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賽の河原?

 ゴブリンを倒し、数分。 

 バトルフィールドのくせに妙にモンスターの沸かない草原の上で、空を見上げてぼーっとしていた。


「どーうしようかな」


 街の外に飛び出してしまったせいで、逆に元の場所に戻れなくなってしまった。


 プレイヤーに囲まれたくないならなら街に戻るわけにはいかないのだが、ゲームを円滑に進めるうえで拠点となる場所を利用しないというのは縛りプレイでしかない。


 いやそれ以前に『星ヲ望ム者』の所為で縛りプレイはしてるんだけどね?


 外見を隠す物はなく、こんな外見なので人混みに紛れるのは不可能に近い。じゃあ単純に走り回ったり隠れたりして攪乱するっていう手はどうだろうか。


 セーブを行うことになる宿屋は許可のない限り他のプレイヤーが入室することは不可能らしいので、そこまでいけば安寧を手にすることができる!


「けどなぁ」


 さっきは単純に目標が逃げるだったうえ、虚を突き、その上で大量にあるオブジェクトと経験をフル活用して逃げ切ることができた。

 しかし、次は目標が複雑化している上に、入り口が一つなので待ち構えられている可能性もある。


 その上で俺よりレベルが上の大人数のプレイヤーを相手に、大立ち回りをして見せなければいけない。少しレベルが上がったとはいえ全ステータス、勿論素早さも常人より下がっているこの体で?


 無理ではぁ?一対一なら勝ち目が在るモノの、多対一である現在はどうにも……いや、待てよ?


 俺は物事を複雑化して考えすぎていたのではないだろうか。別に、俺のことなど一瞬の話題に過ぎず、皆ゲームに戻っているのではないだろうか。ただ一瞬街に美少女アバターが現れただけだ。


「そうじゃん」


 何を心配していたのだ。一瞬周囲の人間からの注目を集めた物の、それは水面に発生した波紋のようなものだろう。つまりすぐ消えるってことだ。


「よし、戻ろ」


 なんだなんだ、俺の杞憂だったか。……想定外の事が起きすぎていて半自暴自棄になっていることは俺でもわかっている。


 俺の話題が消え去っている可能性と同じように、その逆の可能性も存在しているのだから今逆戻りするというのは悪手中の悪手であることぐらい、理解しているのだ。


 後俺が美少女アバターなだけではなく謎のアクセを付けているのも判明している以上問題はそこまで単純じゃないことも知っている。というかいつのまに装備したのこれ?

 けれど、もう考えるのには疲れてしまった。普通にゲームをさせてほしい。そんな、諦観の籠った思考を巡らせていたその時。


 ぽよん、だぷん、と。粘着性と流動性が混ざり合った軽快な音につられて、ふと振り向いた。


「……スライムにしては」


 そこに居たのは、半透明な緑色の塊。

 流動的で不確定的、しかしその形を崩す事なく動き回る姿は、何故かそれが一つの生命体であると本能的に理解させられる。中心部に存在する深緑の部分が、こちらを見据える瞳のようで。


 うん、スライムなのだ。この手のゲームで何回も見ることになる、液体の化け物。この辺りに居たってゲーム的な違和感はない、それほど序盤の敵としてのイメージが根強いモンスター……なら、何故違和感を口にしているのか。


 すごい、でかい。いや半端じゃないぐらい大きい。普通スライムと言えば膝までしかないみたいなものが多く、大きくても腰まで。人間大になってくるとボス、というのが定石の筈なんだが……。


 俺の眼の前に聳え立っているスライムは五mは優に超えるほどの巨体を備えていた。妙にエネミー出ないと思ってたんだよ、こんなんいたらそりゃあ出現しないわ。


「あぁ、最高だ。やってやるよ……!」


 一通り疑問や思考をつらつら並べたものの、このわくわくだけは理屈じゃない。未知との遭遇、俺のゲームに求める要素の一つで、大好物だ。

 膝を曲げ、腰にぶら下げた刀に手を添える。


「いざ尋常に……ってな」

『Field Boss ビッガー・スライム』




 ◇



「なーにがいざ尋常にだ!」


 高速で飛んで来る粘液を切り捨てつつ、悪態を吐く。勿論過去の自分にだが。


 手に帰ってくる感触はぐにゃりとしていて、心地よさとは真逆の位置にあるものだ。


 デカスライムの周りをひたすら駆け回りながら、思考を加速させていく。この数分で得た答えは、あいつは俺の、というより物理職の天敵だということだ。


 一ダメージも入ってる気がしない。


 ぽよん、とスライムが体を震わせたかと思えば、次の瞬間、地面を覆い尽くすように粘液が広がり始める。例えるなら、波。


「くっ……雲霧!」


 雲霧のジャンプ部分を転用し、ギリギリのところで回避する。


「キッツイ!」

 


 ビッガー・スライム。フィールドボスであるこのモンスターは、主に自らの体積と重量を生かした押しつぶしと飛び道具として粘液を発射する攻撃を使ってくる。

 前者の押しつぶしはさほど問題ではない。範囲は大きいものの、発生までの硬直が大きすぎて走り続けていればそうそう当たるものでは無い。


 問題は後者の粘液攻撃だ。粘液攻撃でも二つパターンがあり、片方はこれまたそこまで脅威ではない。体を大きく揺らし、波のように地面を這う粘液を放つというパターン。

 これはモーションが大きい上にジャンプすれば大丈夫なので問題はない、けれど油断できない攻撃でもあり、俺のステータスの低さから体勢が悪いと引っかかったりする。


 というか二回引っかかった。しかし、それも次の攻撃に比べれば些細な事になってしまう。


 問題のパターン、個人的に弾丸と呼んでる攻撃について。

 粘液を圧縮し、小さな弾丸として射出する攻撃である。まぁ呼び名ほど速度がある訳では無く、しっかり視認していれば対処ができる程度のスピードではある。なので、問題はそのスピードや、威力ではない。


 体表が小さくぐにゅり、と歪んだかと思えば次の瞬間にはダメージを喰らっている。小さく、短いモーション、これの所為で気を抜くことは許されず、モーションに気づくだけでなく対処もしなければいけないのでひじょーに面倒だ。ダメージ云々以上にメンタルが削れる。


 幸い飛んできたそれに斬撃を喰らわせるとダメージ判定が無くなるのだが、いつ対処が間に合わなくなってもおかしくない。被弾回数八回。


 そして最後に、スライムとしての特性である液体と固体の性質を併せ持ったような体だ。

 これが中々曲者で、仮に流れる水に剣を振りぬいたとて水が飛び散ってそれで終わり。


 それと同じようにスライムに斬撃を加えても表面の粘液が飛び散るだけで、動作の妨害にもならなければダメージになっているような仕草もない。


「完全物理職殺し?」


 そんなことがあるか?

 いくらエリアボスとはいえ、序盤の草むらに出てくるモンスターだぞ?


 思考を回転させながらも体は止めないように。


 地面と平行に刀を振るい、飛んでくる粘液を真っ二つにする。


 何か弱点は……。いいや、わかってはいる。

 スライムの体内で蠢く深緑の物体、あれが急所でなければなんだ。けど、体内のど真ん中に位置するそれは刀のリーチではどう頑張っても届かない。


 押しつぶしは喰らっていないが、粘液攻撃を細々と喰らってしまっているせいでHPも四分の一を切ってしまった。


 街から飛び出してきたせいでアイテムを持っていない今の俺には、HPを回復する手段は一つもない。


 早く何か考えつかないと、消耗しきって負ける。ここまでやってデスするのは何か……ゲーマーとして嫌だ。くやしい!

 何かないのか、何か、何か……


「……あれ?」


 縦に刀を振りぬき、攻撃を防いだ時、ある違和感が脳内を走り抜ける。


「もうちょい大きくなかったか?」


 視界を覆いつくしていた筈の巨体。

 その上部から、空が見えていた。スライムの体で覆い尽くされていた筈の、青空である。


「まさか」


 あぁ、なんで気づかなかったんだ。やっぱテンションが上がりすぎると駄目だ。こんなわかりやすいヒントもないはずなのに。


 やっと、攻略の糸口が見えた。


「リソースの削りあいといこうか!」

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