表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

別れの時

事件後、兄は病室にいた。母はベッドの上で静かに命を落としていた。日々の治療が彼女の心を(むしば)み、次第に現実を見失わせていった。時には奇声を発することもあった。


「キョアアァアアアアアア!!!」という叫び声が病院の廊下に響き渡り、周囲の患者たちは驚きと恐怖に包まれた。暴れまわる母は拘束ロープで縛られ、身動きが取れなくなっていた。怯えた目と苦痛に満ちた表情で、彼女は力尽きて亡くなった。


彼の心には言葉にできない虚無感(きょむかん)が広がった。母を失ったことで心の奥に深い闇を抱え、同時に自分の選択が正しかったのかという疑念が彼を苛んだ。


一人、静まり返った病室で、兄は無表情でその場に(たたず)んでいた。


朝、潤海(うるみ)は静かな部屋でレインとテレビを見ていた。突然、画面に映し出されたニュースキャスターの緊迫した表情に、心臓が高鳴る。


「今朝、人気インフルエンサーの瑠々美(るるみ)さんが襲われ、連れ去られそうになりました。この事件では、彼女を強引に引き寄せようとした男が現場で拘束されましたが、逮捕には至らず、警告だけが与えられました。」


その時、携帯電話が鳴った。お兄ちゃんからの電話だった。潤海は急いで出た。


「潤海、母さんのことなんだけど…」


兄の声はいつもと違い、どこか焦っているように感じた。


「どうしたの?」


「実は…母さんが最近、病気で入院していたんだ。精神的に辛い時期が続いていて、治療を受けていたんだよ。」


潤海は驚きと疑念を混ぜた表情を浮かべた。「入院していたなんて知らなかった…」


「うん、それは母さんが隠そうとしていたことなんだ。でも、母さんは頑張っていた。残念ながら、さっき、亡くなったんだ。」


潤海は言葉を失い、ただ静かに電話を握りしめた。


テレビの映像が切り替わると、周囲の人々が混乱した様子で集まる中、画面の端に兄の姿が映り込む。潤海はその瞬間、目を見開いた。映像には、瑠々美を引き寄せようとする兄の姿がはっきりと映っていた。彼女の恐怖に満ちた表情が映り、その背後で兄が手を伸ばす瞬間が捉えられている。


「警察は、男を取り押さえることに成功しましたが、事件の詳細はまだ明らかになっていません。」


潤海は震える声で問いかけた。「お兄ちゃん、瑠々美を連れ去ろうとしたの!?どうして!?」


兄は一瞬の沈黙の後、焦った様子で言った。「いや、そうじゃない。ただ…守りたかっただけなんだ。」


その言葉が彼女の心に疑念を残す。潤海は混乱の中で言葉を発しようとしたが、口が動かない。


「潤海…」


兄の声がさらに続くが、潤海はもう耐えられなかった。感情が溢れ、意識が遠のいていく。彼女は電話を切り、ただ心の中の混乱に飲み込まれた。


その頃、瑠々美は、メディアに取り上げられたことで注目を浴びていた。彼女は、自分が主人公になったかのような感覚を抱いていた。「私のことをもっと知ってもらえるチャンスよ!」瑠々美は思った。彼女は、自身のSNSアカウントに動画を投稿し、ファンたちからの反応に歓喜していた。事件が大きく報じられる中、彼女は自らの存在を世間にアピールしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ