牙を剥く悪意
ーーアンノン商店1階ーー
押し入って来た謎の武装集団は15名、訓練をされた手練れの集団だった。
店の玄関扉を破壊し突入をして来た直後、両壁側と中央の3隊に分かれ進行を開始した。
謎の武装集団に課せられた任務は、
1・アンノン商店所属の『ケンジ』なる人物の殺害
2・アンノン商店オーナー『イッコー』の殺害
3・任務遂行中に障害となる人物の無力化
4・残忍かつ凄惨に殺害し、アンノン商店が襲われ失墜したと周囲に思わせる
上から優先順位が高く、特に1と2は必達を厳命されている。
比較的設置された照明が多い両壁側の2隊が、照明の破壊と陽動をする為に先行し、少し遅れて中央の1隊が店の奥に向かって進んで行く。
両壁側を進む2隊は陽動と照明の破壊をしながら歩を進めて行く。
照明を破壊し、物音を立てながら進む2隊に店の護衛が二手に分かれ向かって行く。
しかし急な事態に冷静さを欠いた護衛は一人、また一人と倒されていった。
残忍な武装集団は確実に殺害する為、相手を切り伏せたり突き崩した後、頸部動脈と器官を切り裂き脅威対象を確実に無力化した。
中央を進む1隊は、目論見通り両壁側に護衛が陽動されたので、脅威対象が居ない中央部分を店の奥に向かって進んで行った。
途中店員が何名か居たが、全て殺害して進んで行く。
そして店の奥、目標の居る上階へと繋がる階段の前で一度立ち止まり、周囲の警戒をしながら装備の点検を行う。
装備の点検をしていると両壁側を進んでいた2隊が合流してきた。欠員はゼロだ。
合流して2隊も速やかに装備の点検を行い、点検を終えると武装集団15名は2階へと進んで行った。
ーーアンノン商店2階ーー
2階へと上がってきた15名は階段に警戒要員を5名配置し、2階の探索を開始する。
事前に入手した情報では、アンノン商店幹部は2階に個室を与えられると聞いている。
2階の奥に幹部の個室があるそうなので、奥に向かって進んで行く。
2階は事務のスペースになっているようで事務に係る人間が十数名居たが、背後を取られたり騒がれても面倒なので無力化していく。
お気づきかもしれないが、武装集団の無力化とは=殺害だ。
そして個室のあるエリアにたどり着いたので、二手に分かれ手前の部屋から一部屋づつ室内を確認し、目標の確認と、危険を残さないようクリアリングしていく。
一部屋、また一部屋と制圧をしていき、最後に残った最奥にある豪華な扉の部屋の前に侵入者10名は集った。
扉を開けようとノブを回すが、押しても引いても扉が開かない。
扉が開かないので、扉を蹴ったり体当たりしても扉は開かないし、壊れる様子もない。
重要目標が中に居るのを確信した武装集団は、この扉を破壊すことに決めた。
『アンノン商店はイッコー様の才覚で成長した商店だ。例え箱や中身が無くなろうとも、イッコー様を守り抜けば商店は存在し続けらる。ならばイッコー様をお守りするのみ!だがこの町1番の我が商店に押し入ってくる輩はどこのどいつだ?』扉の前に家具を積み上げながらバッサはそう考えていた。
商売をしていれば大なり小なり恨みは買う。
それは商店、商売人としては避けて通れない道だともイッコーもバッサも理解はしている。
してはいるが誰がこのような真似をしたのかが気になってしょうがないのも事実である。
家具を積み上げ終わったバッサは、腰からナイフを抜きイッコーの方に顔を向けた。
「何かが破壊される音と、階下と2階から聞こえていた悲鳴…。恐らく怪我人が出ているでしょう。ですがこの命に代えてもイッコー様をお守りするので、部屋の奥に隠れていてください」
「何を言うバッサよ。ワシも戦うぞ!バッサも我が商店の大事な従業員じゃ。オーナーとして守るのは当然!それになバッサが家具を積み上げ始めた時に、商用ギルドと冒険者ギルド、パインフラット家とケンジさんに伝書鳥で『商店が襲われている』と文を出した。ぼちぼち文を読んだ誰かが助けに参るであろう。だから諦めずに戦うぞ」
「わかりました。でもギリギリまで私が引き受けますので、お声がけするまでは奥にいてください」
バッサの言葉に頷いて答えたイッコーは部屋の奥に移動した。
その直後『ガチャガチャ』と扉のノブを回す音が聞こえて来た。
しかしバッサは家具を積み上げる前にドアを施錠していた。だから簡単には開けることは出来ないはずだ。
万が一鍵が開いたとしても、扉の裏には家具が積み上げてある。
万が一・億が一侵入者が現れても簡単に扉が破られないよう、扉は部屋内に開くよう建付けてある。だから扉を開くには扉の重さと積み上げた家具の重量を、まとめて動かすだけの力が必要となる。
しかも扉の素材は、魔力の込められた木材『魔木材』製だ。非常に強度の高い木材で造った扉は簡単には破壊されないだろう。
だがこれ以上の油断は命取りになると判断したバッサは、ナイフを握りしめ扉を睨みつけていた。
ーー商業ギルド・少し前ーー
「ベナッタ様!アンノン商店から『何者かに襲撃されている』と伝書鳥で文が届きました。いかがされますか」
「なんですって!ギルドガードの半数20名を大至急アンノン商店に向かわせない!私も向かいます!」
商業ギルドのギルドマスター『ベナッタ』はアンノン商店とイッコーを守る為、商業ギルドのギルドガードを出撃させるよう命令を出した。
アンノン商店は町1番の商店で、周囲に及ぼす影響も大きい。アンノン商店に何かがあればこの町の経済は間違いなく停滞する。それは商業ギルドのギルドマスターとして避けなければならない。
それ以上に、親交のあるイッコーを守りたい気持ちもある。
ベナッタは色々考えながら、日頃装備をすることのない長剣を腰に差し、ギルド前に集合しているギルドガードの元へ向かった。
ーー冒険者ギルド・少し前ーー
『コン、コン、コンッ』ノックの音が響き渡る。
「失礼します。ゲイブ様、アンノン商店から伝書鳥で文が来ております。」
「こんな時間に何事ですかね。用があるなら、伝書鳥ではなく使いの者を寄越せば良いのに、なんでしょうかね?」
ゲイブはギルド職員から、まだ中身を確認していない伝書鳥の文を受け取りながら呟いた。
受け取った分を開き、中身を読むとゲイブの表情が一変する。
「アンノン商店が襲撃されているようです。アンノン商店にはイッコー殿やケンジさんもいる所に襲撃ですか…。ギルドの依頼外で冒険者を動かす訳にいきませんし、対人戦闘ができるランクの人間を集める時間もないので、私一人でアンノン商店に向かいます。深夜になっても私が戻らなければ、様子を確認する為にギルドから職員を、アンノン商店に寄越してください。それは私からの個人依頼として出しておきますので、受注処理と人選をお願いします。それでは行ってきます」
ゲイブはギルドの職員にそう告げると、2階ギルマス室の窓から通りに飛び降りた。
着地したゲイブは、全身に気を張り巡らせ、凄まじい速さでアンノン商店に駆け出した。
ーーケンジの家・少し前ーー
今夜の食事はオークのステーキとサラダ、スープだ。パンは籠に盛ってある。
「いただきます」と手を合わせ、ナイフとフォークに手を伸ばした瞬間、「大変です!大変です!」と叫びながら、メイドのナツが食堂に駆けこんできた。
「何事ですか!ケンジ様がお食事中ですよ!」ミランダはナツに怒っている。
ナツはミランダに何かが書かれた紙を渡した。紙を受け取り読んだミランダは、蒼褪めた顔で私にそれを渡してきた。
受け取った紙を読んだ私は、その紙を握り潰し立ち上がった。
「ミランダさん、ナツさん、ちょっとアンノン商店に行ってきます。こんなお願いして申し訳ないですけど、ゼンさんに『せっかく作ってくれた、食事を食べられなくてごめんなさい』って伝えてもらえますか。それと私が戻るまで全館戸締りを徹底してくださいね。では行ってきます」
私は玄関を出て歩き始めた。後ろでは「「行ってらっしゃいませ」」とメイド二人が見送りをしている。
歩きながら頭の中で『転移魔法創造。目的地アンノン商店1階フロア』と念じた。
『転移魔法を創造しました』と頭の中に響いた瞬間、景色が変わった。




