通話~創造~迫りくる悪意
知らないフリーダイヤルや、見たことのない国番号から掛かってくる電話を出るのをためらったことはないですか?
今の気分はそんな気分です。
しかし通話をタップしてしまったので、通話をしようと思います。
「はい、マツダです」
『もしもし!ワシワシ!ワシだよワシ!… !! …プーップーップーッ』
いかん。オレオレ詐欺かと思って反射的に切ってしまった。
その直後再び着信が来た。
「はい、マツダです」
『もしもし、急に切るのはちと酷くないか?』
「申し訳ありません。新手のオレオレ詐欺かと思いまして、反射的に切ってしまいました。失礼ですがどちら様でしょうか?」
『ワシか?ワシはゼウス。全知全能の神と言えば伝わるかな。地球でも知られていたと思うが。ケンジの国で流行っていた電話の掛け方を真似てみただけじゃ」
「ご高名、存じ上げております。初めまして、私マツダ ケンジと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
『いやな。地球で色々な経験を積んだうえで、何かを成し遂げたいと強く想っている人間を探していたら、たまたまお主を見つけての。それでこの世界に連れて来させてもらった。この世界はな、一部が地球と並行しておる。だから地球人のお主にこの世界を発展させてもらおうと思ってこの世界に連れて来た次第じゃ』
どうも通話の相手は全知全能の神のようだ。そして私は偶然目に留まりこの世界へと来ることになったようだ。通話は続く。
『不便をさせないよう創造のスキルを与えたが、偶然にも治癒魔法を発現させおったからの。その治癒魔法がそちらの世界線では聖女しか持てない魔法での。男性じゃったら使徒か神族にしか発現しない魔法じゃ。そこでワシはお前を神族に進化をさせた訳じゃ。使徒では手に余ることもあるでの、だから下級とはいえ神にした訳じゃ。お主が何をしているのか気になって下界を確認したら偶然にもステータスを確認して凄い顔をしておったからの、良いタイミングと思い電話をした訳じゃ』
「そうだったのですね。具体的に私は何をすればよいのでしょうか?」
『うむ、その世界を発展させてもらいたい。地球の近代的な物質文明のようにではなく、その世界線に合わせた発展のしかたでの。発展を成し遂げる最中に色々と障害もあるじゃろう。物質的な障害は工夫と創造スキルで何とかなるじゃろう。しかし人間の心はどうにもならん。どの世界にも悪しき心を持つ者がおる。悪しき者を断罪するにはその世界の人間に裁くことの出来ない者でなければならんからな、人心を掌握しながら発展を進める為には、人間である使徒ではなく神である神族にした方が何かと都合が良いであろう。本日をもってお主は全知全能神ゼウスの代行神になることを命ずる」
「拒否権は『無い!』無さそうですね。承知いたしました。そのお役目、謹んで拝命させていただきます」
あれよあれよとゼウスの代行に任じられてしまった。
この世界の発展と悪しき者の断罪が主な任務らしい。
『信のおける国主や法主にはお主のことを神託で伝えておくからの。真贋を問われたら神眼を発動させるのじゃ。……神族は神眼を発動すると眼が金色に輝くからそれが証明になるじゃろう。困ったことがあればお主のスマホに《ゼウス》と連絡先を作っておいたから連絡を入れてくるのじゃ。あと定期的に進捗の報告も入れるのを忘れぬようにの。それよりもお主はノリが悪いの。何故にツッコミを入れぬ!先ほどワシが星が爆ぜる程のギャグを飛ばしたであろう』
気付かないフリをして敢えて拾わずスルーをしていたのだが、どうもこの御方は欲しがり屋さんのようだ。《真贋と神眼》をかけて飛ばされても星が爆ぜることはない!逆に極大氷河期が訪れて星が縮まると思う!
「恐れ多くも全知全能神で在らせられるゼウス様にツッコミを入れるような失礼な真似を、私のような者には出来ません。平にご容赦いただけますよう」
『構わん!遠慮なく突っ込むがよい!只今よりお主にはワシに対しての無礼講とツッコミ御免を許す。これからは遠慮なくツッコミを入れるがよい!』
「はっ!精進いたします!」
『ノリが良いの。ワシも研鑽しておくでの。それではその世界を頼んだ』
言いたいことを言い終わったゼウスが電話を切り、
通話が終わった。短時間の通話だったが内容の濃い通話だった。
神の代行となり世界を発展させ悪しき者達を断罪する。これが私に課せられたミッションのようだ。
が、実際はツッコミ要員がメインではないかと思ってしまう。
発展と断罪の為に神族に進化させられたことよりも、ツッコミを入れる為に無礼講とツッコミ御免を許された方が、進化よりも特別な気がする。
どちらにしても厄介な爺さんだった。
まっ、暫くはイッコーさんのビジネスを手伝いながら人間としての生活を楽しませてもらおう。
厄介な電話が終わったので、次はお待ちかねの武器や防具を創造しようと思う。
まずは武器からだ。
携帯性に優れ、どのレンジの戦闘にも対応が可能な武器と言えば拳銃。
その中でもストッピングパワーに優れていて薄くて携帯しやすい銃、M1911通称ガバと45口径弾薬、予備の弾倉20本、カイデックスのホルスターとマグポーチを創造する。
頭の中に思い描き、念じるとソファーの前にあるローテーブルが光り、ガバ一式が現れた。
銃から弾倉を抜き出し、弾倉に弾薬を装填する。弾倉を入れる前にスライドを引き薬室に弾薬を1発入れてからスライドを戻し、セフティーを掛けてから弾倉を入れた。
これで8発撃てる。ガバは弾倉の装弾数7発だが、薬室に1発装填しておけば8発撃てる。
腰の右横にホルスターを着け装填の終えた銃を収める。
腰の左前にマグポーチを着け装填の終えた弾倉を収める。
次は刃物だ。
イッコーさんに貰ったナイフは大きすぎる為、フォールディングタイプのカランビットナイフを創造する。刃渡り12㎝グリップ長15㎝の携帯性に優れたサイズの物だ。
こちらも思い描き念ずるとテーブルの上に現れた。
専用のポーチが付いていたので、腰の右前に装着する。
武器はこんな物で良いだろう。
次は防具だ。
イッコーさんとのビジネスもあるから防具は3ピースのスーツに防刃、防弾、防炎、防水、防汚、対刺突、耐熱、耐寒を付与した物を創造する。
創造したスーツに早速着替えてみた。
高級感が半端なく、元々着ていたスーツよりも遥かに高く見える。
併せて靴もスーツ同様の機能を付与した革靴を創造した。
ついでに普段着と部屋着も創造しておいた。
装備を付け直し、明日以降のことを考えているとドアがノックされた。
「どうぞ」と言うとメイドのミランダが入ってきた。
ミランダは驚いた表情で私の姿を見ている。そして興奮しつつ声を掛けてきた。
「素晴らしいお召し物ですね、見ただけで極上の生地と丁寧な縫製だとわかりますわ。このような素晴らしいお召し物、見たことがございません」
と、服を褒めちぎりウットリした表情で服を眺めている。
私は「何かご用件があったのでは?」とミランダに声をかけた。
食事の準備が整ったと声を掛けにきたら、スーツが余りにも上質で見とれてしまったらしい。
やはり世界は違っても女性は綺麗な物が好きなようだ。
私はミランダに先導され食堂に向かった。
ーーアンノン商店ーー
閉店したアンノン商店の2階にある、イッコーの私室でイッコーとバッサが向かい合い話をしている。
「本日、あの後にケンジ様の冒険者登録が無事完了いたしました。また、ケンジ様の明日の予定をお教えいただけますか」
「明日はケンジさんには町を知る為に散策をしてもらおうと思っておる。商いを行う土地を知らなければいかんであろう。明日もケンジさんに帯同を頼むぞ。それと冒険者登録も無事に終わって良かった。商業ギルドのような問題は起きなかったか?」
「冒険者に絡まれたりはなかったですが、ゲイブ様が直々に登録試験の模擬戦の相手をされました」
「ほう、ゲイブ殿が直々にか。ケンジさんも流石に相手が悪かったの」
イッコーはバッサに色々と報告を受け冒険者ギルドの件を聞き、ケンジの模擬戦闘の相手がゲイブだったことを聞き残念そうな表情を浮かべた。
「それがですね……残念だったのはゲイブ様で、ケンジ様に一撃で気絶させられておりました。その実力を加味して特例でAランク冒険者として登録をされました」
「なんと!ゲイブ殿に勝ったと申すか!しかもAランク冒険者とな!いやいやケンジさんには色々と驚かされるw」
『ドンッ!』
イッコーとバッサが二人で顔を見合わせ楽しそうに笑っていると、下の階から何かが破壊される音がした。
その直後、悲鳴と共にかなりの数の足音、金属が触れ合う音が聞こえてきた。
何者かが押し入ってきたようだ。
イッコーの安全を確保する為、バッサは咄嗟にイッコーの私室の扉に鍵をかけ、扉の前に家具を積み上げバリケードを築いた。
階下は商店の護衛がいるので大丈夫だろうと考え、イッコーを守ることに専念する。
一方イッコーは伝書鳥に『アンノン商店襲撃サレシ、犯人ハ不明』と書いた紙を付け、各所に放った。
アンノン商店を確認できる近くの建物の影から、派手に着飾った太った男は憎しみを込めた表情で、悲鳴や何かが壊れる音のするアンノン商店の入り口を注視している。
「・・・せ・・わせ・・・なごろ・・にしろ・・・・」
町の中はアンノン商店に何かが起きているのではと騒然としている。
何かを呟き続けている男なんて誰も気に留めない。
騒然としている町の人達も、アンノン商店の入り口を注視している男も店の2階から飛び立った伝書鳥に気付いていなかった。