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いざダンジョン

 吸血鬼、他人の血液を摂取することで生命維持を行う種族。その吸血鬼と=でつながる存在である『魂ヲ喰ラウ者』たちの里であるデミアルトラは、地下にあるのだ。それは何故なのだろうか。

 彼らの性質上、近くに生物が多くいた方が得なのではないだろうか。そんな疑問は、デミアルトラのさらに地下、あるダンジョンの魔物から血液を回収しているからに他ならなかった。


「が……っ!」


 俺の首を狙って振り下ろされた獣の爪を刀で受け止め、体を捻って流し受ける。体の捻りで生まれた回転でそのまま斬撃を放つが……かったい。()()に当たったなぁ?


「眼」


「了解!」


 白い狼のような外見をしたそのモンスター。名前を『オレスウルフ』と言うらしいそいつの特徴はなんと言っても毛の上に纏った装甲だ。便宜上装甲と呼んでいるのだが、本当はオレスウルフが食した鉱石が表面に出ているもの、とはNPC談らしい。

 一回消化されたから柔らかくなったなんてことはなく、鉱石ならではの堅牢さと動きを阻害しない位置にあることで狼のしなやかさも生かすことができる、結構厄介なモブだ。


「ここっ!」


 しかし、オレスウルフには明確に欠点がある。生物としての弱点の多くを覆い隠す装甲だが、ただ一つ丸出しになっている場所があって……なぁ、狼さん。そこは塞げないよなぁ、前を見なきゃいけない以上!

 爪の攻撃を潜り抜け放った突きは、何にも阻害されることなくその右目へ直撃する。激痛と視界が塞がれたことによって大きく体制を崩した狼、そんな隙を晒した獲物を、華火花さんは見逃さなかった。


「……やって」


 華火花さんが行ったのは単純な足掛け、けれど致命的なまでに疲弊した獣には、それは足のみならず命を刈り取る鎌となる。


「じゃあっ、な!」


 スキル『踏み込み』を発動。踏み出した一歩がシステム的に加速され、一気に倒れ込んだ狼へ距離を詰める。滑るように地を駆け、下段から一気に刀を振り上げる。装甲の隙間を縫い、狼の体に食い込んだと確信したのと同時、狼の体がポリゴンとなって爆散する。


『LvUp! 【???】→【???】』


 静寂が広がった洞窟の中に、刀を鞘に仕舞った音が反響していた。


『アイテム入手! オレスウルフの結晶液×10

         オレスウルフの石鎧×2  』

『スキルLvUp!  「剣術(技)Lv3」→「剣術(技)Lv4」

         「弾きLv1」→「弾きLv2」

         「踏み込みLv1」→「踏み込みLv2」  』

『スキル入手!  「ソードプロッド」』



 ◇



 狼を倒し、ダンジョンの中を進んでいく。ダンジョンと言っても迷宮と言うより、人工的に掘られた坑道と言った感じではあるのだけれど。


「入り口近くに出るのはあの狼と、でかい蝙蝠。他もいるけどあんま強くない」


 夕方にログインし、ふらーっと街中を探索していたところ偶々華火花さんと遭遇し、折角なのでということでダンジョンに突入してみた、と言うのがここまでの流れだ。

 『魂ヲ喰ラウ者』の多くはここでレベリングをするらしく、その例に漏れない華火花さんは勿論俺よりもここについて詳しいので、解説と案内をしてもらっている。何かもしてもらっている気がしてきて罪悪感が無いと言えば噓になるが、華火花さんから持ち掛けてくれたことなので良いことにする。


「蝙蝠?」


「数体で組んで音波みたいなのを飛ばしてくる」


「うへぇ……」


 音波、音波かぁ……。攻撃に使われる音波に良い思い出が無い。何だ防御貫通の音波グレネードって。味方を巻き込むのが弱点なのはわかるけど強制スタンはダメだってあれ、即弱体化されたけどさぁ!

 はっ、思考が過去に吹っ飛んでいた。流石にあそこまでのはやってこないだろう。やってこないで欲しい。


「今日は珍しく居ない。もう狩られてたのかも」


「プレイヤーは見てないですけど……」


「蝙蝠だから、音にすぐ反応する。一回戦闘したらいっぱい来るの」


「あ~」


 このダンジョンは分岐が多いので一回もプレイヤーと出会わない可能性もあるし、そのプレイヤーが音を出して蝙蝠を引き寄せたのなら辻褄も合う、か。


「それより、ほら。本番」


 いつの間にか、狭い通路の終わりにまでたどり着いたらしい。


「デミアルトラにくっついたダンジョン、名前は確か」


 キグニミラ渓谷、と。

 視界を埋め尽くすは何者かの爪痕のような渓谷。何処からか漏れ出る紫色の光を鉱石たちが反射し眩く光る、見下ろせば少し心臓に負荷がかかりそうなほど深い渓谷が、そこには待っていた。

 渓谷の自然と、現実では起こりえないような光の反射というファンタジーが入り混じった幻想的とまで言えるその景色、どうやらこれが、このダンジョンの本懐らしい。


「此処を中心に、色んな方向に通路が伸びてる」


「あ~、成程」


 渓谷の向こう側とかにポツポツある穴は穴と言うより「入り口」になってるってか。もしかしなくてもめっちゃ広いな?と言うか……こんなにデカい渓谷が里の下に?


「ここの上あたり里がありますよね?」


「うん」


「崩れないんですか?」


 俺が放った素朴な質問に、華火花さんは少し考えてから上を指さす。

 上に何が……なんか紫の光を放つ菌糸類がいっぱいある。鉱石が何の光を反射してるのか疑問だったが、天井にびっしり生えた発光紫キノコの放つ謎の光を反射していたらしい。あんなに生えられるとちょっと気色悪いな?


「あれが支えになってる、らしい」


 なんか納得したようで納得できてない気がする説明だぁ。


「……魔法植物云々だから、気にしなくていい」


「あ、そうか」


 前にやっていたゲームがリアル寄りだったからか失念していた。そうだ、ここは魔法だのが当たり前の世界観だった。だからマジック・キノコによって里が支えられても不思議じゃ……いや結構不思議じゃない?

 何かわかったような気がするのと同時に何もわからなかった気がする会話が終了し、華火花さんに視線を移す。


「反対は……今はいけないね。下の方が難しいけどどうする?」


 華火花さんの問いかけはつまり難易度選択だ。ん~……一気に下の方に行きたい気持ちもあるのだが、レベリングの効率的な面で行くと比較的楽にモンスターを倒せるであろう上の方から行った方が


「……!スタラ!」


「え?」


 ぐらり、と急激に視界が回転する。体勢が崩れた?何故?と混乱する思考の中で、視界の端に移ったHPバーを認識する。ほんの少し減ってる、じゃあ攻撃を受けた?考えてたせいで索敵がおろそかになってたか、それにしても音もなんも無かったよなぁっ!

 くっ、このままじゃころ……っ!?


「あ」


 俺を待っていたのは顔面からの転倒、ですらなく。眼が合ったのは渓谷の底の底、そこで待ち受ける深淵。


「やばっ!」


 つまり、谷底への落下だった。

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