14.本当の俺~雅紀side~②
時刻はPM 9:06
先に事情聴取を終えた洋平は警察署のソファーに座り雅紀を待っていた
洋平 「あーどうすっかなあ…」
警察官が洋平の元へ歩いてきて横に座る
警察 「雅紀くんは今日ここに泊まってもらおうと思ってる」
洋平 「俺ん家連れて帰るのはダメっすか?」
警察 「うーん、気持ちは分かるけど今日はこちらで見させて貰えるかな?今冬休みだよね?
もし良かったらまた明日、会いに来てくれる?」
洋平 「わかりました…あいつ今どんなですか?」
警察 「色々、少しづつだけど思い出しながら話してくれてる感じかな…でももう遅くなるし明日の朝に今日の続きを聞こうかなって思ってるよ」
洋平 「分かりました…あの、よろしくお願いします」
洋平は警察官に頭を下げる
警察 「大事な友達なんだね」
優しく微笑む中年の警察官にホッとする洋平
洋平 「はい」
警察 「君はご両親に連絡とれてたかな?」
警察官はゴソゴソと書類を見る
洋平 「あ、あ俺は大丈夫です、親はまだ仕事中で叔父が迎えに来るので」
警察 「そうか、じゃぁ気を付けてな」
洋平 「ありがとうございます」
洋平は頭を下げ、警察官は洋平の肩をポンと叩き歩いて行った
ピコン
携帯を確認した洋平は近くの受付へ行き
洋平 「あの、迎え来ましたので」
警察官に声を掛けた
警察署の玄関には1人の男性が立っており
洋平に向かって手を上げる
警察官 「はい、大丈夫です」
洋平は頭を下げ叔父さんの元へ向かった
洋平 「こう兄!ごめんね、急だったのに…」
叔父 「大丈夫だ。友達は大丈夫か?」
洋平 「今日はここに泊まらせてもらえるって」
叔父 「そうか、家に姉貴いるのか?」
洋平 「知らねぇ」
叔父 「相変わらずダメ親か…」
洋平 「こう兄の方が親だな」
ニカッと笑う洋平の目は少し寂しそうだった…
叔父 「俺ん家来るか?」
洋平 「いいの?」
叔父 「ああ、俺も明日は休みだから」
洋平 「ありがとう!
ねえ、こう兄…雅紀どうなる?」
叔父 「とりあえず他に血縁者が居たら引き取られるかな…」
洋平 「とりあえず、こう兄じゃ無理なの?」
叔父 「俺は独り身だし、無理だろうな…」
洋平 「だよな…」
叔父 「お前、卒業したら働くんだろ?」
洋平 「うん…早く家出てぇ…」
叔父 「あんな家じゃな…働き出したら自分でバイクの免許でも取って、俺ん家いつでも泊まりに来い
ただし、俺は甘える奴は嫌いだから家事分担な」
優しく微笑むこう兄に救われる洋平
それと同時に雅紀の事を考える…
翌日、叔父に送ってもらい警察署に来た洋平
洋平 「こう兄、ありがとうね、また連絡する」
叔父 「また何かあったらいつでも頼れよ」
洋平 「こう兄は親父だと思ってるから」
ニカッと笑う洋平に叔父は照れながら手を上げ車を走らせて行った
警察署に入り、雅紀と面会希望する洋平
数分待ち、案内された部屋に入る
洋平 「雅紀…」
洋平は雅紀を呼びながら椅子に座る
雅紀 「洋平、俺、これで良かったんだよな?」
洋平 「当たり前だ」
雅紀 「あの時…洋平と話してなかったらとか
洋平を待っていなかったら…とか
洋平を責めるような事も考えてしまって…
俺…俺も母さんも親父に殺されてたかもしれないのに
どうして俺がっ…って…うぅぅ…
よっ…洋平がいなかったら俺、あの時なにも出来なかったのに…洋平を…責めてっ…うぅぅ…」
(雅紀…お前どんだけ泣いたんだよ
そんな腫れるくらい何度も泣いたのか
この部屋で、1人で…)
洋平は雅紀を抱き締めた
洋平 「ごめんな、悩ませてごめんな
1人で寂しかっただろ、雅紀…俺らはずっと一緒だ
今はどん底にいるかもしれねぇし、死にたいくらい辛いかもしれねぇけど…
でも絶対這い上がろうぜ」
洋平は雅紀の顔を見てニカッと笑う
雅紀 「洋平、俺分かんねぇ…これからが
何も見えないし、何もいらない」
洋平 「俺がいるから
雅紀、俺がいる!俺が必ずお前と」
「コンコン」
ドアが開き、そこには警察官と50代くらいの女性がいた
警察 「ごめんね、雅紀くんの引き取り手決まったからお迎え来てもらったよ」
雅紀 「おばさん?」
叔母 「雅紀くん、久しぶり
早苗が電話で雅紀くんの事よく話してたわよ
主人が亡くなって10年だから会うのは葬儀以来よね…
大きくなったわね…」
叔母さんはどことなく母さんに似て、本当に柔らかい人だ。早苗は母さんの名前で妹が殺されたのに
雅紀に心配かけまいととても気を配っているのが分かる
雅紀 「叔母さんが…」
叔母 「そうよ、早苗が亡くなって寂しいけれど
一緒に頑張って生きましょう…」
涙目で微笑む叔母
それから手続きをして、雅紀は叔母さんに引き取られる形で隣町へ行くことになった
雅紀 「洋平、また落ち着いたら連絡するな」
洋平 「ああ、必ず待ってる」
2人はその日から別々の道へ行き
雅紀は高校受験を辞め、働くことにした
バイトをかけ持ちし、バイト代の半分をお世話になってる叔母さんへ渡してそれ以外は貯金し続けた
洋平もまた、変わらず素行は悪いが中学卒業後に知り合いの店で働くことになった
雅紀は何度か洋平と連絡を取り、元気だと伝えていた
洋平は中学卒業の春に雅紀に一通のメールを送った
俺ら25歳になったら会おう!
それまで真面目に生きて、大金を貯めようぜ
そして2人は25歳で再会する
ちょうどあの日と同じ様な寒い冬の日
洋平が25歳を迎えた1ヶ月後
洋平 「雅紀、明日いつも待ち合わせしたコンビニ来れるか?」
雅紀 「分かった」
洋平 「じゃぁ21時に」
雅紀 「ああ、明日な」
電話を切った雅紀はあの日の事を少し思い出しながら
久しぶりに行くあの場所に緊張していた…
次の日の仕事はあまり手につかなかった
時刻はPM8:13
仕事を終え、着替えをする雅紀
雅紀 「行くか…」
通帳を確認し、鞄にしまった雅紀は車に乗り込み待ち合わせ場所に向かう
その頃、同じくして洋平も少し遠くから待ち合わせ場所に向かっていた
先に着いたのは洋平だった
洋平は車で雅紀を待つ
そして、洋平もまた同じように通帳を確認していた
洋平が通帳を確認していると
コンコン
窓越しにニカッと微笑む雅紀
雅紀はドアを開け洋平の車に乗り込む
雅紀 「久しぶりだな、いい車だな」
洋平 「やっとだな」
雅紀 「ああ」
洋平 「早速発表しちゃうか?」
雅紀 「早速か…」
雅紀は鞄をゴソゴソとしながら通帳を取り出す
洋平 「せーので出すか?」
雅紀 「ハッハハハ洋平は中身、変わんねぇな」
洋平 「んだよ!そーゆうのあった方が楽しいだろ?」
雅紀 「アハハッ、いいぜ」
「せーのっ!」
2人で合わせて通帳を見せ合う
洋平 「うあー負けた雅紀の真面目さは変わんねぇな」
雅紀 「うるせぇ別に使うことねぇだろ」
洋平 「俺が360万だろ…雅紀は約500万か…」
雅紀 「で?どうすんだ?」
洋平 「なぁ、雅紀。お前親父さんの事忘れたことあるか?」
雅紀 「ねぇよ」
洋平 「だよな、よく耐えたな…」
雅紀 「まあ…別に…叔母さんもいたし、お前もいたし
俺は1人じゃ何にも出来なかったんだから」
洋平 「そんな事ねぇよ、お前は本当に凄い…
最後に警察署で話した事覚えてるか?
あの続きを今日お前に話したいと思ってな…」
雅紀 「お前があの時言いかけた言葉な」
とクスクス笑う雅紀
洋平 「何で笑うんだよっ」
雅紀 「嬉しくてだよ」
洋平 「雅紀はさ…前に進めてるか?
このままずっと朝から夜まで人の下で働いて
親父さんのこと背負って生きて行けるか?」
雅紀 「正直…分かんねぇ」
洋平 「変な話しかも知れねぇけど
俺はあの時、心の底から一生お前の味方であり続けたいと思った…お前の背負ってるもの程、大きく無いけど
俺も半分くらい背負ってお前と同じ道を進みたいと思った」
雅紀 「洋平…」
洋平 「俺が描く道は
…復讐だ」
雅紀 「復讐?」
洋平 「お前は真面目だから…良い奴過ぎるんだよ
俺ならあの時の2択の選択でとっくに親父を殺す方を選んでる」
雅紀 「洋平…お前は本当に良い奴だな」
目の端に少しだけ落ちた涙を拭う雅紀
洋平 「それはお前だろ
俺は産まれた時からどん底だ
あんな親の元で育って、もがいてもがいて自分なりの道を作ってきた
お前だけだった。俺を可哀想な目で見ないのは
俺はお前とこうやって大人になっても
本当の俺でいれることが何より嬉しい…」
雅紀 「ありがとな」
洋平 「何でたよ、俺が言うとこだろ」
雅紀 「アッハハハハッ」
洋平 「笑いすぎだ!
で、いいのか?復讐しても」
雅紀 「俺は洋平が思ってる程、良い奴じゃねぇよ
母さんの真似っ子で良い奴のフリしてるだけだ
母さんを思って、母さんみたいに頑張ってるだけだ
そしてお前も同じように大事だから
お前が25歳まで頑張ってお金貯めようぜって言ってくれたから何とか真面目にやってこれた
俺の道をお前が作ってくれてたからここまでやってこれただけだ
本当は殺してぇ程…憎い
母さんが殺られたのと同じくらい
何度も何度も刺して刺殺してぇよ…」
天井を仰ぐ雅紀の目はまだまだどん底を見ていた
洋平 「俺はあの日からずっとお前の親父を見張ってる」
雅紀 「どうゆう事だ?」
洋平 「あの日、あいつは直ぐに見つかった
血だらけの服で河川敷を歩いてるとこを捕まえられた
そして殺人と薬物使用で逮捕された
あいつの仕事は多分、薬の運び屋だった
そして懲役18年の刑だ
18年だぞ?人殺しといて18年したら普通にまた平凡と暮らすんだぜ?ありえねぇよな
あいつの場合かなりの幻覚、幻聴、頭がいかれすぎてた
あれだけ母親の事刺しといて判断能力が無かったからって…クソっ」
洋平はここまで話すと悔しさから目頭を抑え
握った拳が震えていた
雅紀 「本当、俺はお前に助けられてばかりだな…
俺が生きてるのもお前が半分背負ってくれてるからだな」
洋平 「あいつは、認めてねぇ
母親を殺したこと
殺した覚えはないと薬で頭がおかしくなっていたと
ずっと…今も言い続けてる
直ぐに薬を抜く治療をして正常に戻ってからは
毎日のように母親が死んだことに涙してるらしい
そんな馬鹿げた話しがあるかよって…
俺、悔しくて悔しくてさ…本当にそれ聞いた時は刑務所に乗り込んで殺してやりたかった…
あいつは刑務所で真面目に働いて少しでも刑を軽くしようとしてる
でも大丈夫だ。刑務所に入ってる知り合いがいて
お前の親父の情報は全部手紙で貰ってる
だからもし刑が軽くなったとしてもそいつが教えてくれる
俺はあいつが出所する日を待ってる
そこから俺らの復讐が始まる…」
雅紀 「お前、本当にかっこいいな」
洋平 「まぁ、顔のカッコ良さはお前に負けるけどな」
雅紀 「だな」
2人は大笑いする
洋平 「で、復讐の計画は
俺らはこの大金でまず薬を買えるだけ買う
そして買った薬を売り捌く
あいつは今10年刑務所にいるって事は
8年後には必ず出てくる…ましてや後5年かもしれねぇ
俺らはその時までに大元の売人になる
そしてあいつをまたこの薬物の世界に沈める
俺らのコマとして…」
雅紀 「俺は薬は使いたくねぇ」
洋平 「当たり前だ
お前にはやらせねぇ、俺が」
ニカッと笑う洋平
雅紀 「じゃぁ」
洋平 「あくまで売人だ。売るだけ
お前はルックスがいいから
報酬は金かお前の体で
女の子のコマならすぐ見つかるはずだ
運び屋とは口を割れない約束を作らなきゃいけねぇ
例えばお前ができるテクニックは
まず女の子を落とすだろ、女はお前が欲しくなる
その代わり運んでくれたらご褒美だ
そのご褒美はお前か金、まぁ、慣れてきた奴には1本くらい打ってもおいしいな…1本打ったら虜になって離れなくなる
後は選択肢だな、報酬の提案はするけど
選ぶのは本人達だ。そしてその時は必ず録音しろ
注意する事は賢い女はやめとけ
あくまでもバカな女だけだ。いいな?」
雅紀 「ああ、まっ、お前が言うなら上手くいくな」
ニカッと笑う雅紀
洋平 「当たり前だ
あんなクズ、死んでもらっちゃもったいない
俺らでとことんどん底に落とそうぜ」
雅紀 「ああ」
ここから2人の復讐のための闇の世界が広がる
何人もの人達を闇へと吸い込んでいく…
美乃里もこの闇の中へと吸い込まれてしまうのか…