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3.ヒーロー


はぁっ、はぁはぁはぁ…

美乃里の辛そうな息遣いはとまらない

男の笑い声がする

血だらけの手が見える

誰か、誰かお願い、助けて だれ……


かれん 「美乃里、みーのーり!!」

美乃里を呼ぶのは同期で友達、同級生のかれんだ

美乃里 「うーん」

かれん 「ねぇ!みのり、あんた凄い汗!

まあーたうたた寝してると先輩に怒られるよ

そんな汗かいて、どんな夢見てたのよ」

美乃里 「ごめん、かれん…ありがと…今何時?」

かれん 「10時、15分くらい寝てたんじゃない?」

美乃里 「ふぁ〜あ、寝た寝た〜」

身体を伸ばす美乃里の表情は言葉とは反対にスッキリしない様子だ

かれん 「ねーねー!今日の夜あれだよ?覚えてる?」

美乃里 「なに?」

かれん 「ご」

美乃里 「ご?」

かれん 「もーう!何でいつも忘れるのよ!」

美乃里 「ごめん、ごめん で、なんだっけ?」

かれん 「お食事会と言う名の合コンでしょ」


かれんは周りをキョロキョロしながらヒソヒソと耳打ちしてくるがそんな隠すことでもない

恋多き女、松崎かれんは見るからに男ウケの良い顔だ。

小顔にクリクリな目とフワフワな髪の毛

低身長で守りたくなるような可愛らしいを全て持っている。

そんな子なのに合コンが大好きだ

だから隠すことでもないけど…

合コンが好きでも男が好きな訳ではないから

これまた面白い

かれんは合コン好きの男の研究家だ

合コンをして男に評価を付けるのが大好き

かれんの可愛さに釘付けになるバカ男達を

とことんバカにして娯楽から突き落とすのが大好きな

怖〜い性悪女だ


かれん 「なに?」

美乃里 「え?そんなに顔に出てた?」

かれん 「美乃里も性悪でしょ」

美乃里 「ハハッ」


趣旨は違えど根は似てる

なんだかんだかれんといる時間は好きだ

私の唯一、気の許せる友人の1人


かれん 「今日の男性陣はどんな人でしょーか?

みのりの彼氏候補になりそうな人は〜」

かれんはテンション高めのノリノリだ

美乃里 「もう!私は今そんな気ないから

かれんこそいい加減、本命でも見つけたら〜?」

そんな他愛もない話で盛り上がっていた


上司 「荒川さーん、荒川さーん」

美乃里 「はあーい」

上司 「あ、いたいた、警察の方が来てるわよ」

上司が美乃里に耳打ちをする

美乃里 「え?警察?」

ドアの方に目をやると警察の方が一礼する

美乃里は席を立ち、警察官の方へ歩いていく


警察官 「こんにちは、お仕事中申し訳ございません」

警察の方はみのりに頭を下げる

美乃里 「こんにちは、大丈夫です。

警察の方が私になんの用でしょうか?」

警察官 「びっくりさせてしまい申し訳ありません。

実は先程、少し事件がありまして

その方が貴方に助けられたと話しております。

貴方に会うまで詳しい話しをしたくないと仰っておりまして…大変申し訳ないのですが

警察署にお越し頂けますでしょうか?」

(えー!なに?面倒くさすぎる!なに?全然意味が分からないんだけど)

美乃里 「分かりました…いつですか?」

警察官 「直ぐに…とでも言いたいところですが

お仕事終わりですと何時頃でしょうか?」

美乃里 「17時には終わります

それってどのくらいで終わりますか?」

警察官 「1時間も掛からないと思いますが…」

美乃里 「じゃぁこの後お昼休憩の時にでもいいですか?」

(今日の夜は予定あるし…

いやいや合コンに行きたいって訳では無いんだけどさ)

警察官 「ありがとうございます!」

(おぉ、明らかに嬉しそうで笑うと更にイケメン…)

警察官 「早いとこちらも助かります。

では1時間後くらいに警察署でお待ちしております。あ、申し遅れました。私、近藤 (まもる)と申します。署へ到着しましたらこちらの名刺を受付で見せて頂けましたらご案内しますので宜しくお願い致します。」

と警察官の方から名刺をもらう美乃里

美乃里 「はい、ありがとうございます。では失礼します。」


美乃里は軽く会釈をし、自分の席へ戻る

私は名刺を見ながらまもるって…

警察官の名前がまもるってそのままやん!

と1人で笑っていた

ニヤニヤと近寄ってくるかれん


かれん 「てゆーかあの刑事さんかっこよかった!」

目がキラッキラッじゃん

かれん 「ねーねー警察官って合コンとかしないのかな?」

美乃里 「え?私の心配じゃなくて合コンのこと?」


クスクス笑ってるかれんにつられて美乃里も笑う

かれん 「いいな〜イケメンと話せて クスッ」

美乃里 「イケメンかな?

それよりさーなんか私に助けられたって人が私が行かなきゃ何にも話しをしないって言ってるらしい」

かれん 「何それーめちゃくちゃめんどくさいじゃん

どんなスーパーヒーロー起こしたの?」

美乃里 「全く分かんない」

みのりは名刺を見ながら答える

かれん 「守る?アハックスクス」

口に手を当て可愛らしく肩を揺らして笑うかれん


かれん 「警察官でまもるってそのままじゃん」

美乃里 「だよねー」


まもるさんには悪いけど名前を知ったら思わざるを得ない。きっと本人も思っているだろう……


かれん 「名前のごとく庶民をお守りしてますね〜」

美乃里 「絶対バカにしてるでしょ」

かれん 「ふふふ」


もうすぐで仕事が片付く…少し早めに切り上げて


美乃里 「今日はお昼食べれそうにないから

食べてていいからね〜行ってきまーす」

かれん 「はーい 行ってらっしゃい〜守さんに宜しくね〜」


美乃里は呆れた顔でかれんを見ると

かれんはニヤニヤしながら美乃里を送りだした

(あの顔は絶対 連絡先ゲットしろ顔じゃん

だーれがするもんか)


警察署に着くと、持っていた名刺を受付で渡す

5分程待っていると

警察官 「荒川さん?」

刑事らしき人が声を掛けてきた

美乃里 「はい」

返事をする

警察官 「大変お待たせ致しました。ご案内致します。こちらへどうぞ」


取調室と書いてある扉の前に案内された

中からドアが開くと守さんが出てきた

美乃里 「こんにちは」

守「お忙しい中、申し訳ございません。

こちらにお願いします。」


守はドアを開け美乃里を中に案内する。

中は二重扉になっておりガラス張りの向こうにはもう1人の刑事さんと机に突っ伏している女性の姿が見えた。

女性は刑事さんに何か言われて頭を上げた


守 「この方ご存知ですか?」

美乃里 「いや、知らないです。」


そこに居たのは50代くらいの女性、小綺麗で優しそうな印象だ、この人を助けた……?

私は不思議で仕方なかった

頭の中でこの人との面識をグルグルと考えていたが全く思いつかない


守 「こちらへお願いします」

守は二重扉の中へみのりを手招きする

美乃里 「はい…」


美乃里は恐る恐る部屋に入っていく


美乃里 「失礼します」

女性 「こんにちは、みのりさん」

ととても優しい笑顔の女性

女性 「本当にありがとう。

みのりさん、本当にありがとうございます」


女性はとても丁寧に頭を下げた

美乃里は何がなんだか分からず立ち尽くす


美乃里 「あの…私は何を?」

女性 「あのね、私を救ってくれたのよ。

私はね、今から捕まってしまうの

その前にどうしても貴方に会いたくてね

ごめんなさいね、こんな風でしか貴方に会う方法が思いつかなくて…

刑事さんにその時の事を話せって言われるんだけど

どうしても貴方にお礼を言いたくて

本当にありがとう!」

女性は深々とみのりに頭を下げた


美乃里 「あの、ごめんなさい。私は未だに何のことか把握出来てなくて…貴方に面識はないと思うのですが」

女性 「あのね、私は先日貴方にSNSで相談致しまして…

主人が暴力を奮ってくると。

ただ、優しい時もあるので離れられなくて

身の回りの事も1人じゃ出来ないから

突き放す事も出来なくて…と相談させて頂きました。

せつ、と言う名前で相談させて頂きました。」


美乃里は思い出したかのように目を大きくして頷く

美乃里 「そうだったんですね、お力になれて良かったです。」


女性は柏木節子と名乗った。


節子 「私はこれから逮捕されます。ですがあなたのおかげで助けられたのも事実です。

このような形でお連れしてもらい、申し訳ございません。

逮捕される前にどうしてもお礼をお伝えしたくて。

どん底から救って頂き本当にありがとうございます。」


節子の顔は何とも言えない吹っ切れたような

寂しさも残るようなそんな表情だった。

後は刑事さんたちのお仕事のようなので私は

またいつか、とご挨拶をして部屋を出た。

詳しくは聞かされなかったが節子は夫のDVから逃れるため、夫と2人で心中しようとした。

夫に睡眠薬を飲ませ、身辺整理をしてから一緒に絶とうとして、パソコンを開き私からの返信に気付いたと。


DV、お辛いですね。

暴力に耐えるという事は相当 精神力のいる事です。

せつ様は暴力に耐え、それでも離れられないのは愛ですか?情ですか?

ご主人様は暴力でしか貴方を繋ぎ止めれない弱い方だと思います。貴方を手放したくないという現れではないでしょうか。

貴方が離れていきそうで怯えているだけです。

もし、それでもせつ様に愛があるのであれば

暴力が治るように病院などに通い、サポートする手段もあります。もちろん簡単ではなく、沢山の試練を乗り越えなければならないと思います。

その試練の先にこそお互いが求める愛というものが生まれるのではないかと思っております。

情であればキッパリと離れてあげる勇気を貴方が持ってください。

DVをするご主人様を変えるのではなく

せつ様自信が変わることで未来は変わるのではないでしょうか?

ご連絡ありがとうございました。

少しでもお力になれていたら嬉しいです……

みのり


その返信メッセージを見て、このまま死んではダメだと思ったようで、睡眠薬を飲ませてしまった夫を助けるために自ら警察に連絡し、夫に睡眠薬を飲ませたと自主し、直ぐに救急隊の方がきてご主人は無事だったようだ。


私は嬉しくも寂しくもあり、恐怖もあった。

節子さんの力になれた事はとても嬉しかった。

自分がまるでヒーローのような誇らしい気持ちだった。

だけど、救えるものばかりではない。

言葉なんて相手がどう捉えてどんな解釈をするかで

結局 決めるのは自分だ。

あくまでも相談とはサポートであり、アドバイスに過ぎない。

人の人生を変えることなど出来ない。

人生を変えるのはやはり自分自身しかいない。

変わりたい、変わるんだと、このままでは終われないと自分で切り開いていくしかない。

私なんかの言葉で救われたのなら

きっと節子さんは心の綺麗な方で

こんな小娘の言葉もスっと心に入ってきたのだろう

私は変わったのだろうか、前に進めているのだろうか

そんな自問自答をしながら会社に戻った。


かれん 「おかえり〜」

休憩室にいる呑気なかれんの姿を見て

なんだか考え過ぎてた頭の中がフワッとする。

美乃里 「ただいまぁーお腹空いた!」

かれん 「これ、みのりの分もあるから食べよ!」

美乃里 「サンドウィッチ!さすが料理上手

ん〜かれんの手作りほんと美味しい!」

かれん 「本当に美乃里は食べるの好きね〜」


美乃里はかれんの手作りサンドウィッチと自分が今朝準備してきた弁当どちらも綺麗に空にした。


かれん 「パンとご飯なんてよくどっちも食べれるね〜

お腹パンパンで眠たくなって午後からまたうたた寝するでしょ、それ」

美乃里 「ほんとそれ!アハハ」


かれんのこうゆう所が私はとても好き。

探索しない。絶対に私の事は私が話すタイミングまで待っててくれる。

警察に呼ばれて、警察署に行くなんて絶対に気になるハズなのに、どうだった?なんて聞いてこない。


休憩室のテレビからは午前のニュースで不倫相手の女性を刺そうとした女性が

それを止めに入った自分の夫に突き飛ばされてその衝撃で持っていた包丁が自分に刺さり死亡した…と

アナウンサーの声が流れていたのをほんの少しだけ聴き流した

(不倫か…殺す以外方法はなかったのかな)

と他人事のように頭の中ではぼんやりと思っていた。


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