真紅は参る、戦況は動き出して
銀色の爪が迫る、後数秒も無い。
爪、刀、スキル、リキャスト。
ぶつ切りの思考を組み合わせて、行動に変化させる。下がれば囲まれたまま、なら。間に合わない、当たる
「ぐ……!」
ほんの少し、後刹那さえあれば足りたのに。駄目、か。加速し始めた体と、振り下ろされた爪が接触する……その、瞬間だった。
「スタラ!」
響いた声の主を理解するよりも先、一瞬硬直した爪の下を姿勢を屈めて潜り抜ける。
踏み込み君さては普通に強いな?一番お世話になってるまであるぞ?まだレベルアップするんですってこの子。
いや、今はいいんだよそんな事。其れより、飛んできたナイフ、俺を呼ぶ声……色々起こりすぎて正直パーティを組んでたことをちょっと忘れかけてたけど
「華火花さん!」
「ごめん、遅れた」
背中側からの攻撃を回転しながら受けて対処し、転がるように移動して通路から出てきた華火花さんの方に移動する。
「状況は?」
「五体の群体モンスターだったんですけど合体しました」
「……了解」
俺の顔と手元に出てきたボス出現のウィンドウを視線だけで数回反復したのち、色んなものを噛み潰した声で華火花さんは返答を返した。
質問が大量に思い浮かんだみたいだけど抑えてくれて感謝。答えてる暇は作ってくれないみたいだし……な!
合体してない方の一体の攻撃を受け、止めたまま一歩前進する。今までリスク管理的に反撃はしずらかったが、二人なら別!ポリゴンばらまけオラァ!
「朱月!」
遠距離攻撃である朱月を近距離で放つことで銀と赤の二段斬撃に変化させる。
ダメージはなくとも単純計算で怯みが二倍!好きに隙を晒しまくってくれ。
ちらりと横を見ればでかい爪の方は華火花さんがヘイトを稼いでくれているようなのでこっちに集中。
居合の体勢からの返す刀で怯んでいる方に一発攻撃を加え、庇うように攻撃してきたもう一体を回避しながらローキックで転ばせる。
人間味が無い、というのはこいつらの長所で短所だ。
人間と戦っている感覚で動けば関節云々を飛び越えた異常な可動域の攻撃を喰らってしまうというのは長所だが、二本足で歩くのが下手なのは短所になる。
二本足で歩くのが下手というのは歩行に違和感があるとかより……なんて言うんだろうな、踏ん張りが無い?
爪を振り下ろした時だったりの重心が傾くタイミングで攻撃すれば妙にあっさり怯むし、前傾で走ってる時なんかに足をひっかければ面白い感じで転ぶ。
具体的には顔から地面にダイレクトイン。
「ソードプロッド」
怯みから復帰した方の喉仏(確認できないけど)にスキルを叩き込み、ついでに転んだ方に蹴りを入れておく。
別に恨みがあるわけじゃないけど少しでもダメージをね。いや複数人で囲んできたのはちょっと許せないなぁ、恨みカウンター追加。
「あ、回復あげるよ」
二体と戯れていた俺に対して、巨大な爪を振り回している方から逃げていた華火花さん。
偶々位置が近かったついでに回復してくれるらしい、ありがたい。
「ありがとうございまぶええ」
うーん体から漂う紅茶と青汁の混ぜ物みたいな匂い。えぇ?もしかしなくても今ポーションぶっかけられた?これ経口摂取で回復するタイプなんじゃ……いやHPバー伸びてるわ。皮膚からでも行けるんかい。
「こっちの方が早かった、ごめん」
「いいん……ですけど!」
巨大爪の攻撃を捌きながら謝罪する華火花さんに、俺も二体の相手をしながら返答する。
相手って言っても見つけた弱点の所為で順番に転ばしたり怯ませたりするだけの作業ではあるのだが。
「と言うか……これ効いてる?」
「結構戦ってますけどポリゴン出た事ないですよ」
俺の報告に華火花さんは僅かにうへぇと唸った。
「『暗殺者』は火力でないからわかるけどっ……『侍』がそうなら」
『暗殺者』というのは華火花さんの職業だ。
夜眼がきいたり隠密状態に関するスキルが獲得しやすいが、短刀など所謂暗殺者っぽい武器以外だとスキルが手に入りずらいせいで正面戦闘では火力があんま伸びないとは華火花さんの談だ。
「ギミック、っぽいですね」
そこそこ長い間戦ってきてわかったのだが、こいつら正直あまり強くない感じがする。ステータスは俺より上なのだが……いや待てよ?ステータス下がってる俺と拮抗するぐらいって言うとあんまり強くないのでは?
こいつらダンジョンボスのくせしてボスの風格が無くなってきたな。まぁ倒せる方法がまだ見つかってないのが最後の砦と言った所か。最後の砦でっか、越えれる手掛かり見つかってないんだけど?
「こいつらって……個体なの?」
「……あれ?」
華火花さんがぼそりと呟いた疑問。一体一体の個を持ったモンスターであるのかという質問。何気ないものだったのかもしれないそれは、靄のかかった真相に手を伸ばすにはあまりにも十分で。
ちょっと近い!今考え事中なんだよ!
「朱月!」
「群体って言ったのはスタラでしょ」
「確か、に?」
確かに、確かに言った。五体の群れではなく、五体の群体モンスターだったと発言した。
だってボス出現のウィンドウもさも一つとしてカウントしますよ!みたいな感じで一つしか名前書かれてなかった……し……?
「だからか?」
一体を転倒させつつ、攻撃しようとしている方に袈裟斬りの要領で斜めからの切り下しを叩き込む。
こいつらは一体のモンスター、けれどさっきは五体、今は三体だ。
このズレを修正するのが鍵なんじゃないか?こいつらは合体することで体の部位を大きくした。どうして?大きな爪を造るためにリソースが必要だったからのはずだ。
もう少し、もう少しで弾き出せる気がする。
キーワードはどれだ?模倣、リソース、ボス、スライム……核?
「そういう事か……!」
必要なのは、分類の近いフィールドボスのビッガー・スライムと共通した、それでいて過程の異なる考え方。ビッガー・スライムは攻撃に、こいつらコテピリアルは模倣にリソースを使っていた。
ビッガー・スライムは攻撃するためにリソースを消費していた。コテピリアルは……分ける?自分のリソースを何体かに……分配、そう、分配だ。
ビッガー・スライムは核を体内に持っていた。では、こいつらは?
ばちん!と、頭の中でピースのはまった音が響いた。
攻略中に考察しないといけないの辛いって!こいつらはまだ対処が簡単だからいいけど高難易度でこれしなきゃいけないなら人間には無茶では!
「華火花さん、作戦があります……!」
「わかった、乗る」
聞くまでも無い、と言外ににじませ、華火花さんは返答する。
「こいつらは多分、一体にならないと倒せません」
攻撃を躱し、懐を潜り抜ける。そのまま相手から距離を離し、華火花さんの方へ走りぬける。一気に相手にする敵の数が増えてしまうという点で、普通なら悪手であろう一手。けれど、それを正解だと断じる。
「証拠は聞かない、それしかないみたいだから。けど、どうやってするの?」
好都合に隙だらけで走ってきた獲物を潰そうとする巨大な爪の攻撃を踏み込みで加速して回避し、華火花さんの横に立つ。
「普通に戦ってた感じだと合体する様子は見せなかったけど」
そう、普通の立ち回り……分断して個別で対処するんじゃこいつらは合体しない。
じゃあどうすればいいのか?唯一こいつらが合体した場面、俺を挟んで、追い込んだ瞬間。ならば
「恐らくですけど、合体のトリガーは……」
さぁ、終わらせようコテピリアル。
戦闘時間が長すぎるから巻きでな!