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母の変貌
私が幼い頃から兄に近づくと、母はイライラしていた。「お兄ちゃんの邪魔ばかりして」と叩かれた。昔は身体的な暴力が日常だったが、今は 精神的な虐待が続いている。私の心は傷だらけだ。
兄は子供の頃、一度だけ母に逆らい、包丁を向けられたことがあった。それを見ていた私は恐怖で身動きができなかった。兄はその時の恐怖を胸に秘め、今もなお母の期待に応えようとする自分に吐き気がする、と苦虫を 噛み潰したような顔をしていた。
母は兄を溺愛し、私には冷たかった。母は父が亡くなってから兄に実家に戻って来るように言ったが兄は一人暮らしを続けることを決め、仕送りを理由に実家には戻らなかった。
「入社が難しい企業に就職できたのは母さんのおかげなのに、家に戻ることになったら辞めなきゃいけなくなる。そんなの母さんに申し訳ないよ」と、言葉に詰まった。
その言葉を聞いた母は、嬉しそうに微笑んだ。
「それもそうよね。仕送りで十分よ…ありがとう。」
その瞬間、兄はホッと胸を撫で下ろした。