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25.道しるべ

「はぁはぁはぁっ…はぁ…」

いつもの目覚めに少しの安心と恐怖感を覚えながら

キッチンに立つ

そしていつものようにトレーニングウェアを着て家を出る


風邪で落ちてしまった体力は直ぐに疲れて息が上がる

その息苦しささえも今は心地良い

いつもの夢とあの時の苦しさに比べたら

この息苦しさが美乃里のモヤッとしたものを消しさってくれる


AM5:58 ピコン 携帯が鳴る


《おはよう、起きてる?》

守からだ


昨夜お礼を伝えて何度か他愛もない連絡をとった

(守さん早いなぁ…)

《おはようございます、起きてます》


《美乃里さんはいつも早起きですね

少し話せますか?》


(話し?なんだろ…)

《はい、大丈夫です》


RRRRRR 返信後すぐに電話が鳴る


美乃里 「はい」

守 「あ、美乃里さんおはよっ、っとっと…ごめんね」

何かにぶつかった音がした

美乃里 「おはようございます、大丈夫ですか?」

守 「少し躓いただけ〜あれ?今外?」

美乃里 「あ、はい」

守 「こんな早くから…何か欲しいものあった?」

美乃里 「あ、いや…いつも起きたら少し運動を」

守 「いつも?」

守は少し大きい声が出る

守 「え?1人で?まだ薄暗いのに?

にしても病み上がりで?もうっ、言ってください

一緒に行くので」

美乃里 「え?いや…あの大丈夫です」

守 「えっ…」

電話口でも分かるほど守は悲しそうな声を出した


美乃里 「あ、いやあの…大丈夫って言うのはその病み上がりでっていうのに対してで

守さんと一緒にってのが嫌って訳じゃなくて

嫌って訳じゃないですよ?

ただ、いつも目が覚めて直ぐに走りに出ちゃうので

髪もボサボサでスッピンですし…

結構しっかりめに走るので…」

美乃里は少し早口で話す

守 「そうですよね、ごめんなさい…少し調子に乗ってしまいました…」

美乃里 「いや、あの嬉しいです

もし今度時間が合うような日があれば是非一緒に走ってくれたら嬉しいです

あ、電話…何か用事でもありましたか?」

美乃里は優しく微笑みながら話す

守 「ありがとう…ううん、美乃里ちゃんの声が聞きたかっただけ…まだ走る?」

守の声はとても優しかった

美乃里 「…///

いや、あ、後は自宅に戻るだけです」

(嬉しいなぁ…)


守 「嫌じゃなかったら電話…繋げててもいい?」

美乃里 「私は大丈夫ですけど…」

守 「じゃあそうしてくれる?」

美乃里 「はい」


美乃里は電話を繋げたまま走る

守は携帯をスピーカーにするとテーブルの上に置いた

そして身支度を整えて仕事に向かう


10分程で美乃里は自宅についた

美乃里 「はぁはぁはぁ…守さん?」

守 「美乃里ちゃん、ついた?」

美乃里 「はぁはぁっ…はい、つきました」

美乃里は荒い息を整える


守 「ありがとう、安心した

もう今日から出社?」

美乃里 「はい、もう随分と体調も良いので」

守 「無理はしないでね」

美乃里 「ありがとうございます

守さんも無理せずお仕事、頑張ってください」


守 「美乃里ちゃん、俺…

あー今日さ仕事終わりに少し会える?

俺は夕方くらいかな…」

美乃里 「大丈夫ですよ」

(なんだろ…大事な用事かな?)


守 「ありがとう、仕事終わったらまた連絡するね」

美乃里 「はい」

守 「じゃぁね」


電話を切った後、美乃里は朝食を摂りながら考える

(守さん、最後少し元気なかった?

どうしたんだろ…なんかあったのかな?

もう会わないとかの話しだったらどうしよう…

いや、でも会わないっていうかそもそもそんな関係でもないし…そうなったらしょうがないよね…

え、でもそれは嫌だ…ってめちゃくちゃわがままじゃん

えーどうしよう…彼女が出来たからとか言われたら…

えーーーもうこれって失恋?

守さんからしたら友達?いや、でも昨日かれんは男女の友情は〜って言ってたし…

言いかけてやっぱり後でねなんて…意地悪だな守さん)


美乃里は頭の中で守のことばかり考えて

最後には少し怒った様子だった


そして準備をして出社する美乃里

会社ではお昼休憩になりかれんと今朝の出来事を話す


かれん 「じゃぁ、今日会うって事だよね?」

美乃里 「うん」

かれん 「その感じだと告白じゃない?」

美乃里 「えー、それはないし

告白されたとしても今はなんか少し困る」

かれん 「なんでよ」

美乃里 「昨日、かれんが言ってくれたようにまだまだ守さんには距離があるし

それを直ぐに頼って、甘えてって変えられない…

あんな優しい人を私なんかがって…思っちゃうし

守さんを悲しませたくない」

かれん 「まあ、ね

人って直ぐに変われるもんでもないしね

のんびり美乃里らしくいこ

ま、でも私は美乃里とこんな話しができて

距離縮まった〜って感じでもうめちゃくちゃハッピーだけどね」

ニヤッと可愛いらしく笑うかれん

そんな嬉しそうなかれんを見て美乃里も嬉しそうに

少し恥ずかしそうに笑う

美乃里 「ありがとう、かれん」

優しく微笑む美乃里


カシャ

かれんは美乃里に携帯を向けて写真を撮る

美乃里 「ん?何?」

かれん 「いや、可愛すぎたから今」

美乃里 「え?何それ?やめてよ〜」

2人は楽しそうにケラケラと笑い合う


かれん 「あ、私さ今日、午後休とって明日も休み」

美乃里 「なんかあった?」

かれん 「結果…聞いてくる」

美乃里 「DNAの…そっか…大丈夫だよかれん」

かれん 「うん、ありがとう」

美乃里 「かれんも大変なのに私の心配ばっかりさせちゃってたね、本当にありがとう」

かれん 「全然、また話し聞いてね」

美乃里 「うん、聞かせてね」


かれん 「あ、守さんの連絡先って聞いてもいい?」

美乃里 「守さん?私は良いけど」

かれん 「今回の事でさ、美乃里ってやっぱり自分で何でもしようとするってのが分かったから

なんかあった時は美乃里のこと共有したいからさ」

美乃里 「あははっ、何それ」

美乃里は笑う

かれんは何だか嬉しそうだ

(きっと守さんなら美乃里を大事にしてくれる…)


美乃里 「守さんに聞いとくね」

美乃里も嬉しそうだった

(かれんが私の事にこんなに積極的になるなんて…

なんだか嬉しいな…)


2人は仕事に戻り、美乃里は守にメールを送った

《守さん、こんにちは

私の友達のかれんに守さんの連絡先を教えてもいいですか?

前に食事後に会った子です》

守からの返信は直ぐに来た

《大丈夫だよ、美乃里ちゃんの大事な友達?》


《そうです、ありがとうございます

何かあった時用にと言ってました》


《それは僕も助かります、よろしくお願いします》


守の連絡先を直ぐにかれんへ送った

(助かる?そうなの?はぁー今日も守さんに会える…)


美乃里は仕事を終えると足早に帰宅した

時刻は17:46

(守さん…連絡こないなぁ)


少しするとRRRRRR電話が鳴る

美乃里 「守さんだ、もしもし」

守 「あ、美乃里さんごめんね連絡遅くなって

誘っといて申し訳ない

急な仕事で終われそうになくて…」


美乃里 「そうなんですね、大丈夫ですのでお仕事頑張ってくださいね」

守 「本当にごめんね、じゃあ、また」

美乃里 「はい、また」


電話を切った美乃里はテーブルに突っ伏す

(会いたかったなぁ…なんて思っちゃうのは好きってこと?いやいや、迷惑だよなぁ…)


..


智樹 「守〜もう終わりそうか?」

守 「ともさん、助けてくださーい」

智樹 「あははっ随分沢山だな」

守 「美乃里さんと会う予定が…」

机に突っ伏す守

智樹 「おお、そうだったのかじゃぁ、気合い入れて一緒に片付けるか」

腕まくりをする智樹

守 「いや、今日はもういいんすよ

約束の時間とっくに過ぎてますし…」


智樹 「そうか…

お前、本当にあの子にするのか?」


守 「よく分かんないんすけどね

ああ、この子だって思ったんですよね…

おかしいっすよね…」


智樹 「お前が良いと思ったならそれが正解だ」

守 「ありがとうございます、頑張ります」

守はニコッと笑った


智樹 「俺の知り合いに精神科医の先生がいるんだが

荒川美乃里さんはあの事件の後から数年程そこに通っててな…あの時の夢を毎日見ると言っていた

記事のものだけが全てじゃない…

俺もあの時の衝撃は今でも消えないし

荒川…高橋美乃里さんの事件が今の俺を作ってる

俺は救えなかった、あの日

あの子を救ってあげることが出来なかった

あの子は誰からも救ってもらえずに自分の力だけで

きっとここまできてる

傷はお前が思っている以上に深い」

智樹は真剣な顔で守に話す


守 「智樹さんは全てを知ってるんですか?

知ってたらっ…」

智樹 「俺から言うことじゃねぇ…」

守 「でも、何か力に」

智樹 「無理だろ

全部知ってる俺でさえかける言葉がなかった

客観的に俺が見て、俺が感じた気持ちなんて

高橋美乃里、本人に比べたら10分の1もない

本気であの子を大事な人にしたいなら

あの子の気持ちを、本心を分かってあげるべきだ」


守 「そうですよね…」

智樹 「中途半端に近付くな、中途半端ってのは相手を1番傷付ける」

守 「はい」

(やっぱり智さんの言葉はいつも的確で重い…)


守 「智樹さん、どん底って苦しいっすよね…」

智樹 「ああ、闇だな」

守 「時間…掛かるよなぁ」

智樹 「表面上では、人は人を助ける事が出来る

だが、中身は救ってやれないのがほとんどだ

本当の意味で救うのは難しいが、きっかけはたくさん作れる

お前がかける言葉だったり行動で

救える瞬間があるかもしれない

どんな言葉が、どんな行動がその子を救えるかは分からないんだから

考えたって無駄だ、守の思うように動くのがベストだ

お前があの子の道しるべを作ってやるんだよ」


守 「俺の思うように…道しるべ…か」

智樹 「お前が正しいと思って引っ張っていく先があの子にとっても正しければ

必ずどん底から救われる筈だ


今日、会いたかったんだろ?」

守 「はい…」

智樹 「それを仕事が…って仕事のせいにして会うのやめるのか?

俺だったら本気で好きなら迷惑だと思っても

俺が会いたい気持ちを抑えたくないから会いに行くけどな、ハッハッハ」

智樹は楽しそうに笑う


守 「いやーかっこいいっすね智樹さんはやっぱり」

智樹 「当たり前だ」

2人は楽しそうに笑う


守 「よし、頑張って終わらせなきゃ」

守は目の前の資料を早々にチェックしていく


そんな姿を嬉しそうに智樹は見ていた

(俺はお前の道しるべを作ってやれてるといいけどな…)


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