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崩れる日常と新たな誓い 上

 決意を固め、意気揚々と飛び出した華火花と輝來だったのだが。


「あれぇ……」

「私達、要る?」


 現在、二人揃って立ち尽くしていた。


 いや、彼女らに出来る限りの攻撃や魔法は行使しているのだが、それを飲みこむような勢いで()()が吹いているのだ。


 それによって魔物が根こそぎ討伐され、結果的に仕事を見失っている。

 暴風とは、ご察しの通り。


「っ!」


 真白な彗星と化したスタラの事である。


 彼女が一歩踏み出せば、魔物が反応する前に首が切断されている。


 彼女が攻撃を受け流せば、返すカウンターが魔物を吹き飛ばし、血の斬撃がそれにとどめを刺す。彼女が刀を振り上げれば、世界が揺れるかのような轟音と共に敵対する者達が薙ぎ払われる。


 彼女の動きは、傍から見てもスタラの人生においての全盛であると理解できるほどだった。


 因子で強化された二人の視力であっても、彼女の動きに眼が付いていかない。速度自体は、認識できる程度に収まっているというのにもかかわらずだ。


 それすなわち、異様な技量。


 斬撃も、移動も、防御も一つの線で繋がっているかのように、淀みなく剣劇が演じられる。


 その美しさに、それが攻撃だと、戦いだと認識できず、眼が付いていかない。


「勘違い、してたのかも」


 華火花が思わずつぶやいた。


 スタラのプレイスタイルは「得意分野で殴り、対応される前に斬る」というものだ。そして、彼女の得意分野と言えば対人、読み合いに関するものだ。


 ならば、この環境は不利であると、華火花は認識していた。だから、助けてあげなくてはとも思っている。


 ──けれどそれは、間違いだった。

 関係ないのだ、今の彼女には。得意も不得意も関係ない程の翼が、彼女には生えている。


 一般市民を守る。

 対多数。

 対モンスター。


 不利。そこに一人で戦うという条件まで加われば、それはゲーム的に言えば縛りプレイとまで言える。それでも



 彼女かれは、全てを叩き切るのだ。



 ◆



 スキルを使わず、普通に疾走することで魔物との距離を潰す。


「GA!?」


 俺の動きに対応できず、出鱈目に伸ばされた腕を僅かに体を傾けることで避け、その体制のまま相手の頭と刀を交差させ、処理。


 他方から伸びてくる魔の手を見ることも無く躱し、その悉くを返しの刃で両断する。


 跳ねる血しぶきも踊るように躱して。

 純白のドレスはそのままに、ただ歩み続ける。


「たの、しいな」


 思わず口角が上がっていた。

 罪悪感も自責の念も忘れ去った、久方の心からの笑みだった。


「FYOFYO!!!」


 同胞を殺され、怒り狂った魔物が襲い来る。


 一瞬それを躱し、攻撃するところまで脳が映像を描いたが……やめることにした。すぐそばで、大変退屈しているであろう友人が二人いるのだ。


 魔物の爪が迫る。それに対して俺は両手を上げ、降伏のポーズ。


 そして、俺の後ろに控えていた彼女に満面の笑みでSOSを送る。


「助けて?輝來」


「【炎獄タルタロス】!」


 朱い焔が立ち上る。


 神話の監獄の名前が付けられたその魔法は名に恥じず俺を取り囲む。しかし、歩の炎の矛先が向いているのは俺に非ず。


 向かってきていた爪が燃え、溶け、届くことなく蒸発する。

 周囲で蠢いていた魔物達もその熱に当てられ、炎上する。


「やっぱり殲滅は魔法の方が良いよね~」


「……そうかなぁ」


 魔物が次々に倒れていく姿を眺めた後、輝來を見る。そこにはとても胡乱げな目で俺を見つめる少女が居た。


 流麗な金髪が魔法の光を反射し、淡い橙に染まっている。


「今のスタラなら、私に頼るまでもないんじゃない?」


「そんなことも無いよ、ほら」


 俺の背後に指をさす。


 そこからぬるりと現れたのは、炎に多少耐性を持つ魔物達だった。


 皮膚が爛れ、全身が焼け焦げても敵に向かってただ歩みを進めてくる。そして、それらが一気に牙を剥く──


「わぁ~、死んじゃう!」


 その寸前で


「わざとらしい」


 紅が、切り裂く。


 華火花が血液でできた短刀を振り、並び立つ魔物を細断する。その光景を一瞥もせず判断し、輝來に嗤いかけて見せた。


「ほら、一人だと対処できない」


「気づいてたら防げるでしょ」


「バレたかぁ」


「バレるも何も……」


 冗談はこのくらいにしておいて。

 燃え盛る火に切っ先を向けなおす。


「今こそ処理が間に合ってるけど、この量をずっと出してくるなら限界は来る。なら、ここから負担を軽くしといた方が身のためかなって」


 疲労や疲弊が溜まった状態では、限界が来る。

 どれだけ調子が良くてもその現実からは逃れられないのだ。ならば、少し彼女らに寄りかかるとしても、疲れを軽減させた方が良いと判断した。


「まぁ、それは一理あるかもね!」

「珍しく、正論」


 それには二人も同意なのか、杖と短剣を構えなおす。


「二人には戦わせないのが理想だったんだけどなぁ


「甘いこと、言わない」


 華火花に背筋を正される。


「助けに来たのは私たち何だから、ちゃんと助けられて」


「……了解」


 そんな会話を終えたあたりで、輝來が放った魔法が消失する。


 煙をかき分けて現れたのは、遠近法が狂ったとしか思えないおおきな影だった。二本一対ずつの脚と腕とシルエットは人間そのもの。


 異なる点があるなら、その全てが大理石のような素材で出来ているということ。それに加えて、全ての関節が球体に置き換わっているということだ。


人形ゴーレム。懐かしいね、華火花」


「あれと同じにしていいの?」


 規模こそ違えど、獣森戦争の時に二人で相対した記憶が掘り起こされる。といっても、あの時の三人目は輝來ではなくきゅうべだったのだが。


「私抜きの思い出話?」


「あの時は敵陣営だったでしょーが」


 そろり、と緩慢な動きで人形が首を動かす。

 その巨体に見合ったというべきか、動きはのっそりとしている。これなら、そこまで苦労もなく倒せ


 バチ、バチバチ


「……これ、何の音?」


「ゴーレムの顔見ればわかる」


 人間らしいパーツはなく、やすりで削られたように凹凸のない顔。


 大理石のような白だったはずのそれが、いつの間にか黄色に染まっている。それに加えて、よく見れば顔全体に電流が流れているように見える。


 これは、もしかしなくても。


「散開!!」


「うわっ!?」


 人形の顔が一瞬明滅する。


 それは、魔力の奔流だ。

 電気へと変換された魔力が放たれ、俺らに向かって飛翔する。


 一瞬反応の遅れた輝來を脇に抱いて、その場から飛びのく。


 雷鳴がとどろき、地面に着弾する。

 そこに広がっていたのは、何ともショッキングな絵面だった。


「わぁ」


「喰らってたら死んでたかもね、これ」


 校庭の砂が、硝子と化している。


 一瞬の硝子化、物理法則を無視するようなその現象は、何よりも雄弁にその攻撃の威力を語っていた。


 ともすれば輝來の魔法よりも火力が高いであろうそれに、思わず眉を顰めてしまう。


「歩ける?輝來」


「うん、ありがと」


 輝來を一先ず地面に降ろすと、そそくさと走り去っていく。その後ろ姿を見て、一旦息をつく。


 そして、人形に視線を移す。


 顔が、真っ黒に染まっている。

 所謂過負荷というものなのか、次の魔法を矢継ぎ早に打とうとするようなそぶりは見せない。そうされると厄介にもほどがあったが、これで一先ず安心だ。


 問題があるとすれば。


「!!」


 魔法が打てなくても、本体は動いてくるということだ。


 その長身を生かし、高所から振り上げられた足がそのまま落ちてくる。超巨大踵落とし、放っておけば、俺だけでなく周囲にまで被害を及ぼすであろう災厄。


「光折」


 防御系スキルを纏った刀を振るう。


 文字通り、光すら歪めるその一太刀はゴーレムが得た運動エネルギーをそっくりそのまま横にズラす。


 ぐい、と無理矢理押し出された足にゴーレムが引っ張られ、不細工な開脚のような形で校庭に倒れ込む。


 それだけで砂は舞い、強風が吹きつける。


 校舎や人を守らなければならない俺らにとって、この巨体は存在するだけでも厄介だ。


「輝來!みんなに被害が行かないように守れる!?」


「了解!スタラは?」


 刀に魔力を籠める。

 黒刀が、白く染め直される。


「さっさと、壊す!」

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