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長い夜

眼前で跪くナイスミドルと騎士の方々。

後方で( ゜Д゜)こうなっている皆さん。

理解が追い付かず( ゜Д゜)なっているケンジ。

アンノン商店の前に混沌とした空間が出来上がっている。

周りから見たら店前の空間全てが歪んで見えている事だろう。


「ケンジ様。初めて御意を得ます。私はパインベイを治める領主を務めさせていただいております、名を『ナオマサ・バーチューリバー・パインフラット』と申します。馳せ参じるのが遅くなり、大変申し訳ございませんでした。この後すぐにパインベイ領の聖女も参りますので暫しお時間をいただけますようお願い申し上げます」

周囲の認識では『ただのケンジ』に向かって領主が丁寧に挨拶をしている。そしてケンジはこの《聖女》ってフレーズで全てを悟った。『爺さん、このタイミングで神託出しやがったな』と。


「ご領主様、初めてお目に掛かります。ケンジ・マツダと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。・・・それよりも夜露に濡れてはいけませんので、建物の中に入られませんか?どうぞ」

と挨拶を返し、建物の中に誘導する。

店の入り口に向かって掌をかざし入り口の方を見ると、ケンジの後ろに居た人達も領主登場で跪いて頭を下げていた。


ケンジの言葉で立ち上がったナオマサはケンジの横まで歩いて来た。

並んだ瞬間ケンジはナオマサに囁き掛ける。

「もしかして爺さ…いや神様から神託おりましたか?」

「はい。ご神託をいただきました」

ナオマサは空気を読んで囁き返してくれた。

「詳しくは後程」と再度囁いてから普通の声量で「さぁ中に入りましょう」と伝え中に誘導して行った。


ゆっくりと歩きながら後ろに続くバッサを呼び「イッコーさんの私室か住居の部屋を貸して貰えるよう頼んで欲しい」と伝えるとすぐに後ろに下がっていった。

バッサが下がってから約1分後、イッコーとバッサが隣にやって来て、

「ワシの住居の応接を使おう」と伝えてきた。

そして領主に向かい「ナオマサ様。ワシがご案内いたす」と言ってイッコー自ら先導してくれた。


『ドウシテコウナッター、ウシロカラノシセンガイタイヨー』なんて考えながらイッコーとナオマサの後ろを着いて行く。

途中バッサに「あの侵入者達ですが私が尋問するので、どこにも渡さないで下さい」と伝えておいた。

そして住居スペースの応接室へと着いた。


商店3階にあるイッコーの住居スペースにある応接室は、贅を尽くした造りではなく一見簡素な造りだが、家具や調度品一つ一つが上質で選び抜かれ洗練された上品さがある、趣のあるセンスの良いスペースとなっていた。

長いローテーブルに向かい合うように長いソファが設置してあり、両端には一人掛けのソファが設置してある。

その応接室内には、ナオマサ・イッコー・バッサ・ベナッタ・ゲイブそしてケンジが座って居る。

城の騎士や商業ギルドガード、駆け付けた冒険者ギルドナイトは商店周辺警備と、各フロアの安全確認、応接室の入口警備を行っている。


実は応接室に入室の際、席次に関して一悶着があった。

一番の上座、通称お誕生日席をイッコーがナオマサに勧めたところ、ナオマサが

「ケンジ様がいらっしゃるのに私が座る訳にはいかない!」

とゴネ、「なぜ?」「何?」とナオマサの言葉の真意を巡って着座出来ないという事態が発生していた。

その時ケンジはメイドinジャパンのビジネスマナーに乗っ取り、ド下の位置に陣取っていたのは言うまでもない。

すったもんだの末、皆が一番の権力者と認識しているナオマサの言う通り、お誕生日席にケンジ、続いてナオマサ・ベナッタ・ゲイブが座り、向かいの上からイッコー・バッサと座った。


「この度は迅速に駆け付けていただいた事、誠にありがとうございました」

イッコーが集まった人達に感謝の言葉を述べた。

「犠牲者が出てしまいましたが、イッコー殿達が無事で良かった」

ベナッタが言葉を続ける。

「いやいやまったく、ご無事で良かった物の…。問題はこれだけの犠牲者を出し、秩序を乱す真似をした輩がどこのどいつかって事と、何の為にこのような大それた事を画策したかって事ですね」

ゲイブもベナッタに続く。

「城から距離があり、たどり着くのに時間を要したのが悔やまれてならん。イッコー殿、申し訳なかった。そしてケンジ様、馳せ参じるのが遅くなり大変申し訳ございません。今後このような事が無きよう、ケンジ様の周囲の護衛を強化し、町中の警備も強化いたす所存でございます」

そしてナオマサは燃料の投下を怠らない。


ナオマサの態度は領主が領内の民に接する態度ではなく、自分よりも立場が遥かに上の者にとる態度だ。

そのナオマサを見て、ケンジ以外のこの部屋に居る者達は疑問を抱いている。

「領主様、ケンジ殿とはどういったご関係で?」

代表してベナッタがナオマサに質問をした。

ナオマサはケンジの方を向いて、どうしたら良いか支持を仰ぐような視線を送ってくる。

ケンジはその視線を受け、全てを諦めるように息を吐き出し深く頷いた。

その頷きを見て、何かをナオマサが喋ろうとしたその時、

『コンッコンッコンッ「聖女様がお見えになられましたのでお通しいたします」』

と部屋の外から声が聞こえて扉が開いた。


開かれた扉から白いローブを着た一人の女性が入って来た。

その女性は部屋に入るやいなや跪いて挨拶をしてきた。

「ケンジ様、初めてお目通りさせていただきます。パインベイの今代の聖女を務めさせていただいております『バレリア』と申します。神の一柱であるケンジ様にお仕えさせていただけます事、今生における最大の喜びでございます!」

聖女のバレリアは上司にあたるナオマサや、同席しているお歴々にではなくケンジにのみ挨拶をしてきた。それを見て満足そうに頷くナオマサ、( ゜Д゜)こうなっているイッコー・ベナッタ・ゲイブ、無表情のバッサ、全てを諦めた表情のケンジであった。


聖女バレリアの爆弾発言をはらんだ挨拶を受け、イッコー達はナオマサの方を向く、ナオマサはそれに頷き返した。

バレリア以外一斉にソファから立ち上がり、ケンジに向かい跪いたのだった。

その後バレリアはケンジの後ろに従者のように立ち、バッサは3階のキッチンにお茶の用意をしに行き、他の面々はソファに座りなおしている。

バッサが戻って給仕をし終わると、バッサも座りこちらを見てきた。


全員揃ったのを確認し、咳払いをしてナオマサはバレリアに視線を送り頷く。

それを受けバレリアは大きく頷いて説明を始めた。

「本日ご神託が下りました。ご神託の内容は『ジハングの国、パインベイの町に神族『ケンジ・マツダ様』を遣わした。行動を妨げたり無礼の無いよう計らえ!パインベイの聖女はケンジ・マツダ様に仕え、ケンジ・マツダ様の成す事の力となるよう。また神族様を遣わした事を喧伝する事を禁ずる!』・・・以上が私が受けたご神託の内容となります。ケンジ様はこの世界にご降臨された神族様となります。皆様、くれぐれもケンジ様に不敬の無きようお願いいたします」

バレリアは神託の内容を一同に説明した。急にこんな事を聞かされた皆は、なんとも言えない表情をしている。


それを察したケンジは皆に伝えた。

「私はこの世界を発展させたいと考えています。その為には皆さんの協力が必要不可欠になります。ですので、皆さんとは対等にお付き合いをさせていただきたいです。神族だからとか関係なく、色々な事を一緒に出来たらと思っています」

「承知いたしました。我がパインフラット家とパインベイ領はケンジ様の成される事を全力でご支援させていただきます。又、ここに同席させていただいた一同よりも、遥かに位が高いケンジ様へ失礼の無い態度で接する事はご容赦いただきたく存じます。一同を代表してお願い申し上げます」

ケンジの言葉にナオマサが答え、話終えると同時に皆が一斉に頭を下げてきた。


つい数時間前までヒトだったケンジは、たまたま治癒魔法を創造した事が切っ掛けで神族にされてしまったのだが、必要以上に敬われるのが正直得意ではなかった。

が、ここで「無理です。フランクに接してください」と言っても「いや神族様に不敬は・・・」みたいな感じの平行線になるだろうと考えた結果《今は》受け入れる事にした。

そして先ほど受けた襲撃の件に話題は変わっていく。


「時にイッコー殿。この度の襲撃、何者が画策したか思い当たることはあるか?」

領主として領内で起きた事件についてヒアリングが始まった。領主の問い掛けにイッコーが答えた。

「襲撃してきた者達は闇ギルドの人間で間違いないと思いますが、首謀者については現状何もわかりませぬ。ケンジさん…いやケンジ様が侵入者を3人生け捕りされたので、問い質そうと考えております」

「侵入者達は従業員を負傷させる為ではなく、命を奪う為に凶刃を振るっておりました。遺体を見る限りなんの躊躇いもなく行為に及んだように見えます。この様な事態を巻き起こした犯人を商業ギルドとしてもゆるす事は出来ません。騎士団で捕まえる事は出来ませんか?」

イッコーの言葉にベナッタも続く。ベナッタの言わんとする事は理解が出来る。

そもそも各ギルドにはギルド内に対してしか、治安と秩序の維持や法の執行権を認められていない。

従って、領主もしくは騎士団に丸投げするしかない。


~補足だが、領内の治安維持は城詰の騎士団が行っている。

そして各ギルドは国家や各領の支配する機関ではなく国家とは独立した世界的な機関なので、国家や各領から依頼がない限り治安維持の為に動く事は出来ない。その際、国家・各領の司法機関ではないので、法の執行権は与えられない。

それでは何故アンノン商店に駆け付けたのか?それはアンノン商店が商業ギルドに加入しており、アンノン商店所属のケンジとバッサが冒険者ギルドの高位冒険者だからだ。

ギルドに所属する商店、冒険者を《保護》する為に両ギルドは動いたのだ~


しかしケンジは自分のお世話になるアンノン商店を襲撃された事が面白くなかった。それに、このタイミングでの襲撃に違和感を覚えていた。

バッサに「あの侵入者達ですが私が尋問するので、どこにも渡さないで下さい」と伝えていたので、自分で尋問をし情報を吐かせ、侵入者の背後に居る黒幕に鉄槌を下すつもりでいた。

「ナオマサ様。生かして捕らえた侵入者の尋問と首謀者の捕縛ですが、私に任せていただけませんか。吐かせた情報は共有し、捕縛を実行する際は騎士団の方にも同行していただきますので、ご許可をいただけますか」

「ケンジ様。ナオマサと呼び捨てていただけませんか。この度のご神託、宮廷の聖女も受けておりますので、国王始め国の要職について居る者は神族のケンジ様がご降臨された事を周知しておるはずです。神の一柱で在らせられるケンジ様に《様》付けで呼ばれるのは身分不相応、ですので何卒お聞き入れくださいますようお願い申し上げます。それと尋問と捕縛の件ですが、ケンジ様もお考えあっての事でございましょう。委細承知いたしました。只今を持ってケンジ・マツダ様にパインベイ領内での司法権を、ナオマサ・パインフラットの名においてお渡しいたします。しかしながら御身に危険が及ばぬよう、本日只今より騎士を護衛に付けさせていただきます。護衛の騎士は手足のようにお使いください」


襲撃者達の尋問と背後にいる首謀者の捕縛をする事を、領主本人に許可を貰えた。貰えたは良いがどこで尋問を行おうと思案していると、

「侵入者達は城内にある牢獄に繋ぎましょう。それとベナッタ・ゲイブ、領主の名に置いて、この度の襲撃事件に両ギルドの関係者が関与していた場合、事態解決の為に協力する事を要請する」

「「はっ!」」

ナオマサの要請に両ギルドのギルマスは返事を返す。侵入者達の捕縛場所も決まった。

襲撃事件の解決に向け、パインベイ内で力がある者達が動き始めた瞬間だった。


その後、侵入者達は騎士団に護送され城内の牢獄へと移された。

アンノン商店の従業員達と侵入者の亡骸は、町中にある騎士団の詰め所に安置されるらしい。

従業員の亡骸は夜が明けたら遺族に引き渡し、侵入者の亡骸は首謀者が捕縛されるまで埋葬せず、時間遅延の魔法をかけて証拠品として保管するとの事だ。

イッコーは明日以降に支店から人間を呼び寄せ、事業を再開する準備と店内の清掃を行い、営業再開の手筈を整えるらしい。

イッコーを心配するケンジによって、バッサは事態が落ち着くまでイッコーと行動を共にする事になった。バッサは「いや私はケンジ様と・・・」とか言っていたが…。

商業ギルドは所属する商店とイッコーの護衛をする為、暫くの間ギルドガードを派遣する事を決めた。

冒険者ギルドは要請されればギルドナイトを動かしてくれる事になった。

それに加え両ギルドマスターは個人的に今回の襲撃事件についての協力と、ケンジの今後の行動への協力を申し出て来た。

ナオマサは領主として町中の治安維持の強化と、事態収拾に向けての協力を申し出てきた。そしてケンジの配下となり、ケンジの行動を支えると宣言してきた。『いやいやアンタの上には国王が居るでしょう』とツッコミたい衝動を必死になって抑えたケンジだった。


そして騎士団からはビクトールと、ビクトール配下のフリックの2名がケンジの身辺警護として付き、必要に応じて部隊規模で増員する事で話が決まった。

最後に聖女バレリアだが、ケンジの「必要に応じてお力をお借りしたいので、お城に戻って・・・」の願いも虚しく、「私はケンジ様にお仕えするようご神託を受けておりますので、ケンジ様のお側でお仕えいたします」と頑として譲らず、ケンジと一緒に行動をする事となった。


色々と今後の話しが決まり、各自次の目的に向け解散していく。

ケンジは捕縛した侵入者達に尋問をする為、ナオマサと騎士団に護衛されながら城へと向かって行った。




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