引継ぎ
退任を勧告され、役所で必要な書類を取得し、本社に提出してから会社に戻った。
これが最後の出社になると思うと、色々込み上げてくる物がある。
入社してから現在に至るまでの日々、起業してからの色々な苦労、そして今日のこと。
色々な感情が込み上げてくると共に、胃からも込み上げてくる。
込み上げてくる物を耐えつつ引き継ぎの準備をしてしまう。
金融機関関係、書類関係、データ関係、日頃からまとめていたことが幸い?し、スムーズに準備が進んでいく。
そして私物をまとめて、引き継ぎ要員の到着を待つ。
到着を待ちつつタバコに火をつけ、深く吸い込む。恐らくこの会社で最後に吸うタバコになるだろう。
今思えば、用意周到な退任勧告だった。
株主である本社社長以外の役員が一言も発することのない株主総会だった。
急なことで、色々追われていた先程までとは違い、冷静さを取り戻した私の頭の中で一つの言葉がグルグル回り始める。
「仕組まれた」と…。
最近の本社の動き、金融機関からの何かを伺うような電話、急に態度の変わった会計士、久しく連絡をしていなかった司法書士からの雑談電話。
全てが繋がっていく。
何も知らずに日々に追われていたのは自分だけだったようだ。
色々込み上げてくる物に怒りが加わりながらも引き継ぎの時間がきた。
なんと引き継ぎに現れたのは本社社長だった。
淡々と引き継ぎを行い、滞りなく引き継ぎは完了した。
そして帰り間際に社長から爆弾発言をされた。
「デルクイックは私が社長になります。そして、新しい案件は全て本社の業務として吸収します。最後に事情を知らない社内の方や外部の方には健康上の理由で退くと言ってください。本日までご苦労様でした。」
と言われ、見えていなかった物が全て見えてきた。
以前からデルクイックの商品と商標を本社に動かせないかと打診されていた。
もちろん断っていたのだが、先日首都圏で開催されて大規模商談会で自社の商品が大好評で、複数の新規契約と大量の定期取引を獲得した。
それに伴い、本社に大量の原料を発注していた。
調達数量が大きいので、本社社長から確認の電話があり、その時に新規契約と大ロット定期取引の話をした。
おそらくこの件が本社社長の欲望トリガーを引くことになったのだろう。
急な退任劇、新規案件と基幹事業の吸収、全てが仕組まれていたと確信するも全てが手遅れだった。
今更どうすることもできず、不甲斐ない自分についてきてくれた社員に、今までのお礼と今回の結末の謝罪をし、会社を去った。
明日から無職、明日から何をしよう?
現実を受け入れる覚悟が出来ていないまま車を走らせ、繁華街にある有料パーキングに停める。
「今日くらい飲んでもいいだろう。」
そう思い、ビジネスホテルを一室とり、食事を取りに出かける。
ある意味記念日となる本日の食事は男記念日の定番の焼肉だった。
食事のあとは何軒か飲み歩く。自分ではあり得ない深酒をし、なんとかホテルに戻りベッド上に倒れた。
そして眠りについた。
ノンフィクションのにほひがプンプンしていますね。