9.変化
夢の中で見たのは私の弟を抱きしめるお母さんの姿で
酷く震えていた
弟はお母さんの腕の中で眠っていた?
お母さんは怒った顔?悲しんでる顔?キリッと睨みつけるような顔…だけど悲しみも悔しさも含んだような…
そんな顔で私を見てる?
いや、私の後ろの人を見てるの?
アッアッ…苦しくなってきた…はぁはぁはぁ…
美乃里 「ふぅー」
美乃里は深く深呼吸しながら頭を抱えて起きる
そしていつものように支度を済ませ、ただただ走る
家に戻る頃には外は分厚い雲で覆われていた
天気予報は雨だ
こんな日は家でゆっくりしたい
AM7:00
美乃里 「少し早いけど…」
おはよう、ごめん今日は体調が良くなくて明日そっちに戻ることにした!!
約束してたのにごめんね。
明日、まさきくんが空いてればまたご飯行こ!
美乃里は雅紀にメッセージを送って朝ごはんの支度をする
「ピコンッ」
雅紀からの返信は意外と直ぐにきた
おはよう、俺は明日でも大丈夫だよ!
美乃里ちゃんの為なら何時でも予定なんて空けられるよ〜
体調早く良くなるといいね、お大事に!
また明日ね!
美乃里 「良かった」
美乃里は朝食を食べながらパソコンで仕事をする
いつものようにみんなのどん底エピソードを確認しながら返信していく
彼女に振られました…
不倫されました…
浮気されました…
DVされました…
結局は私じゃなくてもただただ誰かに悩んでいることを話したいだけで
聞いてほしい。寄り添って欲しい。
こんなに酷いことが…こんなに大変なことが…
私って、僕って、可哀想でしょ?って事なんだよな
そんな悪態をつきながらカタカタとパソコンを打つ
本当のどん底は簡単には話せない
私のように…
奥の底で抱えながら生きていくの
簡単に立ち直れないし、簡単に前は向けない
だからどん底なの
私はイライラしていた。
何だかいつもと違う夢を見て、違う自分の感覚を引き出されているみたいで
変化が怖い、何かが変わるのが怖い
私は私で自分を積み上げてきた
誰にも壊されないくらい強い私で私を守ってきた
美乃里 「あーだめだ…」
美乃里は机に突っ伏す
RRRRRR…
画面にはかれんの名前
美乃里 「救世主…」
美乃里 「はーい」
かれん 「おはよう、みのちゃん元気してる?」
美乃里 「ぼちぼちかな、まあ連休ゆっくり出来たしね」
かれん 「もうこっち帰ってる?」
かれんの元気のない声が少し心配になった
美乃里 「うん、家にいるよ〜」
かれん 「美乃里の家行っていい?」
美乃里 「おいで〜雨だけど大丈夫?」
かれん 「うん、タクシーで行くね」
美乃里 「了解!気を付けて来てね」
電話を切って、美乃里は軽く部屋を片付けながらかれんを待つ
(元気が出ない時は友達に限るよね〜
かれんといたら私も元気になるかもっ)
15分くらい経った頃 家のチャイムがなる
オートロックを解除してかれんを入れる
かれん 「ごめんね、お家でゆっくりしてるのに押し掛けて」
美乃里 「私は全然大丈夫だよ、かれんが来てくれて私も助かってる
なんか気がのらなかったからさ」
椅子に座るかれんにホットコーヒーを出しながら声を掛ける
美乃里 「かれんはなんか元気ないね、楽しい映画でも見る?
それとも話し聞く?」
かれん 「話し聞いてほしい」
美乃里 「うんうん、もちろんいいよ」
他人の悩み話はお金を貰っても
聞くのが億劫になるくらいめんどくさい時がある
だが、友達の悩みとなればお金なんて要らないしただただ心配でベストアンサーが出来るだろうかって考えてしまう
これが友情ってものなのか…不思議だなぁ
なんて冷静に考えていた
かれん 「美乃里はさ、本気の恋愛したことある?」
美乃里 「本気の恋愛か〜
きっとまだだと思うし、どうだろ…出来る気がしない」
かれん 「私も!本気で人を好きになるなんてないと思ってたの
いや、今でも思ってる
頭では好きじゃないって思ってるんだけど…」
かれんはここ数日の話をしてくれた
大晦日にお友達とカウトダウンで近くの神社に行って、同級生と会ったこと
久しぶりで話しが弾んで6人で飲んで
そのうちの1人、光太と体の関係になったと
ただ、光太は既婚者で奥さんとは1年程レスで
上手くいってないらしい
かれんもその日はなんとも思っていなかったけど
次の日も会う事になり、一緒にご飯を食べて、映画を見てドライブをしてその日はかれんに手を出す事もなくバイバイして
そしてその次の日も会いたいと言われ
それが昨日の話しで
食べ歩きを楽しんだり、ゲームセンターで遊んだり
夜景の見えるディナーで花束と告白を貰ったらしい
そして返事はYESになるまで要らないと…
美乃里 「なるほどね、恋の悩みと言うことですね」
私は少し安堵した笑みが零れる
(かれんが傷付くような悩みじゃなくて心底安心した)
かれん 「既婚者なんてあたしの中では絶対ダメなの!
いくら上手くいってなくても
やっぱり筋違いだよね?」
美乃里 「 ん〜そうかな〜?恋愛は本気になったら誰にも止められないからね、多分」
クスクス 美乃里は笑っていた
かれん 「もうー」
かれんは頬をふくらませる
かれん 「 私、既婚者に恋に堕ちるなんて嫌だ」
美乃里 「嫌だって言っても好きなんでしょ?光太くん」
かれん 「 私って嫌な女じゃん?
男たぶらかして、寄ってくる男をポイして
価値つけてさ〜マンガみたいなかっこいい事してきても、きもーいとか思っちゃってさ、冷めてるじゃん?
なのに、光太が花束くれた時は不覚にもキュンとしてしまったの!
どうしよう!いつもなら恥ずかしい〜やめて〜
つて思うのにキュンだよ?キュン!
もう本当に嫌だー
自分の気持ちについていけない…
美乃里ー助けてー恋の魔法を解いてー」
美乃里 「アハハハハハハ」
かれん 「もう!本気で悩んでるの!
何も手につかないの!この私が!」
美乃里 「いいね〜変化の風が吹いてるね〜」
かれん 「 嫌なの!私は変化したくない!いつものかれんでいたいの」
美乃里 「変わらなくていいじゃん!
かれんはそのままでいい!変わろうとするんじゃなくて
光太に委ねて、変えてもらえばいいの」
かれん 「だけど不倫は絶対嫌!」
美乃里 「 そうだね、不倫はダメだよね〜」
かれん 「奥さんに謝る?」
美乃里 「バレたとしても、バレなかったとしても
悪い事への代償は必ずあるからね…
それが慰謝料なのか、謝罪なのか、違うところで試練があるのか…は分からないけど
なんにせよ、光太と恋に落ちるなら覚悟は必要だよね」
かれん 「うん…」
美乃里 「まぁ、2人の恋が本物なら
光太がしっかり離婚するまで待つのが筋というか
今のままでの恋愛を続けても
後ろめたさがある訳じゃん?申し訳無いって…
そんなの楽しめないじゃん!」
かれん 「そうだよね…私待ってもいいのかな?
好きになっていいのかな?
誰かとずっと一緒に居たいって思ってもいいのかな…」
美乃里は机に突っ伏すかれんの頭を撫でる
美乃里 「いいの、いいの!かれんなら大丈夫だよ!」
かれん 「ん…」
美乃里 「よし!今日は飲もう!」
その日はかれんの恋バナを沢山聞きながら
深夜まで飲んで、笑いあり、涙ありの何だか青春のような時間を過ごした
私のどんよりした気持ちもかれんのお陰で吹っ切れて改めて友情の有り難さを感じた
次の日、かれんの顔は何だか吹っ切れたような
スッキリとした顔をしていた
かれん 「美乃里、ありがとう!」
美乃里 「私はなんにもしてないよ」
かれん 「美乃里に話さなきゃ覚悟決めれなかった」
美乃里 「じゃぁ、覚悟決めたんだね!」
かれん 「うん!私頑張る!」
美乃里 「またなんかあったらいつでもおいで」
かれん 「ありがとう」
かれんを見送り、かれんとの恋バナ効果なのか…
久しぶりだからなのか…
いつもより雅紀くんに会うのがワクワクだった
準備を済ませて、時間が過ぎるのを待っていた
「ピコン」
みのりちゃん、少し早いけど俺は準備出来たから
いつでもOKだよ
(どうしよ、私も準備出来てるし、早く会いたいかも…)
私もいつでも出れるよ!少し早いけど今から待ち合わせ場所行くね!
雅紀に返信し家を出る美乃里