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職人は鉄を打つ

「壊れ性能では……!?」


 影に触れているというお手軽条件で自強化ができるっていうのもステータスが低い俺の性能に合致している。エンチャントも腐ることはないだろうし……


「試してみなきゃな」


 先ず渓谷に突っ込んで軽く性能検証と……いや、刀の修理が先か。


 買い替えるのもありだが、ちょっと愛着がわき始めてるから使い続けてあげたいところがある。じゃあ鍛冶屋に……鍛冶屋何処だ?探すところからかぁ


「あ~……スタラ?」


 カリアさんが申し訳なさそうな声を出す。


「どうしました?」


「考えに耽るのを責める気はないのじゃが、一度着てほしく思っての」


「あっ、すいません!」


 この装備はカリアさんから俺への贈り物という肩書であり、なら贈った側が気に入ってくれるのかとかそういう疑問を持つのは普通の話だろう。


 気分が上がりすぎたな、好感度調整云々もそうだが人間としてあんま良くなかった。


「えーっと、ここを……こうか」


 革装備から影纏一式に装備を変更。

 身に纏っていた革の防具がポリゴンに変化し、崩れ落ちた先には影のように黒い衣服が潜んでいた。


 装備のデザインの関係もあるのだろうが、妙にボロボロの布切れ感が拭えないのは贈り物としてどうなんだという感情は口には出さないことにした。


 かっこよく言うのなら死神の衣装、元も子もないことを言うならボロボロの喪服って感じの装備だ。

 なんだかんだ言ったけど厨二病患者が抜けきっていない男子高校生からすると好きなデザイン。


 気になることと言えば暗所で黒いものが動くと人間の目はそれを捉えるから影に潜めないんじゃない?とかは感じるけど無粋なのでやめておこう。


 ファンタジー、ファンタジーだからね?


「中々いいんじゃないかの?」


「ん、似合ってる」


「有難う御座います」


 褒めてくれるのは良いけど自分で確認できないのはVRの悪いところだな……。刀があったなら刀身に反射させたりできたけど、さっき丁度破壊しちゃったからなぁ。


「カリアさん、ここら辺に鏡とかありません?」


「スタラの刀でも見れ……そこに無いということは、破損でもしたかの?」


「その通りです」


 腰に視線を落とし、刀を腰に掛けていないことを確認しただけで大体の結論にたどりついている。ここまで高レベルで察せるのか、このゲームのNPCは。


「んー、丁度いいかの。破損した刀と『遍倣』の一部を渡してくれんか?」


 ……おっと?もしかしなくてもこれは武器強化イベントでは?


 迷うことなくインベントリから破損した刀と素材の大半を出現させ、カリアさんに手渡す。


「ふむふむ、これならいけるじゃろうな。少し時間をくれんかの?」


 手渡した素材と刀をまた何処からか現れた蝙蝠に持たせて観察し、結論が出たのか蝙蝠を変形させて袋状にし、仕舞い込む。


「何をするんですか?」


「修復と強化……いいや、ここまで好かれているなら本質も引き出せるじゃろ」


 妙に壮大な言い回しに内心疑問を抱く。

 里長、つまりクエストNPCからの装備の贈与、それに加えて武器の強化ではなく進化のような要素という大幅な助力が指すこと。


 思い出せ、里の中でこの装備と似たようなデザインの装備を着たプレイヤーは見なかったはずだ。

 ……可能性は三つ。単純にここに呼ばれるようなプレイヤーはもっといい装備をしているか、俺の受けたクエストと他のプレイヤーの受けたクエストが違うからか、クエストの内容的に今の俺じゃ力不足だからか。



 三つ目だった場合が一番ヤバい気がする。結構な壊れ装備を渡してもまだ足りず、装備の進化までも受動的にさせなければならないクエストってことになるからな。


「スタラはついてくるべきじゃが、華火花はどうする?」


「これからしたいことも無い。同行する」


 流れる様な会話で華火花さんがついてくることになったぜ!


 NPCが一人のプレイヤーの強化イベントに他のプレイヤーを勝手に同行させることってあるんだね。別に華火花さんなら何も文句はないんだけど。


「了解、こっちじゃ」



 ◇



 がん、がんと鈍い音が響き渡る工房で。

 プレイヤーもNPCも関係なしに、職人たちが素材と向き合い、金づちを振るっていた。


 あれ、なんか金づちの先に魔法陣出てない?このゲームの鍛冶ってもしや魔法系……?


 中々の広さを誇る工房をカリアさんは真っすぐ進み、二人で何やら談義しながら鉄を打つ男たちの元に向かっていく。


「マガギビア鉱石は防具には合わんだろうて!使うのは武器じゃろう!」


 怒号を飛ばすのは深紅の体毛を埃で染める初老の男性。


「わかってないですねマギバさん!この加工しずらいのが良いんじゃないですか!」


 それに負けず劣らずの熱量で応答するのは、片眼鏡モノクルを掛けた黒髪の青年。


 キャラクターネームが見えるところから、どうやらプレイヤーであるらしい。あんまりにもこの場所に馴染みすぎて表示がないとプレイヤーって気づかなかったと思う。


「なぁそう思うだろう!里長!」


「どう思いますかカリアさん!」


 頭の後ろに眼でもついているのか初老の男性が勢いよく振り返り、それに追随して片眼鏡のプレイヤーもカリアさんに話を振る。


「くかか、デミアルトラで物事を決める方法なぞ一つじゃなかったかの?」


「「勝負!」」


 その言葉に則って……と言うか訊く前から知っていたのか素早い動きで同じ素材に二人揃って金づちを振り下ろし始める。


「えっ、と?」


「スタラもお世話になるじゃろうて、武具や防具の制作には大抵この二人が絡んでいるからのぉ」


 そういう事が聞きたかったんじゃないけどなぁ。と言うかプレイヤーなのにそんな地位まで上り詰めてるのは普通に快挙じゃない?


「……吸血鬼の方がマギバ、鉱石と武具狂い」


 俺の疑問を感知したのか、静かに華火花さんが説明を始める。


「宜しくなぁ!」


「あっ、どうも?」


 金属を打つ手を止めることはなく、非常に快活にマギバと言うらしい吸血鬼の男は返事をする。


「こっちのプレイヤーが鍛全こうぜん。名前の通り何狂いとかじゃなくて鍛冶狂い、ちなみに自分で認めてる」


「どうも!鍛冶狂いです!」


「どうも」


 鍛全。鍛える、全て。全てを鍛えてやる、みたいなプレイヤーネームなのかな?生産職やるためだけみたいなプレイヤーだなぁ。


「カリアさん」


「何じゃ?」


「この里って癖強い人多かったりします?」


「「今更?」」


 華火花さんとカリアさんから同時に帰ってきた返答に、この里に最初に着いた時に華火花さんが言った言葉を思い出す。



 『結構おかしな場所』……もしかして比喩とか抜きで里自体がおかしな場所ってことだった?

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