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波乱に備えよ

 吸血鬼の里、デミアルトラ。その宿屋の一角にて『攻征隊』の三人が茶(輝來持参)をしばいていた。ちなみに現在最前線の拠点でのみ採取できる茶葉からできているので、プレイヤーからすれば超高級茶葉である。


「らしくもないこと言って、どうしたの?」


「何のことだ?」


 唐突に話を持ち出した輝來に、アマントは怪訝な視線と口調で返す。


「スタラちゃん達にだよ。打算何て言葉、私には使ってなかったよね~?」


 冗談っぽく質問する口とは逆に、冷え切った瞳の奥の炎は暗に「私に意図を説明しなかった理由を話せ」という輝來の心を示しているのだとアマントは感じ取った。


「……別に、打算だけで動いてたわけじゃない。他のプレイヤーの支援をしたいって話も本音だ」


 溜息一つ吐き出してから、虫の居所が悪そうにぽつりぽつりと説明し始める。


「けど、あのプレイヤー達……特にスタラ・シルリリアには、それは伝えない方が良いと思っただけだ」


「どうして?」


 次々に話を促す輝來に……ではなく、これから話す内容と自分に憂鬱そうな顔をしながらも、アマントは話を続けていく。


「皆を楽にするために助けました、礼は要りません……本来、俺だってそうしたいさ。けど、それじゃ回らなくなり始めてる」


「あそこまでのPSを持っているプレイヤーならすぐここまで上ってくる。だから敵に回したくない、ってところか?」


 アマントが心情を話すよりも先に、大体を推測してバジトーフが言葉の先を繋ぐ。


「対人要素の多いL2FOの中で敵は増やしたくねぇよな」


 初めの頃はモンスターを倒し、自分を強化し、またモンスターを倒すような、そんな王道のMMOだと思われていたL2FO。しかし、このゲームは違った。


 どの陣営の味方に付くのか、どの部族を敵に回すのか、ひいてはどのプレイヤーを敵に回すのか。異常なリアリティだから、クランの先頭で旗を振る三人だからこそ、生まれてしまう問題。


「それは助けた理由の一端だ。それだけなら彼女たちにそれを説明する必要はない」


「じゃあ何で?」


 眉間に寄せた皺を一層深め、静かにアマントは呟いた。


「人を着いてこさせるには必要なのは真実じゃない、納得だ。何というか……スタラ・シルリリアには、それを理解している感じがあった」


「感情より理論を優先する、みたいな話か?そうは見えなかったけどなぁ」


 気楽にそう返したバジトーフに、深い、深い溜息を吐き出しながらアマントは返答した。


「そう見えないから踏み込みづらいんだ。疑う所作すら見せず、内心も見せないような立ち回り。俺やバジというよりも対人勢に近い特徴だな」


「へ~……アマントが言うならそうなのかもね」


 直感で動くタイプの輝來が選んだクランメンバーの選定をしているのはアマントだ。

 それ故、アマントの人を見る目に関しては二人は全幅の信頼を置いている。現にそれは間違っておらず、スタラは三人に本心を見せ切っていない。


 裏切りが前提の場所で戦ったことがあるというのも要因の一つではあるのだが、強制ネカマの所為で彼女がRPをしているというのもアマントが内心を計り知れない大きな理由であることを彼らは知らない。


「まぁ、だから打算的な言葉を使った。そうした方が仲間に引き込みやすいプレイヤーだと思ったからだ」


「……今は納得してあげるけど、次はちゃんと相談してよ?アマント」


「わかってる、今回は独断で動きすぎた」



 ◇



 吸血鬼の狩場、キグニミラ渓谷から脱出し、三人と別れた俺達は、待ち構えるように立っていた里長とエンカウントした。


「カリアさん?」


「くかか、お疲れ様じゃ。スタラ、華火花」


「……何でここに?」


 短い付き合いでも自由な印象を持たせるカリアさんではあるが、それでも人を従える立場である。


 それにいつ敵が攻め込んでくるかわからないこの状況ならカリアさんは暇ではなさそうだが……


「少し用事を済ませに来ての。それに、お主らが随分なモノを狩ったようだし、儂から出向かんとのぉ?」


 実に愉快といった笑みを浮かべながら、視線を俺と華火花さんに送ってくる。随分なモノ、コテピリオルの事だろうか。


 それが里長から出向かなければいけない位の事態であると……え?討伐したら駄目な奴だったのアイツ?自然遺産みたいな?保護されてるんだとしたらボスとしての威厳を思い出して欲しい。


「あれを討伐した責任があるなら、スタラじゃない」


「いいや、責める気など毛頭もないわ。アレはアレで厄介じゃからのぉ、面倒なことになる前に狩ってもらって助かったわ」


 カリアさんは無害を示すためかわざとらしく手をゆらゆらと揺らす。


「じゃあ本当になんでここに?」


「端的に言えば……贈り物じゃ」


 その言葉に応じて、バタバタと羽ばたく音が数多にも重なって響き渡る。


 音の方向を見てみれば、空を羽ばたく赤黒い蝙蝠の群れだった。一つの乱れもなく、まるで自分たちは郡で個であると示すかのように、隊列を組んでこちらに飛んでくる。


「スタラ、餞別じゃ」


 蝙蝠たちは俺の目の前に来た途端に溶け、血液の箱となって着地した。えぇ、何この素敵演出。カリアさんの強キャラ感が強すぎでは?


 恐る恐るその箱を開けてみれば……


「服?」


 丁寧に折りたたまれた黒い、暗い衣装が仕舞われていた。


「影に潜み、影に塗れる儂等の象徴。『影纏・頭巾』と『影纏・衣』じゃ」



 ◆


影纏・頭巾:影を編み込んだような漆黒の頭巾。

 それはデミアルトラにのみ伝わる製法で作られた衣装である。影に潜むならば、獲物に瞳は見られるものでは無い。見ているのは、深淵のみであるべきだ。


効果(一):暗闇での視界補正


効果(二):「影纏・衣」と同時着用時のみ発動する。影に触れている時間分『影喰かげぐらい』ゲージが蓄積され、それを消費して装備中の武具に『属性付与エンチャント影喰かげばみ』を付与する。


※『属性付与エンチャント影喰かげばみ』:『影喰かげぐらい』の量に応じた威力の影属性攻撃力を付与する。



影纏・衣:影を編み込んだような漆黒の衣。

 それはデミアルトラにのみ伝わる製法で作られた衣装である。影を纏うものよ、影は、其方を抱きしめる。それは、取返しもつかない程に。


効果:「影纏・頭巾」によって蓄積される『影喰かげぐらい』ゲージを消費して、装備者のステータスに上昇効果を与える。



 ◆



 あーっと……?テキストの内容を整理すると、影に触れている時間分ゲージが溜まって、それを消費して武器にエンチャントできたり自分にバフがかけれたりすると。バフの上昇量にもよるが


「これ、壊れ性能では……!?」


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