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冒険者ギルド

「収納スキルをお持ちであれば、我が商店の物流にも助力いただけると助かる。もちろん強制はしない。ケンジさんが動ける時やこちらからどうしても頼みたい時にお願いしたい。報酬は出すので頭の片隅にでも留め置いていただきたい」

「それは構いませんが、収納アイテムはお持ちでないですか?」

「スキルをお持ちだから正直に答えるが、1000㎏くらい入る収納アイテムは所持しておる。だがそれだけでは出来ない商いもあるし、奪われてしまえば収納アイテムも中身も簒奪者の物になる。その点スキルであればスキル所持者しか出し入れができないので奪いようがないし襲われることもない。スキル所持を知られていなければだが」


やはり収納アイテムを所持しているようだ。そして商人として収納スキルに価値を見出し、仕事を依頼したいとも伝えてきた。

右も左もわからない世界で、出会って間もないのに色々と助けてもらっている以上、断ることは失礼にあたると思ったので、収納スキルを活用した依頼はできる範囲で受けようと思う。


1依頼あたりの報酬は、運ぶもの・運ぶ量・拘束日数を加味して決めることになったが、1依頼あたり月間報酬の40万Gを下回ることはないと言われた。なんとか暮らしていけそうだ。


その後雑談をし、その日はお開きとなった。


まだ日が高いのでバッサに場所を聞いて、散策がてら冒険者ギルドに行って登録をしてしまうことにした。

が、バッサは場所を教えはくれず、案内してくれることになった。

曰く、今後は私の護衛兼付き人になるらしい。


道中は町の風景や、立ち並ぶ露店を見ながらだったので退屈はしなかった。

露店は食品が一番多く、続いて生活雑貨や中には小動物を販売しているところもあった。

食品は『肉の串焼き』や『肉と野菜のスープ』など簡単に食べることのできる物や、肉や魚、野菜などの食材が並んでいた。

肉の串焼きを2本買い、バッサと食べながら冒険者ギルドに向かった。ちなみに串焼きは1本300Gとリーズナブルな価格だった。

味付けは塩のみだが、脂が甘く程よい歯ごたえで美味しく食べることができた。


私達二人は冒険者ギルドに到着し、ギルドの中に入る。

冒険者ギルドは石とレンガで造られた、いかにも『冒険者ギルド』って見た目の3階建ての建物で、入り口は真新しい木製の扉がついている。

なんでも扉が新しいのは、荒くれ者の冒険者が暴れて壊すから、その都度新品に変わるらしい。

しかも壊した人が責任を持って弁償しなければならないと…期待を裏切らない背景でちょっと安心する。


ギルドの中は奥にカウンターが並び、手前の広間の大きな壁には所狭しと依頼書が貼られている。

広間に隣接する、広間と柵で区切られたスペースは酒場のようで、依頼から戻った冒険者達の憩いのスペースらしい。

今の時間は全体的に閑散としており、夕方以降に人が増えるそうだ。


バッサからそんな説明を聞きながら受付に行く。

「本日はどのようなご用件ですか?」

そこそこ可愛い受付嬢に聞かれた私は、新規登録と伝える。

ここでも商業ギルドと同じくバッサが「アンノン商店の関係者で、アンノン商店の幹部の方です」と言葉を添えてきた。

その言葉を聞き、「少々お待ちください」と言葉を残し、受付嬢は階段を昇っていき、待つこと数分、温厚そうな雰囲気の中年男性と一緒に戻ってきた。


「初めまして。当冒険者ギルドでギルドマスターをしておりますゲイブと申します。アンノンさんの幹部の方ということですが、お見掛けしないかたですね。いやバッサ殿が一緒に居られるので疑ってはいませんが、新しく幹部になられた方ですか?」

「初めまして。ケンジと申します。イッコーさんにお世話になりまして、その流れでアンノン商店にもお世話になることとなりました」

「ふむ…成程。イッコー殿を『イッコーさん』と呼べるほどの関係性のようですね。幹部どころか身内でないとできないことですね。それに身に纏う雰囲気が一介の武人であると伝えてくる。これは私が試験を務めさせてもらいましょう」


温厚そうな雰囲気の男性は冒険者ギルドのギルドマスターのゲイブさんで、登録試験を直にしてくれるそうだ。

ゲイブさんと受付嬢に案内され、ギルドの奥にある練習場に連れていかれる。

練習場は刃〇に出てくる地下闘技場のような円形の練習スペースが中央にあり、低い木の柵が円形を囲うように設置されている。

下は砂地だが、爪や歯は落ちていない。


練習スペースに案内され、試験の説明を受ける。

『模擬戦闘』のみ。運動能力テストも本来ならするのだが、ギルドマスターと模擬戦闘を行う=運動能力と戦闘能力がそこそこないとダメらしいので、今回は模擬戦闘だけでOKらしい。


「この練習場は特殊な結界が張ってあり、装備が壊れたり、命を落とすこともありません。ですからお好きな武器で思う存分戦ってください」

なんとも物騒なことを言ってこられたが、命の心配がないなら安心だ。

お好きな武器と言われても先ほど貰ったダガーナイフしか装備していない。

見たところゲイブさんは武器を持っている様子がないし、強者のオーラが伝わってくる。

それならば使ったことのないナイフを使ってナイフ格闘をするより、今まで研鑽してきた武術で戦う方が良さそうだ。


私はスーツのジャケットを脱ぎバッサに手渡す。

受け取ったバッサと受付嬢が練習スペースから出ていったのが確認できたので、ゲイブさんに一礼をしてから気を解放した。


気の解放…龍玉Zで野菜人の人達がしている、周囲が吹き飛ぶ『ドンッ』って感じの気の解放ではなく、

古流武術独特の息吹で丹田に集めた気を、全身に行き渡らせて戦闘態勢に移行させる為のアレだ。

不思議な物で、気を解放させると五感が研ぎ澄まされ周囲の見え方と感じ方が変わり、身体能力も向上するように感じる。


私の戦闘態勢は整った。


向かい合ったケイブさんは私の気を感じたようで、温厚そうなだった表情が闘う物の顔へと一変した。

「始め!!」

受付嬢の始めの合図で試験が始まる。


ゲイブさんは左半身を前にして両拳を顎の高さに上げて構えている。一方私は正対したまま構えを取らないように見える無手の構え。

ゲイブさんは私の間合いを知る為に構えたままにじり寄って来る。

誘いには乗らず無手の構えのままその場を動かない。


誘いをかけているのか、こちらが余裕そうに見えたのが癇に障ったのかは知らないが、左のストレートが顎を目掛けて襲ってきた。

私は少しだけ右に動き、左拳の外側へと身をかわしつつ相手の反応を見る為に攻勢には転じず相手の動きを見る。

空ぶった左ストレートの返す拳で裏拳が襲ってきたが、相手の肘に軽く圧拳を当て支点を殺しつつ後ろに下がる。ゲイブさんはなかなか出来るようだ。

ストレートを空ぶってお留守になった左半身を、さらなる攻撃で守ってきた。

しかし外側の死角に移られ返す拳も制されたゲイブさんの表情と身に纏う空気が変わった。


本気になったようだ。


『あまり長引かせるべきではない』そう判断した私は、さらに空気が一変したゲイブさんに呼応するよう闘気を解放した。

~闘気の解放ってなんぞや?私が手ほどきを受けた〇〇衆の武術において闘気の解放とは『攻撃する意思と己の気配を強く思い念ずること』だ。それによって相手に自分の存在を強く認識させ、時には畏怖させることができる。また強く思い念ずることでその効果は飛躍的に上がる。これについては自己暗示に近い物ではないかと思っている。因みに隠密や暗殺の時は『』の中身と逆のことをし、気配を消せば良いと教わった~

私の闘気の影響かは知らないが、ゲイブさんの表情が凄まじい勢いで蒼褪めていく。


闘気を解放した私は、相手が迎撃態勢を整える前に終わらせる為、地面を滑るように間合いを詰め、腕を放り投げるように右手の親指と人差し指の股の部分で相手の喉ぼとけの上のあたりに、顎を持ち上げるような当身を放つ。

当身が当たり肉の柔らかさを感じた瞬間、右手を引く。


次の瞬間、白目を剥いて膝から崩れるゲイブさんがいた。


圧勝だ。

あまりにもあっけなく勝ててしまったが圧勝だ。


試験の判定を確認する為ゲイブさんを見るが気絶している。

おいおい、あんたギルドマスターでしょ。

気絶した人に判定は無理だと思い、開始の合図を出した言わば審判のような立ち位置だと思われる柵外の受付嬢を見ると…………



気絶している。

その横にいるバッサは真っ蒼になってこちらを見ている。


どうしたら良いのだろう…

勝ったのにどうしたら良いのかわからない私だった。



〇〇衆の武術・・・〇の部分は諸事情により伏せます。

が、歴史に精通されている方なら特定は困難でも、ある程度の絞り込みは出来るのではないでしょうか。

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