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握る戦友を無下にせず

「気は済んだかの?」


「「勿論!」」


 床に直接正座した職人二人が、妙にハツラツとした返事をする。


 一応補足をしておくがカリアさんが怒って正座させたのではなく、カリアさんが遊びでフラっと立ち寄っていたと思っていた二人が仕事の依頼だったことを知り、自分らの都合で時間を取らせたことを反省しているという状況だ。


 別にカリアさんが気にしている様子はなかったが、誠意を伝えるという意思らしい。


 妙に職人としての心持がしっかりしているのが最早厄介。いいことだけどね?


「それで、依頼ってのは何なんだ?」


「見て貰った方が早いじゃろうな、これじゃ」


 カリアさんが取り出した赤黒い袋を開き、二人に見せる。


「ふむ。破損はしているが、良い武器じゃな」


「僕はこっちの素材が気になりますけどね。初めてみましたよ」


 興味深そうに職人二人は揃って俺の刀を覗き込む。何か俺の事じゃないんだけど武器が褒められてるとちょっと照れるところはあるな……。


「これを頼みたいのじゃ」


「うむ、強化ならすぐに」


 そそくさと準備を始めようとしたマギバの動きが、「いいや」と食い気味に否定するカリアさんの声で停止させられる。


()()を引き出してもらう」


「……へぇ?」


 マギバは仕事に移行しようとした真面目な表情から一転、新しい玩具を見つけた子供のように無邪気に口角を吊り上げる。


「イケる、そう判断したんだな?」


「儂の眼を疑うのかの?」


 顎髭を撫でながら数秒考え込んだ後、マギバは俺に目を合わせてくる。


「こいつの持ち手は嬢ちゃんか?」


 こいつ……あぁ、刀のことか。


「はい、私の武器です」


「ふむふむ……数個、質問させてもらう」


 刀と俺を交互に数回見やり、口を開く。


「一つ、武器を何だと思っている?」


 おーっとこれはイベントフラグの予感がビシビシするぞー?


 それもどちらかと言うと発生フラグというより失敗フラグって感じ。此処で選択肢をミスったら強化イベント自体がぽっきりと折れてしまいそうだ。


 ならどうすればいい?

 今までは相手に合わせて適当に格好つけて返答する、ってのがこういうイベントの通説だったのだが、このレベルのAI相手だと下手な嘘を見抜かれる可能性も大いにある。


「戦友であり、私を形作る要素の一つです」


 俺の口から放たれた言葉は嘘ではない。

 実際武器に愛着がわくことはあるし、侍というプレイスタイルでゲームをする以上俺の一部と言っても過言ではないだろう。


 けれど、只の俺の本心じゃない。RP混じりの、どちらかと言うとスタラ・シルリリアよりの返答だ。


 これが俺の回答。嘘はつかず、けれど誠ではない。自分の気持ちの上にRPというトッピングを盛り付けて、ありきたりな真実を英雄譚まで押し上げる!


「二つ、何故この里の防衛戦に参加しようと思う」


 そう、来るか。

 参加した理由は面白かったからだけだ。けれど、其れじゃ足りないんだ。考えろ、キーワードを繋ぎ合わせろ。


 参加した理由は盛ることはできない、いいや、違う。これはクエストを受けた理由じゃない、この里を防衛する、その理由なんだ。


「守りたいものがあるからです」


 このクエストに集中する理由は、この里にナーラちゃんがいることだ。華火花さんがナーラちゃん含めたあの人たちを守りたいと願うから、その手助けをしたい、それが理由だ。


「守りたいが、剣を振るうのか?」


「自分の手で守れる程の者じゃありませんから。障害を切り伏せる事、そうでしか成せないんです」


 自分の手で守ろうとすれば、掌からすり抜けてしまうことだってある。簡単に言えば護衛ミッションで盾構えてたら反対からアサシンキルされたりするってことだよ。


 結局両手に盾持って護衛NPCを守るのと両手に剣握ってエネミーを全部切り伏せる事、過程は違っても結果は同じというわけだ。


「成程な……最後に、何故未知に挑む」


 こちらの目を真っすぐ見据えた初老の男が纏う気配に、頬に汗が伝る。


 炎のような、暑い、熱い気迫。これは威圧でも何でもなく、真摯さから生まれる者なんだろうと直感が判断した。



 鍛冶師として、自分の技を振るうに値するのか、この武器を持つ資格はあるのか、見せてみろ、答えてみろ。瞳は、そう語っていた。


「私は……」


 勝手に口が動き出したのは何故だったのだろう。RPをしていたから、スタラに入り込みすぎてしまっていたのか。それとも、憧れが心に根付いていたからだろうか。


(あこがれ)に手を伸ばしたい」


 漏れ出た言葉は、【星ヲ望ム者】としての意味も重なっていた。


 ……なんか無意識化でRPし始めるようになってない?中二病、まだそこに居たのか。こういう場面は良いけど日常会話で出てきたらほんとにひっぱたくからな。


 しん、と凪いだ水面のような静けさが一体に広がる。工房に居る他の鍛冶師たちもいつの間にか手を止め、黙りこくってこちらに耳を傾けていた。

 そして、余りにも長く感じる数秒が過ぎて、マギバが重たい口を開いた。


 やることはしたよな?これで失敗だったらマジでどうしたらよかったのかわかんなくなるが……


「はっはっはっは!!生きのいい若者を連れてきたもんじゃのぉカリア!その仕事、俺が承ってやろう!」


 答えは現代社会だとみることが珍しい程の大爆笑で返された。よっし!コミニケーション満点!花丸!


「くかか、スタラなら気に入られると思ったわい」


 笑い続けるマギバを横目にカリアさんは満足そうな笑みを浮かべる。というか知ってたなら一言くらいかけてほしかったけどねカリアさん。


「鍛全!俺の弟子ならいつかやらなきゃいけないことだ!よく見ておくんだな!」


「押忍!」


 インテリな見た目とは裏腹に武闘派な掛け声を出す鍛全さんを横目に、マギバは楽しそうに話始める。


「嬢ちゃんみたいな子に使われるんならこいつも嬉しいだろう!ちょっと待ってな、そう経たん内に完成させてやろう!」


「はい!」


 言い方的に強化に時間がかかるっぽい、一旦区切りもついたしログアウトするかなぁ。先に華火花さんにそれを伝えてから宿屋に……


「あ、スタラさん。僕からも一つ質問していいですか?」


 歩き出したマギバについていこうとしていた鍛全さんが急に振り返り、近づいてくる。


「え、どうしました?」


 まぁ生産職と言うのは前線で戦う限りお世話になっていくプレイヤーだ。質問があるというのなら答えて損になることはないだろう。


「そのアクセサリってどこで手に入れたんですか?良ければ」


「失礼しましたーっ!!」


 質問を訊き切る前にモーションを開始し、工房から出ていく。それだけは答えられない!っていうか答え方がわからない!なんせ俺もわからないから!


 質問の途中で居なくなるのは申し訳ないけどあれはダメな目をしてたよ。

 職人特有の気質は執着にもなりうるんだよ、あのままあそこに居たら質問攻めにされていただろうことは想像に容易い。


「えぇっ!?」



 ◇



「鍛全……振られたからって落ち込むことはないぞ?」


「そうじゃな、スタラはああ見えて案外押しに弱そうじゃし。諦めるには早いじゃろうて」


「急に口説こうとするのは……結構、引いたかも」


「なんかあらぬ罪を被せられてません!?」

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