27.その時がくるまで
ピロン
《かれん、ごめん少し遠くに出掛けてくる
元気だし必ず帰るから心配しないで》
かれん 「美乃里…」
朝、かれんの携帯には美乃里から連絡があった
(守さんとなんかあったのかな…)
かれんは自分の薬指に光る指輪を見ながら考えていた
(美乃里…1番に報告したかったのにな)
かれんは会社へ行き美乃里の上司に何気なく聞いてみた
かれん 「荒川さん、次の出社っていつか聞いてますか?」
上司 「あーなんか詳細は話さないで欲しいって言われてて…でも仕事は本人希望でテレワークでやって貰ってるし、まぁそこまで長くはならないって言ってたから
こちらとしては問題はないかな…」
かれん 「そうですか、ありがとうございます」
(美乃里め…上手いこと隠したな…
はぁ〜私も友達としてまだまだって事か…)
美乃里からは連絡がなく1週間が経った
いつものように出社し、17時頃に退社するかれん
会社の下には見覚えのある顔が…
かれん 「ま、も…るさん?」
守 「あ、かれんさん?ですよね?
声掛けてくれてありがとうございます
かれんさんを待っていたのに…ぼーっとしてしまって
気付きませんでした」
守は無理した笑顔で笑っていた
かれん 「私をですか?」
かれんは少し驚いた表情を見せたがその理由はすぐに分かった
(こりゃぁ、やっぱり美乃里は守さん絡みで居なくなったのか…)
かれん 「とりあえずどこか入りますか?」
守 「すみません、時間大丈夫ですか?」
かれん 「特に何もないので大丈夫です
いつから待ってたんですか?」
守 「えーっと、15時くらいですかね…」
守は時計を見ながら答える
かれん 「そんなに…って連絡先…あ、私だけ知ってるのか…」
かれんは1人で色んな事を考えあたふたしていた
2人は向かいのカフェに入ると
飲み物を頼み席に着いた
かれん 「本題ですが…美乃里の事でいいですか?」
守 「はい、すみません待ち伏せまでしてしまって」
守は申し訳なさそうにしゅんとしている
かれん 「守さんに連絡は?」
守 「きてないです、かれんさんには?」
かれん 「うーん、きてるは来てるけど…守さんが求めてるようなものでは無くて
ただ、必ず戻るから心配しないでってだけで…
待つしかないのかな…と思ってますけどね、私は」
守 「はぁ…」
かれん 「なにが…」
(やっぱり美乃里に聞こう、守さんに聞いても美乃里は聞いて欲しくないかもしれないし…)
かれん 「守さんは美乃里が好きなんですか?」
守 「はい、好きです」
かれん 「じゃぁ…待つしかないですよね?」
守 「そう…ですね…
かれんさんは美乃里さんの事、昔から知ってるんですか?」
かれん 「いや、この会社に入って仲良くなりました」
守 「そうですか」
かれん 「正直、美乃里の事は全然分かりません
だから友達だけど距離を感じることが多いです
だけど、守さんと出会ってからの美乃里は少し変わった気がしました…
なんだろうな、1人で抱えてるものを下ろそうとしてるというか、周りを頼ろうと頑張ってるんだろうなって…
上手く言えないですけど…」
守 「僕の存在が美乃里さんの重荷になっているのかな…と思ってしまって」
かれん 「重荷というか…悩みの種ではあるかもしれないですけど…でもそれが恋愛ですよね?
本気で好きになってるから悩んで、葛藤してるんじゃないですか?少なくとも美乃里はそうだと思います」
守 「確かに…そうですね…
かれんさん、ありがとうございます
僕は美乃里さんに本気なんで1ヶ月でも、1年後だろうが、その時がくるまで美乃里さんを待っていたいと思います」
かれん 「守さんは真っ直ぐですね
美乃里はきっと大丈夫ですよ、美乃里の考えがあって
美乃里なりに何かと戦ってるんじゃないかって思います」
かれんは美乃里を思い、優しく微笑む
守 「ありがとうございます
僕も戦ってきます」
クスクスと笑うかれん
かれん 「はい、頑張ってください
あ、あと美乃里から連絡あったら教えますね
その変わり先に守さんに連絡があったら私にも教えてください」
守 「分かりました」
かれん 「あと…これは守さんが頑張れる為に送っておきますね」
ピロン
かれんは守にメールを送り、その場で確認する守
守 「…///」
かれん 「私でも初めてぐらいです
そんな姿見るのは…確か守さんとの話ししてたかな
あ、でもその顔の瞬間は私にありがとうって言った時のなんで私への笑顔ですけどね」
かれんは意地悪く笑ってみせる
守 「ありがとうございます…会いたくなりますね」
守は嬉しそうに携帯の画面を見ていた
(あー可愛いなあ、美乃里さん…会いたいな
1週間、連絡とってないだけでこんなに想うって…俺も重症だ)
かれん 「じゃぁ、また何かあったら連絡ください」
守 「了解です、お時間取らせてすみません
かれんさん、ありがとう」
守は優しく笑う
かれんも優しく微笑みカフェを出ていく
(あぁ、美乃里…早く戻っておいでよ
美乃里を心待ちにしてる人がいるんだよ…
守さんは絶対に大丈夫、美乃里を幸せにしてくれるよ)
かれん 「似てるよな…美乃里と守さん」
..
美乃里と会った翌日、目覚めても守への返信は無かった
守は何度も携帯とにらめっこしていたが
意をけして電話を掛ける
美乃里は電話には出なかった
だが、その1時間後に一通だけメールが届いた
《昨夜はすみません、酷いことを言ってしまいました
少し自分と向き合う時間が欲しいです
行きたい場所があるので、しばらく連絡は出来ませんが
心配しないでください》
守 「はぁ…美乃里さん」
(頼むから俺から離れて行かないでくれ…)
守はテーブルに突っ伏す
その夜、守はもう一度 電話を掛けてみた
(美乃里さんの声が聞きたい…)
だが守の耳にひ響くのは機械音だけだった
守は寝る前に美乃里にメールを送った
《美乃里さん、こんばんは
僕は今日、お昼に仕事へ行き22時頃に帰ってきました
帰り道は美乃里さんと行ったカフェでコーヒーを買って帰りました
美乃里さんが素敵な1日を過ごしていたら嬉しいです
また明日、おやすみなさい》
僕は僕の存在を消して欲しく無かった…
美乃里さんから消えないように1日の最後でいいから
僕を思い出して欲しいと思った…
守はその日から毎日、寝る前に一通だけ美乃里にメールを送った
もちろん美乃里からの返信は無かった
美乃里からの返信は無く、1週間が経った
(美乃里さん、まだ戻ってないかな…
あ、かれんさんには連絡きてるかな…
会社で待ち伏せ?それはまずい?いや、でもこのままだと俺がやばい…
そもそも会えるかも分かんないけど
とりあえず行くか…)
そして守は仕事終わりに美乃里の会社へ行った
(あー居ないのに美乃里さんばっかり探してるわ…
かれんさん…かれんさん…
顔…ハッキリは覚えてないけど分かるか?俺…)
(…はぁ
って、また美乃里さん探してたわ…)
守は1人で自問自答していた
すると突然声を掛けられた
「ま…もる…さん?」
(あ、この子だ、この子、危ねぇ…
見逃すところだった…)
かれんと話した守はカフェから帰り道
(今日…かれんさんに会ったこと報告しようかな…
どうしよう…
でも俺が待ち伏せしてたなんて…
ああー言えねぇわ…
はぁ、久しぶりに見たなぁ美乃里さん
かれんさんに感謝)
守はかれんが送ってくれた美乃里の写真を見て
頬が緩むのを我慢出来なかった
RRRRRR守の携帯が鳴る
守 「智さん?
はい」
智樹 「よー、ごめんな今大丈夫か?」
守 「大丈夫ですけど外にいます」
智樹 「分かった、とりあえず内容だけ話す
服部 洋平が自殺した」
守 「じっ…分かりました」
智樹 「お前、明日休みだよな?変更出来るか?」
守 「大丈夫です」
智樹 「原田 涼介のご家族に服部 洋平の事を…
電話でも良いと思ったんだが…」
守 「直接話してきます
連絡先は知ってますのでこちらでアポ取ります」
智樹 「ああ、助かるよ、頼むな
明日の午後のニュースに出る予定だから
午前中にアポ取れたらいいなぁ…」
守 「はい、了解です」
ピー車の電話越しに車の音がした
守 「あれ?智さん今帰りですか?」
智樹 「ああ、現場から直帰だ」
守 「夜飯どうっすか?」
智樹 「珍しいなお前から誘うなんて
ははっ、いいぞ」
智樹の声色はとても嬉しそうだ
守 「今、自宅近くの」
智樹 「おお、偶然だな
守の家の近くだ…そこまで10分くらいだな」
守 「じゃ、近くのコンビニにいます」
智樹 「ああ分かった」
守 「宜しくお願いします」
守は近くのコンビニに入り、智樹を待った
(服部洋平…自分の罪も償わずに…人を殺して自殺するなんて身勝手だよな…
世の中どうして身勝手な奴がいるんだ
死んでどうすんだよ、何か変わるのかよ…
なんて、今だから言えるんだよな…
俺だって死のうとしてたじゃねぇかって…てね
智さんは俺の命の恩人だもんなぁ
服部は治療頑張ってるって聞いてたんだけどな…
気持ちがどん底だったんかな…
どん底ってのは苦しいし判断が難しいんだよな
父さんも、服部も…俺だってそうか…
正しい判断なんて分かんなくなるんだよな
そんなどん底の瞬間に誰かが救えなかったのかな…とも思う
ああ、なんか色々考えてたら
美乃里さんに会いてぇな…弱ってんなぁ俺)
守は乾いた笑いを漏らす
智樹の車がコンビニに入ってきた
守は智樹に気付きコンビニを出た
人生には色んなタイミングってのがあって
その時、自分がどんな場所でどんな気持ちでいるのか、
何がしたくて、どんなことを求めてて誰といるのか、楽しいのか、苦しいのか、幸せなのか、辛いのか…
人生は一瞬 一瞬が全て選択肢で
遠回りでも近道でも、何となくでも回っていく
服部も生きていれば、また色んな出会いもあって
笑うこともあって、許されることは無いけれど
今までと違う人生を歩む選択肢だってあったはずだ
どん底から這い上がった人は必ず思う
あの時、死ななくて良かった…って
思うその時がくるはずなんだ…絶対に…
美乃里にはきたのだろうか…その時が
あの時、あの瞬間を忘れてどん底から前を向けた瞬間があったのだろうか…