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18.進むしかない現実

美乃里 「はぁ…」

美乃里は目を開け、天井を見つめながら

ここが病院だと気付いた後で目からは涙が流れていることに気付く

美乃里 「涼介…涼介はどこ?」

美乃里は流れる涙を拭きながら周りを見渡す

枕元に置いてあった携帯電話に気付き携帯を開く

外はもう暗い…時計の時刻は5:48と出ている


(え?私どれだけ寝てた?

どうしよう、涼介…涼介は…)

美乃里は少しパニックになりながら急いでベッドから降りスリッパを履く、急いで点滴が倒れる

「ガシャンッ」


ガラッ 病室のドアが開く

「美乃里さん」

物音に気付き、病室のドアを開けたのは守だった

守 「美乃里さん、美乃里さん大丈夫ですか?

ナースコールは押しましたか?」

守が来たことに驚いた美乃里は返事の代わりに首を振る


守 「まだ万全じゃありませんので横になってて下さい」

美乃里 「涼介…涼介…」

美乃里は悲痛な声で守に問いかける

守 「しっかりお話ししますのでまずは美乃里さんはしっかり体を休めてください

今、ナースコールを押したのでお医者さんが来るまで待ってください」


バタバタと足音と共に看護師と医者が入ってきた

美乃里は医者から軽く質問を受け、診察をし問題はないが安静にと言われると

医者は守に頭を下げ病室を出て行った

看護師から説明を受ける守を不安な目で見つめる美乃里


守は話し終えるとベッドの横の椅子に腰掛けた

美乃里 「あの…取り乱してしまいすみません

涼介は…涼介は無事ですよね?」

涙目で守を見つめる美乃里

守 「美乃里さん、落ち着いて聞いてください

涼介さんは意識不明の重体でしたが…

先程、息をひきとられました

美乃里さん…今日何日かご存知ですか?

あの事件の日から3日が経っています」

美乃里 「み、3日も…あたしは…あ、夢…

涼介が涼介が…だから…うう、うっぅあああ

涼介、りょ、りょうす…りょう…け」

美乃里は声にならない声で泣き叫ぶ


美乃里 「私が…私が涼介を、殺し」

守 「違います。美乃里さん、違いますよ」

美乃里の言葉を遮った守は

迷いながらも、うずくまってベッドの上で涙する美乃里の背中を摩る

美乃里 「涼介…ひっ、りょう、りょうすけ…ぅぅ」

美乃里は溢れる涙を布団に押し付ける

美乃里 「りょう…すけに、涼介に会いたい…」


守 「分かりました。少し待っててください」

そう言うと守は病室を出て行った


美乃里は外をボーッと眺めることしか出来なかった

あの時、あの場所で何が起こったのか

ボーッとする頭で考えていた

あの一瞬の出来事を追って考える…

(涼介、痛かったよね

あの2人は…私も涼介の所へ行きたい…

お母さんと弟と一緒にいたい)

美乃里の足は病室の窓際に向かう…

点滴を抜くと血が滲み出てきて

ボーッとする頭では痛さも感じない

窓の外に目をやると朝日が昇り始めていた


(何階だろう…あまり高くないな…)


美乃里は窓を開け、身を乗り出してみる

冬の朝の匂い、鼻がツンとする寒さ

美乃里は溢れる涙をそのままに大粒の涙を流しながら

空に向かって声を掛けた

美乃里「りょうすけー今から」(行くねー)

守 「美乃里さんっ」

美乃里の声は守の声で最後まで聞こえなかった

守は急いで美乃里に駆け寄り声を掛けた

守 「座ってください」

少し怒った声色で守は美乃里を見つめた


美乃里 「私は人殺しなので逮捕してください」

美乃里は優しく微笑む


守 「美乃里さん…」

(美乃里さん、どうかお願いだから

自分を責めないでくれ)

守は携帯を取り出し、美乃里に差し出す


守 「美乃里さん、申し訳ありません。

涼介さんとはお会い出来ません

涼介さんのご家族からの申し入れです

ですが、涼介さんの思いは知って欲しい、と涼介さんの携帯です。宜しければ美乃里さんがお持ち帰りください

そしてこの動画は救急車で運ばれる際に涼介さんが救急隊員の方に撮ってくれと頼んだものだそうです。

これを見て涼介さんのご両親も美乃里さんにこれを見せて欲しいと…そしてずっとこれを持っていて欲しいと言っていました。」


携帯を受け取り、再生ボタンを押す美乃里


涼介 「ハァハァはぁ…いいっすか?

撮れてます?」

隊員 「どうぞ」

涼介 「美乃里、美乃里…うっ、大丈夫か?

あー痛え…美乃里、怖かったよな

早く助けてやれなくて…うぅ…あーごめんな

はぁ、はぁはぁ…

美乃里…ほんっとにお前はいい女だ

美乃里以上にいい女は多分いねぇ…ハハッ

いいか?俺に何があっても自分を責めるなよ

変な事考えたら俺が何度だって助けに行くからな…

絶対、投げ出すなよ

み、の…はぁー美乃里…約束だ

約束してくれ絶対に幸せになるって…

次会う時は美乃里の笑ってる顔が…はぁ…

ガゴンッ」


隊員 「ごめんなさいねー携帯取りますね」


最後の言葉を発する前に涼介の手から携帯は滑り落ち、激しく動き回る救急隊員の方と機械音が聞こえて

隊員が動画を切って終わっていた


美乃里は動画を見終わると携帯を握りしめ

いくら流しても足りないほどに大粒の涙を流し続けていた


守 「涼介さんのご両親は会って欲しくない訳ではなく

きっと会ってしまったら美乃里さんの心が崩れるんじゃないかと心配していました…

涼介さんは最後まで貴方を守って下さいました。

美乃里さんが涼介さんを追いかけてしまったら

涼介さんもきっと悲しいはずです」


美乃里 「はい…」

か細い声を絞り出し、返事をする美乃里


守 「何か食べれますか?

僕はまだここに居ても大丈夫ですか?

僕に何かして欲しいことはありますか?」


美乃里は真っ赤な目で守を見つめる


守 「あっ、ごめんなさい

質問ばかりしてしまって…」


美乃里 「いえ、ありがとうございます。

食事はゼリーくらいなら…食べれそうです

まだここにいて欲しいです

手紙を書きたいです…紙とペンが欲しいです」

美乃里は鼻をズルズル啜りながら守の質問に答える


守 「分かりました!直ぐに用意しますね…

あと、戻ってきたら

もう少しここにいますね」

守は優しく美乃里に微笑みかけた部屋を出て行った


(あんなに優しい警察官もいるんだな…

私はどんなに苦しい思いをしても

私の周りはいつも暖かい人ばかりだなぁ…

前を見なきゃいけないのかなぁ…進むしかないのかなぁ…

涼介、、、)


美乃里 「会いたいなぁ…」

美乃里は仰向けになり真っ赤な目を両手で覆い呟いた


守 「はい、はい、分かりました

お昼には戻ります。はい、宜しくお願いします」


美乃里 「ん…」

(私寝ちゃってた…守さんの声…?)


目を開けると窓際で電話をする守さんの姿が見えた

机には可愛い便箋の紙とペンが置いてあった


守 「あっ、ごめんなさい。やっぱり起こしちゃいましたか?外で電話するべきでした…すみません」

守は申し訳なさそうに美乃里に謝る


美乃里 「いえ、寝るつもりは無くて…

こちらこそ頼んでおいていつの間にか寝てしまい

すみません…これありがとうございます。」

美乃里は紙とペンを指し優しく微笑む


守 「そちらで大丈夫でしたか?

あと、美乃里さん…明日には退院出来そうなんですが

あの日の詳しいお話しは…」

守は美乃里の様子を伺いながら話す

美乃里 「はい。

そうですよね…明日、退院後そのまま向かいます。」

美乃里は真っ直ぐな目で守を見る

守 「お身体が休まらないうちに本当にすみません…」

美乃里 「いえ、私がわ…」

守 「美乃里さんが悪い訳じゃないですからね」

守は強めに美乃里の言葉を遮る

美乃里 「すみません…」

守 「あ、僕の方こそすみません…

あの、私はもうすぐで職場に戻りますので

手続き等はこの書類通りお願いします

後…着替えなど持ってきてくれるご家族やご友人の方はいらっしゃいますか?」


美乃里 「あ、気にしなくて大丈夫です。

自分でなんとか出来ますので」

美乃里は微笑む

守 「分かりました。何かありましたら…

あの…変な意味とかじゃなくて…あの…僕で良ければ連絡ください…」

そう言うと守は番号の書いた名刺を美乃里に渡す

美乃里 「ありがとうございます」

美乃里は笑顔で受け取った

(変な意味では無いのは分かるけど…何だか可愛い…

凄い誠実そうな方だし、警察官だし…

本当に心配してくれてるんだな…優しい人…)


守 「では、これで」

守は頭を下げる

守 「明日、退院時間にまた伺いますね、失礼します」


美乃里 「守さん、ありがとうございます」

美乃里は優しく微笑み頭を下げ、守を見送った


守は待っていた同僚の車に乗り込む

悟 「お前、何か顔がニヤけてないか?」

守 「そんなことない」

(あー不自然じゃなかったかな…

涼介さんの事もあったし、弱ってるところを…

嫌な奴って思われなかったかな…

いや、本当に深い意味はなかったし…

ご家族も確認出来なかったから

頼れる人いるのかな?って心配になっただけで…

別に大丈夫だよな…)

悟 「いっ」 「おーいっ」

守 「え?」

悟 「なにビックリしてるんだよ、話し聞いてるか?」


守 「え?ごめんな、何か話してた?」

悟 「おい、おいどこから聞いてねえ?」

守 「悪い、何も聞いてねえ」


悟 「嘘だろ!

服部洋平は薬のせいでまだまともに話しが出来てない

中根雅紀は体内から薬物は確認出来たが

話しは出来る状態だ智樹さんが中根を担当してる

俺は服部に話しを聞いてるが治療を優先した方がいい気はする

後、昨日この情報を匿名で送った奴が来て

それが中根雅紀の父親だった

父親はどうにか息子と話しをさせてくれって言ってる

聞けば父親も薬物と殺人で捕まっていて最近出所したばかりだったみたいで

この父親に復讐したくて服部も中根も薬に手を出したとか何とか…まぁ、まだ色々調査中だが

お前はどうする?このまま荒川美乃里の聴取でいいか?」


守 「まだ居るか?その父親」

悟 「ああ、いる」

守 「俺、少しその父親と話せるか?」

悟 「分かった」

守 「荒川美乃里さんは明日迎えに来てそのまま聴取にはいる」

悟 「分かった」


警察署に着くと守は父親の元へと行く

守 「こんにちは、近藤守と申します

お話し聞いても宜しいでしょうか?」

和弘 「はい、宜しくお願い致します」

和弘は今までの自分が陥ってしまった薬物のこと、

それで妻を殺したこと、2ヶ月程前に出所し、

服部洋平と息子の雅紀と会って運び屋を頼まれたこと

そして拒否し、その後 記者の健太に会い、

カフェを調べて欲しいと頼み、健太が動き出すと同時に警察に匿名でカフェの情報を流したこと


和弘の話しは2時間ほど続いた


守 「分かりました。ですが貴方が雅紀さんにお会いしても今の雅紀さんには憎しみしかないのでは?

どうしてそんなにお会いしたいのですか?」


和弘 「私は…私は凄い過ちを犯してしまいました

ですが、それは過去であって

今はその過ちを胸に前に進んでいます

忘れてしまった訳ではなく、僕だけは僕自身を許してあげなければ僕の過ちは誰からも許して貰えません。

誰かがどん底から救ってあげなければ

人は本当の意味で這い上がってこれません

私は全て失い、気付きました。

憎まれても恨まれても僕が真っ当に前を向くには

自分自身が自分を許してあげることだと…

雅紀は…息子はきっとまだまだあの日のどん底にいたままで…きっと救えるのは本人か、父親である私しかいません。僕は息子を救ってやりたいんです

どん底から…」


守 「分かりました。

和弘さんの気持ち良く分かります…

私もどん底というものを経験をした事があります

そして、私も自分のことを自分で許しました。

1番難しいですよね、自分を認めて、許してあげるということは…

和弘さんの想い、雅紀さんに届くといいですね

上司に掛け合って来ますね」


守は席を立ち、部屋を出て行った


和弘 「ありがとうございます!」

その背中に頭を下げる和弘の目には涙が溜まっていた


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