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自重を捨てる

転移魔法を創造し発動させ、アンノン商店の1階に転移をした。

転移した1階は現代日本を生きていた者に耐えることの出来ない光景だった。

むせ返る血の臭い、僅かに残る薄暗い照明の明かり、悪意が渦巻いて危険な空間であることが不思議とわかった。

私は腰から銃を抜き、両手で構え壁側に移動をする。出来る限り死角を減らす為だ。

壁側に着き店の奥に向かって慎重に歩を進めていると、濡れた床の感触が靴越しに伝わってきた。

薄暗い中目を凝らすと、透明ではなく鉄臭い、かなりの量の液体が確認出来た。血液だ。

更に歩を進めると、商店の護衛の人がうつ伏せで倒れていた。

「大丈夫ですか?」ささやくように声を掛けるが反応がない。

生存確認の為仰向けにひっくり返すと、血まみれの顔に大きく見開いた眼と半ば切断された首が見えた。

これは確認するまでもなく、生きてはいないだろう。

まさかと思い周囲に意識を向けるが、生きた人間の気配を感じない。


これはイッコーさんの安全確保をするには、一刻の猶予もないと判断した私はこの事態が収束するまで一切自重を捨てることに決めた。

そうと決まれば早速『神眼』を発動させ、銃を構えたまま店の奥に向かう。

神眼を発動させた後の店内は昼間のように明るく見えた。点々と店の従業員が倒れているのが見える。

恐らく皆亡くなっているだろう。

冷静さを失わないよう、こみ上げる怒りを必死で抑えながら階段に向かって行く。

階段にたどり着いたその時『ドンッ!ドンッ!』と何かを叩いて破壊しようとする音が上階から聞こえてきた。


侵入者に気付かれないよう静かにステルスエントリーをしていたが、そんな余裕はもう無い。

音を立てながら威力的に制圧をするダイナミックエントリーに切り替えることにし、足音を気にせず階段を昇って行く。

神眼で明るくなった視界の中、階段上の2階部分に短剣を抜いた人間が確認できた。

私は短剣を持った人間の頭部に銃の狙いを定め、ためらうことなく引き金を引いた。


『ドンッ!』45口径が発する太く乾いた銃声が鳴り響くと同時に、短剣を持った侵入者が頭部から血液を巻き散らしながら膝から崩れ落ちた。

銃を構えたまま更に階段を昇っていく。昇っていると、2階から短剣を構えた人間が出て来た。撃ち倒した侵入者の仲間だろう。

私は胴体に狙いを定め、引き金を2度引く。ダブルタップと言われる射撃の仕方だ。確実に着弾させ、脅威排除率を上げる撃ち方だ。

2発とも胴体部分に着弾し、侵入者は倒れた。

倒れた瞬間、次の侵入者が出て来たので、こちらも胴体に2発撃ち込み沈黙させる。


階段を昇りながら弾倉を交換し、前方に銃口を向ける。

2階にたどり着きフロア部分に目を向けると、短剣を構えた二人がこちらの様子を伺っている。

「何見てんだ?」私は呟きながら、侵入者二人の胴体に2発づつ弾丸を撃ち込む。

そして頭部を撃った侵入者以外の顔に、1発づつ止めを撃ち込んだところで、銃のスライドがホールドオープンした。残弾がゼロになったようだ。


空になった弾倉を抜き落とし、新しい弾倉を入れてスライドを戻す。

そしてストレージから装填してある予備の弾倉を出して、空になったマガジンポーチに詰めた。

周囲を警戒しながらイッコーさんの私室に向かい、銃を構えたまま歩き始める。

2階の事務スペースには男女問わず、2階で働いていた人達の亡骸が転がっていた。


イッコーさんの私室がある通路にたどり着くと、10人ほどの侵入者がこちらを凝視していた。

侵入者は皆、血の着いた短剣を手に持ち、聞いたことのない銃声の後に急に現れた私をひたすら凝視している。

侵入者達は、戦闘の場面で1秒間の硬直=死に直結することがわかっていないようで短剣を構えたまま、私を凝視している。もしくは自分達が圧倒的優位に立っていると思い込んでいるのかのどちらかだろう。

侵入者との距離、およそ10m。動かない標的、侵入者に向かって私は射撃を開始した。


目の前にいる侵入者10人のうち7人の頭部を撃ち、7人目が倒れたと同時に弾倉を交換し、残った3人の両足を撃ち抜いていく。

再び弾倉を交換し、次は両足を撃たれた激痛で倒れ込む3人の両腕を撃ち抜く。


何も痛めつける為にこんな撃ち方をしている訳ではない。

制圧をして拘束をする余裕が無いので、死なない程度に残った3人の侵入者を無力化したのだ。

残した侵入者には色々と情報を吐いてもらわなければならない。

「ならば一人で十分だろう」と、どこからか聞こえて来る気がするが、情報の確度を上げる為に複数人に情報を吐いてもらうことが好ましい。更に偶数名より奇数名の方が整合性が取りやすい。


おっと脱線してしまったようだ。

静かになった2階で、私は銃の弾倉を交換し、先に頭部を撃った7人の胴体心臓部分に1発づつ45口径をプレゼントしてから、残った3人に声を掛けた。

「階段の所で5人のお仲間を始末した。ここには10人いたが他にも仲間はいるか?」

「・・・・・・・・・・・」

侵入者は何も言わない。


ならば吐かせてやろう。

銃をホルスターにしまい、カランビットナイフを取り出し展開させる。

一番近くにいた侵入者の足に出来た銃創を踏みつけながら、カランビットの切っ先で頬を切り裂いてから、切っ先を眼球に突きつけながらもう一度声を掛ける。

「他にも仲間はいるのか?これで全部か?」

「他にはいない!これで全部だ!」

「増援は来るか?」

「これで全部だ!」

頬を切り裂かれた侵入者は心が折れたようで、激痛に耐えながら叫んだ。

ストレージから予備の弾倉を出し、銃とマガジンポーチに補充をしてから再び銃を構えた。



ーーアンノン商店の外ーー

たまに悲鳴の聞こえる以外は静かだった店内から、何かが爆ぜるような音が断続的に聞こえてくる。

まさか依頼を失敗したのでないか?と不安に駆られるも、確認するには店内に入らなければならない。

万が一、誰かに自分の姿を目撃されたりでもしたら色々と困ることになる。

それでも依頼を達成したことが気になってしょうがない。

我慢をすることができない、派手な恰好の男は隠れていた建物の陰から通りに出ようとする。

通りに身を出したその時、後方から武装をした集団が走って来た。

見覚えがある。商業ギルドの護衛兼ギルドの秩序を護る者達、泣く子も黙る『ギルドガード』だ。

ギルドガードの後方には商業ギルドのギルドマスター『ベナッタ』もいる。

「いかん!」急いで身を隠そうとするも、派手な格好が目を引いてしまったのか、複数のギルドガードと目が合ってしまった。

それでもと派手な恰好の男は物陰に隠れ、往生際悪くアンノン商店を眺めていた。



ーーアンノン商店2階ーー

取り敢えず脅威は去ったようだが油断は出来ない。

「イッコーさんケンジです!ご無事ですか?」

銃を構え、周囲と残した侵入者に注意を払いつつ、扉に向かって声を掛ける。

「おお!ケンジさんか!ワシとバッサは無事だ!外はどうなったか?」

「部屋の外は制圧しました。侵入者15人中、12人を殺害、情報を吐かせる為3人を無力化してあります。合流できますか?」


ガラガラと何かを崩す音とともにイッコーさんから返事が来る。

「今、扉を開ける準備をしているので暫し待たれよ。ケンジさん、従業員たちは無事であったか?」

「従業員の皆さんは・・・・・・」

私が言い淀んでいると、部屋の中から「そうか…」とだけ聞こえて来た。


そんなやり取りをしていると、イッコーさんの私室の扉がゆっくりと開いた。

扉が開いたのと同時に階下から大きな声が聞こえてきた。

『突撃ーー!!!』

夜はまだまだ開けないようだ。



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