16.ショーの幕開け
洋平 「とりあえず…っと」
洋平は手馴れた手つきで薬を注射器に入れて自分の腕に刺していた
雅紀 「お前頻度多くないか?」
洋平 「あ?いいだろ別に、あぁーやべぇ
こんなに最高なのにお前の親父はほんとバカだよな」
洋平は自分の体を擦りながら天井を見て身震いする
雅紀 「その話し今すんなよ」
洋平 「別にいいだろ、それよりお前はやってか……か?」
雅紀 「おい、ちゃんと話せよ」
呂律が回らない洋平に呆れる雅紀
洋平 「美乃里ちゃんは?」
焦点が合ってない目で美乃里を見つめる洋平
美乃里は首をふる
(怖い…私はなんで…なんで…
涼介、お願い)
雅紀 「美乃里の褒美は俺だからいいんだよ」
洋平 「ちぇっ、まあそのうち欲しくなるか」
そう言うと洋平はアハハハハハッと高笑いした
雅紀 「もう30分経つか?着く前連絡するって言ってたんだけどなぁー使えねぇな
お前の運転手あいてねぇの?」
洋平はポケットに手を入れ携帯を探す
洋平 「あ、俺携帯事務所だったわ」
雅紀 「んだよ、お前も使えねぇな」
洋平 「ああ?うるせぇ」
ドンッ
洋平はテーブルを足で蹴った
テーブルのグラスが落ち、ガシャンッと落ちて音を立てる
雅紀 「あーあ、お前なぁ…」
洋平 「悪ぃ…やり過ぎたわ
あー頭痛ぇ…俺ちょっと店見てくるわ」
洋平はヨボヨボと扉の方へ歩いて行く
雅紀 「美乃里ここおいで」
雅紀は洋平が座っていた場所をポンポンと叩いた
美乃里 「ここでいい」
(どうしよう…もうすぐで約束の時間…涼介…気付いてないかな…)
ガチャッ
洋平が扉を開けた
洋平は扉を開けて立ち尽くした
出て行かない洋平を不思議に思い席を立つ雅紀は私の近くまで来た
雅紀 「洋平…」
洋平はニカッと笑い振り向いた
守 「動くな」
守は銃を構える
扉を開けた先には沢山の警察がいた
洋平は手を挙げヘラヘラと笑っている
洋平 「雅紀は爪が甘いなぁ〜その女だろ」
ヘラヘラ笑っていた洋平は
憎しみ溢れた顔で美乃里を睨みつける
(一瞬だった…私は洋平くんに睨まれて怖気付いていた
だけど警察が来てくれた事に安堵もしていた
だから気を抜いていた…)
グンッ
一瞬にして私は雅紀に抱き寄せられた
雅紀はテーブル上の注射器を素早く取り
美乃里に突き付ける
そして素早くポケットからもナイフを出した
洋平 「さすが雅紀く〜ん」
悟 「女性を離せ」
洋平 「あ!俺も持ってるんだった〜」
陽気な洋平はヘラヘラと笑いながらポケットからナイフを出した
警察 「その女性を解放しろ」
雅紀 「無理だな
美乃里は俺のだ」
洋平 「警察さん達がなんの用ですか?
女性を解放しろって合意の上なんですけど?
ね?美乃里ちゃん」
洋平は美乃里を笑顔で見ている…
美乃里は洋平をしっかり見つめる
(どうしてこの人は…どうして私は…雅紀くんも
どうしてこうなってしまったんだろう)
美乃里はどうして、どうしてと責めていた
雅紀 「これから夜のデートなんだよね〜
そこどいてくれる?
何かの間違いじゃないの?」
守 「女性の件だけじゃない、そこのテーブルの上のものはなんだ?」
洋平 「見りゃ分かるでしょ」
と高笑いする洋平
悟 「女性を解放し、速やかにこちらの指示に従いなさい」
雅紀 「無理だね」
洋平 「早く撃つか、そこをどけよ
まぁ俺ら撃てばこの女をナイフでぶっ刺すし、そこから消えてくれなきゃ
う〜ん…この注射器をこの女にぶっ刺す」
ニカッと笑う洋平
守 「そんな事したらお前の罪が重くなるだけだ」
洋平 「だからなんだよ」 ガコンッ
殺気立った洋平は近くのゴミ箱を警察に向かって蹴った
「パンッ」
乾いた銃声音が鳴り響く…
守の隣の警官が洋平目掛けて発砲した
辺りは静まり返った
洋平の近くをすり抜けた弾丸は壁にのめり込んだ
「……」
どちらも沈黙が続く
守 「解放しろ」
守の少し荒めの低い声が響く
ガヤガヤガヤガヤ
外が騒がしい…
通路に集う警察官達が何事だ…と警戒し始める
「美乃里ーっっ」
叫び声は徐々に近付き、ドタバタと奥の部屋に来たのは
涼介だった…
智樹 「守、聞こえるか?抜けられてしまった」
守 「了解」
無線から智樹さんの少し焦った声が聞こえた
涼介は警察官達の制止を振り切ってここまできた
(きっと銃声音で美乃里さんが心配になったのか…)
涼介 「美乃里ーッ!今助けるからな」
涼介は警察官達を掻き分けて進もうとするが
警察官達が涼介を強く制止する
雅紀 「あの猿か…」
洋平 「面白いね〜知り合いか?」
雅紀 「美乃里の元彼だ」
洋平 「いいね、いいね〜
お猿く〜んおいで〜美乃里ちゃんはここにいるよ〜」
洋平は大声で叫びながらケラケラ笑っている
(涼介…心配掛けてごめん
涼介の言う事聞いていれば…私のせいで…)
そんな事を考えると涙が溢れそうな美乃里は
拳をギュッと握りしめて
美乃里 「雅紀くん、こんなこと辞めにしよう」
美乃里は強い眼差しで雅紀の顔をじっと見つめる
雅紀 「その目やめろ」
その声は弱々しいものだった
洋平 「おい、雅紀」
洋平は揺らぐ雅紀の気持ちを察したのか雅紀を呼ぶ
雅紀 「分かってるよ」
洋平 「ようやくショーの始まりだな」
ニカッと笑う洋平
(こいつが1番狂ってる…こいつを止めなければ…)
守 「何が望みだ」
洋平 「人質の交代」
守 「交代?」
洋平 「ああ、今そこに来た猿と交代だ」
涼介 「早く代われ俺が、俺がっ…」
涼介もまた、大声で叫ぶ
暴れる涼介は警察官に制止される
守 「交代なら私がする」
洋平 「お前、聞こえなかったのか?
そいつも早く代わりたそうじゃねぇか」
守 「それは出来ない」
洋平 「あっそ」
洋平は美乃里の方を向くと美乃里の首に刃物を突き付ける
薄ら赤く滲む首元
守 「やめろ」
守は洋平に怒りを滲ませ見つめる
涼介 「俺が!俺が代わる!」
近くで取り押さえられてる涼介がまた叫び出す
ドタバタ
涼介は警察官を払って扉の前までくる
守 「お願いです、外で待機を」
涼介 「美乃里!美乃里!怖いだろ!大丈夫だからな!絶対俺が助けるからな」
涼介は美乃里を見つめる
その言葉に涙が溢れ出す美乃里
涼介 「離せっ離せよ!」
警察官が涼介を止めるも涼介は止まらない
守 「涼介さん」
洋平 「おい、警察は近づくな」
涼介は洋平の目の前まで行く
涼介 「来たぞ早く代われ、
美乃里、直ぐに代わるからな」
涼介は洋平を睨み付け、優しく美乃里に声をかける
洋平 「ん?」
涼介 「美乃里と早く代われっつってんだよ」
洋平 「お口が悪いね〜そんな猿くんにはお行儀を教えなきゃ…なぁ?素敵なショーになるぞ」
涼介 「んだとっ…」 ドンッ
洋平はナイフを涼介に向かって振りかざす
涼介 「ううぅぅ…」
洋平 「ハッハッハハハどん底に沈めてやる」
雅紀 「洋平、やめろっ」
守 「いけー」
悟 「早く抑えろ」
それぞれの声が大声で重なる…
一瞬だった…それは本当に一瞬の出来事で…
何度もナイフを振りかざし、笑い狂う洋平
一斉に走り出して洋平を抑える警察官たち…
膝から崩れ落ちて苦し気な涼介…
洋平に悲痛な叫び声を上げる雅紀
雅紀に抱き締められていた手から守さんが
身体を優しく引き離し足に力が入らない私は抱えられるようにして部屋を出される…
私はついていけない思考で…何度も涼介の名前を呼んだ気がするけど私の意識はどんどん遠ざかってしまった
不思議な夢を見た
涼介と付き合いたての頃で2人とも恥ずかしながら
手を繋いでいて、私は涼介に選んでもらったワンピースを着て、とても嬉しそうなのに…
涼介は泣きながら笑っていた
涼介は私を抱きしめるといつものニコニコの涼介に戻っていて、2人で公園を散歩していたら前からお母さんが来て、私は嬉しくてお母さんに手を振って駆け寄った
お母さんは笑っていて、涼介の手を引きながら
美乃里は待ってて
と言うと2人で行ってしまった
私はお母さんに会えて、名前を呼ばれて嬉しくて嬉しくて幸せな気持ちだった
だけどそこで気付いてしまった…
お母さん?お母さんは小学生の頃に私が…
涼介と会うはずが無いんじゃ…
私の思考はどんどん現実へ引き戻されて行く
私は…私は…
これって夢?
夢だと気付いた瞬間、目を開けるとそこには白い天井だけが見えていた
不思議だった…
だって私は…あの…あのどん底の日から
同じ夢ばかり見続けているのに…