実食!!
微妙な空気のまま、食事をする店に到着した。
店の構えは、郊外にあるお洒落な隠れ家的レストラン。そんな感じだ。
ウエイトレスに案内され、店の奥にある個室に通される。
案内された部屋は、落ち着いた雰囲気の室内に大きな窓から庭が見える部屋だ、
テーブルも椅子も質素だけど隙がない、高級感がある。
なんと窓にはガラスが嵌まっている。時代的には無色透明な板ガラスがあると思わなかった。
自分の中での中世ヨーロッパ程度の文明レベルだったイメージがどんどん崩れていく。
もちろん、良い意味でだ。
そして何より驚いたのは、部屋に厨房が付いている。
VIPが動画サイトで配信している、特別な部屋と同じ感じだろう。
「ギルド証は無事に作れましたかな?」
席に着くと、商業ギルドのギルド証発行について気にかけてくれた。
「あのような素晴らしい住居を用意していただいき、ありがとうございます。おかげ様で商業ギルドで無事にギルド証を作ることもできました」
そう言いながら胸元のギルド証を見せた。
イッコーさんは満足そうに肯き、昼食の話を切り出してきた。
「ここは私がオーナーをしている店でしてな。この町、いやこの国で一番の料理人が料理長をしているので作れない物はないと思っておる。朝食の時申しておられた『ドレッシング』を作っていただけるか。料理長に説明して作らせてもよし、ケンジさんが作られてもよし、この町に新たな食文化をもたらして欲しいと思っておる」
イッコーさんの話に合わせて、厨房から会釈をしてきた男性がいる。
彼が料理長だろう。
「最初に私がサラダに合う簡単な物を2種類作ろうと思います。それを皆さんに召し上がっていただいてから、料理長さんにアレンジしていただければ、美味しいものができると思います。いかがでしょう?」
「それは良い!私も料理長も昼から終日予定を空けてある。色々と紹介していただけると嬉しいが、色々な物を食べさせてもらえるか?」
「それならば材料を見て、料理長にご協力いただき色々と作ってみましょう」
私が答えるとイッコーさんは嬉しそうな笑顔で肯いた。
「それでは材料を見せてもらえますか?」
「承知いたしました」
私が言うと、気持ちのよい返事が返ってきた。
食材を見せてもらうと、肉類・魚介類・野菜・果物・卵・牛乳・各種調味料、日本の料理店と変わらない。
これならば…と思い、何種類か作って見ることにした。
イッコーさんとバッサに「暫く待ってくれ」と伝え、前菜・スープ・魚・氷菓・肉・デザートの簡単なコースを提供しようと思う。
前菜・角切り野菜をスモークサーモンのような物で包んだ物
スープ・料理長が作っていたコンソメみたいなスープ
魚・鯛みたいな白身魚のポワレ
氷菓・リンゴっぽい果実のソルベ
肉・牛?ヒレ肉のステーキ
デザート・なんちゃってクリームブリュレ
まずは前菜からだ。
燻した香りがプンプン香ってくるサーモンを見つけた。そのまま食べられるか確認したら、そのまま食べるのが一番美味しいと答えがきた。
きゅうり、トマト、玉ねぎを角切りにし、ドレッシングで和えた物をスモークサーモンで包む。
ドレッシングはオリーブオイル、ワインビネガーのような酢、塩、コショウ、少量の水を混ぜ合わせ乳化させたドレッシングで野菜を和えた。
これをスモークサーモンで包んだ。
味変用にマヨネーズも作ってみた。この世界には魔法があって、なんと殺菌消毒用の魔法が存在している。卵を殺菌消毒し、マヨネーズを作って添えてみた。
盛り付けてから、イッコーさんとバッサに出す。
料理長と私は厨房で立ち飯だ。
それでは、いざ実食!!
テーブルの方からは「んん~」とか「なんだこれは!」とか「うまい」とか色々な声が聞こえてくる。
テーブルの二人は美味しく食べているようだ。
一方、厨房の料理長は分析するように味わって食べている。食べ終わると目を見開き私を見ている。
いや、目力強すぎるから。
次にスープを注いで出してもらう。
スープを味わってもらっている間に魚料理に着手する。
魚料理
鯛みたいな白身魚をポワレにする。
オリーブオイルとみじん切りのニンニクをフライパンで温め、香りが立ってきたら刻んだキャベツ、芋、キノコを軽く炒める。
その上に塩胡椒をした白身魚を乗せ、白ワインを回しかけ蓋をし、魚に火が通るまで優しく蒸らしながら煮込む。
出来上がった物を盛り付け、テーブルの二人へ出し、厨房二人も食べる。
はい、リアクションは前菜と同じでした。ただ、料理長の目力が増したような気がします。
氷菓
すりおろしたリンゴと赤ワインを混ぜ、レモンのような柑橘を搾りかけてから、冷たく冷やす魔法をかけてもらいながらシャーベット状になるまで攪拌し、盛り付けて出した。
リアクションは省略します。
肉料理
牛肉みたいな肉のヒレがあったのでステーキにした。
殺菌消毒の魔法をかけてもらい、塩胡椒をしたヒレ肉をレアに焼き上げる。
レアは『中が赤く生』と思っている人がいるが『火が通った赤い状態』が正しいレアだと私は習った。
その焼き加減になるよう、細心の注意を払い焼き上げた。
肉を皿に盛ったら、フライパンの肉汁を使ってソースを作って肉にかけて完成。
ソースは肉汁にすりおろした玉ねぎと赤ワインを入れ、煮立ったらバターを溶かし、なじませたら味を調整して完成。
バターは牛肉を入れた容器を布で包みブンブン回して生クリームを作ってから、腕の筋肉が断裂するのでは?ってくらいシェイクし脂肪分を抽出し、バターを作った。
ステーキには料理長の作ったマッシュポテトと人参のグラッセを添えてある。
リアクションは…テーブルの二人は叫び声に似た「うまい」「美味しい」を連発し、料理長の目は力み過ぎて充血している。
お気に召したようだ。
デザート
地球で食べている簡単プリンを作ってみた。
卵黄と先ほど作った生クリームを混ぜてプリンを作り、仕上げに砂糖(高級品)を振ったあと火魔法で焦げ目を付けてもらった、なんちゃってクレームブリュレだ。
温める・蒸す・冷やす・バーナー、全て魔法でアシストしてもらった。
便利だ。本当に便利だ。これじゃ科学は発展しないな…なんて思いながら仕上げたデザートを出した。
リアクションはテーブルの二人は平常運転です。
料理長は涙目なっております。
そして背中に冷たい物、Nタイプが何かを感じとったあの感じ、とにかく何かを感じ取って振り向いた先には、給仕をしてもらっていたウエイトレスさんが凄い目力で私と呼びのデザートを見ています。
「あっ、良かったら召し上がられます?」
私が聞くと、首が取れるんじゃないかってくらい首を縦に振り、そのあと幸せそうな表情で召し上がられました。
えっ?私は食べないのか?って、そんな顔で聞かれたら「食べます」って言えないし。
皆さんのリアクションを見てから食べようと思ってたから、食べないわけではないんだけど…。
クレームブリュレを一点注視されている。何も言わずに差し出してみると、嬉しそうな笑顔で受け取って食べ始めた。
皆さん美味しく召し上がられたようで何より。
片づけたら、皆さんに感想とビジネスに出来るかを聞いてみようと思った。
甘い物は異世界でも女性キラーでした。