身分証ができました
この世界版身分証を作成する為、商業ギルドに向かっている。
歩きながら文字を探すと、まあご都合主義な物で見知った文字がたくさんあるわけです。
アルファベットがこの世界の文字、アラビア数字がこの世界の数字で間違いがなさそうだ。
なぜ地球と変わらない文字文化なんだろう?と疑問を感じつつもその事実に感謝して商業ギルドに向かった。
しばらく歩くと商業ギルドに到着した。
石造り3階建ての、いかにも商業やってます!って感じの外観、小綺麗な恰好をした人達がひっきりなしに出入りしている磨き上げられた扉、その扉の上には、金色に輝くプレートに『Gを丸で囲んだ』マークが立体的に打ち出してある看板が掲げてある。
金貨をイメージしたデザインなのだろうか?どちらにしても現金なデザインだ。
商業だからね、商業は利潤の追求…詰まるところ銭儲けだからこの看板であっているよね…と言い聞かせながら扉を開いた。
建物の中は外観同様、小綺麗な感じで日本の銀行窓口のような造りになっている。
出入りしている商人は皆、商いに対する高い熱量と商いに抱く希望の高さで、凄まじい喧噪だ。
バッサによると1階が登録、各種手続き、商業に関わる相談と案内、ギルドとの取引窓口、2階が事務的な仕事のスペースと、融資に関わる金融関係、3階はお偉いさん達の部屋と会議室、応接室があるそうだ。
今回は登録だけなので1階の窓口にしか用はない。
登録をするため、受付女性に声をかける。
「新規で登録をしたいのですが、お願いできますか?」
「新規で登録ですね。新たに商売を始められるか、どこかの商店で働かれているのか、どちらになりますか?」
「商店勤務になります。」
「それでは、その商店で働かれている証明ができる物を本日お持ちになられていますか?」
おっと、聞いていない。紹介状か社員証的な物、もしくは名刺的な物が必要だったようだ。
困った私は、バッサの方を向いた。バッサは笑顔で私に向かって肯き、受付女性に自分のプレートを見せながらこう伝えた。
「アンノン商店のバッサです。こちらの方がアンノン商店NO,2と私が証明いたします。」
バッサがそう告げると、受付女性は結構な勢いで立ち上がり「大変失礼いたしました。」と深く頭を下げてきた。
そしてあれだけ騒がしかった周囲は、水を打ったように静かになり、私達を注視している。
「こちらで少々お待ちくださいませ。」
受付女性をそう告げると、奥に走っていった。
何かまずいことでもあったのだろうか?何かやらかしたのだろうか?
「私、何かやらかしました?」
「ケンジ様は何もされてませんよ。私がアンノン商店NO,2と紹介したので、上司に報告と指示を仰ぎに行ったのでしょう。周りはアンノン商店のNO,2を目にして、驚きと品定めで静かになったのではないでしょうか。」
「ちょ、その前にNO,2ってなんですか?顧問とは聞きましたがNO,2とは聞いてませんが。」
「我が商店は現場の管理をする幹部職は居ても、オーナーを支える人は居ませんでした。なので顧問になられたケンジ様は我が商店の実質NO,2と認識しております。」
小さな声でバッサに質問をし、短いやり取りをした。
ん~解せぬ。株式会社の概念がある私にしてみれば、顧問は名誉職であり、NO,2という認識はない。
商店の全容が見えていないのにイッコーさんの次席など勤まるはずもない。
そしてイッコーさんもバッサも私のことを買い被り過ぎだ!
しばらく待つと受付女性が戻ってきた。
「3階にご案内いたします。こちらへどうぞ。」
たしか登録は1階で完結すると思っていたのだが、3階に案内されることになった。
静まり返った周囲からは「3階かよ」とか「なんとかお近づきに」とか聞こえてくる。
受付女性について階段を上がっていく。
日本と違いOL服なんて存在していないはずだが、前を歩く…目線より上を歩く女性はブラウスに膝上タイトスカートだ。さすがにヒールははいていないが、凄く刺さる服装である。
何かを期待し、階段上・目線上・膝上を注視しながら階段を上がるのだが、その気配は一向に現れない。
そして3階に到着してしまった。
魔物もいて魔法もあるこの世界。そういえば契約魔法なんてこともイッコーさんは言っていた。
でもこの世界最強の魔法はスカートの中にかかっていたんだと気づいた私は、自分でもわかるくらい落胆した表情で3階フロアを歩くのであった。
そして応接室に案内された。
受付女性は応接室の扉をノックし扉を開け「ご案内いたしました」と中の人に告げ、私とバッサに入室するよう促した。
「失礼します」入室の挨拶をしてから中に入ると、金髪オールバックで赤いシャツを着た色白イケメンが立って私達を迎えた。カ〇・レ〇ザーと一瞬思ってしまった。
イケメン横のテーブルの上には、無色透明な水晶玉と赤味のかかった水晶玉が置いてある。
「ようこそ商業ギルドへ。私は商業ギルド・パインベイ支部のベナッタと申します。以後お見知りおきを。」
カ〇さん改め、ベナッタさんは私に向かって自己紹介をしてきた。
「初めまして。私はアンノン商店でお世話になっております、ケンジと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。」
私も自己紹介をすると、席を勧められたので椅子に座る。
「下が騒がしくなりそうなので、3階で登録させていただこうとご足労願いました。アンノンさんのNO,2なんて周りが知ってしまったから、下で登録なんて難しいでしょう。ねぇバッサさん。」
ベナッタさんは笑顔を浮かべながら私に3階に上がった説明をしたあと、バッサに向かって意味ありげに告げる。
「我が商店のNO,2になられる方です。他の商人達に畏敬の念を持たせるくらいがちょうどいいですよ。」
バッサもそう言い返す。
そして登録が始まった。
まずは赤味のかかった水晶玉に触れるよう言われた。
この玉は過去に犯罪歴がないか調べる物らしい。どうやって対象人物の過去歴に干渉しているかわからないが、赤く光るとアウトらしい。
……無事、光らず赤味のかかった水晶玉は終わった。
次に無色透明の水晶玉に触れた。
触れた瞬間、部屋中に眩い光が広がっていく。
目を閉じても耐え切れないほど強い光が、瞼越しに目の奥まで入ってくる。
思わず「目が~!!」と某大佐のように叫びそうになるほどだ。
あとで聞いたのだが、窓から凄まじい強さの光が外に向かって出ていたらしい。
この無色透明な水晶玉は、魔力の有無を確認する為の水晶玉ということだ。
魔力の有無で身分証の形態が変わるので、魔力の有無の確認は必須とのこと。
この光の強さが後々物議を呼ぶことになる。
光のダメージが残ったまま、読み書き計算の試験に突入した。
目が光の影響でシパシパするが、読み書き計算の試験に突入する。
驚くことに、紙ではなく小型の黒板にチョークで書き込む方式の筆記試験だ。
問題は木の板に書いてある。木簡です。
高級品として羊皮紙はあるらしい。契約書や残さなければならない書類に使われたり、本に使われたりするそうだ。
木の板に書かれた設問に従って、黒板に記入していく。
読み書きは問題ない。
算数の苦手な私でも問題のないレベルの計算問題。
凄く簡単である。こんな簡単な計算で商人になれるなんてとは思ってしまったが、文明レベルを考えたら仕方ないだろう。
問題なく合格し、商業ギルドのギルド証を手に入れた。
受付女性が1階で発行したギルド証を3階まで持ってきてくれた。
ギルド証はドッグタグのような銀色のプレートだ。
表に登録者の名前と登録した町の名前、裏に例の丸Gマークが刻印されていて、プレート周りのサイレンサー部分が金色になっている。
商業ギルドは特にランク等はないらしい。
これでこの世界の身分証が手に入った。
ちなみに、冒険者と魔術のギルド証も同じ形でサイレンサー部分の色が違うらしい。
冒険者と魔術はランクが設けてあり、プレートの色が変わっていくとのことだ。
無事に登録ができたので、ギルドのお二方にお礼を伝える。すると、
「ケンジさんは注目されている。そしてアンノンさんに在籍していても言い寄ってくる商店の人間が出てくると思う。イッコーさんに相談して、バッサが付いていれば大丈夫だと思うが。だろうバッサ。」
「はい、ベナッタ様。しばらくは私がケンジ様のお側に付きますのでご安心ください。」
ベナッタさんは、下での騒ぎが今後に影響を及ぼすのではと心配しているが、バッサが付いていれば大丈夫と言う。一体バッサは何者なんだろう?あとで聞いてみよう。
商業ギルドのギルド証を受け取り、1階に降りてきた。
まさか、あんなことが起きるとは…