鳥籠をぶち壊せ
「「「誰……?」」」
「スタラも交友関係が広がったなぁ……」
輝來は、目の前に広がる光景を見て諦めたかのようにそう呟いた。自分との交流がない間に色々あったらしい。
ここに集まったのは輝來を含めて四人。
一人はネームタグが見えないところからNPCであろう獣人の青年
一人はプレイヤーであろう前衛職の男性。
それと同じくプレイヤーである魔法職の男性。
(どうしようかな)
状況から考えれば、この三人は自分と同じようにスタラからの救援要請を受け取ったことでここに集まっている。
しかし、何処まで情報を持っているのか。そもそも協力をしてくれると断言できるのかなど不明な点は多い。
なので、輝來は出方を疑っていたのだが……
「ホンモノダ~~~」
「そんなキャラじゃなかっただろ。あと日本語をしゃべれ」
自分を見ながら、明らかに不審な動きをするプレイヤーを見て色々察した。
「あ、ファンの人?」
「う??????」
「ちょっと待って輝來ちゃん。ケイがパンクした」
一人のプレイヤーは話しかけた瞬間に眼の焦点がズレ、それを友人で在ろう男性が揺らしている。まぁ何というか、悪い人達ではなさそうなのでいったん保留だ。次に立ち尽くしているNPCの男の子へと近づく。
「ねぇねぇそこの君、名前聞いても良い?」
「あ、はい!紺示って言います!依頼を受けてここに来ました!」
「依頼してきた人とは関わりある?」
「はい!妹の命を救ってもらって……だから、精一杯働かせてもらいます!」
「そっか、ありがとね~」
輝來は紺示の説明を受け、何かしらのお使いイベントなどをスタラがクリアしたと考えていた。まさか、NPCを殴り倒しているとは思わないし、偶々あげた回復薬が治療薬だった、なんて馬鹿なオチだとは一つも予想していなかった。
「んじゃ、一回注目してもらっていい?」
現状整理を終え、輝來は結論を弾き出す。
(うん、信用していいんじゃないかな?スタラが選んだ人たちな訳だし)
とりあえず敵意的なものは感じないし、スタラを裏切る理由も感じない。彼らが嘘を吐いている可能性だって彼女の頭をよぎったが、その時はもう詰みだ。ならば、スタラの審美眼を信じてみるほかない。
「私たちは、戦争を止めるために動いてます」
「戦争、を?」
紺示からは困惑と驚愕の視線がぶつけられ、プレイヤー二人からは納得の声色が上がる。大体の見当はついていたようだった。
「でも、スタラがしくじっちゃったみたいで。今スタラは懐月街で捕らえられてます」
「えぇ!!??」
一人、驚愕というか最早天地がひっくりかえったような声色を出している人がいたが、多分あれはスタラのファンだ。
「なので、スタラを助けるために皆には集まってもらいました」
端的で、様々な箇所を端折った説明。
しかし、彼らも話の大筋は理解したようで、ある種の理解を瞳に宿している。それに、そのもっと奥で、決意に近いような色合いを持っているように見えた。スタラを助けるという言葉を出した瞬間に、だ。
交友関係が広がっただけじゃなくて、良い友人を持ったみたいだね。と内心思いつつ、輝來はここには居ない白銀の少女の顔を思い浮かべるのであった。
◇
ということで、話し合いが始まった。議題は勿論スタラ救出についてである。
先にカリアから伝えられていた隠れ家を会議室として使っていた。
「「「「うーん……」」」」
そしてその会議の結果なのだが、芳しいものでは無かったと言わざるおえない。
情報を整理すれば、スタラは獣人たちの頭に嵌められ、捕まっているそうだ。その上今の懐月街は外からの攻撃を防止するためという理由で、閉鎖されているらしい。エルフ側の輝來から言わせてもらえば攻撃などしていないので、詭弁ということになるだろう。
「結局、俺らが入れないんじゃどうしようもないのでは?」
「言っちゃいけない気がするけど、そうだよなぁ……」
ニドヅケとケイマは同時に溜息をつく。
彼らの言う通り、干渉できないならどうにもできない、というのが結論として出かけていた。
「ねぇ紺示君?」
「はい!」
「君は、スタラに言われて懐月街の外に出たんだよね!」
「そうなると思います!」
「そっ、か」
そこが引っかかる。
スタラの立場に私が居るのなら、彼を外に出すことはしない。中に協力者がいるのなら、態々外から入る手筈を考える必要も無い。その協力者に指示を与えて、どうにか脱出すればいいのだから。
しかし、スタラはそうしなかった。多分、出来なかったというのが正しい。
何故、スタラはそれができなかった?
「スタラの状況を知ってる人は?」
全員、揃って沈黙を貫いた。彼女がどんな状況で捕まっているのかは、誰も知らないようだ。
輝來は軽く耳に手を当てた。
行き詰ってしまった。情報は少なく、スタラはログアウトしてるようなので聞き出すこともできない。どうすればいいのか……と頭を抱えている所に、一つの通知音が鳴り響いた。
「はは、ナイスタイミング」
輝來は思わず口角を上げる。
届いたのは、一通のメールだった。
◇
時は少し巻き戻って、一方スタラがメールを送ったもう一人の相手……華火花は、カリアの元を訪れていた。
「正直、惨敗じゃよ。こんなに早く手を打ってくるとは思わんかった」
カリアは自嘲気味に笑みを浮かべる。
華火花から齎された情報は、それほど彼女にとって屈辱的なものであったのだ。かつての友人に先手を打たれ、しかもなすすべのない状況まで追いつめられた。
「スタラはあやつにとって客人、仮に嗅ぎまわっていることがバレたとて、決定的な状況に至るまで手は出せないと踏んでおった。他の種族や国からどう見られるかは明らかじゃろう?」
自分たちが招いた相手を、碌な理由すら提示せずに幽閉する。そんなことをすれば、白い目で見られるどころか繋がっている国交や流通がどうなるかすらわからない。だからこそ、灰莉はまだ動いてこないと予測していた。
しかし、彼は違った。
「考え方が間違っておった。迫害も、制裁も、国が残っていればの話じゃ」
つまり、灰莉はこの戦争で全てを終わらせるつもりだったのだ。
ならば、最早後先など考える必要も無い。
「……でも、私を呼んだってことは、何かあるんでしょ」
「くかか、そうじゃのぉ。アイツの目を見開かせるような方法はある」
ぎらり、と深紅の目が光った。
他人の感情に若干疎い華火花でも、その表情を見て察した。カリアは今、怒っているらしい。それも、強烈に。
「しかしのぉ、その方法も万能とまでは行かん」
そう言うと、カリアは何処からか紙と、幾つかの駒を取り出す。
「まず、地形や建物の構造を良く知るものが必要じゃ」
カリアが取り出した紙をよく見れば、大きな魔法陣の中に幾つかの点や線が並んでいる。これがきっと、地形という事なのだろう。その上に、地図を持った駒を置く。
「それに、魔法に精通した者が必要じゃな。儂一人でもどうにかはできるが、時間がかかりすぎる」
魔法陣のど真ん中に、杖を持った駒が置かれた。
「そして最後、時間を稼ぐ者が必要じゃ。空間の断絶という現象に対抗するなら、時間はいくらでも必要になる。……二人、いや三人は欲しい」
三つ、剣を持った騎士の駒が置かれ、カリアは一つ溜息をついた。
「だから、カリアを呼んだのじゃ。どうにかこの駒を集めてほし……って、どうかしたかの?」
カリアが真面目に語っている、その対面で。華火花は、腹を抱えて笑っていた。いつものポーカーフェイスも忘れ去り、只管に笑い続ける。
「華火花?どうしたのじゃ?」
「ふふふ!ふーっ……ううん、何でもない」
涙を拭きながらそう呟いた華火花は、カリアと向き直ってからもう一度笑みを浮かべた。それは先程までの和やかな笑みと違って挑発的で、不敵な笑みだった。
「それなら、もう全部そろってる」
こんな偶然もあるんだなぁ、と思いつつ、余りに豪運な自分の友人を思い浮かべて華火花は目を細めた。




