いただきます
異世界初の食事が始まる。
「いただきます。」
日本人の性である。食事をいただく時に必ず出てくるこの言葉。幼い時から教えられ、習慣になり、遺伝子レベルで刻み込まれ、呼吸をするように出てくる。
「なんだね?その言葉は?」
はい。いただきました。お約束の疑問タイム。
「食卓に並ぶ食材の命と、食を提供してくれた方々への感謝を込めた言葉です。命をいただく、供された食事をいただく、そのような意味のこもった言葉です。」
いただきますの意味を答えると、
「素晴らしい言葉だ。私も使わせていただこう。いただきます。」
と、すぐに取り入れられた。
できる経営者は良い物を取り入れる時は即実行。流石だ。
まずはスープを一口いただく。
野菜の甘味に何かの肉の旨味、それを優しく塩でまとめてあるスープだ。
次にサラダをいただく。
レタスに似た食感、でも味はキャベツ寄り。地球では味わったことのない野菜だ。ドレッシングではなく、塩で和えてあるような感じだ。
スープもサラダも優しい味だが美味しい。
イッコーさんを見ると堅そうなパンをちぎってスープに浸して食べている。
私もそれに倣い、パンをちぎってみる。
………堅い。表面はバゲットのような堅さ。中身はベーグルのような詰まり方。そのまま食べるのは少々きつそうだが、まずは一口食べてみる。
表面は厚く焼き固められたハード系のパンのような感じ、中身は小さな気泡ばかりの詰まりに詰まった粘土系のパン。香りは悪くない。
しかも水分は皆無だから口内の水分を全て持っていかれ、咀嚼する度にアゴに深刻なダメージを与えてくるアレ系のパンだ。スープに浸すのが正解のようだ。
スープを一口すすり水分を補給しパンとの初戦は私の負けで終わった。
ベーコンのような何かを食べてみた。
うん。しょっぱい。かなり塩分が強い。そして燻してはいない。塩気の強いパンチェッタのようだ。
燻製をした香りは皆無だが、熟成させた独特の香りがある。
かなり塩気が強いが悪くはない。
単品ではなく何かと合わせていただきたい一品だ。
一通り食べてみたので、
謎の白い液体を飲んでみる。
…カルシウムの含有量が高く、タンパク質と脂質も効果的に摂取できるアレ。
そう。牛乳と同じ味がした。もしかすると日本の牛乳よりも美味しいかもしれない。
身長が伸びそうな味である。しかし何の乳かわからない。
朝食に関しては問題がなさそうだ。
食べながら食事に使われている食材の説明を聞く。
パンは麦を使っている。大麦と小麦、ライムギがパンに適しているらしい。
主食は麦を使ったパン、寒い地域は芋が主な主食らしい。
貧困層は麦や芋ではなく、粟を粥にして食べているそうだ。
日本人なら気になる米は主食ではなく、野菜として使われているそうだ。
ヨーロッパの食事文化と似ている。
サラダに使われている野菜はまんま『レタス』と呼ばれていた。
生食に見えるが生食ではなく、一度熱湯をくぐらせてから盛り付けられるそうだ。
寄生虫対策らしい。ある程度の衛生観念があることに驚く。
そしてドレッシングは存在していないそうだ。「なにそれ?うまいの?」から始まり、「作り方を教えろ」になり、今度作り方を教えることとなった。
ベーコンのような物はベーコンでした。
この世界には燻製という調理方法がなく、元の世界のパンチェッタに近い物が『ベーコン・塩漬け肉』として扱われているとのことだ。
原料は豚肉で、高級品だとオークが使われているらしい。とうとうファンタジー素材の登場だ。
乳はまんま牛乳でした。他には山羊の乳も流通しているらしいが、牛乳の方が高価らしい。
乳の派生食材はチーズのみ。バターや生クリームは存在していないらしい。
ビジネスチャンスが至る所に転がっている世界だ。
食事が終わり、食後のお茶が運ばれてきた。
見た目は紅茶、味は紅茶と烏龍茶の中間。発酵の進み具合が関係しているのだろう。
名前は特になく『茶』と呼ばれているそうだ。
お茶を飲みながら会話は進んでいく。