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絡まれました

1階に降りてきたが、相変わらず凄い熱気だ。

PCを眺めながらスマートに働く現代日本には無い、活気がある。

PCがあり、スマホがあり、SNSが発達し、リアルタイムな情報の受発信ができるようになった代償が、人と人との繋がりが希薄になり温もりのない世の中になったよな…、そんなことを考えながら出口に向かって歩いていく。


出口に向かって歩いていると、派手に着飾った商人に話しかけられた。

貴族ですか?と言いたくなるような装飾を施した上着に、過剰に羽をあしらった帽子、10本しかない指に対して指の本数以上の数の指輪をはめた姿は、胡散臭い以外の何者でもない。

「珍しい上質な服を着ているな。ワシが買ってやろう」

見知らぬ相手に身ぐるみを剥がすような発言をされた。


たしかに日本で着ていたスーツはこの世界では珍しいと思う。

高級品とまでは言わないが、そこそこ上質な生地を使って作ったオーダースーツは貴族と間違われてもおかしくはない見た目だ。

しかし今、身ぐるみを剥がされると私は裸になってしまう。

それ以前に普通体系の私と、見事に肥えた商人の体系を比べると、どう考えてもサイズが合わない。

それ以上に、初対面で挨拶もなく、上から目線で失礼なことを言ってくる輩に売るつもりは毛頭ない。

なので丁重にお断りした。


「ワシの申し出を断るとは。サルマ商店を敵にまわすとこの町で商売ができなくなるぞ!それでもいいのか。お前は黙ってワシに服を売ればいいのだ。早く脱げ!」

理不尽なことをわめきながら、紙幣を投げつけてきた。

しかも1000G紙幣を1枚。権力を盾にして理不尽を通そうとしてきた。

失礼極まりない。

私は温厚を装っているが、実は体を鍛えるの好きだ。日本では武道を嗜み、武道に物足りなさを感じ古流武術を習い、より実戦的に動きたいため戦闘術の講習会などにも積極的に参加していたほどだ。

それもあってか失礼な態度にイライラし始めると同時に、身体から殺気が漏れてくる。


目の前の肥えた商人は殺気を向けられ硬直している。

少しわからせてやろうと、商人に近づこうとするとバッサに止められた。

「サルマごときがアンノン商店の人間に失礼を働くとは、いい度胸ですね。もちろん覚悟はできているんでしょう?」

バッサは威圧的な態度でサルマに向かって、これ以上の失礼は身のためにならないと匂わせながらアンノンの関係者だと伝える。

「待ってくだされバッサ殿!ワシはこの商人に挨拶をしようと声を掛けただけであって、何も失礼はしてませぬ」

「嘘はやめていただこう。一部始終を見ていましたよ。ケンジ様への非礼、詫びていただこう」

バッサはサルマを凄い勢いで詰めていく。そして周りは野次馬に囲まれている。


「ケンジとやら。貴様がワシの言うことを聞かないからこうなったのだ!」

憎しみを込めた目で私をにらみつけながら、私に悪態をついてくる。

「私はケンジ様に詫びるよう言ったはずですが。それと、私が『ケンジ様』とお呼びしている意味が理解できないのですか?オーナーの右腕で我が商店のNO,2に向かってサルマごときが失礼極まりないですね」

サルマはバッサに言われたことを理解したようで、顔がどんどん青ざめていく。

バッサも「サルマごとき」と言ってサルマを煽っている。


「ケンジ様、ワシはケンジ様にお近づきしたくてお声がけしただけです」

サルマは猫なで声ですり寄ってくる。

いや『服を脱げ、服を売れ』と1000G紙幣を1枚放り投げてきた失礼極まりないことを言ってきたのだが、それはお近づきの挨拶になるのだろうか?世界が違えば文化も違うのだろう。ちなみに1000G(ほぼ1000円)で買えるような安物ではない。


「ケンジ様、こんな奴放っておいて、そろそろオーナーとの食事に向かいましょう」

サルマを無視してあきれ顔のバッサが言ってくる。

確かにこんな商人を相手している暇はない。できるならもう関わりたくない物だ。

「なんとオーナーと食事ですか!それならばワシもご一緒しますぞ!」

間髪いれずに関わろうとしてきやがった。


「サルマさん、私は礼節に欠けた、不誠実な人間と付き合うつもりはない。最初あれだけ失礼なことを言っていたのに、私の立場がわかった途端に掌を返した。それだけでなく、招いていないのに食事に付いてくるだと。いい加減にしていただきたい!」

あまりの厚かましさに怒りを覚え強い言葉でサルマに伝える。

そして出入口に向かい商業ギルドをあとにした。




ー商業ギルドー

ケンジ達が去ったあと、サルマはギルド内に居る商人や職員から冷ややかな目で見られていた。

プライドが高い人間は『良い意味での注目を集める』のは好きだが『悪い意味での注目をあつめる』のは大嫌いだ。

サルマはその視線に耐えられなかった。

サルマは逃げるようにギルドから去っていった。

去り際「ケンジ、絶対許さん」と呟きながら。


残された商人達は「サルマ商店終わった」とか「アンノンの新しい人になんとか近づきたい」とか「たしかにあの服は魅力的だ。なんとか手に入らないか」など話をしていた。


職員達は「何も起こらなければよいが…」とか「アンノンさんまた大きくなりそうだ」など話をしていた。





食事をする店に向かいながらケンジとバッサを会話をしていた。

ギルド内で起こったことに関してだ。

「バッサさん。サルマ商店ってどんな商店なんですか?」

「表向きは普通の商店ですよ。サルマの厚かましくて強引なやり口で大きくなった商店です。あまりいい噂を聞かない商店です。競合を潰す為に『あること、ないこと』デッチ上げて噂を流したりしていて、サルマより弱い商店は自分達が対象にならないよう従っているようです。それでサルマグループができています。非合法なことにも手を染めているようです。あまり関わらないほうが良い商店ですね」

「まぁ初めましてであの態度はいただけないですね。あれを見たらバッサさんの言われたことも納得できます」

「我が商店に向かってきたら潰すだけです。それにしてもケンジ様は戦闘経験があるのですか?高ランクの冒険者が発するような殺気が漏れ出してましたよね」

やはりサルマ商店はろくでもない商店のようだ。そして殺気が出てしまったことも拾われてしまった。


「昔、少しだけ武術を嗜んでおりました。出したつもりはなかったのですが、漏れてしまっていたようですね。お恥ずかしい」

自嘲するように笑いながらバッサに返す。


「でもバッサさんも1歩も引かずに、威圧されてましたよね。バッサさんも何かされてたんじゃないですか?」

「商人としてだけではなく、オーナーや従業員を守る為に冒険者の真似事をしておりました」

そう言いながら、胸元のプレートを持ち上げながら見せてくれた。

商業ギルドの金枠プレートと一緒に、銀色の枠の金色に輝くプレートが付いている。

冒険者は銀枠のプレートが冒険者証のようだ。


「プレートが金色ですが他にどんな色があるんですか?」

私は冒険者のプレートについて質問をした。バッサは詳しく答えてくれた。

「冒険者のランクは5段階のランクに分かれておりまして、

登録直後は木製のプレートでDランク、初心者扱いをされます。温もりのある見た目なので私はDランク証が一番好きです。

次に銅製のプレートでCランク、初心者に毛が生えた程度です。なんとか冒険者として生きていけるくらいの稼ぎになります。

次に銀製のプレートでBランク、ここまでくると1人前扱いで一番人数の多いランクです。冒険者として生きていける稼ぎになり、月に100万G稼ぐことも可能になります。

次が金製のプレートのAランク、ベテランですね。しかもBから上がるのが非常に困難なのでAランク冒険者は凄く少ないです。ここからランク特典があって、男爵と同等の権限を与えられます。

最後にSランクで魔銀製のプレートになります。色は青みがかかった銀色でミスリルとも呼ばれている金属です。強さは人外ですね。歩く災害と思ってもらっても大丈夫です。人数は片手に収まるくらいしか居ません。ランク特典は侯爵と同等、望めば侯爵位を叙爵することも可能です」


補足だが、各ランク別のおおよそのステータスランクは

Dランク・・平均ステータスがE~D

Cランク・・平均ステータスがD~C

Bランク・・平均ステータスがC~B

Aランク・・平均ステータスがB~A

Sランク・・平均ステータスがA

平均ステータスがAで人外扱いで、Sランクなんて伝承や物語の中にしか存在していなくて、各項目に一つでもSがある人すら確認されていないらしい。

この時点で私は人外以上が確定してしまった。


「バッサさん。もしもですよ。もしも私のステータスにSランクがあるってなったらどうなりますか?」

「ハハハ、もしSランクがあるってわかったら、国が放って置かないですね。伝承によると一人で国を滅ぼすことができるそうですよ。国家間で争奪戦になるんじゃないですか。Aランクで人外扱いですよ。Sランクなんてヒトではなく神族レベルになるんじゃないでしょうか。…………あるんですか?」

バッサから笑顔が消え、真顔で聞いてくる。

「ソンナ、Sランクナンテアル訳ナイジャナイデスカ。私ハ商人デスヨ。ハハハ、ヤダナーモー」

うん、棒読みだ。凄く棒読みだ。悪いことをしたのがバレた小学生くらい棒読みだ。

そんな棒読みで返すとバッサは、ぎこちない笑顔で肯いてくれた。


歩き続けた二人は、微妙な空気のまま食事をする店に到着した。



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