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世界について知ろう

 その後会話の内容を知ろうとするナーラちゃんの無邪気な詮索を何とか捌ききり、宿屋に戻った俺は手早くログアウトした。と言うことで今の俺は私ではなく俺と言うことだ。ん?自分で言っててよくわからないな。

 まぁ現実に戻ってきたという訳であり。何の問題も無く男子高校生としての機能を取り戻した自分の体を一度ぐーっと伸ばし、椅子に座る。


「攻略サイトは見るつもりじゃなかったんだがなぁ」


 そう贅沢も言ってられない状況だし、と自分を説得させてから半透明の画面をネットに接続する。


「L2FO……これでいいか」


 その中で一番上に出てきた、ゲーム内のクランが作ったらしいサイトを閲覧し、流し読みしていく。


「因子」


 結構ちゃんと纏められていそうなこのサイトでさえ因子の記述は曖昧だ。キャラクタークリエイトの際に恐らくランダムで決められる種族設定……と書いてあるのだが。恐らく、というか殆ど確定でランダムじゃない。

 俺のキャラクリ前にシステムから告げられた言葉は「特殊因子を検出」だ。検出ってことはそこで決められたわけじゃないだろう。それにあの口ぶり的に俺の過去を突き止めてる感じだったというか……


「やめとくか」


 これ以上考えたら触れちゃいけない領域に頭から飛び込む気がする。未知にうきうきで突っ込めるのはゲームの中だけだよ。


「因子一覧……結構多いなぁ」


 吸血鬼、エルフ、獣人族などなど。その何処にも『星ヲ望ム者』との記載はなく、誰かが秘匿していない限りやっぱ俺だけっぽいな?……まぁデメリットも大きいしね。と誰に言うでもなく言い訳しながら、タイミングが合ったらちゃんと然るべき場所に情報を流そう、と決意しておいた。


 クエストだのスキルだの気になる情報に後ろ髪引かれながら……というか実際数個文章を読みながらお目当ての項目にたどり着く。だってしょうがないじゃん!面白そうな事ばっか書いてあるんだもん!

 スキルに関しては職業、行動とかで分岐する可能性が濃厚らしい。ずいぶんと検証班が叫び声を上げて喜びそうなことを……。うん、その叫び声が苦悩から来るものだとしても検証班たちはそういう人種だからせっせと攻略サイトの情報を増やすんだ。がんばれ~。

 思考が大脱線した。本題は今俺の正面に刻まれた、『血の里防衛線』というクエストについてだ。


「やっぱ……()()


 そのクエストの内容は『魂ヲ喰ラウ者』の里、デミアルトラの防衛である。そこは俺の発生させたクエストと同じなんだ。大きく異なる点は、勿論クエスト名と、俺には腕試しがあったという事。

 『血の里防衛線』は吸血鬼のプレイヤーもしくはNPCから助力を求められることによって発生し、戦闘、または生産職は支援と言う形でデミアルトラの防衛に参加するクエストだ。

 そこには勿論腕試しなどなく、と言うかそれ以前に里長は結構レアNPCらしい。出会えたらラッキー!という経験値多めのモンスターみたいな書かれ方をしてた。


「まぁ、考えれば変だよなぁ」


 防衛線なんて基本的に人手が多い方が良いだろう。弱くても資源集めとかそういう仕事を振れるだろうし、態々カリアさん自ら選別する必要性が無いんじゃないか?と言うのはもっと早く気付くべきことだった。

 普通に考えれば意味のない事。しかし、このクエストの違いという要素が無意味を謎に変換する。


「俺の因子……多分違う。俺が関わること前提じゃない筈だ」


 暫定一人の『星ヲ望ム者』専用のクエストがプレイヤーの拠点の存続に関する問題に置かれている、なんてのは余りにも……。じゃあ何故?俺を一度可能性から除外するとしたなら残ったのは


「華火花さん……?」


 ん?今なんか引っかかったな。点が線になりかけたというか……。うーん、わからん。何がキーワードだったんだろう。駄目だなぁ、深夜だからまともに思考が働いてないや。


「寝よう」


 L2FOの中は時間がずれているから昼間だったが、現実は丑三つ時に入りかけようとしている。草木も眠る時間帯だ、俺も寝ておかないとな。



 ◇



 魂を喰らう者達の都、デミアルトラ。その中を、三人組の男女が堂々と闊歩していた。各々毛色の違う服装ではあるが、その全てに共通するのは豪華絢爛な装飾が点いているという事であり、特殊な場所と言えどはじまりの街付近であるデミアルトラでは異質な服装にだった。


「吸血鬼がいっぱい!可愛いなぁ……」


 と、金色の短髪を揺らしながら、さぞ楽しそうに女は言う。左手に持った長杖を振り回し、放っておけば今にでも走り出してしまいそうなほどの活力を見せていた。


「全部終わってからにしてくれ」


 それに呆れているのか、又は慣れ故の塩対応か。冷ややかな言葉を放ったのは、鎧を纏った西洋風の男だった。所謂イケメンに分類されるアバターであるが、これは作られたものでは無く天然ものだと説明して信じた者は一人だけなことは余談。それに付け加えてそれを信じたのは目の前を歩く金髪の女であることも余談だ。


「まぁ、許してやってくれよ。遥々来たんだぜ?楽しもうじゃないか」


 宥める様な反論を行うのは草臥れた印象を受けさせる男。ファンタジーなのに明らかに砂漠で馬を乗り回してバンバンしてそうな外見なのは、当人の趣味である。そのために生産職にオーダーメイドで作らせているのは、ある種の執念だろう。


「転送使ったからそこまで遠出でもないだろうが……」


 鎧の男がそう零すのは、女には届かない。


「ホント、このゲームはかわいい子が多くていいなぁ。ファーティアの銀髪ちゃんも見たかったんだけど」


「あー、ちょっと話題になってたな」


 ふと出された話題は何の因果か、この場所に、そしてこれからこの場所で起こる事象に深く関わることになる少女(少年)の事だった。


「あれって結局因子なのか?」


 カウボーイ男の質問に少しの逡巡を経てから女が放った答えは、簡潔で、余りにも単純だった。


「んー、わかんない!本人に聞けるといいね!」


 その言葉に「いつか会えるといいね」と付け加えて。

 彼女のその願いが叶うのは直ぐ近くの事であるのは、誰も今は知りえることはない。


「世間話は終わったか?」


「ばっちり!」


 和やかな空気を出す彼女たち。けれど、彼女たちはこの世界では大変有名な存在である。


西洋王子様騎士、だの長ったらしい呼び名のついた男、名前を『アマント』、《《対モンスター最強》》と呼ばれるタンクである。


気疲れカウボーイ、と不名誉な呼び名で呼ばれることを特に気にしていない男、『バジトーフ』。通称バジ。《《拘束系最適》》と呼ばれるプレイヤー。


最後に、キャラクターネームと、鬼のように雷魔法を扱うことから鬼雷と呼ばれる彼女。名を『輝來きらい』という、第一回PvP大会の()()()であり、先述の二人を含めた様々なプレイヤーを統べるクランの長。


「じゃあ、いこっか!」


 このゲーム内でも最高クラスの戦力を秘めたクラン『攻征隊』。名の通り「攻略」して「征伐」する彼らが、今動き出した。


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