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立ち返る時

「まさか、華火花も転校して来てるとはね〜」


 にへら、と笑いながら冗談っぽく輝來こと、はじめ星羅せいらは笑う。


「流石に私も驚いてる」


 彼女と反対に無感情に、淡々と三花は返答した。


「驚いて無理やり話しかけちゃったけど、大丈夫だった?」


「大丈夫って?」


「身バレとか嫌じゃなかったかなって」


「あぁ」


 VR技術がいくら進歩したとしても、それが空想という線引きだけは変わらない。それを重視する人間は、この時代においてもやはり多かった。


「輝來なら良いよ。別に、条件は同じだし」


「それもそうかもね〜」


 片方が一方的に知っている訳では無く、互いに情報を得ている。悪用するならば、それ相応の返礼が帰ってくることは火を見るより明らかだ。


 それに加えて、彼女ならしないだろうという信頼もあるのだが。


「隣にいた子は友達?」


「ん、先生から案内役頼まれた人。あんまり仲良くはなってない」


「三花の付き添い、随分大変な役目を任されたね」


「……」


「ごめんごめん!冗談だから!」


 とてつもない威圧感を持つ半目を向けられ、思わず手を振りつつ星羅は否定する。


 スタラの陰に隠れがちだが、華火花も華火花で結構滅茶苦茶だ。それにあの子が巻き込まれないと良いな、と本心で思ったのは内緒だった。


「そうだ」


 話を切り替えようとしたところで、思い出したかのように三花は手を叩く。


「あの人、スタラと同じネックレス付けてた」


「同じ?似てるとかじゃなくて?」


「全く同じ。中の色とかも」


「へぇ、グッズとかかな?」


「いいや……」


 三花は懐から携帯端末を取り出し、少し操作した後に星羅の前に突き出す。

 それは、L2FOの公式サイトであるようだった。


「少なくとも公式サイトにはないし、調べた感じ一個もヒットしなかった」


「自作とかってこと?」


「なら熱心なファンだね」


「スタラも大きくなったなぁ、昔はこれくらい小さくて」


「背丈は変わってないよ」


 老人のような語り口調で話し始めた星羅をよそに、三花は思考に耽る。


 熱心なファン、というには何か違う気がする。それは直感でしかないと思うが。


「ん~、そんなに気になるなら本人に訊けば?月光武闘会来なかった理由と一緒にね」


「それが安牌、かな」


 表情が陰っていたのを見抜かれたのか提案をする星羅の意見を聞き、三花は伸びをする。当人に訊くのが一番手っ取り早いのは真実なのだから。


(そういえば、何かあの人スタラに似てたような……)


 口調や声色は違う。

 でも僅かな癖だったり、視線の動かし方がスタラに似ていた気がする。


 裕福な家庭に生まれ、色んな大人と様々な場所で出会った来たからこそ培われた洞察力。それは、深く入り乱れた真相まで届かんとしていた。


(ま、ありえないか)


 前提として性別が変更できないゲームなのだ。

 気の迷いというか、共通点を見出したくなった理性がそう錯覚させているだけなのだろう。


「こんなこと気にしてる場合でもない、だろうし」


「勉強に友好関係に、楽しいけどやること多いね~」


 一先ず環境に慣れる方が先決、と三花は結論付け、スタラの事はいったん置いておいて帰路に就くことにしたのだった。


「あと通院もしなきゃだし」


「え」


「精神病で外出れなかったんだよね、治ってるけど」


「ええ……それ、めっちゃ興味あるから今度話してくれない?」


「三花も大概デリカシーないよね〜〜いいけど〜〜」


 スタラの姿を見て勇気を貰った、なんて陳腐な言葉を、どう伝えたものかと思案しながら、彼女は帰路に着く。



 ◇



「めっちゃメール来てる」


「中々すっぽかしましたからね」


 目の前に立ち並ぶ幾つもの表示にスタラは驚愕し、シリカさんは淡々と相槌を入れた。


 学校から帰宅し、諸準備を済ませてようやくL2FOにログインした俺を迎え入れたのは、数人から届いた生存確認のメールである。


「輝來、華火花、蓮宮さん……」


 文体こそ違うものの、俺を心配してくれていることは三人に共通している。


 そのメールに返答する文を考えて打ち込んでいたら、十数分が過ぎてしまっていた。


「……終わった、かな?」


「遂行すべきタスクはもう無いかと」


「っし!じゃあ行きます」


 意気揚々と立ち上がり、歩き出そうとしていたところで動きが止まる。


 振り返ってみれば今まで俺は唐突に降ってわいたイベントに対処してばっかりで、落ち着いてこのゲームをした覚えがほとんどない。


 そして、今の俺は全ての責務から解放されているわけだ。


 つまり


「何をすればいいんだ?」


 迷子である。

 物理的な意味ではなく、概念的な事象として道に迷っていた。


「それなら、転職をしてみては?」


「そっか、レベルも上がったから」


 花小僧との交戦を経て、「修羅」としてのレベルはマックスになっていた。


 つまり、次の段階へ進むための鍵は持っているということだ。


 修羅になった時は道場で対戦をした時に発生した者だったはずだし、次もそこにヒントがある可能性が高いだろう。


「じゃあ道場に……」


「その必要はないと思いますよ」


 恐らくシリカさんが操作しているのか、ウィンドウが変更される。


 映し出されたのはクエスト一覧、といっても、俺が現在受注しているクエストは一つだけなのだが。


 『翼の無い鳥、星空と交わりて』、デミアルトラの時に発生してからというものの進行はしているけれど本質がわからないというあいまいな状態で居座り続けている謎なクエストである。


「これが何に……ん?転職クエスト?」


 そのクエストが、転職クエストが入っている筈の欄に突っ込まれていた。


 前は因子クエストみたいな場所に区分分けされてた気がするんだけれど?


「条件を満たしたことでクエストの内容が変化したようですね」


「条件、ねぇ」


 何かしら知っているような口ぶりだが、話すような様子もないしゲーマーとしてそこを質問してしまうのは腑に落ちないのでやめておく。


 大体の予想は立ってるしな。


「あ、詳細見れるようになってる」


 今まで見れなかったけど、これも変化とやらの一端なのだろう。 

 えー、なになに?


『星空はそこまで来ている

 立ち返れ、振り返れ。己が未来はそこに、過去の向こう側に

 翼はいつも、鳥の背にあるのだから』


「Oh、ポエム」


 だが、クエストの説明文に付随されているマップで大体理解できた。


 恐らくここは最初の街、ファーティアのその後ろ側だろう。普通ならそこに行くことも無く通り過ぎてしまう場所、そして、誰もが生まれ落ちる地点の背後。


 だからこそ「立ち返れ、振り返れ」という一文が添えられている……んだろう。世界観重視のゲームで鍛えてきたポエム読解能力は俺にそう囁いている。


「一旦ファーティア、行くかぁ……」


「浮かない様子ですね?」


「良い思い出が無いもので」


 思い出自体ほとんどないレベルで滞在時間が短い場所ではあるのだが、主に人に囲まれたり追いかけられたりした覚えがない。


 けれど、足踏みしていたってしょうがない。



 ◇



 この世界に初めて降り立った時に見たファーティアの平原は、何処までも広がっているような雰囲気すら感じたものだ。


 未知数で、壮大。そんな印象が先行していた。


 けれど、今来てみれば、このゲームの未知を体験して来た後に草原に立ってみれば。此処で見えている景色すら百分の一にすら満たないものなのではないかと思わせられる。


「それでもリアリティは凄いけどな」


 慣れたとはいえ、凄いもんは凄い。

 それは確かだった。


「マップだとこの辺に……」


 ファーティアの外周をぐるっと回り、裏手にたどり着いた。


 距離的には中々あるが、このステータスなら流石に一瞬で在った。まだ怖いからスキルを使ってはいないが。


「あれ、ですね」


「だろうなぁ」


 現れたのは、廃墟だった。

 遺跡でもなく、豪邸でもない。


 ファーティアの中にありふれているであろうレンガ造りの、一軒家だ。だからかはわからないが、何処か懐かしさを覚える様な、帰郷したような気分になった。

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