ご馳走様でした
食事を終え、食後のお茶を飲みながら本格的に会話が始まる。
「先ほどドレッシングと言われていたが、それは簡単に作ることができるのか?作れたとして、販売しても大丈夫か?」
イッコーさんが切り出してきた。
「簡単に作ることはできます。この世界の食事事情がどうかわかりませんが、物によっては真似をされるかもしれません。一度食事情を調べてから、具体的にどうするかを考えたいのですが。」
食事情を調べてからと返答をする。
「それであれば、この町で一番腕の良い料理人がいる店で昼食をとろう。色々なメニューがあるから食事情を推察しやすいのではないか?」
「わかりました。料理人の腕がわかれば、真似をされる可能性も予測しやすくなります。私も色々な食に興味がありますので是非ご一緒したいです。」
リサーチがてら昼食を一緒にとることとなった。
イッコーさんは部下の方に店の席を押さえるよう指示を出し、午後からの予定を全キャンセルと伝え、私の方に向き直った。
「ケンジさんはこれからどうされる?ドレッシングの件もあるからしばらくは私の商店で顧問でもしてみてはいかがかな?やりたいことが見つかればそちらに変わっても良いし、私の商店の顧問をやりながらできるのであれば兼業をしてもらっても良い。月に40万G出そう。住む場所も用意しよう。いかがかな?」
これからどう生きていくか不安を抱いていた私にとっては『渡りに舟』である。
この世界の通貨に加え、職と住む場所まで提供してもらえるそうだ。
同時に初めて出会ってから僅かの時間しか過ごしていないのに、私に価値を見出してくれたことへの驚きも感じた。
ありがたい。
ありがたいが、日本円換算での40万円以上の収益をもたらさなければならないプレッシャーも感じる。
でも、このプレッシャー嫌いではない。
『使う側』ではなく『使われる側』のプレッシャー。
責任は生じるが最終責任者ではない立場での解放感とプレッシャー。
自分の食い扶持は自分で稼いで、会社にも利益をもたらす為の重圧。嫌いじゃない。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。利益をもたらすアイディアを出せるよう頑張ります。」
私はイッコーさんに感謝を伝えると同時にそう答えた。
この世界に現代知識をどれだけ投じることができるか楽しみだ。
イッコーさんは昼まで商店の仕事をし、昼からは私に時間を割いてくれるそうだ。
一方で私は、イッコーさんの部下の方に住む場所への案内と、周囲の散策をすることとなった。
お互い、次の行動に移す流れになったので、お茶を飲み欲し「ご馳走様でした」と言うと、もうお約束になりつつある「どういう意味か?」の質問がきた。
「私の居たところで食事とお茶を用意してくださった方への感謝の気持ちを伝える言葉です。」
と簡単につたえると、気に入ったらしく、すぐ取り入れてイッコーさんも「ご馳走様でした」と言っていた。
やはりできる経営者は取り入れるのが早い。
席を立ち部屋を出る際、文無しでは困るだろうと10000G紙幣を複数枚渡され
「これは報酬とは別だ。この町の通貨に慣れられよ」
紙幣をありがたく受取、お礼を伝えてから、スーツのポケットから財布を取り出し紙幣を収めた。
「それは何かな?」
財布を見たイッコーさんから財布への質問がきた。
私が使っている財布は『サイ◯ス』というメーカーのタイベックス素材のコンパクトな財布だ。
おそらく、この世界には無い素材だ。
「私が使っているお金を入れる財布という物です。」
「また後でゆっくり見せてもらえるか?」
と言われたので快諾すると、イッコーさんは部屋から出て行かれた。
初めての町を散策する時はワクワクする。
大小問わず新しい出会いがある。
この町での新しい出会いは住む場所からだが、昼食までの短い時間どう散策しようと思案する。
部屋を出る前に部下の方から挨拶をされる。
「ケンジ様、初めまして。アンノン商店のバッサと申します。オーナーよりケンジ様の案内を仰せつかっております。よろしくお願いいたします。」
「これはご丁寧に。ケンジと申します。よろしくお願いいたします。ケンジ様ではなく、ケンジと呼んでください。」
「我が商店の顧問をされる方、呼び捨てには出来ません。実質オーナーの片腕に等しい立場の方に失礼な対応は出来ませんので、ご理解いただけると幸いです。ケンジ様こそバッサとお呼びください。」
互いに自己紹介をし、部屋を出る。
階段を降り、外に向かって店内を歩く。
店内は武器や防具の装備品、瓶に入った薬品のような物や感想した植物、用途が不明な道具、工具、衣類、靴、食料品などが並んでいる。
日本の小規模なホームセンターのようだ。
武器や防具がある意外は。その武器や防具の売場が一番広く設けられている。
店の大きさは目測だが、バスケットボールのコート一面くらいの大きさだ。
そこそこデカい。
他の店を見たことがないので比較する対象がないので規模感はわからないが、小さな商店ではないだろう。
あとでバッサに聞いてみよう。
そして店の外に出ていく。
異世界ライフの始まりだ。
『俺たちの冒険はまだまだ続く』
お決まりのネタを脳内再生し、バッサに案内され住む場所に向かって歩き始めた。