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奈落で動き出す者たち

 物陰に何とか自分の姿を押し込み、少しだけ安息を得る。危なかった、暗闇在住だからか視力を捨てて聴覚に振り切ってるモンスターが多かったからこそ俺の「走ってるのに足音がならないやつ」で振り切ることができた……

 ちなみにそれに集中するせいで攻撃も防御もできない上に視認されたら終わりなので使いどころは結構難しかったりする。


 さーて、ここは何処なんだろうか。逃げるのに必死でよくわからない通路に滑り込んだ俺は、控えめに言って迷子であった。風景があまり変わらない上に薄暗いから何処に行っても動いた気がしないのだ。

 システムの補助が無ければ前も見えないくらい真っ暗だったと考えるなら少しはましなのかもしれないが……


「ぐぎゃが……」


 障害物を隔てた向こうの通路を歩くモンスターを偵察する。あのタイプは目自体が無いのでちょっと大胆に体を見せても何の反応が無いことが今までの経験からわかっているため、岩から顔を出して相手の動向を見守る。

 慌ただしく走り抜けようと足を回転させる姿は、只の待機モーションと言うより逃亡と言った感じで。他のモンスターに襲われた?いや、俺を囲んでいた奴らは連携とまでは行かずとも徒党を組んで襲い掛かってきていた。じゃあプレイヤーに攻撃されたのか?

 どうするべきか、プレイヤーに襲われたならモンスターと反対方向に行けばプレイヤーに逢える可能性が出てくるが、まだあのモンスターが敵対した違うモブに襲われた可能性もあり……。

 あーなんかもういいや!尾行ミッション開始!お前が逃げるであろう安息の地まで連れてってくれよ!



 ◇



 スタラが行動を開始したのと時間を同じくして、キグニミラ渓谷内部。


「や~っと終わったぁ!」


「輝來がこんな場所で雷魔法使うからだろうが……」


「まぁ良いだろう?音に過剰反応する蝙蝠何て聞いてなかったしなぁ」


 このダンジョンに侵入していた『攻征隊』の三人は、激戦(魔法の音に反応して大量に襲い掛かってきたモンスターの対処)を終え、回復ついでに休息していた。


「あいつら逃げちゃったけど大丈夫かな?」


 ふと、輝來が発した疑問。あいつらという言葉がさす相手は、蝙蝠と戦っている最中に現れた数体の人型?モンスターの事だった。


「あのキメラか……まぁ、大丈夫だろう。ここまでの道中他のプレイヤーは見なかったしな」


 議題となったのは、自分たちが逃がしてしまったことで他プレイヤーに被害が行かないかと言う事だった。普通のモンスターならばこんな話をすることは余りないのだが、今回に限ってはそうもいかなかった。

 様々なモンスターの特徴を合わせて人型にした金属製のモンスター、とでも表せばいいのだろうか。獣のような爪、背中から生えた翼、人間のような四肢。全てをごちゃまぜにして金属でコーティングしたといった外見の、何とも度し難い感じのモンスターであった。

 けれど、問題はその見た目ではなく性能の方にある。人間でありながら人間離れした体の使い方、この辺りにしては高すぎるステータス、そして数体での一糸乱れぬ連携……


「まぁ、仮にあれに逢ったら不運だと思ってほしいけどなぁ」


「この辺だと初心者さんもいるだろうしね~!」


「俺達位じゃないと対処できないとは言わないが……ルーキーの対処できる範囲じゃない」


 自分たちでさえ全力で逃亡するあいつらを逃がしてしまったのだから、と騎士は言外で匂わせて。それを察してか、カウボーイが口角を吊り上げて言葉を零す。


「ちょっと悔しがってるか?」


 騎士は否定しかけた口を噤み、本心を吐露する。


「他のプレイヤーの支援も俺たちの目標だろう?」


 自分たちの背を歩く誰かの攻略が少しでも楽になるように、少しでもこの世界を楽しめるようにと活動をしてきた彼ら。攻略最前線である以上、その矜持に反してしまう行いに、僅かではあるが後悔の念が騎士の表情には募っていた。

 ゲームの中ではあるが、いいや、だからこそ自分の信念に反してしまえば面白くないと、そう思う心もあるのだろうが。


「ん~、じゃあ追おうか!」


 その一連の流れを全て鑑みて、それでも満面の笑みで輝來は提案する。いいや、《《命じる》》。


「りょーかい」


 肩の力を抜いた中年カウボーイが、その言葉を疑いもせず、反論もせずに承諾する。


「……感謝する」


 騎士は、アマントは理解した。自分たちのクランリーダーは、この世界を心から楽しんでいる。だからか、他人の「楽しくない」に非常に敏感なのだ。周回をしている時、クラン内で意見のすれ違いが起きた時。どんな少しの不満であろうと、彼女は察知し、解決する。

 今彼女が自分に判断を委ねずに命令したのは、自分が提案を断り、攻略を優先することを知っていたからなのだと。それでは自分が最終的に心にしこりを残し、「楽しめない」からなのだと、理解した。


「敵わないな……」


 二人に聞き取られることのなかったその言葉は闇に掻き消され、歩き出した二人の背中が残っていた。


「でも、どうやって追うんだ?」


「そこは秘策があるからね!」


 秘策とは言ったものの、中々使用頻度が高い上にこれまでの道中でも使ってきているという事実を、気分が高揚しているのが眼に見えてわかるクランリーダーに指摘する程二人は冷酷では無かった。


「【音響探知ソナーサーチ】」


 【音響探知ソナーサーチ】、それは初級の魔法の一つ。プレイヤーの可聴域を超えた音階の音波を放ち、その反響で周囲の状況を探る、奇しくも先程相手した蝙蝠と似た性質を持つ魔法である。

 本来、初級魔法らしく効果範囲が狭く、魔力消費が少ないという魔法なのだが……そんな常識すら、彼女は嗤って捻じ曲げる。数多のスキルが、身に纏った装飾品が、その魔法の使用をサポートし、上級魔法とも引けを取らなくなった効果範囲の音の波動が、洞窟内を駆けまわっていく。


「あ、居た……!?」


「え、どうしたんだ?」


 意気揚々と魔法を発動したかと思えば、顔が青ざめ始めたリーダーに思わず心配の声がかかる。


「えーっとね?魔物自体は見つけたんだけどぉ……」


「だけど?」


 罪悪感からか目が泳ぎ始めた輝來が、震えた声でそれを告げる。


「プレイヤーが、それに襲われてる……っぽい?」


「「あっ」」


 全速力でダンジョン内を駆けだし始めた攻征隊の三人と、索敵性能の高い謎のモンスター数体に見つかり、囲われて大慌てで応戦しているスタラ・シルリリアが出会うまであと数分。

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