押したので僕は朝食が口から出そうになるのを耐えなければならなかった...このエレベーターにはいつまでたっても慣れる気がしない...


彼女の後について局内をまわってわかったことだが、リファはとにかく顔が広いらしい。昨日聞いた話だと神跡捜査課は他部署との交流はあまりないように感じたが、たしかに彼女は人好きのする性格であり納得である。

刑事課や総務課などでも忙しい朝にもかかわらず快く業務をみせてくれたあたりリファはとにかく人望があるのだろう。




ある程度局内を見たころには昼にさしかかるところだった。

1階に入っているカフェ「コンサバトリー」でも彼女は店員と親しいようで慣れた様子で注文を済ませた。彼女に言われるままにテラス席の2階で待っていると、2つのカフェトレイを器用に両手に乗せ階段をのぼってくるのが見えた。受け取ろうと階段に向かうと、座ってて大丈夫ですよ!と言われ手持ち無沙汰でテーブルに戻ることになった。

「すみません。なにからなにまでやってもらって...」

「いいんですよ!わたしがしたくてやってるので!それよりこのカフェよくないですか!?特にこの席おすすめです!」

たしかにガラス張りの壁からは外が一望でき、よく晴れた春の心地も相まって気持ちのいい景色である。

「このブリトーもおいしいですよ!」

いいながらもすでにかぶりつきもしゃもしゃと咀嚼している。彼女をまねてかぶりつくと塩気のあるベーコンとシャキシャキとしたレタスがよく合っており、大きさの割にペロリと食べきってしまった。

「気に入ってもらえたようでよかったです!」

そう言いながらもなんとも幸せそうに食べるものだ。この様子をみれば彼女が人に好かれるのも当然だと言えるだろう。僕だって昨日が初対面なのに緊張せずに話すことができている。いろいろとずれたところのある人ではあるが彼女が教育係であることに心の底から感謝した。


「業務用の端末でいろいろ決済できるんですよ!お給料から引かれるのでそこだけ注意ですね」

ホットミルクをストローで吸いながら端末を操作し様々な機能について説明してくれた。

「ヒラギくんの端末はわたしとユーゼンがピン止めしてあるので困ったことがあったらいつでも連絡してくださいね!」

「ユーゼンさんはまだ会っていないのですが、どんなかたなんですか?」

しばしば話には出てくるが2日目になっても一向に会う気配がなく気になっていたのだ。

「んー、なんていうか、すごい人ですよ?優しいし天才だし。でもワーカホリック?っていうんですかね。変な人って感じです...まあ、会えばわかりますって!」

どう説明すればいいのか迷っている様子で考えながら話していたが、最終的には説明を諦めたようだった。とは言え聞いた限りいい人そうだ。人員2人の部署と聞いたときは驚いたものだがいい人ばかりのようだ。

「それよりヒラギくんのこと教えてください!昨日も今日もわたしばっかり話してて、ヒラギくんのこと知りたいです!」

「そんなに話すようなことはないのですが...あっ、神跡神経が移植されているらしいのですが記録になくていつ移植されたかわからないんですよね」

「聞いてます聞いてます!不思議ですよねー、うちのデータベースで調べてみたんですけどそれに関係してそうなのはなかったですね」

レネ局長もわからなかった時点でなんとなく察してはいたがやはり局内のデータベースにも手がかりはないらしい。少し落胆してしまった。

「でもでも、見落としとかあるかもしれないですし!これからなにかわかるかもしれないですし!うちは神跡捜査のプロなので!都市中で1番情報は集めやすいですから!」

そんな僕の様子をみて焦ったように言った。

「ありがとうございます...そんな簡単にわかるとも思ってないですし大丈夫ですよ。今後の捜査でなにかわかるかもですしね」

「任せてください!わたしたちはプロですから!ヒラギくんも一緒にがんばりましょう!」

元気づけようとしてくれている彼女の姿になんとなく温かい気持ちになる。決して短くない人生だがここまで親身になってくれるような人がいただろうか。

...いなかったはずだ.......悲しいことだ

世間では先輩ガチャとか言うはずだ。それに沿うなら僕は大当たりだ。

「好きなものの話とかしましょうよ!わたしは牛乳が好きです!」

「好きなもの...んー、アップルパイが、好きですね」

「いいですね!中央学校前駅から歩いて20分くらいのとこのカフェ知ってます?あそこのアップルパイおいしいんですよ!」

「知ってます!在学中何度か行きました!」

懐かしい話だ。自分の好きだったものが共通の話題となることはうれしいものだ。

その後も話は弾み、昼どきも終わりかけカフェ内の人もまばらになってきた。彼女と話していると時間を忘れてしまう。ほんとうに話していて楽しい人だともはや尊敬するレベルだ。




楽しいランチタイムを終え捜査課にもどった僕を待っていたのは大量の過去資料の読破というとんでもなく果てのない業務であった。

「まあまあ多いですけど、全資料ではないので!よさそうなのをユーゼンがまとめてくれたんです!とりあえず読めばうちの仕事内容がだいたいわかると思います!わからないところあったら遠慮せず聞いてくださいね!」

来週までに読んでくださいね!と付け加えられた言葉に絶望しそうになった。ある程度の覚悟をもってこの部署に来たはずだがそれでもすでに心が折れそうだ。ノートパソコン上の果てないファイルたち...僕の戦いはこれからだ!ヒラギ先生の次回職にご期待ください

...とは言ったものの業務内容が気になっているのもまた事実である。まだ会ったことのない優しいユーゼン先輩に感謝しつつ資料を見始める。


読み始めると最初の感想とは異なり存外没頭してしまった。事件の特殊性もあるが、読めば読むほどわかるこの神跡捜査課という部署の異常性。たった2人の部署。異常すぎるのだ。新卒の僕でさえ感じる異常性。優秀すぎる。人間業とはおもえないほど、もはや芸術的と言っても過言ではないほどに鮮やかな仕事ぶりだった。

隣のデスクで昨日と同じくミルクを吸いながらキーボードをたたいているリファは、もはや外見詐欺では?と思うほどだ。彼女の優秀さが資料内から十分にわかる。情報収集能力がずば抜けている。資料を読んでいる僕が、こんなことまで知っていいのか?と思えるほどの情報がまとめられている。パソコンの外部持ち出し禁止も納得だ。このパソコン内の情報でいったい何人を破滅させられるだろう.........というか配属2日目の僕が読んでいいのだろうか...僕が情報を悪用したらどうするのだろうか。なんというか読んでいるだけで罪悪感が湧いてくる。

リファに聞いてみたところ、その場合は局長とお話することになりますね!と言われた。楽しいお話にならないことは間違いない


そしていまだ見ぬユーゼン・スタン。対神跡特殊捜査課課長。リファのことを散々褒めちぎったあとであるが、実質この部署の本体はユーゼンその人に他ならないだろう。明らかに常人ではない。細かく記載された資料をみるとところどころに業務遅滞があるのだ。(もちろんこの部署の資料上の話である。これを世間の常識に当てはめて業務遅滞などと言えばすべての会社の人事評価はもれなく最低ランク間違いない)この遅滞の原因がリファのサポートの遅れだ。リファの業務能力をもってしてもユーゼンのサポートに徹した方が効率がよい。否応なく理解させられる、ユーゼンの天才性を。

かなりまめな人物のようで資料のあちこちに捜査に関する推理・推測が記されているのだが、読めば確かに理解できる。しかし、この推理をリアルタイムで組み立てることを考えると化け物、感想はそれに尽きる。

ミステリ小説は人並みに読んだことはあるのだが、まさに小説内のように芸術的な推理だ。彼の場合は1日に推理小説2,3冊分の仕事をしている場合があるのだが。





「ヒラギくん、もうそろそろわたし帰りますよー」

あまりに没頭していたため、リファに声をかけられるまで終業時間を大幅に過ぎていることに気づかなかった。時計を見れば20時をややまわったころだった。

「すみません!もう帰りますので!」

急いで帰りの準備をしてコートを羽織る。

「すっごく集中してましたね!お疲れ様です!」

「いえ!リファさんもお疲れ様です!いろいろ質問して長時間付き合わせてしまってすみませんでした」

「大丈夫ですよ!ヒラギくんが仕事について勉強するのをお手伝いするのがわたしの仕事ですから!」



1階に下るとすでにエントランスに昼間の喧噪はなかった。閉店間際のコンサバトリーでホットミルクを2杯買ったリファから1ついただき(先輩ですから!とかたくなに代金を受け取らない彼女には頭があがらない)、外に出ると春先の夜の冷えた風にホットミルクの温かさが染みた。

「ヒラギくん、すごくいい子ですしうちに来てくれてよかったです!」

それに、と彼女は顔を寄せてささやく。

「実はヒラギくんが来てくれるのを一番楽しみにしてたのユーゼンなんですよ」

「先輩方の期待に沿えるようにがんばります!過去資料見た感じ正直お二人がすごすぎると思うのですが...」

「そんな風に思ってもらえるのはうれしいです!でも大丈夫ですよ、ヒラギくんは局長が選んだんですから!」



「明日はお昼からの出勤でいいので午前中に仕立屋さんに行ってきてくださいね!」

別れ際に思い出したように彼女は言った。

1日の終わりに僕のわりと頑張った(個人の感想です)スーツが暗に安物だと言われていたことを思い出し若干ブルーな気持ちで帰路についた。






紹介された仕立屋に行くと、ある程度予想できたことではあったがが白と黒を基調とした内装の小さな店舗だった。だがあのなんらかの執念さえ感じる職場ほどモノクロに統一されているわけではなく、あくまで人が入って居心地の悪さを感じない程度だ。


店に入ると、服を仕立てるより他に向いていることがありそうなほど背が高くやたらと筋肉質な男が深々と礼をして出迎えた。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ユーゼン・スタンの紹介でスーツを仕立ててこい、と...」

それまでも十分に丁寧な所作の男であったがユーゼンの名前をだした途端、さらに丁寧な態度になった。ここまでくるともはや居心地が悪いと感じてしまうのが僕の庶民たる所以である。

「スタン様のご紹介でしたか。さっそくですが採寸させていただきます」

その後、素人の僕によくわからないが様々な棒や布の切れ端のようなものでいろいろ測りはじめ、そしてよくわからないうちに終わった。

さすがプロだ。よくわからなかった。


測り終えた店主がしばらくして奥から1式のスーツを持って戻ってきた。

「スタン様のご紹介ですのでなるべくお急ぎしたいのですが、どうしても1週間はかかってしまいます。それまでの間に合わせとしてこちらをご用意させていただきます」

...もういいのだ。あの対人最強のリファにさえ暗に安物だと言われたのだ。いまさら僕の着ているこれがただの布きれだと言われようが傷つくフェーズは過ぎている...ただ少しばかり落ち込ませてほしい。さよなら、僕の就職祝い

もちろん断るはずもなくありがたく頂戴しましたとも!今後あの布きれ(念を押すが僕はそんなこと思っていない)があの仕立屋に有効に利用されるのを願うばかりだ。





3日目にして未だ慣れないエレベーターを経て捜査課の扉を開けた。いつもの定位置にリファが見当たらず部屋を見渡していると、奥のデスクでモニターをのぞき込んでいたリファが僕に気づいて顔をあげた。

「あっ、ヒラギくん!おはようございます!スーツ新しくなってますね!似合ってますよ!」

「ありがとうございます!」

どうやらようやく彼女のお眼鏡にかなう身なりになったようである。


挨拶を返し彼女の方に足を進めると、隣に座って同じくモニターを眺める男性に気づいた。

これまた高そうなスーツを嫌みなく着こなしており、眼鏡をかけた知的な印象の男であった。おそらくこの人が例のユーゼンさんだろうと思っていると、彼は僕に視線を向けた。

「ユーゼン・スタン。好きに呼んでいい。よろしくヒラギくん」

リファとの差もあるのだろうがなんとも簡素である。

「対神跡特殊捜査課に配属されました、ヒラギ・ドーンです。よろしくお願いいたします!」

「送った資料はどの程度読んだ?」

どうやら彼はリファとは違い世間話の類いはしないタイプのようだ。視線の先はすでにモニターに戻っている。

「3,4割ほどだと思います」

「優秀だね。リファからも少し聞いてるよ」

なかなかいい評価のようだ。もっとも特にまだなにもしていないのだが...リファがなんと言ったのか気になるところだ。

なにか指示があるのだろうかとしばらく立ち尽くしていると彼は急に立ち上がったと思えばそのまま外に出て行ってしまった。


「...ちょっと無愛想ですけどいい人なんですよ!」

ユーゼンを追いかけた視線が行き場を失っていると彼女のフォローが入った。僕も悪い人ではないのだろうという印象を受けたが、どうやら彼女的には先ほどの簡素なやりとりに関係性の危機を感じたようだ。

「...ところでユーゼンさんはあんまりここに来ないんですか?」

ふと気になったことを尋ねる。

「全然いないって訳ではないんですけど、んーたしかにいないときのほうが多いかもですね!と言ってもユーゼンが何してるか全部は知らないんですけどね」

謎が深まってしまった。

彼女に聞いたところによると、対神跡特殊捜査課の業務は主に局長に割り振られるものとユーゼンが勝手に持ってくるものの2種類があるらしい。勝手にもってきたものの大半はそのままユーゼンが勝手に処理するとのことだ。どうなっているんだ、この職場は...


結局その週ユーゼンが捜査課を再び訪れることはなかった。現在どんな事件を調査しているのかそれとなくリファに聞いてみたが教えられないらしい。やはり局長直下の組織なだけあり機密事項が多いようだ。


ここまで読んでくださってありがとうございました

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