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夢だったらよかったな

「うーえ」


 だるい。きつい、つらい。


 ベッドから起き上がる気が一切起きない。

 こんな時に同居人がいない事を後悔する。スマホを開くような気にもなれず、ただ横たわっていた。


「……」


 ふと、L2FOのパッケージが目に留まった。そういえば今日は月光武闘会の開催日だったはずだ。


 参加を取り消す連絡自体はなんとかしたものの、体力が限界すぎて華火花や輝來への報告はできていなかった。


 スマホをかろうじて操作できるのだから、そこから連絡すればいいと思ったのだが……


(連絡先、知らん)


 連絡先どころか、SNSとか簡易的な連絡手段すらない。


 ゲーム内のメッセージを使っていたので困っていなかったし、そもそもスタラ・シルリリアとしてのアカウントを持っていない以上そういう話もできなかった。


 今まで全くそれで問題はなかったのだが、こうなると面倒だ。


(しょうがないかぁ)


 二人、特に輝來は本戦を楽しみにしてくれていたようだし、黙って不参加というのは申し訳ないと思うところは大きい。


 でも流石に今回だけは無理だ。


 恐らく昨日の異常な調子の反動が今襲いかかっているのだろう。そう考えれば俺のせいかもしれないが、知らなかったことにする。


(今日はゆっくり休んで学校にそな……)


 ぴんぽーん


「こんな時間に……?」


 聞きなれた電子音に、殆ど動かない体を無理矢理動かし、応対する。


「お届け物でーす」


「ちょっと、待ってくださいねー」


 モニターに映し出されたのはハツラツとした感じのお兄さん、彼は統一感のある制服を身に纏い、段ボールをその手にドアの前に居る。


 それを確認した俺はよろよろとした足取りで廊下を進み、玄関まで向かった。


「指紋貰っていいですか?」


「はいはい」


 お兄さんが出した小型のモニターに人差し指を当てる。ぴ、という軽い音と共に、モニターが黄緑色に光った。


 本人認証が済んだようで、お兄さんが段ボールを差し出す。


「割れ物なんで気をつけてくださいね〜」


「あ、はい?」


 割れ物、割れ物??


 荷物を手に取りながら困惑する。そんなもの頼んだっけ?皿とかを買った覚えもないし、そもそも最近ネットで何か注文した覚えがない。


 ん〜〜?


「失礼します〜」


「お疲れ様でーす」


 困惑してても社交辞令は反射的に口から溢れていく。これが日本人というやつだ。いやそんなことはどうでもよくて、今はこれに向き合うべきだろう。


 誤発送という可能性も考えたが、宛名はちゃんと俺になっている。


 送ってきたのは……どっかの会社か?こんな会社記憶に……いや、あるな。

 具体的にいうと今やってるゲームの開発元がこんな社名だった気がするな。


「いや……俄然何?」


 L2FOの開発元が俺宛に送ってくるものなんて何も思いつかないぞ。


 最早病状よりも好奇心が勝ち始めた俺は、そこら辺からハサミを取り出し、段ボールを開封する。


 何重にも重ねられた梱包材、その先には、一通の手紙が入っていた。


「んん」


 警戒しようかなと思ったけどやめた。思考能力がお粗末になっているせいで勝手に腕が手紙を開いてしまっていた。


『拝啓、スタラ・シルリリア様

 運営と異なる形でゲームを盛り上げてくださったこと、誠に感謝します。

 月光武闘会の不参加は残念ですが、またご都合が合う時に参加していただくことを運営一同、楽しみにしています。そしてゲームを盛り上げてくださった感謝と、これからのスタラ様の歩む道を思い、贈り物を同梱させていただきました。

 効果的にお使いなられること、期待しています。


 敬具』


「待って、待て」


 何もかもおかしいだろ。第一、俺が不参加のメールを送ったのは数十分前だぞ??まだ全然時間経ってないけど??え???


「うん、次の見よう」


 わからん。何もわからん。


 何か良くないことに巻き込まれてる気がするけど頭が回らない。一旦その同梱されている品物とやらを拝見することとしよう。


 正直ちょっとワクワクしている所もあるし。


「う……っわ。マジぃ……?」


 小さな箱の中に仕舞われていたのは、暗黒を映し出したような宝石だ。


 よくよく見てみれば宝石の中には白い粒が大量に見える上、赤、緑、黄、と異なる色の点が配置されているのもわかる。


 俺はこれを知っている。

 現実では初めて見たものであるが、幾度となくこれに触れたし、何回かこれに助けられた。


「『夜空の破片』……」


 スタラ・シルリリアの首にかかっているアクセサリーで在り、未だ謎の多い物体である。


 確かにスタラの代名詞的なものであるが、これ、すっげぇ完成度だぞ??


「ゲームのグッズに出来るレベル……いや、グッズになる前に俺に贈られたのか?」


 ありえない話ではない。スタラという名前は俺が思っているよりも膨らんでしまっているようだし、グッズ化というのもまぁ、わからなくもない。


 なら俺に贈られるのもわかる。


「……何処に飾るかな」


 何で俺に贈られたのか、はある程度分かった。


 じゃあもうそれに悩むのは止めて、次の段階に進むとしよう。無難に棚に置くのもいいし、机の上とかでもいい。


 いやまずはアクセサリーを飾れるスタンド的なのを買いに……


「できれば飾らないで欲しいんですが」


「……は??」


 何処からか、声が響いた。

 聞き間違いじゃなければ、俺の手元から。


「……首飾りが、喋った?」


「あながち間違いではありませんね」


 夜空の破片から声が響いている。

 最近聞いた覚えがあるような、優しく、安らぎを齎す声色だった。


「久しぶり、でもありませんね。こんにちは、宵乃空さん」


「……こんにちは?」


 風邪、というのは厄介なもので、単純に体調が悪くなるだけでなく思考も鈍る。


 だからだろうか、首飾りがしゃべるという意味のわからない状況でも、心は落ち着いていた。


 きっとなにも理解してないだけなのだろうけれど。


「自己紹介からいたしましょうか。私はシリカ。貴方の補助として、ここに現れました」


「補助?」


「そうですね。貴方はきっと、ここからさまざまな困難に見舞われる。その道を少しでも楽にするため、私はここに居るのです」


「……ん??」


「気にすることはありません。貴方のする事は一切変わりないのですから」


 夜空の破片越しに語り掛ける、顔も見えない彼女が。少しだけ笑ったような気がしたのは、気のせいだったのだろうか。


「ただ、楽しんでください。私から言えるのはそれだけです」


「……はい?」


 あぁ、なんか覚えがあると思った。


 名作ゲームの二作目から遊び始めたせいで会話に出てくるワードの意味が一切わからない、でもきっと重要なシーンだろうな、と思った時のあの感覚と同じだ。


 何か大事な事を言われている気がするが、何もわからん。一切理解できない。


「なので、私はどんな質問でも受け付けます。何か気になることはありますか?」


「……一つ、良いですか?」


「勿論です」


「一回、寝ても良いですかね」


「……?いいですよ?」


 夜空の破片を枕元のあたりへと運び、頭を枕に突っ込む。布団とベットの間に挟み込んだ体が、いつも以上の熱を放っているのが感じられた。


 一回風邪が治ってから考えよう。

 そう思ったのを最後に、俺の意識は暗転した。




 ◆



 膨大な情報量を詰め込まれたからか、俺の熱は悪化した。結局、学校が始まるまで俺は何もできずにベットの上で日々を過ごすことになるのだった。

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