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31.過去と向き合う準備

美乃里はホテルを出てここ1週間の日課になっている

母と昴のところへ行く

(今日もお水、かけてある…もう来てくれたんだ…)


美乃里 「お母さん、昴、おはよう」

笑顔でお墓に話しかける美乃里

いい事があったと言わんばかりの表情だ

そして最近の日課となったお喋りも始まる

お墓の前に腰掛けて、遠くを見ながら昔の話しをする美乃里

美乃里 「お母さんの唐揚げみんな好きだったよね

今ね好きな人がいて…

お母さんの唐揚げ作ってみたかったなあって…

ふと思ったり…してさ

お母さんと恋愛の話しがしたかったな

昴も彼女とか出来たりして…私お姉ちゃんらしいこと出来たのかな…とか考えたりして…


いつか連れてきてもいいかな?私の大事な人…

お付き合い出来るか分かんないけど…

お母さん、昴…お父…無理…か」


美乃里は深く悲し気なため息をつく


美乃里 「お母さんはさ…お父さんのことどう思ってる?

私は…私は


分かんないや」

美乃里は目を瞑り、静かな時間を過ごした


ふぅーと息を吐くと立ち上がり

美乃里 「今から皐月おばさんとおばあちゃん、おじいちゃんのところに行ってくるね

明日、また来るね」

と伝えた美乃里はお墓を出て行った


(おばあちゃん達いるかな…変わってないなぁ…)


家の前で佇む美乃里

(ふぅ…緊張するな…来ても大丈夫だよね?)


ピンポーン

美乃里はインターホンを鳴らすと緊張した面持ちで扉の前で待つ


「はーい」

ドアがガラガラと開く


美乃里 「おばあちゃん…お久しぶりです、美乃里です」

美乃里は頭を深く下げ、挨拶をする


おばあちゃん 「み、み…みのりちゃん…みぃちゃんなのね

…みぃちゃんね、本物よね?

あ〜もう、会いたかったわ…みぃちゃん…」

おばあちゃんは涙を流しながら美乃里の手を握りしめ

温かい手で優しく包み込む

おばあちゃんの後ろからひょっこりと顔を出す皐月


皐月 「美乃里ちゃん!来てくれたのね…

お母さん、良かったね…美乃里ちゃん来てくれたね」

皐月もまた嬉しそうに母親の肩を抱く


皐月 「お父さん、腰抜かすかも」

意地悪く笑みを零す皐月

おばあちゃん 「あら、本当だわね…うふふ」

泣きながらも笑顔で答えるおばあちゃん


皐月 「美乃里ちゃん、上がって、上がって

静かに居間に行こ」

皐月の顔は嬉しそうで子どものようなはしゃぎっぷりで

父親をびっくりさせようとしている

こっち、こっちと手招きをする皐月について行く美乃里


皐月 「お母さん、早く泣き止んでよ…お父さんにバレちゃうわ」

おばあちゃん 「あら、あら、そうね…」

と言いながら身につけているエプロンで目元を拭うおばあちゃん


おじいちゃんがいる部屋に近づいていく

皐月 「お父さん」

おばあちゃん 「あなた」

おじいちゃん 「なんだ」


皐月は笑顔で手招きをする

美乃里は恐る恐る顔を出した


美乃里 「おじいちゃん…お久しぶりです」

美乃里は優しく微笑みながら頭を下げた


おじいちゃんは声も出さずにただ、ただ目をパチパチさせて何度も瞬きをする

おばあちゃん 「もう、あなたったら…」

と笑い泣きのおばあちゃん

おじいちゃん 「夢か?美乃里なのか?」


皐月 「そうよ、美乃里ちゃん来てくれたよ」


おじいちゃん 「そうか、そうか…

美乃里、よく来てくれたな…ありがとな…」

おじいちゃんは目にいっぱいの涙を溜めていた


美乃里 「おじいちゃん、ありがとう」

美乃里が優しく微笑むとみんなが優しい笑顔になっていた


おばあちゃん 「みぃちゃん、座ってゆっくりしてきなさい、ほら、今お茶もお菓子も出すから」

美乃里 「んふふ、おばあちゃんありがとう」

美乃里はおじいちゃんの隣へ腰を下ろした


美乃里 「おじいちゃん、足の調子はどう?」

おじいちゃん 「あ、ああ、大丈夫だ」

美乃里 「無理しないでね」

おじいちゃん 「美乃里、ごめんな…守ってやれんで…」

おじいちゃんが持っている湯のみが少し震えている


美乃里 「おじいちゃん…あ、お母さん達の御仏壇に挨拶してもいいかな?」

奥に見えた仏壇を見て美乃里が聞く

皐月 「どうぞ」


美乃里は仏壇の前まで行くと母親、弟…

そして父親の写真を見ながら挨拶をする

(お母さん、昴、おじいちゃん家に来たよ…さっきぶりだね、ふふふ

お父さん…美乃里です…お久しぶりです…)


美乃里 「おじいちゃん、心配掛けたよね…

本当にごめんなさい

おじいちゃんとおばあちゃんには凄く守ってもらってたよ…それに私がみんなを守りたかった…

子どもだったから…おじいちゃん達が幸せに暮らせる方法って言ったら出ていくことしか思いつかなくて…

私の方こそ自分勝手でごめんなさい」


おじいちゃんは首を横に振りながら

おじいちゃん 「こうしてまた逢いに来てくれて…それだけで十分だ」

おばあちゃん 「そうね…みぃちゃんに逢えただけで

嬉しいわ」

おばあちゃんはお茶を出しながら笑顔を向ける


皐月「最近、お墓参り来てたの美乃里ちゃんよね?」

美乃里 「はい、近くのホテルに泊まっていて

今もちょうどお母さん達に会ってきた帰りです」

皐月 「美乃里ちゃんかなぁ…って思ってたんだけど中々 遭わなかったから…誰かなぁって思ってて」

フフ、と笑う皐月


美乃里 「いつも綺麗にして頂いてありがとうございます」


皐月 「もうね…日課になって行かなきゃソワソワしちゃうの、アハハ」

嬉しそうに笑う皐月


おじいちゃん 「美乃里は今、幸せにやっとるか?」

美乃里 「うん、幸せだよ」

おばあちゃん 「美乃里ちゃんの幸せが1番やね

もう、おばあちゃん達はそれしか思ってないから」

おじいちゃん 「美乃里が幸せであってくれって毎日、それだけを思ってるからなあ…」

おばあちゃん 「うふふ、おじいちゃんね、みぃちゃんのこと話さない日ないのよ?こう見えて…ふふふ」

皐月 「そうそう、いっつも朝ご飯とか食べてたら急に美乃里もちゃんとご飯食べとるかな…とか」

おじいちゃん 「やめんか、皐月」

みんなが笑いに包まれていた


(心地良いなぁ…来て良かったなぁ…)


4人は他愛もない話しに花を咲かせる

1時間程ゆっくりした美乃里は帰り支度をする


美乃里 「おじいちゃん…明日ね、帰る予定なの

帰る前にお母さんと昴のところに行くんだけど…

お父さんのお墓…聞いちゃダメかな?」

真っ直ぐな目で見つめる美乃里


おじいちゃん 「嫌…じゃないか?

おじいちゃん達は構わんが…美乃里は大丈夫か?」

おじいちゃんは心配そうな目で見つめる


美乃里 「うん、大丈夫…そのために来たの…」

おばあちゃん「そう…みぃちゃんの中で何か変わりたい時なのね…沢山悩んで決めてくれたのね…

ありがとう、ありがとうね…みぃちゃん」

おばあちゃんは今にも泣き出しそうだ

美乃里 「みんなのおかげだよ、おばあちゃん

こうして温かく迎えてくれて本当にありがとう…」


皐月「はぁ…美乃里ちゃんとまだいたいーもっと話したいよぉ

ホテルじゃなくてここに泊まってくれて良かったのに…そしたらもっと一緒にいれたのに…」

少し拗ねたような皐月

おじいちゃん 「子どもみたいなこと言って…

美乃里の方が大人だ」

2人の会話を聞いておばあちゃんと美乃里は微笑み合う

美乃里 「ありがとう、皐月おばさん

またいつでも来ていいかな?」


皐月 「本当にいつでも来てよ?ふふふ」

ニヤッと子どもみたいに笑う皐月


おばあちゃん 「じゃあ明日お墓に集合でいいかしら?」

美乃里 「よろしくお願いします

おじいちゃんは無理しなくて大丈夫だからね

もし、足が痛くなったりしたら心配だし、来れなくても帰りに寄るからね?」


おじいちゃん 「大丈夫だ、私も久しぶりに会いに行って話したいからな」

にこやかな表情のおじいちゃん


美乃里 「ありがとう、おじいちゃん

みんながいてくれるから心強いなぁ…」

優しく微笑む美乃里をみんなが優しい目で見つめていた


皐月 「外まで送ってくる」


玄関でまた明日と交わし出ていく美乃里と皐月

少し歩いたところで

皐月 「明日 本当に大丈夫?無理してない?」

心配そうな皐月

美乃里 「ううん、大丈夫

本当に会いたいと思ってるんだ…」


皐月 「そっか…美乃里ちゃんは強いなあ

私なら無理かも…ずっと憎み続けるかも…

もうね、兄だけど未だに腹立つからたまにアイツのお墓だけ掃除しないの、したとしても無言でね

お姉さん達のお墓掃除なんてさ楽しくて

今日いい天気ですね〜昴くん遊んでる?なんて声かけるけど、アイツになんてもう、無だよ無。

なんならたまに悪態つくし、何であんたの掃除なんか…ってね、アハハッ」

面白おかしく話す皐月

美乃里 「ハハハッ、皐月おばさんらしいね」


笑う皐月は、そうかな…なんて言いながら優しく美乃里を見つめていた


美乃里 「皐月おばさん、ここまででいいよ

明日も宜しくお願いします」

皐月 「こちらこそ」

ニッコリ微笑む皐月


2人はまた明日と挨拶をして別れた


美乃里はホテルに戻り、明日の身支度をして

夕飯をとり、早めに就寝した


「はぁはぁっ…お母さん逃げて、お願い逃げて…」

ドンッ


美乃里 「はぁ」

美乃里は水を飲み干し、いつものように着替えを済ませてホテルを出た

昨日の海辺まで走る、走る


(今日でこんな夢とはサヨナラしたい…

お父さんに会えば変わるかな…って

お父さんに会って、また来るねって…

私が…私がちゃんと前を向けたらもうこんな夢なんて…)


美乃里 「はぁはぁはぁはぁっ」

走った美乃里は息を整え、海辺を歩きながら

朝日が昇る日差しを見つめながら歩く


ピコン

《起きてる?》

守からのメールが届く

《おはようございます、起きてます》

美乃里が返信すると直ぐに電話が鳴った

RRRRRR


美乃里 「はい、おはようございます」


守 「おはよう、美乃里ちゃん」

眠そうな守の声


美乃里 「フフフフ、守さん起きたばかりですか?

声がまだ眠そうです」

守 「あー分かっちゃった?美乃里ちゃんは?」

美乃里 「昨日と同じ海辺を歩いてます」


守 「そっか、こっちに戻ったら俺も誘ってね」

美乃里 「はい」

2人はクスクスと笑い合う


守 「あ、そう言えば…美乃里さん昨日、夜ご飯食べてないの?」

美乃里 「え?」

守 「俺が何食べた?って聞いたところだけ返事無かったから…」

美乃里 「あ、バレました?

あんまり食欲なくて…すぐ寝ちゃいました」

ふふふと笑う美乃里

守 「ちゃんと食べてくださいね?」

美乃里 「はーい」

守 「あの…さ、今日なんだけど…

そっちまで会いに行っちゃダメかな?」

美乃里 「今日ですか?あの、えーっと…」


守 「いや、ごめん、迷惑だよね…

こっち帰ってくるまで待てなくて本当にごめん」


美乃里 「あの、そう…じゃなくて

私も今日そっちに帰ろうかなと思っていて…

わざわざ守さんに来てもらわなくても…と…」


守 「今日帰ってくるの?本当に?」


美乃里 「はい…」

守 「それで…会える?」

美乃里 「守さん、お仕事は?お休みですか?」

守 「休みなんだ…会うの、嫌…だった?」

美乃里 「いや、せっかくのお休みなのに…逆に迷惑じゃないかな…って」


守 「迷惑って…そんな訳ないでしょ?

俺が会いたくて誘ってんの」

少し怒ったような、不貞腐れたような守


美乃里 「怒りました?ごめんなさい…

じゃぁそちらに戻ったら連絡します、お願いします…」

守 「少し怒った…てのは嘘だけどもう迷惑なんて思わないでね

そっちを何時に出る予定?」


美乃里 「はい…

えーっと午前中は人と会う約束があるので

昼頃には電車に乗りたいと思ってました

またそちらに戻ったら連絡してもいいですか?」


守 「うん、ありがとう

連絡待ってるね」

美乃里 「はい、ではまた後で」


美乃里は電話を切るとホテルへと戻り、支度をする

キャリーに荷物を詰め、自宅に戻る準備もする

ホテルを出て近くのロッカーにキャリーを預けて

待ち合わせのお墓に向かう


(お父さんはずっとこの街で過ごしていたんだよね…

いい街だなぁ…お父さんと何話そう…)

そんなことを考えていた美乃里はあっとゆう間に目的地に着いてしまった

おばあちゃん達がまだ来てないことを確認し、母親と弟のお墓の前に行くといつものように近くに腰掛けた美乃里


美乃里 「お母さん、昴、私ね前に進みたいんだ…

忘れたいわけじゃなくて…

私の罪を許してもいいかな?


はぁ…

お父さんのお墓参り行くの…何話そうかな…って」


美乃里は空を見上げ、静かに涙を流した


遠くから声がする

美乃里 「あ、来たかな…」

美乃里は立って入口の方へ向かって声を掛けた

美乃里 「おばあちゃん達」

手を振る美乃里に気付き、3人は笑顔で振り返す


美乃里 「おはようございます」

3人 「おはよう」

美乃里 「おじいちゃん、体調は大丈夫?」

おじいちゃん 「大丈夫だ」

美乃里 「良かった」

(ああ、みんなが笑顔で…嬉しいなぁ…)


皐月 「お姉さんと昴くん、おはよう

みんなで会いに来れました…ありがとうございます」

皐月は涙を溜めながら震える声で言った

皐月につられ涙を流すおばあちゃん


おじいちゃん 「ありがとうな千佳子さん」

と手を合わせるおじいちゃん


みんなでお墓の掃除をしたり、談笑して時間が過ぎていった

皐月 「美乃里ちゃん、そろそろ行く?」

遠慮しがちに聞く皐月

美乃里 「はい、お願いします」

美乃里は真っ直ぐな眼差しで見つめる


おばあちゃん 「こっちよ」

高橋家之墓と書かれたお墓の前に案内された美乃里


美乃里は真っ直ぐに見つめていた

おじいちゃん 「圭介、美乃里だぞ

こんなバカ息子に逢いにきて…くれたぞ…」

おじいちゃんは涙を浮かべていた


美乃里は目の前に行くとお線香を灯し、静かに手を合わせた

(お父さん、美乃里です

元気ですか?ずっと来なくてごめんなさい…)

美乃里は数分程、手を合わせていた


美乃里 「ふぅー」

深く深呼吸をして笑顔で後ろを振り返る美乃里


美乃里 「おじいちゃん、おばあちゃん、皐月おばさん

本当にありがとうございます」

頭を下げる美乃里


おばあちゃん 「みぃちゃん、やめてちょうだい

こちらこそ本当にありがとう…

みぃちゃんを守れなくて、こんなバカ息子に育ててしまって…本当にごめんなさい」

涙を流すおばあちゃん


美乃里 「おばあちゃん…」

皐月 「ほら、お母さん、美乃里ちゃん困っちゃうじゃない」

おばあちゃん 「あ、うん、そうよね…ごめんね」

涙を拭うおばあちゃん

おじいちゃん 「美乃里、今…大事にしたい人がいるんか?」

美乃里 「うん…」


おじいちゃん 「そうか…美乃里の人生を壊してしまったバカ息子かもしれんけど

こんな父親の為に美乃里が苦しむことも、悩むこともしないでいい

忘れろとは言わん、ただ美乃里自身を大事にしなさい」


美乃里 「ん…」

目にいっぱいの涙を溜めて返事をする美乃里


4人は少しだけ静かな時間を過ごしお墓を後にした


おじいちゃん達の家までみんなで歩くと

お別れの挨拶をする

美乃里 「また遊びに来ます」

皐月 「絶対待ってるからね

次はここに泊まって行ってね?

あ、後は…次に来る時は1人じゃなくて2人で来てね?ふふ」

嬉しそうな皐月

おばあちゃん 「もう、皐月は気が早すぎるわ」

とパシッと皐月の肩を叩くおばあちゃん


美乃里 「ふふふ、いつか紹介できたら嬉しいです」

おじいちゃん 「美乃里が選ぶ人だ、間違いないだろ」

おばあちゃん 「そうね」

みんなが優しい笑顔と空間に包まれる


美乃里 「じゃぁ、行くね

本当にありがとうございます…また…ね」

みんなで涙を堪えながらお別れの挨拶をした


美乃里は駅までの道中、これからの事を考えていた

過去のこと…真実を話すべきなのか…

守を本気で好きになっていいのだろうか…

もし、また裏切られたら…

もし、また失ってしまったら…


考えても答えは見つからなかった

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