26.私の苦しみなんて
PM 22:13
美乃里はお風呂上がりの髪の毛を拭きながら
コップの水を飲み干す
携帯を確認すると守からメールが届いていた
《美乃里さん、今日はすみません
僕から誘っておいて…もう寝てますか?》
美乃里は返信をうつ
《お仕事お疲れ様です
全然大丈夫です、起きてますよ〜》
(守さん朝から疲れただろうな…刑事さんって大変だなぁ)
美乃里は椅子に座り髪の毛を乾かす
守からの返信は早かった
《ありがとうございます
今、少し出れますか?》
(今から?こんなお風呂上がりのボサボサスッピンで…
どうしよう…
だけどお風呂上がりなのに化粧してたら気合い入ってる感でちゃう?
服も…えーどうしようどうしよう…)
美乃里は乾かしている髪の毛も途中で慌ただしく駆け回る
(断ろうかな…
でも、会いたい…会いたいって…あーやばい
どうする私)
美乃里は携帯とにらめっこしながら返信を考える
打っては、消してを繰り返す美乃里
《出れます》
(送ってしまった…この格好でいい?
いい…よね?少し話すだけだよね?)
《下で待ってるね》
守からのメールを確認し、家を出る美乃里
(あ〜髪の毛、しっかり乾いてないや…)
美乃里 「寒い…」
上着の上から両腕を摩る美乃里
下に降りると車に寄りかかり待っている守
(かっこいい…ってダメダメ)
守 「美乃里ちゃん」
美乃里に気付き手を上げる守
美乃里 「こんばんは、お疲れ様です」
守 「ごめんね、遅くに」
美乃里 「大丈夫です
守さんこそお仕事終わりに疲れてないですか?」
守 「大丈夫、あー髪の毛ちゃんと乾いてない…
また風邪がぶり返しちゃう、早く乗って」
守は美乃里の頭をぽんと撫でて髪の毛を触ると
助手席のドアを開けた
美乃里 「ありがとうございます…///」
守 「温かい飲み物でも買いに行こうか」
美乃里 「はい」
守は近くのドライブスルーのあるカフェに行く
守 「美乃里ちゃん、何飲む?」
美乃里 「カフェラテでお願いします」
守 「コーヒーとカフェラテ、2つともホットでお願いします」
店員 「かしこまりました」
店員さんにドリンクを注文し、車を前に進める守
美乃里 「あ、お金…」
守 「今度、美乃里ちゃんのおすすめのカフェに連れて行って?」
美乃里 「でも、いつも…」
守 「いーのっ
手、貸して」
美乃里 「?」
美乃里は手を差し出す
守 「ありがとう」
守は美乃里にお礼を言いながら優しく微笑み、手を握る
美乃里 「ん?」
美乃里は首を傾げる
守 「ん?」
美乃里の手をギュッと握り同じように守も首を傾げる
(小さい手だなぁ…冷たいし…あぁ可愛いなあ)
美乃里 「…///」
美乃里はようやく守が手を握っていると気付き恥ずかしくなる
(何かすると思ったのに手握るだけ?え?なに?どうゆうこと?)
頭の中がパニックになる美乃里
店員 「お待たせしました」
ガラッと窓が開き、飲み物を出す店員
守は優しく美乃里の手を離し、飲み物を受け取る
今まで繋いでいた手に飲み物をそっと持たせる守
守はありがとうございます、と店員に声を掛け車を発進させる
守 「温かいね」
コーヒーを飲みながら声を掛ける守
美乃里は両手でカフェラテを持ちながら暖まる
美乃里 「はい、あのありがとうございます…」
守 「どういたしまして」
ニコッと笑う守
守 「美乃里ちゃん明日何時に出る?」
美乃里 「明日はお休みなんです」
守 「じゃあ、ちょっとだけドライブしていい?」
美乃里 「はい」
美乃里は笑顔で返す
2人は他愛もない話しをしながら少しドライブをする
30分程経ち、守は美乃里の自宅へ送り届ける
守 「遅くまでごめんね」
美乃里 「楽しかった」
美乃里は優しく、可愛らしく微笑む
守 「はぁ…」
守は手のひらで顔を隠し、ため息をついた
美乃里 「あ、ごめんなさい何か…」
(私、何かしちゃった?)
守 「…すぎる」
美乃里 「え?」
守はボソッと何かを言ったが美乃里には聞こえなかった
美乃里は慌てて守の顔を覗き込む
守 「可愛すぎる…///」
守はさっきより大きい声で一言だけ話すとまた顔を手のひらで覆った
美乃里 「え?え?何がですか?」
美乃里は自分への言葉だと気付かずあたふたする
守は優しく微笑み
守 「行こっか」
と声を掛けて運転席から降りる
助手席のドアを開け、美乃里に手を差し出す
美乃里 「あ、すみません…ありがとう」
美乃里が守の差し出した手を握り車から降りると
守はそのまま美乃里の手を引き
自分の胸に抱き寄せ、美乃里を抱き締めた
美乃里 「ま、守さん?」
戸惑いながらも守の腕の中にすっぽりと入る美乃里
(守さんの匂い…)
ドキドキと鼓動が速くなり顔が赤くなる美乃里
(あー恥ずかしい…どうしよう)
守は美乃里を抱き締めて深いため息をつく
守 「美乃里さん…ごめん、少しだけ…」
美乃里は固まったまま頷き、守に身を委ねる
(守さん、何か辛いことでもあったのかな?
仕事で疲れちゃったのかな?どんな顔してる?)
そんな事を思いながら美乃里は顔を上に向けると守と目が合った
守は優しくも悲しげな目で美乃里を見つめる
美乃里 「守さん…大丈夫?」
美乃里は優しく声を掛ける
守は美乃里の髪を優しく撫でるとそのまま優しくキスをする
(…///)
一瞬の出来事に美乃里は一気に頬を赤く染め、驚いた表情を見せる
守 「ごめん、我慢出来なくて…」
守はもう一度 美乃里を強く抱き締めた
美乃里 「守さん?」
守 「俺、美乃里さんが好きで…」
守は抱きしめていた体を優しく離して
美乃里の顔を覗き込む
守 「困らせてごめん…でも美乃里さんをもっと知りたい
俺…じゃダメかな?」
美乃里は驚いた顔で守を見る
美乃里 「守さんが?私を?…ですか?」
(どうしよう、どうしよう…心の準備が追いつかない…)
美乃里は頭の中でぐるぐると考える
守 「そう、美乃里さんが好き」
ストレートに伝える守
美乃里 「私も、守さんが…私は…」
(まだ気持ちの整理が…今の私で守さんと…)
美乃里は下を向く
守 「美乃里さんの昔のこと…」
美乃里 「…昔?」
(ああ、刑事さんだもんね…)
美乃里の目つきが変わる
守はそんな美乃里の表情には気付かず話し出す
守 「美乃里さんのこと、少しだけ昔の記事で読んで…だから…その…全部を知ってる訳では無いけど」
美乃里「それで…同情でもしてくれましたか?」
美乃里は嘲笑うかのうように言葉を投げる
守 「同情?そんなんじゃ…」
美乃里 「あんなこと知ってて好きになる訳ない
私の事バカにしてっ…
可哀想だって見下してっ…はぁはぁっ」
守 「違うっ…違うよ、みのっ」
美乃里 「違わないっ」
美乃里は声を張り上げる
守 「あの記事だけが真実だとは思ってないから
聞いて、みの…り」
美乃里は守を色の無い目で見つめる
美乃里 「殺人犯が守さんみたいな人と付き合える訳無いでしょ…帰って」
守 「みのっ…」
美乃里 「いいから、帰って…もう帰って」
歩き出す美乃里の手首を掴む守
守 「美乃里、お願い待って」
美乃里 「離してっ」
美乃里は守の手を振り払って家へ帰って行った
守 「はぁ…やっちまった…」
守はその場にしゃがみこみため息をつく
(俺から昔の話はするべきじゃなかったのか?
だけどそこを越えなきゃ…
あーごめん美乃里さんごめんな…)
守 「美乃里さんの本当の苦しみなんて俺に分かる訳ねぇか…」
《美乃里さん、ごめん、傷付けてごめん
ちゃんと話がしたい。待ってるから…》
守は美乃里にメールを送るが返事は来なかった
守はまた美乃里が戻って来てくれるんじゃないかと
少しの期待を胸に待っていたが美乃里が戻る事は無かった
守 「はぁ…帰るか」
《美乃里さん、落ち着いたら連絡ください》
守は美乃里にメールを送り家路に着いた
..
バタン
勢いよく閉まる扉
美乃里 「はぁはぁはぁ…」
家に帰ってきた美乃里は溢れる涙でぐちゃぐちゃだった
そのままベッドに倒れ込む
落ち着いてきた美乃里は携帯を確認する
守からのメールがきていたが見なかった
美乃里 「私…の苦しみなんて…
はぁ…」
(私だって本当は誰かに言いたい…
言って、大丈夫って大丈夫…だって…言って欲しい
悪くないって…)
美乃里 「いや、私が悪いんだ…全部私のせいだもん」
(守さんに当たってしまったな…
好き…になっちゃった…
抱き締められた時もキスされた時もドキドキがとまらなくて嬉しかった
なのに…知られたく無かった…こんな私じゃ
守さんとなんて釣り合わないし、守さんはきっと涼介を亡くした私に、人殺しの私に同情して
好きだと勘違いしてるだけ
きっと連絡しなければ気持ちなんてすぐ冷める…)
美乃里はぼーっとした頭で色んな事を考えていた
携帯をもう一度確認する
美乃里が自宅に戻ってから2時間程経過していた
(傷付けて…って私も守さんを傷付けた
待ってる…か…)
美乃里 「まだ待ってるのかな…会いたいなぁ
はぁ…守さん、ごめんなさい…」
美乃里は携帯をテーブルに置くと
ベッドに行き、眠りについた
眠りにつく前に携帯がピコン、と鳴った音がした
(守さん…かな?)
そのまま目を閉じた美乃里
いつもの悪夢で目覚めた美乃里は
コップ一杯の水を飲み干すと荷造りを始めた
美乃里 「やっぱりちょっとだけ走ろう…」
荷造りの手を止めてトレーニングウェアに着替える美乃里は準備をして家を出る
美乃里 「はぁはぁはぁっ…」
(寝不足かなぁ…今日はキツイ…)
美乃里 「やっぱり帰ろ」
少し走り、家路に着く美乃里
自宅に戻った美乃里は先程の荷造りの続きをする
準備が出来た美乃里は始発の時間を調べる
部屋を軽く整えると美乃里は大きな荷物を抱えて家を出た
美乃里がこの家に戻ってきたのは1ヶ月後だった