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長が語るには

 大量に現れた通知を全て確認したい欲求が膨らんでいるが、二人が歩き出してしまったので一度保留。


 あー……だめだ。そんなに聞き分けが良い人間じゃないんだ俺は!インベントリを即急に開かせてくれ!


「時に、星を望む者よ」


 駄目ですよね知ってます。


 星を望む者と呼ばれたことで、そういえば名乗り忘れていることに気が付いた。


「スタラです」


「ん、失敬。時にスタラよ」


 飄々と訂正しながら、カリアは言葉を続ける。


 いや、この里の長ということは華火花さんより立場が上になるわけで、俺は彼女を華火花さんと呼んでいるんだからさんを付けるのが普通なのか?


 いや、けどなぁ、うーん。


 ここまで考えて俺の思考は「別にどうでもよくね?」という結論にたどり着いた。よし、カリアさんって呼ぼう。


「里の事について華火花からどれくらい聞いておる?」


 どれほど情報を持っているのかの確認という訳か……。あれ?


「あ」


 眼が合ったのは申し訳なさそうにこちらを見る華火花さん。おっと、もしかしなくても説明し忘れだな?


「生憎、魔物に襲われてしまってあまり聞けてません」


 間違ったことは言っていない。

 森の中では結構モンスターに襲われたし、その所為で会話する時間も減少しただろう。


 吸血鬼同士の熱いアイコンタクトが交わされてる。


 「ほんとぉ?」と言わんばかりのカリアさんの視線に華火花さんは……あれどういう表情なんだ。

 罪悪感と不安と少しの逃避が入り混じった感じの顔。花瓶壊した猫みたい。


「何か……すまぬな」


「何の話かわかりませんが、気にしないでください」


 すっとぼけRPを続けながら、華火花さんに柔らかい視線を送っておく。人間ミスはあるものだしね、この世界だと吸血鬼だけど。


 何とも言えない空気をごまかすためかカリアさんは「こほん」とわざとらしい咳ばらいをしてから話始める。


「我々の里デミアルトラは、今魔物によって襲撃を受けている」


 すっ、とトーンの落ちた声で放たれたその言葉は、この空間に広がる空気を塗り替えるのに十分なほどの力を持っていた。


 襲撃、さっき発生したクエストに関係がないと考えるのは余りにも無理があるだろう。


「今は何とか持ちこたえているが、当然物資や戦力には限りがあるのじゃ」


 だから、と彼女は言葉を結び、おもむろに己が魔法か何かで召喚しているのだろう光球に手を伸ばす。


 そしてすらりと伸びた指を一気に折りたたみ


「いつ()()なってしまうのか。儂にも見当がつかん」


 握り潰した。端的に動作で表されたのは最悪の結末、このまま吸血鬼の里が滅びるという末路だ。


「まぁ、このまま終わる程聞き分けの良い奴らじゃない。精々足掻いてみるのじゃ、そのために人手を集めたのだしのぉ?」


 と、挑戦的な笑みをたたえながら言い切ったカリアさんに一つの疑問が浮かぶ。


「人手を集めたって事は、結構なプレイ……じゃなくて、共鳴者を集めたんですか?」


「そうじゃのぉ。数だけ必要というわけでもないから、我ら以外の信頼できる共鳴者を連れてこいと命じておる」


 成る程、成る程?これは結構大きめのクエストの予感がしてきた。


 吸血鬼以外のプレイヤーも巻き込んだ拠点防衛クエスト、か。随分とまた楽しそうなフラグを踏み抜いたらしい。



 ◇



 荒々しい岩肌が露出した通路、その終点にて。自然によって生み出された洞窟のど真ん中には不釣り合いな人工物が建てられていた。


 例えるならば豪邸の扉だけ引っこ抜いて岩にくっつけた感じ……かな。


 文字にすれば調和とは真逆の風景なのだが、実際に見てみれば何故か案外マッチしているようにすら感じている自分がいた。


「この先にあるのがデミアルトラじゃ。覚悟は良いかの?」


「勿論」


 冷ややかに覚悟を問いかけたその声に、口角を吊り上げて返答する。


 話を聞いた感じだと結構絶望的な気がするが、こういう状況は何度か経験したことがある。無論、現実ではなく他のゲームで。


 絶体絶命な状況に追い込まれた小高い丘での銃撃戦、完全に包囲された建物での銃撃戦など……どれも辛い戦いだったが、今となっては良い思い出だ。


 意地になってFPSで侍縛り(刀と徒手空拳のみ)とかしなければもうちょい楽だったかもしれない。


 まぁ思い出話はいいとして、結論として言いたいのはこういう絶望的な状況での防衛戦の経験は大いにあるということだ。


 けどNPCが絶望してたらきついかもな。状況的に士気が落ちてても不思議じゃないし。


 そんな思考を回しているのを察してかはわからないが、カリアさんが扉に手を掛ける。


「では、行くぞ」


 成人男性の背丈すら優に超えるその大扉を、カリアさんは軽々しく押し始める。


 ギギ、と僅かにきしむ音が響き、扉の隙間からささやかな風が吹き付けて。

 興奮と緊張のないまぜになった心境を刀を撫でて抑え込み、扉の開かれるその一瞬に集中する。


 開ききった金属製の扉、その先に広がっていた物とは……


「うおおおおおおおお゛お゛お゛お゛!!」

「邪魔ぁぁ!!!」

「どけろ雑魚がぁ!!」

「おら砕けろっ!!あ!!里長様のお帰りだ!!!!!」


「「「「「いえええええ!!!!!!!」」」」」


 陰湿でじめっとした感じの光景を覚悟していたのだが、そこにあったのは表すなら獅子奮迅×100とも言うべき、猛烈な戦闘であった。


 NPCもプレイヤーも入り乱れ、全身真っ黒の謎の敵をひたすら亡骸ポリゴンにしていく。


 少なくとも、士気の心配は杞憂であったらしい。ここまでぶちあがってる戦場も中々ねぇや。


 扉の先に広がっていたのは巨大な円状の広場だった。いや、向こうに城壁みたいなものが見えるから半球なのかな?


「まぁ、この通り。結構おかしなところ」


「くかか、まともなんてつまらんじゃろぉ!?なぁ皆の者!!!!」


「「「「うおおおおおお!!!!」」」」


 長らく口を閉じていた華火花さんが、端的にこの状況を説明する。吸血鬼、意外とヤバい奴らの集まり説が浮上してきてる……あれ、ちょっと待って?


「華火花さん?ここが私に向いてる場所って言いましたよね?」


「……ノーコメント」


 おかしなところ、と称されるデミアルトラ。そこに向いていると思う、と称された俺。


 あーれ、なんか変だな?そんなおかしなプレイは、したわ。さっきこんな感じで叫びながら戦闘したわ。


 いやけどあれはテンションが上がっちゃったからであってね?断じていつもあんな感じって訳では多分ないというか。


 おい!何ちゃっかり俺らの事狙ってんだ真っ黒蜥蜴!


「かかってこいやぁ!!」


 撤回!普通にゲームプレイ中なら叫ぶしこんな楽しそうな状況でテンションが上がらないわけがない!


「随分適任を呼んできたのぉ?華火花」


「でしょ」


 あはは、と静かな笑い声ふたつ。

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