家族の秘密
心の中で、母がどのように私を捉えているのかを考える。彼女にとって、私は失敗作なのかもしれない。私の存在が彼女の苦しみを増すのではないかという不安が、いつも私を取り巻いている。女性が帰るのを待ちながら、私の心は不安でいっぱいだった。彼女たちの会話が耳に入る。母の声が小さく震えているのを感じた。
母、道子は美百合と名乗る女性と対面していた。初めて会うはずの美百合の目は冷たく、道子をじろりと見つめている。
「はじめまして。道子さんですよね?」美百合が言った。
「そうですが…あなたは?」道子は警戒しながら問い返す。
「 俊也の元妻、美百合です。」
道子は驚き、言葉を失った。美百合はにやりと笑い、「仁さんの銀行のカードを返しに来ました。」と言った。
「どうしてあなたが持っているの…」
「仁さんが私たちを助けたくてくれたんですよ。本当に優しい人だったのに、亡くなったと知り…」美百合の口調には嘲笑が含まれていた。
道子は心臓がバクバクするのを感じながら、冷静を装った。「慰謝料請求しに来たんじゃないですよ?私も仁さんと関係を持っていたので、おあいこですし…ね。」
美百合は笑った。
「あなた、知っているの?どこまで…」
「ええ、知ってますよ。善くんも潤海ちゃんも俊也の子だって。」
「子どもを返せって事じゃないですよ。まぁ善くんなら貰ってもいいけど、潤海ちゃんはいらないかなぁ。小汚いし。」
道子は息を呑んだ。心の中で怒りが渦巻く。「どういう事…」
「善は私の子よ!誰にも渡さないわ!」
「ふふ…潤海ちゃんだってあなたの子でしょ?それに私は可愛い可愛い瑠々美がいるもの。」美百合はスマホを取り出し、写真を見せた。
「その子って?」
「知ってます?みんなの憧れのインフルエンサー、瑠々美!私と俊也の子だけど、潤海ちゃんとは大違いよ。」
「仁くんって不妊だったんですね。それで、意気投合した俊也と関係を持って善くんを生んだ。私が不倫に気づいたのは、善くんが生まれた後でした。探偵に頼んで調べてもらったんです。」
「最初は慰謝料請求を考えたけど、それだけじゃ許せなくて、仁くんに近づいて関係を持って復讐しようとした。でも、中々妊娠しなくて…俊也とはレスだったし。」
「仁くんにも協力してもらって調べたら、無精だったんですよ。その頃、道子さんが潤海ちゃんを身ごもっていたので、僕の子じゃないんだって相当落ち込んでいましたよ。」
「でもね…ふふふ…私、いいことを思いついて、俊也に『私も子供がほしい。そうしたら、会社に不倫のことをバラさないであげる』と言ったら、子作りを頑張ってくれました。そして、瑠々美を仁くんの子ってことにしたら、仁くんは凄く喜んでくれて、『奇跡だ!』って言いながらたくさん養育費を払ってくれましたよ。」
美百合は満足そうに言った。「善くん、潤海ちゃんの名前は仁くんがつけたでしょ?潤海ちゃんと瑠々美、名前が似ているのは、本当の姉妹になれるようにって仁くんが付けてくれたんです。」
突然、美百合は叫んだ。「姉妹になれるわけないだろ!あんな小汚いボサボサ髪の子と瑠々美を一緒にしないで欲しい!」
美百合は潤海を見下し続けた。何故かイライラした道子は「帰れ!今すぐ帰れ!」と靴を投げつけた。
美百合は笑いながら去っていった。
隠れて聞いていた潤海はしばらく動けなかった。好きなインフルエンサー瑠々美と血が繋がっていることに、喜びを見出せなかった。遺産は全て彼女たちに渡していた。父を許せなかった。会ったこともない美百合に馬鹿にされ、悔しさと憎さでいっぱいになったのだった。