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契約書

 言い合いを繰り広げながらも、楽しそうにしている三人を見たトールは連れてきて間違いではなかった感じていた。

 そして、呆れながらも笑みを浮かべツッコむ。


「いやいや、外はあかんやろ。そんな格好で歩いたら注目の的や。それにや、この世界ではエルフ基準もドワーフ基準もなしや! そんな意味不明な基準でうろついてたら、一発でお縄やで? だから、さっさと手を洗って着替えてくれるか?」


 トールが指摘したように、ここにいる全員が中世ヨーロッパを思わせるような格好をしている。

 

 それどころか斧を担いでいたり、弓矢を持っていたり、鉤爪を付けていたりなど。

 日本で所持していたら、法律違反となる物ばかりだ。


「私達が注目の的ですか! ふふっ、望むところです! なんと言っても我々は世界を救った勇者なのですから! それに捕まったとしても、逃げ出せますしね! トール様の転移魔法で」


 カルファは腰に手を当てて自慢げである。


 それは仕方のないことであった。


 元々、王女とはいえ閉鎖的なエルフの国に引き籠もり、自己顕示欲の低かった彼女が勇者パーティに選ばれたと同時に世の中に注目され評価された。


 その上、優遇される勇者パーティに入ってしまったのだから。

 

「ああ、違いない! 儂らは英雄だしな。まぁ、捕まるのもほぼないだろう。だから、そんな不満気な顔するでない。大丈夫だ、トール」


 先程まで言い合いをしていたというのに、ドンテツもカルファもいつも通りになっている。


 こうなると予想はしていたが、その切り替えの早さにトールは不安を覚えた。


「はぁ……自分ら、切り替え早すぎるやろ。というか、そういう問題やないって。ここは君らにとっては異世界、そんで異世界人やで?」


「だから、なんだ? 魔王を倒した勇者でも恐れるものがこの世界にあるのか?」


 こういったところの感覚の違いは、異世界人と日本人だからだろう。


 トールも頭では理解していた。

 だが、今後のことを考えるとため息しか出ない。


「はぁ……ちゃうやん。そういうんとちゃう」


「じゃあ、なんだ?」


「なんだって、まーた、僕、説明せなあかんの?」

 

「トール、大丈夫だよー! ボクたちは最強勇者パーティなんだし、注目されたら向こうでしてきたように笑顔で返すだけだし! 難しいことなんてその時になってから考えればいいんだよー!」


「チィコは可愛いなー……でもな、そんな簡単なことやないんやで? 約束覚えてる? こっち来るなら、目立たんようにって……この誓約書にも書いてる内容やけど」


 トールは首を大きく縦に振るチィコの頭を撫でると、何も無い空間から魔法【次元収納】を使用し全員分の手形が押された誓約書を取り出す。


 この誓約書は破ると、そこに記載された効力を発動する仕様であり、今回はそれが強制送還という勇者トールオリジナルの魔法なのである。


 ちなみに、この日本でも魔法が使えるのは、異世界と同じようにマナが漂っているからだ。


 寧ろ魔法を使う者がいないので、マナの量だけで言えば、異世界より多い。


「もちろん、覚えているよー! みんなで決めた守りごとだよね?」


「そうや、じゃあどんなんが書かれとったのかも覚えてるか?」


「う、うん! やっちゃいけないこととか、気をつけることとかだよね?」


「せや、それに今回チィコ達がしようとしてることも禁止事項として盛り込まれてる」


「そうなのかー……わかった! じゃあ、目立たないようにする」


「チィコはいい子やな、ちゃんとやること終わったら、ルールの中で好きしたらええ」


「本当に?」


「ああ、ホンマや」


「やったー!」


「それはそれとして、大の大人二人はどうするん?」


 トールは二人の拇印が押された契約書をひらひらをちらつかせながら言う。


「契約書を出されると、ぐ、ぐうの音も出ませんね……」


「そうだな……内容の変更とかは可能だろうかの?」


「却下や」


「えらく速い返しだの……」


「あたり前や」


「で、では……そのこれ破っちゃうとか……?」


「ほーん、ええよ? 破れるもんなら破ってみい」


「無理です……」


「潔くて宜しい。まぁ、破ったら、強制的にギルドに飛ばされて戻ってこられへんようになるだけやけどね。つまりは、何があってもこっちのルールに従ってもらうってことや」


 トールの言葉を聞いたことで、見るからにテンションを落とす大人組。

 その姿は気に入っていたおもちゃを取り上げられた子供のようだ。


「そんなぁぁぁ……どうかどうか! 譲歩を! トール様!」


「そんな顔しても、あかんもんはあかん! それよりもや、まずは手を洗う!」


 トールは地べたで打ちひしがれるカルファに対して、子供を注意するかのように言う。


 本来であれば、異世界から来た勇者が甲斐甲斐しく、面倒をみるなど、おかしな話しだが。


 生まれ育った環境もあってか、世話を焼くのが身についてしまっているのだ。


 幼少期は施設で育ち、その施設内で自分より、下の子供の面倒をみる。それもトイレやお風呂、炊事に洗濯などをこなし、これに加えて働けるようになったら、色んな仕事を経験してきた。


 なので、自然と誰かの世話を焼いてしまう。


「じゃあ、ボクが一番に手をあーらう!」


「よぉし、じゃあ、その次は儂だな」


「ず、するい! 私も洗います!」


「ふぅ……難儀なやっちゃ、大きな子供やん……防具も武器もしまうから、あんま動かんようにな」


 洗面所に並ぶ、小さな子供と大きな子どもと化した仲間達を前に頭を掻きながらも【次元収納】で鎧やバスターソードを別空間に収納していった。

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