明かされる真実
ナオマサ一行に護衛をされ城内にある牢獄へと案内されたケンジは、早速襲撃者に尋問を開始する。
口裏を合わせたりしないよう1人づつ牢に入れてもらい、尋問室へも一人づつ連行してもらった。
女性であるバレリアには見せられない事をするかもしれないので、バレリアには外してもらい、ケンジ・ビクトール・フリック・牢獄の兵士だけで尋問を始めた。
背が高く髭の濃い侵入者を、椅子に固定し尋問を開始する。
「あなたの名前と、この度の襲撃の襲撃目標と首謀者を教えてもらえますか?」
開口一番ケンジは丁寧に襲撃者の一人に質問をした。だが侵入者は口を閉ざしケンジを睨みつけている。
「貴様~!口を割らんか~!」
それを見ていたビクトールが、口を閉ざしている侵入者を怒鳴りつけ顔面に体重を乗せた鉄拳を入れた。
侵入者は顔面を殴られ血を流しているが、こちらを睨む目線は弱くなっていない。
ケンジはアンノン商店で凶刃を振るった侵入者達に容赦をするつもりは一切なかった。
「簡単に吐いてくれるとは思ってなかったですが・・・後悔しますよ?」
侵入者にそう言うと腰から銃を抜き、侵入者の右足の甲へと銃口を向ける。
ビクトール達に耳を塞ぐよう伝えると、引き金に指をかけ引き金を引いた。
『ドンッ』重く乾いた音が尋問室に鳴り響く。
「ぎゃあ~~~!!」侵入者の悲鳴と共に、半分以上吹き飛んだ右足の甲から凄まじい勢いで血が流れてくる。
「痛いですか?痛いですよね?こちらの質問に答えてくれたら、治療してあげますよ。襲撃目標とその首謀者は誰ですか?」
侵入者は激痛に顔を歪め、目には涙を浮かべながらもケンジを睨みつけ、口を閉ざしている。
時折痛みによる悲鳴が口から洩れるが、質問の答えは一切言わない、
「足はもう一本ありますし・・・」そう言いながら銃口を左足の甲へと向ける。そしてビクトール達に耳を塞ぐよう伝えると、侵入者が懇願してきた。
「言う!!言います!!言いますからやめてください!!」
「それでは私の質問に答えてもらいましょう。あなたの名前と襲撃の目標、首謀者はだれですか?」
「俺の名前はシューホー、襲撃目標はアンノン商店のイッコーとケンジ!依頼者は・・・言えねえ!言ったら殺される!」
侵入者は自分の名前と目標を明かしてきた。この世界に落とされてから、まだ24時間経っていないケンジを目標として指定をしている事に疑問を覚える。名の知れたイッコーならまだしも、アンノン商店関係者とギルドで関わった人達以外に、ケンジの名を知る者は居ないはずだ。
そんなケンジもイッコーと一緒に抹殺対象として依頼をした人物。
そう抹殺を侵入者達へ依頼した《依頼人》だ。
目の前で涙と血を流している侵入者は《依頼人》と言った。
闇ギルドが襲撃を画策して動いたのではなく、闇ギルドに襲撃を依頼した第三者が存在している事が判明した。
「そうですか・・・依頼者は言えないんですね。あなた方は商店従業員を何人も殺めてしまった。それなのにすぐ解放されると思っているんですか?お目出度い考えですね。解放されなければ外で殺される事もないのに。もう一度聞きます。依頼人は誰ですか?」
「依頼人は言えな『ドンッ』ぎゃあ~~~!!」
シューホーは答えている途中で左足の甲を撃ち抜かれた。
それを見ているビクトール達は、あまりの冷酷さに蒼褪めている。
「聞いている事にきちんと答えていたら、こんな痛い思いをしなくても済むのに。失血死されてもいけないので、一回治療しましょう」
ケンジはシューホーの両足に手をかざし『傷が完治しますように』と念じた。両足の傷は淡い光を放ちながら癒えていく。そして45口径の弾丸が持つ脅威的な破壊力で、半ば形を失って吹き飛んでいた足の甲も元通りに治っていた。
「さぁ2回戦目です。依頼人は誰ですか?」
銃口を足に向けられたシューホーは、再びあの激痛が襲って来る事に恐怖し…そして折れた。
「依頼人は・・・サルマ商店のサルマだ・・・。頼む!命だけは助けてくれ!」
シューホーは依頼人の名前を吐き、命乞いをしてきた。
サルマ商店のサルマ・・・商業ギルドで絡んできた派手な恰好の商人だ。ケンジに服を売るよう迫って来て、断ると激昂し脅しをかけて来たのだが、アンノン商店の関係者だとわかると急に遜った態度に変わった小者だ。
現状、この町でケンジが唯一良く思っていなく、ケンジの事を唯一良く思っていない人間だろう。
点と点が線で結ばれるのを感じたケンジは犯人はサルマだと確信する。
だが、まだ一人しかサルマの名前を出していない。残りの二人に尋問した後で具体的な対策を考える事にした。
「あなた方が殺めた人達も命乞いをして来たでしょう。あなた方は命乞いをして来た人達の命を助けましたか?あなた方にはきっと神の裁きが下るでしょう。もし万が一神があなた方を裁かなくても、ここはパインフラット家の城の中です。この町の領主様と法があなた方を許さないでしょう。もう結構です。この方を連れて行って、次の方を連れて来ていただけますか」
シューホーに絶望を与える言葉を告げたあと、シューホーを連れて行き次の侵入者を連れてくるよう兵士に依頼した。
ケンジの言葉を受け、兵士は「助けてくれー!」と叫ぶシューホーを連れて尋問室から出て行ったのであった。
「いやはやとんでもない人物の名前が出てきましたね。我々騎士団もサルマ商店の素行の悪さは耳にしていましたが、騎士団が動こうとすると、家臣の方からストップがかかって動けないでいたのです」
「そうですか。後でその家臣の方の名前と役職を教えていただけますか?この後の尋問の結果、必要であればお話を伺わないといけませんので」
サルマの名前が出てきた事により、新たな情報も出て来た。騎士団の動きを制する権力を持った家臣が、サルマに組しているかもしれない。ナオマサに協力を仰がなければならないと、ケンジは考えていた。
「それよりケンジ様がお使いになられていた武器は神器でしょうか?凄まじい音に凄まじい威力。まさか一度の攻撃で足が吹き飛ぶとは思わなかったです。そして治癒の魔法!聖女様がお使いになられたのを拝見した事はありましたが、欠損した部分まで治療されている光景は初めて拝見いたしました!それに聖女様は魔法を発動するまで長い詠唱をされていましたが、ケンジ様は詠唱もされずに手をかざすだけで治療をされていました。流石は神族様ですね」
興奮気味にビクトールは質問をしてくる。隣でフリックも頷いていた。
「これは神器では無いですが、私にしか使えない武器だと思います。今持っているのは携帯しやすい小型の物ですが、もっと大きく威力の強い物もあります」
「そうなんですね。また機会があれば拝見させていただきたいものです」
ケンジの答えにまたも興奮気味にビクトールは答えてきた。そしてフリックは隣で頷いていた。
そうこうしているうちに、2人目の侵入者が連行されてきた。
2人目の侵入者の名はリエール。アンノン商店では覆面でわからなかったが女性だった。
1人目のシューホー同様、問いかけるだけでは口を割らなかった。
女性に手荒な真似はしたくなかったので銃は使わず、幻覚作用のある魔法を創造し恐ろしい幻覚を楽しんでもらった。
結果は上々で、依頼者のサルマの名前に加え、闇ギルドの拠点の場所まで吐いてくれた。
リエールが見たのは幻覚で、幻覚の中で受けた恐怖は幻に過ぎないのだが、受けた恐怖に支配され涙を流しながら震えていた。
リエールを牢に入れ3人目を連れて来るよう兵士にお願いし、3人目の到着を待つ。
「二人ともサルマの名を出したので、首謀者はサルマに間違いはないでしょう。今から騎士団を出撃させ
捕縛してはいかがでしょう」
騎士団の出撃とサルマ捕縛を、ビクトールが提案してくる。
「念の為もう一人に尋問をし、情報が間違っていなければ、ナオマサ殿と情報を共有後すぐに動きたいと思います。プランは尋問しながら考えておきます」
「それならば領主殿をこちらにお呼びし、尋問に立ち会っていただきましょう。そうすれば情報の共有をする手間も省けるでしょう」
フリックの提案にケンジは頷いた。ケンジが頷いたのを見てビクトールは「行け」と一言だけフリックに
伝えると、フリックはナオマサを呼びに向かった。
フリックと入れ替わりで3人目の侵入者が連行されて来た。
3人目の侵入者を椅子に固定し、予備尋問を開始する。
「名前と襲撃目標、襲撃の首謀者は?」
「・・・・・・・・・」
余裕の表情の男は、やはり簡単に答えてはくれない。前の二人が発する悲鳴を聞いていてこの表情、敵ながら余裕を感じさせる何かがある。
同じ内容の質問を何度か繰り返し、何度も沈黙されるのも繰り返していると、ナオマサとフリックが尋問室に入ってきた。
面子が揃ったので、成果を得られなかった予備尋問を終え、尋問を本格的に開始する。
「名前と襲撃目標、襲撃の首謀者は?」
「・・・・・・・・・」
「それでは話したくなったら話してください」
侵入者の頭に手をかざしたケンジは、リエールに掛けた物よりも強い幻覚魔法を、3人目の侵入者に掛けた。
「幻覚魔法を掛けました。今この侵入者はとてつもない恐怖体験をしているでしょう。恐怖に負け、心が折れるまで暫くの間待ちましょう。ナオマサ殿、この侵入者が質問に答えてくれたら、首謀者の捕縛に向かいます。それに伴って確認したい事が一点、この町は地下に通路はありますか?」
「この町に地下の通路はございません。地下の通路が必要でしょうか?」
「いえ、包囲した際に地下に逃げられたら面倒だと思いまして。地下がないのであれば捕縛は簡単だと思います。首謀者の滞在先の建物に結界魔法を掛け、出入りをできなくして捕縛します」
「承知いたしました。騎士団を派遣し、ケンジ様の支援をさせていただきます」
ケンジとナオマサは捕縛に向け簡単ではあるが、今後の動きを話していた。
ーー侵入者の見ている幻覚世界ーー
その頃3人目の侵入者は、とても恐ろしい幻覚を見ていた。
椅子に固定された侵入者に、血を流し凶器を持った集団が歩み寄ってくる。
凶器を持った集団はかつて侵入者が手に掛けた被害者達だった。
被害者達は一人づつ侵入者の前に立ち、手に持った凶器を振りかぶって、思い思いの場所を狙って振り下ろしてくる。
振り下ろされる度、凄まじい激痛が全身を襲ってくるが、気絶する事も絶命する事も許されず、ただひたすら悲鳴を上げる事しか出来ないのであった。
被害者達の凶器に全身を打たれ、切り裂かれ、骨は折れ、失ってしまった部位もあったのだが、いつに間にか元に戻っている。耐えがたい痛みを繰り返し受けなければならないようだ。
激痛が繰り返される事を知った侵入者の心は折れた・・・。
いつの間にか悲鳴が「話す!話す!話すからやめてくれ!」と懇願する言葉に変わっていた。
侵入者の言葉を聞き、ケンジは皆に向かって「折れたようですね」と言った。
ビクトールとフリックは『血の流れない穏便な尋問だった』と思っていたが、ナオマサは『何もせずに心が折れるなんて、なんて恐ろしい魔法なんだ』と思っていた。
そして侵入者が話を始める。
「俺の名前はルーサー。闇ギルド『ビカムロック』の頭領だ。襲撃の目標はアンノン商店のイッコーとケンジ。依頼内容は二人の抹殺と商店内に居た人間の抹殺。依頼者はサルマ商店のサルマ殿だ。依頼の背景は聞いていない」
あっさり話してくれた。情報の内容は3人とも同じ事を言っていたので、行動に移すべく動こうとすると、
「動いても無駄だ。俺達ビカムロックとサルマ商店には、この町の偉いお貴族様が付いている。お前達が何者かは知らんが、早く解放しろ!解放して金を積め!そうした方が身の為だぞ!」
「どういう意味だ?」ケンジは質問をする。
「ビカムロックはこの町のお貴族様『ライトビレッジ男爵』が作って俺が任されている闇ギルドだ。サルマ商店は男爵様と、ビカムロックに資金提供をして便宜を図ってもらっている。俺がここまで喋った理由が何故か気になるだろう?俺達がアジトに戻らなかったら男爵様の元へ使いが出て、男爵様の私兵がすぐに救助に来てくれる事になっているからだよ!死にたくなかったらさっさと解放して酒と女を用意しろ!男爵様の私兵が来るまで寛がせてもらうぜ」
勝ち誇ったようにルーサーは言う。その言葉を受け、ケンジはナオマサに質問をした。
「ナオマサ殿。ナオマサ殿の爵位を教えていただけますか?」
「はっ!私の爵位は公爵になります。ジハング国王チューリバー家の現国王ミツイエの従弟にあたる私は、公爵位と共にパインベイを領地として賜りました」
爵位を答えたナオマサはルーサーに向かって言葉を続けた。
「ルーサーだったか。助けが来ると言っていたが、パインフラット家の城に攻め入って来ると言う事になるが、それでも来ると思うか?ライトビレッジはこの後すぐに捕縛する。闇ギルド風情が領主を舐めるなよ」
怒りに満ちたナオマサの言葉を聞き、ルーサーはみるみる内に蒼くなっていく。
「私は騎士50名と歩兵100名を引き連れ、ライトビレッジの捕縛並びに屋敷の占拠、証拠品の捜索に向かう!・・・ビクトール!騎士50名と歩兵100名を引き連れ、ケンジ様に同行せよ!・・・フリック!騎士50名と兵士100名を引き連れ、闇ギルドのアジトの襲撃と殲滅を命じる!アジトの中にある者は埃一つ残さず証拠品として持ち帰って来い!」
ナオマサは騎士団を動かすよう、二人に命じた。
その後ライトビレッジ男爵は、ナオマサの手によって捕縛された。不正や犯罪に関わる証拠品と、屋敷内に保管されていた資産を押収し、男爵共々城に護送された。
闇ギルドアジトはフリックの指揮する騎士達の襲撃を受け、多数の死傷者を出し壊滅した。この度の襲撃事件に関わる証拠品や、今まで行って来た依頼に関わる物など多数を押収され、死傷者諸共城に護送された。
ーーサルマ商店・サルマ自室ーー
「ビカムロックの奴ら・・・高い金を払ったからケンジとイッコーの殺害を成功してもらわんと困る。まぁ何かあればバカ男爵に動いてもらえば、ワシは安泰だがな」
お気に入りの酒を飲みながらサルマは呟いた。
サルマ商店が急成長出来たのは、気に入らない商店や人間を貶めるような噂を流したり、噂に動じない商店や人間をビカムロックを使って脅して無理やり配下にしたり、気に入らない相手の存在自体を消したりしていたからだ。
疑いがサルマに向くとライトビレッジに金を積み、事態の収拾を行っていた。
「自分は間違っていない。自分が商業を支配する町を作る」そんな曲がった想いを胸に秘め、自分に恥をかかせたケンジと、ケンジが所属していて目障りな存在でもある、アンノン商店オーナーのイッコーの抹殺を依頼した。
明日になれば邪魔者達は消え、この町の商業の頂点にサルマ商店が立ち、商業を通じて町を支配出来るだろうと考えながら酒をあおっていた。
酒杯を重ね、気分が良くなって来た頃、商店の周りが騒がしくなってきた。
複数の馬の蹄が地面を蹴る音、複数の人間が駆ける音、そして金属のこすれる音が聞こえてくる。
まさかとは思い窓の隙間から外を覗くと、パインフラット騎士団と兵士が商店を包囲しようとする姿が見えた。
そしてその中心にパインフラット騎士団ビクトール隊隊長のビクトール、そして殺されたはずのケンジの姿が見えた。
ケンジが空に向かい手をかざすと、商店周辺を包むように緑色に光る壁が現れた。
サルマ商店オーナーのサルマに、終わりの始まりが訪れた瞬間である。