表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

20.それぞれの決意

警察署に着き、美乃里の聴取が始まる

守 「美乃里さん、大丈夫ですか?

詳細を色々聞くことになりますので

体調が良くなかったり、何かありましたら教えてください」

美乃里 「すみません、お気遣いばかりさせて…

大丈夫です

よろしくお願いします」


美乃里は出会った日からのことを少しづつ話していく



智樹 「守は聴取取れたか?」

悟 「今から荒川 美乃里の聴取です」

智樹 「そうか」

悟 「中根雅紀と父親も今からですか?」

智樹 「ああ、父親はもう部屋で待機中だ

俺が連絡したら中根 雅紀を連れて来てくれ」

悟 「分かりました」


コンコン

智樹 「こんにちは、中根和弘さんですね?」

和弘 「はい、この度は息子が…本当に申し訳ございません…」

和弘は智樹の姿を見ると席を立ち、頭を下げる


智樹 「起きてしまったことです

これからどうしていくかが大事です…

頭を上げてください」

和弘 「ありがとうございます

本当にすみません」

智樹 「座って話しましょう」

和弘 「はい」

智樹 「だいたいの話しは伺っています」

和弘 「はい、あの…

雅紀が刑務所を出た後は私のもとへ帰ってきて欲しいと思っておりまして…

その為に今は仕事もして、家もしっかりあります」

智樹 「そうですね…そこら辺の事も色々 調べさせて頂いていますが

雅紀さんが刑を終えた後、2人とも薬物への前科がある状態です

今、貴方にその意思が無いとしても

息子さんがもし目の前で再び薬物に手を出してしまう可能性もあります

ましてや、貴方に恨みがあったとするなら

尚更、可能性は高いのではないでしょうか?

貴方への当てつけで、もし、刑が終えても同じ事を繰り返してしまっては

今回の事件で失われた命を我々は

無駄にしてしまうのではないかと思っています

無駄にしない為にも

この先は別々の道を歩むのが最善ではないでしょうか?」

和弘 「はい…あの、その通りだと思います」

智樹 「では、雅紀さんに会うのは」

和弘 「それでも、すみません…あの、はい…

本当にすみません

大事な人を亡くす悲しみはとても分かります

亡くなった方へどんな償いをしたらいいのか

私も一生の課題だと思っております

私がっ…私が…私の罪がこのような事に繋がってしまった…

あの2人が私を憎むあまり、私への復讐の為に

このような罪を犯してしまった…

私は刑務所で毎日、自分の過ちと向き合いました

自分が犯した罪を頭に叩き込みました

妻を殺した記憶がない私は…警察の方から聞いた事を全て紙に記し、毎日毎日読みました

それでも信じられませんでした…

妻は優しくて…誰よりも家族想いで自分の事より周りを大事にする妻を私が殺したなんて…そんな事っ…

私は…何が正解なのか未だに分かっていません

刑務所で何度も自分を殺めたいと思いました

ですが、その度に妻の夢を見るんです

雅紀をお願いします…って…自分を許しなさいって…」

和弘は泣き崩れる


智樹 「中根さん、我々も正解は分かりません

今回の事件での犠牲者は亡くなった方だけではありません

一般の方、全く関係の無い人達がたくさん巻き込まれているんです

たくさんの若い、これから未来のある子たちが

大きな犯罪に手を貸し続けているんです

その大元だったのはあの2人ですよ

貴方への復讐の為にこれだけ大きな組織を2人で作り上げ、貴方への復讐の為に薬に手を染めて

そして…勇気を出して行動した人達が犠牲になった

この悔しさが貴方に分かりますか?中根さん

誰も貴方を責めやしません

罪を犯したのは本人達であって、被害にあった女性もご家族も…復讐の為とは知らないからです

ですが、我々は知っています

ですが貴方を責めてる訳ではありません

少しでも同じ過ちが繰り返される事を防ぎたいだけなんです

だから中根さん…

貴方は雅紀さんに会うべきではないです」

智樹は怒気を強めながらもなるべく柔らかな口調で思いを伝えた


ズズ…ズズズッ…

和弘の鼻を啜る音が響く


和弘 「その通りです…本当に申し訳ない…

自分勝手で…本当に申し訳ないです」

和弘は頭を下げ、涙を零す


智樹 「少しお待ちください」

智樹は席を立ち、部屋を出る


近くの自販機に向かい缶コーヒーを買う

(はぁ…俺も分かんねぇ…これでいいのか…)

智樹の警察官としての想いも

和弘の親としての想いもどちらも間違いでは無いからこそ悩んでしまう智樹


ガチャ


奥の扉が開き、中から守と美乃里が出てきた


守 「あ、智樹さん、荒川美乃里さんの聴取終わりました」

智樹 「ああ」

智樹は守に返事をし、美乃里に頭を下げた

美乃里も智樹に向かって頭を下げる


守 「では、荒川美乃里さんはこのまま釈放いたします」

智樹に声を掛ける守だが、その問いには答えず

智樹は美乃里の前に立ち頭をポンポンと撫でる


智樹 「大きくなったな…辛かっただろ?

あの時、何もしてやれなくてごめんな

辛い時は頼れる奴にとことん甘えろ

分かったな?高橋みのり…さん…だよな?」

智樹は美乃里の顔を覗く


美乃里は驚いて目を見開く


守 「え?智樹さん…荒川美乃里さんですよ」


智樹 「おっ!そうか、ごめんごめん

間違えたよ

荒川さん、辛い時はいつでもこいつ貸してやるから頼ってな!ありがとな、2人とも」

ニッコリ笑う智樹に

守 「ちょっ、智さん何言ってるんすか…っ

すみません美乃里さん、気にしないでください」

焦る守を背に手を振って部屋に入っていく智樹


智樹は部屋に戻ると憔悴しきってる和弘の前に缶コーヒーを置く

智樹 「すみません、お待たせしてしまい

これ一緒に飲みましょう」

和弘 「すみません、ありがとうございます」

智樹 「そんな疲れた顔、亡くなった奥さんに見せれますか?息子さんにも見せれますか?」

和弘 「え?」


智樹 「会いたいんでしょ、息子さんに

待ってるぞと伝えたいんでしょ?

そんな自信もなくて、疲れてる顔じゃ息子さん、頼れないですよ」

智樹は優しく微笑む

和弘 「すみません、分からなくて…どうしていいか分からなくて…息子を救いたいのに

何の力も、いい所も何も無くて…本当に情けない…」


智樹は気付いた…

(あぁ、どん底に落ちてしまった時に必要なのは

そばに居てくれる誰かで、頼れる誰かなんだ

1人で這い上がろうとしても

自分を許して這い上がる奴と

自分を責め続けて這い上がる奴がいる

自分を許してやれないやつはずっとどん底だ

中根雅紀だって、そうだ

きっと父親が母親を殺した日から自分を責め続けてる

どん底から這い上がって来れてないんだ…

こいつにも頼れる誰かが必要だよな…)


と美乃里の顔を見て、智樹は思った

それと同時に

美乃里もそうなのではないかと思ってしまった


智樹 「昨日、部下から聞きました

前を向くには自分が自分自身を許してあげることだと」


和弘 「はい、その通りです

今でもその気持ちは変わりません」


智樹 「雅紀さんの罪を貴方は許しますか?」

和弘 「申し訳ありません…

私は、私は…私だけは息子を許してやりたいです」

頭を下げる和弘はまた涙を流していた


智樹 「分かりました」

智樹は席を立ち電話を掛けた


智樹 「いいぞ」

一言だけ話すと電話切った


智樹 「今から雅紀さんが来ます

和弘さん、貴方の思いはきっと届きますよ」

智樹は和弘の肩を叩くと部屋から出て行った


外に出て少しすると悟と警官が雅紀を連れてきた


智樹 「よぉ」

智樹は雅紀の顔を覗き込む

雅紀は智樹の顔を睨むが憔悴し、覇気がない


智樹 「荒川美乃里さんは意識も戻ってさっき釈放された」

雅紀の表情が変わった…

それは嬉しさと悲しみが混ざったような顔だった

智樹 「次はお前の番だろ、ちゃんと前向け」

智樹はバシッと雅紀の背中を叩く


雅紀 「ちぇっ、あいつと話すことなんかねぇよ」

智樹 「お前はなくても父親は話しがしてぇんだよ」


悟 「智樹さんは…」

智樹 「俺はいいや、お前着いてくれ」

悟 「分かりました」


智樹はそのまま警察署の駐車場へ向かう


前から歩いてくる守の姿が見える

守 「あ、智樹さん」

智樹 「おお、彼女送ってやったか?」

守 「何言ってるんすかって、彼女じゃないですから」

智樹 「ええ?お似合いだったぞ?」

ニヤける智樹に呆れ顔の守

守 「智樹さん、美乃里さんのこと知ってるんすか?

あの後、美乃里さんの様子ちょっと変っていうか

ぎこちない感じで心ここに在らずって感じで…」

智樹 「お前のトークがつまらなかったんだろ」

守 「あ!ちょっと智さん

また俺をからかって…本当に…そうだったらどうしよう」

拗ねたかと思えば落ち込む守を見て

智樹は 「あはははっははっ」と大笑いした


智樹 「お前は救ってやれ、あの子を」

守 「え?なんすか?」

智樹 「なんでもねぇ…

今、中根親子を合わせて悟が聴取してる

お前も行くか?」

守 「いや、俺は資料まとめるんで」

智樹 「ああ俺はちょっと休憩してから戻るわ」

守 「分かりました」


悟 「時間は15分だ」

和弘 「はい、ありがとうございます」

雅紀は手錠を付け、ロープで繋がれている

そんな姿を父親は寂しそうな顔で見る


雅紀 「なんだよ」

雅紀は椅子に座りながら父親に問う


和弘は頭を下げた

和弘 「雅紀、俺はお前を苦しめた…

お前の人生をどん底に追いやってしまった

本当にすまなかった…雅紀…」


雅紀 「お前が謝ったって母さんは帰ってこねえだろ

お前がいる事になんの意味があんだよっ」

雅紀は声を張り上げた


静かな時間が流れる


和弘 「雅紀、俺は確かに大きな過ちを犯してしまった

雅紀がどれだけ俺を憎んでも

お前が俺の息子で、雅紀の父親って事は変えられない

俺は残りの人生をお前の父親で居たいと思ってる

お前には必要な存在じゃ無かったかもしれん…

それは昔の話しで…これからはお前に必要とされる父親に必ずなっていくから、お前を待ってるから

俺が待ってるから…雅紀、必ず待っててやるから

お前が出てくる頃には料理だって、洗濯だって

なんだって出来るようになってるから

雅紀には俺が着いてるから…な?」

和弘は言葉に詰まりながらもゆっくりと雅紀に気持ちが伝わるように話した


雅紀は俯きながら静かに涙を流していた


和弘 「雅紀…頼むから自分を責めないでやってくれ…

母さんはお前の笑った顔、好きだっただろ?

俺のせいだ…確かに全部俺のせいだ

だからそれで良いんだ…お前が自分自信を責める必要なんかない

お前はお前のままでいいんだ

どんな過ちを犯したとしても父さんはずっと雅紀の味方で…何度だってお前を許し続ける

例えお前が父さんを殺したって許す

どんなにどん底だと思っても

いつだってそのどん底から俺が救い出してみせる」


悟 「そろそろ時間です」


和弘 「雅紀、必ず待ってるからな

俺は覚悟決めたんだ

お前を必ず幸せにしてやるって

早苗と俺の大事な息子だ

…また来るな」

和弘は雅紀の頭をグシャッと撫でてそのままドアへと向かう

和弘 「わがまま聞いてもらってありがとうございました」

和弘は警察官に頭を下げて部屋を出る


その後ろ姿に雅紀は涙を流しながら頭を下げていた



守 「これか…」

守は過去の事件を資料室で調べていた


守「当時小学5年生の女の子が母親と弟を刺殺…」

守は資料を見ながら目に涙を溜めていた


守 「こんなこと…」

(担当刑事に智樹さんの名前もある…)


RRRRRR

守の携帯が鳴る


守 「はい」

智樹 「今どこだ?」

守 「…資料室にちょっと…」

智樹 「そうか、調べたのか」

守 「はい」

智樹 「さすが、お前は勘がいいな…ははっ」

智樹は呆れながらも優しい声色だ


守 「今の名前は…」

智樹 「ああ、母方の苗字だろう」

守 「智樹さん…俺…」

智樹 「難しいかもしれねぇがお前が本気なら良いんじゃねぇか?」

守 「今の俺に出来ることって…」

智樹 「何もねえな」

守 「ちょっ、智さん、どうゆうことっすかそれ」

電話口で慌てる守とは正反対にガハハハッと笑う智樹


智樹 「まぁ、今は大事な人を亡くしたばかりだ…

気持ちの整理が着くまで待ってやれ」

守 「そうですよね…」

智樹 「あー俺、なんか今 父親ぽかったか?」

守 「そうですね…ぷはは」

2人は照れくさそうに笑っていた


智樹 「じゃぁ、資料まとめとけよ、おサボりくん」


守 「ちょっ」

プーップーッ…

守 「もう…サボってないっすって…」

守は資料を片付け部屋を出た


運転手 「はい、着いたよ〜ありがとうね〜」

美乃里 「ありがとうございました」

タクシーから降りた美乃里は数日ぶりの我が家に安堵する


美乃里 「はぁ…辛いなぁ…」

(涼介がいないなんて信じられないな…)


美乃里はふと鏡に目をやると

やつれた自分の姿を見て、ため息をつく


美乃里 「はぁ…」

(やっぱり…あの刑事さんあの時の人だったんだな…

守さんに知られてなきゃいいけど

って何で守さん!!関係ないじゃん)


美乃里 「はぁ…疲れてるなあ」

美乃里は色々 考えるのを辞めて、携帯の電源を切り

部屋の大掃除を始めた

久しぶりに開けるクローゼットの中

引き出しから沢山の手紙を取り出す


美乃里 「…行こう」

美乃里はその中から1通の手紙を手に取り鞄にしまった

美乃里の目は迷いのない真っ直ぐな眼差しだった


部屋を片付け終え、軽く夜食を作り食べ終えると

早々に眠りについた美乃里


「やめて…やめて…お願いお……ん」

美乃里 「はぁはぁはあはあっ…」

布団からガバッと起き上がる美乃里

時刻はAM4:06

美乃里 「よし」

美乃里は荒い息の中、いつものように水をゴクゴクと流し入れ、トレーニングウェアに着替える

まだ暗闇の外を白い息を荒く吐きながら

走る


走る


何も考えないで走り続ける


自宅に戻りシャワーを浴び、朝食を摂る

身支度をして家を出る

外は朝日が上り始めていた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ