表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/130

紅を覆う叢雲 十二

「……やってくれたの?輝來」


 カリアはNPCとは思えない程の混濁した感情を隠すことも無く、輝來へと向けた。


 気迫を越えて威圧さえ匂わせるカリアの前で、その感情全てを矢面に立って受ける輝來は、それでも笑っていた。


 悪戯が成功した子供のように無邪気に、軍略を巡らせる軍師のように聡明に。

 相反する性質を持つ笑顔は、暗闇の中で在って何よりも輝いているように見えた。


「あの子らに知らせるべきことではない」


「私には言ったのに~?」


 苦々し気に呟くカリアに、さぞ楽しそうに輝來が反論する。


「輝來ならいつか辿り着いたじゃろう」


「じゃああの二人も辿り着いたよ」


 確信を込めて声を放つ輝來に、カリアはため息交じりに返した。


「いつもの勘、かの?」


「ううん、そうなっただろうなって」


「そう、か」


 何かに納得したのか、呆れたのか、それとも単純にクエストが先へと進んだのか。


 輝來がそれをはかり知ることは無いが、少なくともスタラ達の健闘は花を咲かせたのだという確信だけは持っていた。


「心苦しいかもしれないけど、綺麗な物みれたでしょ」


 トラウマを掘り出してしまったことに罪悪感を覚えているのか少し控えめに、けれど決意を乗せてカリアが見ているであろう光景の話をする。


「あぁ、ほんとにの」


 紅の瞳、その先では、深紅と白銀が己の恐怖を切り裂いていた。



 ◇



「っこっち!」


「了解、です!」


 影の魔物は途絶えることなくその数を増やしていく。けれどどうしてか、負ける気はしなかった。


 もう何度目かもわからない縮地を発動、地面に線を引くような形で刀を下に構え、足元を這う敵を両断する。


 そのまま顔に飛んでくる攻撃を切り上げで対処、加速が切れたあたりで回転斬りを繰り出す。


「多い!」


 心の叫びが、思わず口から漏れ出る。


 負ける気はしないし、決意と共に充填された集中力で被弾も殆ど無く戦闘を続けられているのだが、だからと言って解決に至った訳では無い。


 一体一体は非常に弱いスライムの群れみたいなものだが、足は取られるわくっつかれてたらダメージは入るわ物理的な障壁になったりするわで非常に面倒くさい。


「こっち!行ける!」


「はい!」


 けれど、長めの戦闘の中で何回か本体までの道が開けることがある。


 近づいて何回か攻撃したら押し流されてしまうが、それでも貴重な攻撃ターンだ。


 それが回ってくる理由は、俺たち二人がヘイトを分散するように立ち回っていたりするのもあるが、何よりもあの二人の活躍だろう。


 尋常でない程弱い敵はナーラちゃんの功績だろうし、向かってくる敵が少ないのもアマントさんがヘイトを稼ぎまくってたからだろう。


 あの人魔法で盾から炎出してましたよ。正直タンクに転向しようかと思うぐらいには格好良かった。


「ふっ!」


「そろそろHP切れろっ!」


 華火花さんは気合を、俺はメタ的な恨みを。


 いやほんとに、正直戦闘時間が長すぎる。テンションで底上げして何とか気合と集中力を持たせているが、そろそろ限界だ。


 雨割を発動しながら放った攻撃は影を切り裂き、ダメージエフェクトを噴出させる。


 雑魚をたくさん出してくれたおかげで倣華の特殊効果も発動している。ほんとにそろそろいけるは


 べちゃ。

 顔に走った、汚らしい感触。


「んぐっい!!??」


 え??何???前見えないんだけど??吹き飛んでる??


「スタラ!顔!」


 華火花さんの声が真横から聞こえる。何が起こってるかはよくわからないけど顔になんかついてることは理解した。


 刀を逆手に持ち替える。そして……顔面のスレスレを、斬る。


「っ……!はぁっ!」


 詰まっていた呼吸が解放される。

 足元で消えていく敵を見るに、本当に顔に敵がくっついていたのだろう。


 俺の刀を自分の顔で通り過ぎさせる技が無かったら危ないところだった。初めてやったけど。


「っ、状況は!?」


「本体が爆散した!」


「訊いてもわかんないや!!」


 見た方が早い気がしたので勢いよく顔を上げれば、腹のあたりにくっついた敵をはがしている華火花さんの姿が眼に入った。


 これもしかして無差別に吹っ飛ばして距離を取らせる妨害が偶々顔に当たったな。どういう確率だよ。


 華火花さんを見た後に視線を動かした先で、もやのような何かが空中でふよふよと浮かんでいた。


『確カニ、其方ラハ強イヨウダ』


「はぁ?」


 急な賛辞に、思わず疑問がこぼれ出る。


 そんなこというなら今も襲い掛かってきてるお前の体の一部どうにかしてくれよ。


『今ハ負ケル。負ケテヤロウ』


「……ほんとに?」


 相手が何をしようとしているのか今の言葉で理解したのか、華火花さんが急いで走り出す。


 俺も薄々思っていたが……マジで?まさかここから


「負け惜しみで捨て台詞言ってから逃げんの!?」


『サラバダ』


 話聞いてねぇあいつ!ふざけんな!それも雑魚の数が増えてる!このままガチで逃げる気だ!お茶濁しにも程があるだろ!


 けれど確かに今この状況でそれが一番厄介なのも確かだ。俺たちはこの包囲網を一発で突破するほどの火力も、人数も無い。


 どうにもできない、と言うのが正直な答えなのだ。



 俺たちならば。

 けれど、ここには最前にして、最善が居る。


「道は作るっ……!から!阻止しろ!」

『媒体通しでも一発なら打てるよ!』


 アマントと輝來、二人の報告が響く。


 心底この人たちと縁を結んでおいてよかったと思う。あんな啖呵切っておいて逃げられましたなんてしょっぱいエンディングは流石に精神にダメージが行く。


「行くよ!スタラ!」


「もちろん!」


『轟け雷鳴、喝采を飲み干し終局と至れ。止まること無き演奏は、只終わる生命にこそ贈られる』

「弾き返せ、陽光を受けて尚眩き焔の盾よ」


 同時に詠唱が開始される。

 それと共に、目の前に二つの魔法が展開される。


 一つは、余りにも大きな盾。焔でできているそれは揺らぎ、不確定で在るものの何よりも堅牢であるような、そんな偉大さを感じさせた。


 もう一つは弓。雷でできたそれは、空中を迸り数多の大弓となった。ゴロゴロと唸るそれらは、今にも敵を喰らいつくす衝動が溢れ出してしまいそうだった。


『【雷弓サンディライ強奏フォルティア】』

「【撃焔盾】」


『行って』

「行け」


 盾が押し燃やし、矢が貫き焦がす。

 二つの魔法が、二人の術氏が躍動し、戦乱の地上に一筋の道ができた。


 合図はなくとも、俺達が走り出したタイミングは同じだった。


「【属性付与エンチャント:蝕闇】」


 距離はそこまでではない、7mも無いはずだ。


 しかし、昇っていくあのもやにはこのままじゃ間に合わない。どうする!?どうすればいい!?縮地と蛙跳を発動したらあの距離は届く。


 けれど不確定だ。今のずさんな集中力で操れるか?ここでミスったら終わりなんだぞ!?


 どうすればいい。どうすれば。


 考えろ、何か、なんかある筈だろ!?こっから、どうにかあいつを止める方法が!というかこのまま逃げられたらストレスすぎる!


 大型イベントの最終戦に逃亡とか入れんな!!


 思考が加速していくものの、答えは手に入らない。刃物を、それもこの霧でできたような重心の不安定な刀を投げたところで当たらない。


 どうすれば!


「スタラ、跳ばせて」


「!」


 華火花さんの言葉を理解したのか、どうなのか。どちらにせよ俺の体は動いていて、縮地を使って華火花さんの前に躍り出ていた。


 そのまま姿勢を屈め、華火花さんに背を向ける様な形で跪く。


 まるでそれはジャンプ台、遠き空へと飛ぶための、ささやかなる助力。


「頼み…ました!!」


 その言葉に、背中を踏みつける感触が答えた。



 ◇



 華火花の脚にエフェクトが纏わりつく。


 できる限りの強化を込められたその跳躍は前へ、何よりも上へと彼女を羽ばたかせた。けれど、まだ届かない。


 飛べない鳥を踏み台にして、未だそこに雲はある。


 だからこそ、彼女は飛ぶ寸前から腕を振り上げていた。


「堕…ちろ」


 轟、と風が引き裂かれて、闇を蝕む力を付与された短刀が投擲される。


 空中で在りながらも、華火花のプレイ史上最も研ぎ澄まされた攻撃で在った。雑念はなく、戸惑いも無い。只、決意と覚悟だけがそこには載っていた。


 しかし、それでも


「何で」


 靄が、少し揺らいだ。

 ナイフを躱すように、穴を開けた。


 それだけの事だった。たったそれだけの変化で、彼女の渾身の一撃は無に帰した。


 それでも、どれだけ地上に這うものが努力したとて空の上は変わらない。


 どす黒い感情が押し寄せる。


 ()()()と、自分の世界から逃げてまでまた私は失敗して、無力に打ちのめさせる羽目になるのかと。


 強い絶望と無気力が襲い掛かる。紅は、叢雲に覆われた。


 けれど、彼女は忘れていた。

 どれだけ分厚い雲があろうと、どれだけ昏い朝が来たって。自分の見えないところで、その、もっと向こう側で。


「朱月!」


朱い三日月は輝くのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ