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灰色の領域へ

歩き始めてわかったことがある。

あまり植物に詳しくはないのだが、植生は地球(暫定的)とほぼ同じに見える。

たまに聞いたことのない鳴き声が聞こえたり、重量感のある羽音が聞こえるのは気のせいであって欲しい。

足元は落ち葉と、くるぶし程度の高さの雑草が生えているが革靴で普通に歩くことができる。

気温は体感であるが、日本の10月下旬くらいだろう。スーツ姿で歩いても暑さを感じない。

アプリ画面上方向が北であれば、太陽と思われる光源は右側、東方向の比較的低い高さから雑木林を照らしている。


アプリ画面の上方向に歩き始めること約10分、雑木林の切れ目が見えてきた。

明るさに吸い寄せられるよう雑木林の切れ目に向かって歩く速度が上がっていく。

そしてついに雑木林から抜け出せた。

抜け出せたと同時に新たな風景が視界に入ってくる。


地元では見たことない草原、草の高さはくるぶし程度の草原、それが視界いっぱいに広がっている。

そして草原の先に、灰色の領域だと思われる壁に囲まれた何かが見える。

この時点で分かったことは、知的生命体が最低限の文明を築いていることと、ここは地元S県M市ではないことだ。

地元の全てを知ってはいないが、少なくとも壁に囲まれた風景は初めて見る。

ちなみに塀に囲まれた施設はあったが、町の中にあったので草原とは関係のない場所だった。

地元ではないならばここはどこなのだろう?


考えても始まらないので、灰色の領域に向かい歩き始めた。

視界に入る壁がだんだんと大きくなっていく。

アプリ画面を見ると道のような線が近くなっている。壁に向かいたいが一度線に向かい進路を変えてみた。

しばらく歩くと草原が切れ、道のような場所にたどりついた。

アプリ画面のアイコンも線上にある。

やはり知的生命体が存在し、最低限の文明は築いているようだ。


道の状態は、未舗装で土がむき出しの状態だ。砂利も敷いていない。

轍のような物もあるが、自動車のタイヤの半分以下の幅で間隔は1メートルから2メートルと一定の間隔ではない。そして所々に糞も落ちている。

地面は乾いているが、足跡も残されている。

蹄のような形、サイズは色々見えるが2足歩行と思われる足の形、その靴底のパターンは革底の革靴のように全て平面だ。

以上を踏まえると、馬のような偶蹄類がいて、馬車のような物を運搬手段とし、2足歩行の生命体がいて、靴底に滑り止めのパターンを入れていない文明レベルの何かがある場所のようだ。


道から得られる情報はこんなものだろう。

灰色の領域にたどりつけば、答えはわかるはず。

そう思いながら再び壁に向かって歩き始めた。

壁に向かってしばらく歩いていると、後ろからガラガラと音が聞こえてきた。

音のした方向へ振り返ると、なんと馬車が走ってきた。


202X年に日本国内で馬車を使っている話は聞かない。

でも視界には馬車が映っている。

不安と期待が入り混じった中、馬車はどんどん近づいてくる。

そして私の横で止まった。

馬車の上には茶色の髪、茶色の目の西洋人顔のナイスミドルが座っている。


「変わった格好しておられるが、お貴族様か商人ですか?どちらにしてもそんな恰好の方がなんでこんな早朝に歩いておられる?お困りですか?」


馬車の上から話しかけられた。

不思議だ。言葉がわかる。であれば、ここは日本?もしくは日本語が堪能な外国の方なのか?

謎の目覚めを迎え、不思議なパネルから謎のメッセージを受け初めての現地人との接触だ。


「商人をしておりました。気が付いたらあそこに見える雑木林にいたので雑木林を抜け出して、あの壁に向かって歩いています。」

私は答えた。嘘は言っていない。昨日まで商社(零細)を営み、気が付いたら雑木林にいたのだ。

「町に向かうのであれば乗って行かれるか?」

「よろしいですか?ぜひともお願いいたします。」

なんともありがたい申し出である。二つ返事でお願いし、馬車に乗せてもらうことにした。

人生初めての馬車体験である。


御者台に乗り込むと馬車は動き始める。

「見たところかなりお若いが、大店のご子息か何かか?」

「助かりました。ケンジと申します。先日まで会社を経営しておりました。そして気が付いたら雑木林の中にいて、少し前に雑木林を抜け出し壁に向かって歩いておりました。」

お礼と自己紹介も兼ねて現状の説明をした。

「これはご丁寧に。私は商人をしておりますイッコーと申す。会社とは何か?」

御者の方も自己紹介と疑問をぶつけてくる。

この世界?この土地?には会社という組織・言葉は存在していないようだ。

「会社とは商店のような物です。私のいた地方では商店のことを会社と呼んでおりました。」

イッコーの疑問に答えた。なぜかわからないが自分の中で、ここが日本でもなく地球でもないと確信に近づいている気がした。


そして馬車は壁に向かっていく。


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